2つのケースから紐解く「リブランディング」最前線②
統合新会社・レゾナックが悩みながら突き進んだブランドコミュニケーション
2023年12月13日開催 「ブランド・ジャパン2024」キックオフセミナー
世界をリードする「半導体材料のレゾナック」へ
~悩みながら爆走した2年、統合新会社のブランド活動~
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文=斉藤俊明
構成=金縄洋右
新会社発足に向けた社名・事業認知とブランディング活動の課題
レゾナックは、売上高で化学業界10位(2018年)に位置していた昭和電工が、19位(同)だった日立化成を買収し、23年1月に発足した統合新会社である。統合により、新会社の売り上げ規模は業界7位(21年)に躍進。半導体の材料分野で世界的に高いシェアを有する製品を数多く抱える企業となった。例えばダイボンディングフィルムや銅張積層板(半導体パッケージ基板用)、感光性フィルムなどは世界1位のシェアを誇る。
レゾナックという社名は、Resonate(共鳴する)とChemistry(化学)を合わせたものだ。「多様な人々がつながる共創型化学会社でありたいとの思いが込められています」と、レゾナック・ホールディングス ブランド・コミュニケーション部の山田亜紀子部長は語る。同氏は新聞社をはじめメディアの世界を長く経験した後、22年4月に入社。翌年誕生する統合新会社のブランドコミュニケーションに携わることとなったが、その過程で様々な悩みに直面したという。
昭和電工が19年に日立化成買収を発表して以降、パーパス・バリューの策定を含め統合に向けた取り組みが進められ、実質的には新会社となる1年前の22年1月から経営統合の体制が始動していた。3月には新社名が発表。山田氏が入社したのはその直後の時期だ。
新会社スタートまで準備期間はわずか8カ月。当時の調査で、昭和電工という社名自体は広く知られていたものの、事業として思い浮かぶイメージについては「なし」と答える人が47%で、事業認知は10%未満にとどまっていた。「新社名に変更すれば認知はさらに下がってしまう。これが大きな課題でした」と山田氏は振り返る。
当時の社内では、統合新会社の社名認知のためとにかく広告を打たなくてはならないという議論が主流だったと山田氏。社名変更したBtoB企業の3分の1が新聞広告等を実施し、とりわけ売り上げ規模の大きな企業はテレビCMを行っているといった話が出ていたという。ただ、入社したばかりの山田氏は、そうした意見に対して「BtoB企業に社名認知は本当に必要なのかと、少しモヤモヤしたものを感じていました」と話す。
(写真提供:株式会社レゾナック・ホールディングス)
社内で多様な立場の人とコミュニケーションしてみると、事業部の社員からは「自社製品の取引先は決まっているのだから新社名が認知されていなくても売れる」という声が上がった一方、社名・事業認知がなければ売れないという声も聞かれた。また、2つの会社を1つにすることから、カルチャーづくりやビジョンの認識を徹底し、目指すべき姿が明確にならないとうまくいかないのではとの不安の声も出ていたという。
思い込みを打破し、“勝ち組”を印象づける戦略
この状況を山田氏は、売り上げへの貢献を期待する声(=KPIとして結果を示しやすいもの)と、従業員エンゲージメント向上やインナーブランディングを重視する声(=社内説明が難しいもの)という2つの形で整理。その上でブランドコミュニケーション活動を第1期、2期に分けた。
まず第1期として22年5月、統合前段階の社外での認知拡大に向けた情報発信、及び社員が誇りを持って自社の魅力を伝えられる「旗印」づくりを推進。続いて23年5月からの第2期では、25年までに「半導体材料のグローバルリーダーといえばレゾナック」「レゾナックと働きたい/レゾナックで働きたい」という印象を社内外で形成するためのブランドイメージ構築を進めている。
実は山田氏は入社前、日本は半導体で“負けている”と思い込んでいた。ところが半導体の材料分野では世界で勝っていることを知り、「ここに日本の宝があったのか」という驚きを感じたのが入社の決め手になったと明かす。そこで第1期については、同社が半導体材料分野で世界をリードする企業であることが知られていない現状を解決するため、レゾナックのブランドストーリーを練り上げ、発信した。
統合まで半年程度のこの時期、広報戦略は“「半導体材料メーカー」としてメディアの第1想起獲得を目指す”と目標が明確になっていたが、具体的にどのような広報施策を打つべきか悩んだと山田氏。広報活動強化の足掛かりとして社内に半導体PR戦略プロジェクトを発足させた。これは広報宣伝を担当するブランド・コミュニケーション部だけでなく、事業部も一緒になってPR戦略を考えるプロジェクトだ。
(写真提供:株式会社レゾナック・ホールディングス)
発足後、半導体業界で起きていることや、半導体材料分野とその中における同社の位置付け等に関して様々な資料を作り、勉強会も繰り返し開催していった。そうした積み重ねの結果として23年1月、新会社発足説明会を実施。この際、山田氏は「半導体材料メーカーが誕生した」という方向感で伝えることを意識したと語る。
「社長・CEOの髙橋秀仁に、“半導体”に絞り込んで伝えるほうが効果的だと考えると伝えたところ、高橋は『半導体は右肩上がりで伸びるマーケットであり、日本が生き残れる分野は半導体材料なのだから、そこを強調していい』と力強く答えてくれました。これを受け、思い切って半導体にフォーカスした発足説明会を開催したのです。その結果、主要メディアもほとんどが“半導体の会社が発足した”という形で報じてくれました」
CMについては、世に知られていない化学会社の存在を伝えるため「Unsung Leaders(知られざるリーダーたち)」というコンセプトで展開。結果、メディア露出とブランドイメージ刷新には成功したものの、調査では社名認知が20%台と低く、社内の共感・非共感も半々になるなど課題も残った。
そこで現在は第2期として、レゾナックが「半導体材料のキープレーヤー」であること、髙橋社長をはじめ個性的な経営陣がいること、さらには人的資本経営、ケミカルリサイクル等サステナブル領域での取り組みを加えた4本の柱で、同社の強みをアピールする方向に戦略を見直した。
23年後半には多くのメディアでタイアップ露出を行い、「日本の半導体は遅れている?」と投げかけるCMも制作。「私が感じた驚きを伝え、思い込みを打ち破りたいとの思いでCMを作りました。日本の化学産業が世界で勝ち残っていると伝えることで、日本を元気にし、暮らしを豊かにしていく。そうした思いを広げていくことこそが、レゾナックにとってのブランド活動ではないかと考えています」と、山田氏は力強く語った。
2023年12月13日開催 「ブランド・ジャパン2024」キックオフセミナー
講演① 「統合新会社・レゾナックが悩みながら
突き進んだブランドコミュニケーション」
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連載:「2つのケースから紐解く「リブランディング」最前線」
- 1)世界を舞台に新たな交流の創造を目指すJTBがリブランディングに取り組む
- 2)統合新会社・レゾナックが悩みながら突き進んだブランドコミュニケーション
株式会社レゾナック・ホールディングス
ブランド・コミュニケーション部
部長
山田 亜紀子 氏
総合化学メーカーの旧昭和電工と旧日立化成が統合し、レゾナックへ社名変更するにあたりブランディング部門を統括。 広報、宣伝、およびグループ内コミュニケーションを通じてコーポレートブランド強化をはかっている。
大学卒業後、朝日新聞社に入社。記者、編集者、ソーシャルメディアエディター等を経て、立ち上げ期のNewsPicksに“留職”。2022年4月より現職。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄 洋右
日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。