ブランド・ジャパン活用事例

カリモク家具、若い層の取り込みへデジタルコミュニケーションを強化

  • 金縄

    ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 金縄 洋右

愛知県刈谷市に設立された木工所からスタートし、木製家庭用家具メーカーとして国内最大手に成長したカリモク家具株式会社は高品質な製品で消費者から高い評価を受けている。10ブランドを展開し、コロナ禍以降SNSを活用したデジタルコミュニケーションに力を入れ、20~30代の若い層でも認知度を高めている。また、サステナビリティ経営にも取り組み、未利用の国内木材を活用した製品作りで森林再生に貢献している。「ブランド・ジャパン」調査でも2023年度の「総合力」は21年度に続く好成績を収めた。特にアウトスタンディング指標が強く、個性的でステータスの高いブランドを構築している。
文=吉村 克己
構成=金縄 洋右

「アウトスタンディング」が強いブランドへと成長

新型コロナ禍の中、トイカプセル専門店が増加する中で、様々なミニチュアトイが登場しているが、カリモク家具のブランドのひとつ「カリモク60」を、カプセルトイとしてケンエレファント(本社東京:代表取締役社長 石山健三)が製品化し販売。100万個を超す大ヒットを記録している。

カプセルトイ化に際し、カリモク家具の完全監修のもと、製品のディテールやブランドプレートに至るまで、精密に再現されている。カリモク家具常務取締役として営業を統括する山田郁二氏はこう語る。

「コロナ禍の中、イエナカでの楽しみ方として、ミニチュアキャラクターをチェアやイスに座らせて写真を撮り、インスタグラムに投稿することが流行り広がったようです。20~30代のカリモク家具に対する認知度を上げるのに役立ちました」

カリモク60は1960年代から作り続けている製品と当時の商品を復刻したブランドで、流行にとらわれないデザインを取り入れ、感度の高い20~30代をターゲットとしている。また、永く作り続けてきたことで、他のブランドよりもお値段は手ごろに抑えている。

写真:山田 郁二 氏

カリモク家具株式会社
営業推進部統括 常務取締役
山田 郁二 氏

「カリモク60は2002年に立ち上げたブランドですが、2014年をピークに売上が下がり始め、原因を探ったところ、ターゲットの若者に知られていないことが分かりました。地域内でお取り扱い先を絞り、お店を中心に販売促進や顧客フォローを図ってきましたが、今の顧客はネットやスマホで情報収集が主となっており、デジタルでの接点が不足していたのです」と山田氏。

カリモク家具は木製家庭用家具メーカーとして国内最大手だ。高品質で比較的高価格帯の製品が多く、一定の所得層以上による認知度は高い。

ブランド・ジャパン調査においても2023年度総合力は650位と21年度の614位に次いで高かった。4指標ではアウトスタンディングに強みがあり、21年度は264位と業種平均を上回った。フレンドリーも比較的高いが、一方でイノベーティブは低い結果となっている。9項目のロイヤリティ評価では業種平均を以下のような項目で上回っている。「大ファンである、あこがれている」「利用(購入)したい」「他者に勧めたい」「他のブランドより価格が高くても利用(購入)する」

自由意見でも「品質」「良い」という単語の出現頻度が高く、高品質というブランド評価が定着しているのが分かる。

サステナビリティ経営推進とブランディングの相関性

山田氏もアウトスタンディングとフレンドリーをブランディングで重視しており、そのためにも19年からサステナビリティ経営を強化してきた。

「創業以来、材木を活用するメーカーとして持続可能性を追求してきましたが、それを強化するべく19年にSDGs委員会を立ち上げてグループミッションとして『木とつくる幸せな暮らし』を掲げました。その下にサステナビリティ方針を策定、カリモクグループにおける5つのマテリアリティ(重要課題)を決めました。その1つが『カリモクエコシステムの構築』であり、カリモクファンに寄り添い、より良い暮らしを共創できるエコシステムを目指してきました」と山田氏は語る。

