全国屈指の広大なキャンパスで実証研究を進め、 文理医を融合した「未来知」により社会に貢献

金沢大学

2023.12.12

大学広報

  • 吉田健一

    ブランド本部 本部長 兼 ブランドコミュニケーション部長 兼 大学ブランド・デザインセンター長 兼 周年事業・デザインセンター長 吉田 健一

国立大学法人 金沢大学 和田隆志 学長 外国人にも人気の観光地である金沢市内に広大なキャンパスを有する金沢大学。意欲的に先端研究に取り組みながら、文理医を融合した新たな研究分野を確立しています。また、その卓越した研究力を生かし、一貫した教育モデルを構築しています。2022年4月の学長就任後、未来ビジョン「志」を公開した和田隆志学長に、金沢大学が目指す未来について語ってもらいました。 聞き手=大学ブランド・デザインセンター長 吉田 健一/文=北湯口 ゆかり

創立160年以上という長い歴史を持つ金沢大学ですが、現在に至るまでの背景をお聞かせください。

和田 金沢大学の起源は、1862年に誕生した加賀藩の彦三種痘所です。源流は医学系ですが、ナンバースクールと呼ばれた旧制第四高等学校(以下、四高=しこう)をはじめ、師範学校の流れをくむ教育系、金沢工業専門学校を前身とする工学系など、様々な前身校の歴史と伝統を受け継ぐ総合大学です。

1949年、これらの前身校を統合した新制大学として、金沢大学が誕生しました。当時のキャンパスは金沢城跡にあり、城内にキャンパスがあったのは、世界でもドイツのハイデルベルク大学と金沢大学だけでした。私自身も城内キャンパスに通っていました。みなさん、誇らしく感じていたと思います。

学生により快適で充実した学びを提供するため、1989年に現在の角間キャンパスへ総合移転を開始しました。角間キャンパスの面積は約257万㎡。校舎などの面積では、国立大学で2番目に大きな広さを誇ります。観光地として外国人が訪れることも多い金沢市内で、これだけの広大な地を学びの場にできることは、まさしく財産であり、さらなる素晴らしい発展につながっています。地域に愛され、世界に輝く大学を目指すための教育・研究の場として、この大きな財産である広大なキャンパスを活用していきたいと考えています。

和田学長は2022年4月に学長に就任した翌月の5月には、金沢大学未来ビジョン「志」を公開されました。この「志」という字は、学長自らが揮毫されたものと伺っています。どのような思いが込められているのですか。

和田隆志 学長

国立大学法人 金沢大学
和田隆志 学長

和田 2022年に金沢大学長を拝命した際、金沢大学の目指すべき方向性やあるべき姿としての到達点を、四高の校章である北辰(北極星)のように、不動の目標として定める必要があると考えました。それを、学内および社会に示したのが金沢大学未来ビジョン「志」です。

「志」では、金沢大学憲章にある「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」という基本理念のもと、揺るぎない未来ビジョンを「オール金沢大学で『未来知』により社会に貢献する」として明確に示しています。金沢大学の学生、教職員、卒業生をはじめ、金沢大学を取り巻く全ての方々が共創し「オール金沢大学」として邁進していく、「志」にはそんな思いを込めています。

金沢大学未来ビジョンにある「未来知」とは、どのようなことでしょう。

和田 「未来知」とは、未来の課題を探求して克服するための知恵、つまり「未来の価値を創造する知恵」を意味しています。我々は、高い国際性、優れた人間力を土台とし、複眼的な視座から、価値の軸を新たにして社会に貢献したいと思っています。そのために重視しているのが研究・教育(人)・経営の三つの柱で、それぞれの在るべき姿を追求しています。

未来ビジョン「志」を支える「研究・教育・経営」の三本柱

未来ビジョン「志」を支える「研究・教育・経営」の三本柱

和田 金沢大学にとって研究と教育は大切な両輪です。研究と教育が相互に好影響をもたらすポジティブループを形づくることができるように、経営(マネジメント)がその基盤を支えます。三つの柱を一体化し、それぞれに在るべき姿を追求していくことで、金沢大学の「志」を育て、社会貢献を果たしていこうと考えています。

研究・教育・経営の三本柱の重点ポイントをお聞かせください。

和田 金沢大学は、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)に採択される実績を持つ研究大学だと自負しています。そこで、研究面では「独創的な世界トップレベルの研究展開による世界的研究拠点の育成」をさらに進めていきます。

金沢大学の特徴的な研究活動が「文理医融合」です。例えば、「サピエンス進化医学研究センター」では、考古学、数理科学、脳神経科学の融合による新分野を確立させ、新たな視点で人間の進化を探究しています。

さらに、医学的な視点や理工学的な視点から観光を科学する「先端観光科学研究所」、自動運転の技術に欠かせないセンシングシステムの開発などからまちづくりに携わる「高度モビリティ研究所」の他、循環型社会実現のための共創研究拠点「バイオマス・グリーンイノベーションセンター」、金沢大学の研究シーズを社会実装へと導く「未来知実証センター」などの新組織も本格的に動き始めています。こうした多様な研究を深めるための実証研究をキャンパス内で展開できることが、我々の最大の強みです。

これらの先進的な研究を支援する機関として、国立大学では国内初となる自己財源100%出資のベンチャーキャピタル(VC)を設立しました。大学と一体となってスタートアップへの支援や、投資活動などの事業を展開するための仕組みを構築しています。

