『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー
ブランド・ジャパン2023の結果に見られるブランド評価の最新トレンドとは
(2023年4月6日開催、「『ブランド・ジャパン2023』発行記念オンラインセミナー」より)
文=斉藤 俊明
写真=木村 輝
構成=金縄 洋右
資源、食料の高騰や観光、娯楽需要復活の1年に
ブランド・ジャパンの結果からブランド評価のトレンドを読み解くうえで、まず押さえておきたいのが、調査が行われた年(今回の調査は2022年11月に実施)の時代背景だ。阿久津氏は、ブランド評価に影響したと考えられる2022年の大きな出来事をいくつか挙げた。
最初に挙げられたのは、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻だ。これを機に世界の政治・経済に分裂状況が起こり、資源や食料不足とそれに伴う値上げ、さらに各国で深刻なインフレも発生した。
夏場には新型コロナウイルスのオミクロン変異株による感染者が急増したが、秋にイベント等の規制や海外からの入国が緩和され、観光や娯楽も平常を取り戻し始めた。「ウイルスとの共生に向けた取り組みが加速した状況が、人々のブランド評価に影響を与えたことは想像に難くありません」と阿久津氏は指摘する。
阿久津 聡 ブランド・ジャパン企画委員会委員長、
一橋大学経営管理研究科国際企業戦略専攻教授
加えて、7月に起きた安倍晋三元首相の狙撃事件と国葬に対する国民からの様々な反応、参議院選挙における自民党の大勝、また狙撃事件に端を発した旧統一教会に関する一連の問題も大きな出来事だった。さらには北京冬季五輪における日本選手団の活躍、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」のアカデミー賞国際長編映画賞受賞、そして大リーグの大谷翔平選手の大活躍、サッカー・ワールドカップでの日本代表の躍進なども多かれ少なかれブランド評価に影響した可能性があると阿久津氏は語る。
こうした状況を踏まえ、阿久津氏は上位にランクされたブランドについて振り返った。
USJなど「イノベーティブ」の評価を上げたブランドがトップ3入り
まず消費者が選ぶ一般生活者編(1000ブランド)の総合力ランキングでは、1位がUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)、2位がGoogle、3位はユニクロという結果になった。USJは前回の19位から大幅に順位を上げ、初の首位に躍進。Googleは前々回から3年連続の2位、ユニクロも前々回3位、前回6位と2位と3位は安定した顔ぶれといえる。
1位に躍り出たUSJのブランド評価を4つの因子別に見ると「イノベーティブ」が突出して高く、前回と比べて大きく上昇。「アウトスタンディング」もかなり上昇し、「フレンドリー」「コンビニエント」も上がった。
「2021年に『スーパー・ニンテンドー・ワールド』をオープンしたほか、人気アニメとのコラボ企画も展開するなど、他にはない魅力を提供し、客足が戻る中で注目を集めたため、イノベーティブやアウトスタンディングの評価が高くなったと考えられます。また、海外観光客の増加を見込み、中国系QRコード決済への対応、さらに、ハロウィンイベントを3年ぶりに実施したりなど、Withコロナの時流を見極めて勢いを増していることも評価の一因だろうと思われます」
2位のGoogleはイノベーティブ因子が大きく上昇。Google初となるスマートウオッチの発売、画像とテキストを合わせた画期的な検索が可能になった点が大きく貢献したと考えられる。3位のユニクロは前回低下したイノベーティブ、フレンドリー、アウトスタンディングの3因子が回復し、コンビニエント因子の安定した高さもあって前々回の順位に戻った。
上位20位にランクインした他のブランドについては「LINE(7位)やハーゲンダッツ(9位)などトップ20圏外から順位を上げたブランドが目立ちます。さらにディズニー、トヨタ自動車、ソニーといった前回順位を落としたブランドも順位を回復しています」と阿久津氏は解説した。
DXによる親和力、先見力向上がブランド評価上昇の要因に
一方、ビジネス・パーソン編(500ブランド)を見ると、1位は前回トップのトヨタ自動車が維持。2位は任天堂、3位はディズニーとパナソニックが同率で並ぶ結果となった。トヨタ自動車は、5つの因子別に見ると「親和力」こそ下がったものの、「人材力」が大きく上昇し、「先見力」「活力」「信用力」も上昇が見られた。
「外国人材の相談・救済機関の共同設置、データ分析での産学コラボ、IT人材確保のための採用拠点設置などが、人材力の評価を大きく上げた要因と考えられます」
2位の任天堂は、とりわけ先見力の上昇によって前回の5位からランクアップした。人気タイトルの新作発売や自社IPを活用したグッズ展開、映像制作会社買収などが先見力の高評価につながったようだ。3年連続で3位をキープしたディズニー、前回の25位から同率3位へと大きく揺り戻したパナソニックのいずれも、高評価に貢献した要因がいくつもありそうだと阿久津氏は指摘した。
5位以下では、アップル、ソニー、スタジオジブリ、アマゾンといった常連が上位を占める一方、ANA(全日本空輸)、カゴメ、スターバックスコーヒー、味の素、カルビーなど大きく上昇してトップ20入りしたブランドも目立った。阿久津氏は「多くは食品ブランドで、時代背景の後押しとそれに適応した新商品投入、そしてDXの取り組みによって先見力や親和力を一層向上させたことが要因と考えられます」と評価する。
最後に阿久津氏は次のように語った。
「新たに大きな変化があれば、その後にどのような状況になるのかは誰にもはっきりとはわからないものです。経営にとっては変化にしっかり対応していくことが大事ではありますが、変化がとても大きかったり急激であったりすると、対応も難しくなります。また、変化が頻繁に起こるようであれば、その都度対応していると振り回されてしまうことにもなりかねません。そうした環境下では、多少の変化があっても人々から継続的に共感・支持される普遍的で思い入れのある理念・パーパスを持ち、それをぶれない軸として行動することが、いつも変化に振り回されているような状況を避けるためにも、ますます重要になってきていると思います」
連載:2023年4月6日開催 「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」
阿久津 聡(あくつ・さとし) 氏
カリフォルニア大学バークレー校Ph.D.(経営学博士)。専門はマーケティング、消費者行動論、ブランド論。
著作に『ブランド戦略シナリオ - コンテクスト・ブランディング』(ダイヤモンド社:共著)、『ソーシャルエコノミー』(翔泳社・共著)、『ブランド論』、『ストーリーの力で伝えるブランド』(ダイヤモンド社:訳書)、『カテゴリー・ イノベーション』(日本経済新聞出版社:監訳書)、『弱くても稼げます』(光文社:共著)、『サクッとわかるビジネス教養 マーケティング』(新星出版社:監修)などがある。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄 洋右
日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。