一方で、サステナビリティ経営がブランドにもたらす影響も研究し、ブランド・ジャパンの「総合力指数」と「ESG評価」に相関性があることを見出した。

「そこでブランド・ジャパン調査を活用して数値評価し、選ばれるブランドになるため活動を展開してきました」(山田氏)

具体的には顧客と近い関係を作るタッチポイントとの充実であり、ショールームおよび卸先家具店の店頭におけるカリモクギャラリーの設置に力を入れ、家具レイアウトの無料相談なども実施してきた。だが、こうしたリアルなタッチポイント戦略に危機をもたらしたのがコロナ禍である。

「20年には自社ショールームも得意先も休業を余儀なくされるおそれがある中で、18年から取引きを始めていたアマゾンの売上が伸びていました。そこで、社長命令により公式オンラインショップを急遽開設し、SNSなどを使ったマーケティングを強化し始めました」と山田氏は語る。

冒頭のカリモク60ブランドもこのとき、インスタグラム、ツイッターを開始、21年にはショールーム公式インスタグラムを始めた。こうして、コロナ禍がきっかけとなり、カリモク家具のデジタルコミュニケーションが本格化した。結果、22年度は、カリモク60ブランドとしては、様々な販路を通じて、過去最高の売上を記録することになった。

「カリモク60」のInstagramアカウント

2021年に開始した「カリモク60」のInstagramアカウントによる発信が
デジタル上での顧客とのタッチポイント強化につながった

アマゾンでは即納や組み立て設置などを重視する顧客が多い一方で、カリモク家具公式オンラインショップでは個別相談を求める顧客が訪れ、スタッフがコンシェルジェ的に対応している。日中ショールームに行けない医療従事者や高齢者がコロナ禍では多かったという。リアル戦略から漏れていた顧客たちをネットで拾い上げることができたわけだ。

「結果的に家具やインテリア製品はインスタグラムが効果的であることが分かりました。お客様が家庭における実際の使用事例を投稿して他のお客様に推薦してくれるのです」と山田氏。

現在はユーチューブも活用し、家具のレイアウトの仕方や魅力を伝える動画を作成、月に3、4本投稿している。インスタグラムは月に20本ほど新しいコンテンツを掲載し、フォロアーも徐々に増えている。

全方位の顧客タッチポイント拡大、「木製といえばカリモク」に

カリモク家具ではホテル、レストラン、オフィスなど業務用家具分野を強化するために以下の4ブランドを立ち上げている。

「Karimoku New Standard」はこれまであまり利用されてこなかった国産広葉樹の未利用材を材料に使い、海外デザイナーによるエッジの立ったデザインをコンセプトとしている。売上の約半数が、国内の業務用ユースとなっている。

「KARIMOKU CASE STUDY」は建築家・デザイナーである芦沢啓治氏やデンマークのノーム・アーキテクツなど世界の建築家とのコラボレーションによるブランドだ。

「石巻工房by Karimoku」は東日本大震災で被災された方の復旧を支援するために芦沢啓治氏がハブとなり工房と家具メーカーのコラボレーションにより誕生した。

「MAS」は未利用の国産針葉樹を活用した家具コレクションで、いずれのブランドも環境に配慮した製品となっている。国内の林業に貢献したいという同社の思いの具現化でもある。

また、21年から流通先ではニトリ、22年からIDC大塚家具との取引きも開始、全方位的に顧客とのタッチポイントを拡大している。

家具以外でも楽器や化粧品、仏壇などに部材を供給する事業も強化しており、「木製といえばカリモクと言われる存在になりたい」(山田氏)という。

「どのような対策が正解か分かりませんが、今後ともアウトスタンディングとフレンドリー指標を維持しながら、品質にはこだわり続けたい」と山田氏。コロナ禍を奇貨としてデジタルコミュニケーションを強化できた同社はさらに顧客層の拡大を図る。

ブランド・ジャパン活用事例

金縄 洋右

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄(かねなわ) 洋右(ようすけ)

日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。

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