研究分野のみならず、教育分野でも様々な取り組みをされているそうですね。

和田 「社会の中核的リーダーたる金沢大学ブランド人材の輩出」という教育面での未来ビジョンに向けて、社会の変化に対応した教育組織改革を進めています。

金沢大学では、境界領域を含む幅広い分野の学びに携われるように、学部・学科ではなく、学域・学類という仕組みを用いています。現在は「融合学域」「人間社会学域」「理工学域」「医薬保健学域」の4学域・20学類に1万人超の学生が在籍しています。

このうち、融合学域の観光デザイン学類を例にとると、まさに文理医融合研究に基づく学びが進んでいます。例えば、観光体験においてどこに感動するのかをICT技術を駆使して可視化し、国籍による興味・関心を発見したりしています。これを発展させれば、その人に最適な観光ツアーの提案に結びついたり、食文化や健康など、多様なテーマに関連した教育研究ができたりします。

また、融合学域の観光デザイン学類とスマート創成科学類、理工学域の電子情報通信学類では、産業界・地域からの要請に応える形で、2024年度から合計で110名もの定員増が認められました。この他、入試制度においては、特別選抜の拡充に力を入れています。2024年度入学者選抜から、理工学域において女子枠特別入試を開始するなど、常に社会の変化を敏に捉えた入試改革を実施しています。

大学に入学する前の教育面では、地域との架け橋になって探究学修を実行することを重視しています。金沢大学は附属学校園として、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校を有しています。その全てで、子どもたちが主体的に考えて動く「考動体験」を促すプロジェクトを実施し、金沢モデルとして評価を得ています。

また、2023年度の「次世代科学技術チャレンジプログラム」に採択された「金沢大学STELLAプログラム」は、小中高とワンストップで継続的研究を促し、未来の科学技術イノベーターを育てていこうという試みです。

グローバル人材の育成・輩出にも力を入れています。その一環として、外国人留学生の受け入れを拡大し、そのキャリア形成の手助けをしたり、地域への定着を推進したりするプロジェクトなども展開しています。

このように、社会の中核を担うリーダーや未来のイノベーターを育成するための様々なプログラムの展開により、「世界一面倒見のいい大学」を目指したいと考えています。

そうしたいくつものプロジェクトを実現していくには、しっかりとした運営や経営基盤が重要ですね。

大学ブランド・デザインセンター長 吉田 健一

大学ブランド・デザインセンター長
吉田 健一

和田 おっしゃる通りです。だからこそ「人・知・社会の好循環をつくり出す持続可能で自律的な運営・経営の実現」を経営の在るべき姿としています。そのためのミッションの一つとして、大学内の環境整備にも取り組んでいます。

2022年度にはダイバーシティ推進機構を設置し、女性研究者への支援をはじめ、学内のダイバーシティ環境の充実に向けた活動を展開しています。また、「学生ファースト」の観点から、学生の意見を取り入れた新しいプロジェクトも始動しています。これにより、学内に冷凍丼の自動販売機を設置したり、福利施設として気軽に雑談ができるスペースを整備したり、学生の起業コーナーを含む食堂をオープンしています。

地域や社会との連携も重要です。医学系を源流とする大学ですから、金沢大学附属病院と地域の医療機関、研究機関とのきめ細かな連携も強みです。附属病院の第2中央診療棟を開設して新医療体制の強化を図る他、バイオバンクシステムの導入なども手掛け、イノベーションの創出を目指しています。

他にも、160年を超える歴史を伝え広めていけるように、附属図書館や資料館を整備する事業にも注力しています。附属図書館には展示スペース「思考の森」を設置して貴重な資料を展示しています。資料館は、地域の博物館とデジタルネットワークによる資料情報の共有や連携の構築にも取り組んでいます。

経済界との連携としては、北陸経済連合会と北陸地区の国立大学4大学共同で産学官金のプラットフォーム「北陸未来共創フォーラム」の運営にも携わっています。このフォーラムは、経済や産業の活性化、人材育成・地域定着などの未来ビジョンをテーマに分科会を設け、業種や組織規模の壁を越えた交流の促進、新たなビジネスの創出に寄与しています。

最後に、未来ビジョンの実現に向けた取り組みの展望をお聞かせください。

和田 就任してから2年目となりますので、これまでの重要業績の評価指標を振り返り、現状を分析しているところです。より率直な意見を出し合える環境で、金沢大学が10年後にどうあるべきかを考えるオープンディスカッションを進めています。オール金沢大学を具現化する巻き込み型の議論をボトムアップ・トップダウンの両輪で展開したいと考えています。

対話や交流は得がたい経験をもたらせてくれます。それをあらためて実感したのが、2023年5月に金沢大学で開催された「G7富山・金沢教育大臣会合エクスカーション」でした。金沢大学の学生やG7各国からの留学生、附属高校生がG7各国・国際機関の代表者の方々と活発な意見交換を行い、「金沢大学ユース宣言」を発表した経験は参加者にとって一生の財産になったと思います。こうした貴重な機会をいただけたのは関係各所の皆さまのお力添えがあってこそですから、大変感謝しています。

金沢大学の周りには、社会や地域を巻き込んだ大きな輪が生まれていることがよく分かりました。貴学の今後の活躍と新たなイノベーションの創出に期待しています。

ブランド本部 本部長 兼 ブランドコミュニケーション部長
兼 大学ブランド・デザインセンター長
兼 周年事業・デザインセンター長
吉田 健一

IT企業を経て、日経BP社に入社。日経BPコンサルティングに出向後、2001年より始まった日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」ではプロジェクト初期から携わり、2004年からプロジェクト・マネージャー。2020年から現職。企業や大学のブランディングに関わるコンサルティング業務に従事する傍ら、各種メディアへの記事執筆、セミナー講師などを務める。著書に「リアル企業ブランド論」「リアル大学ブランドデザイン論」(共に弊社刊)がある。