インデックスで企業のESG経営を後押し

FTSE Russellが目指すサステナビリティの見える化

  • 古塚副本部長2020

    SDGsコンサルティング部 部長 古塚 浩一

SFDR(サステナブルファイナンス開示規則)などのESG情報開示の規制の強化、サステナビリティが長期的に投資リターンに貢献するという研究結果の発表などを背景に、ESG情報に対する投資家のニーズが高まっており、企業のESGレーティングに基づくインデックス(指数)を投資家に提供するインデックス・プロバイダーの役割が重要性を増している。
世界有数のインデックス提供企業であるFTSE Russellのサステナブル投資部門日本代表の森敦仁氏に、QUICKでESG研究所リサーチヘッドを務める中塚一徳氏が、サステナブル投資インデックスの状況や企業に求めることなどを聞いた。


【特別対談】FTSE Russell サステナブル投資部門日本代表
森 敦仁氏
株式会社QUICK ESG研究所 リサーチヘッド
中塚 一徳氏

構成=古塚 浩一/文=小槌 健太郎

ESGは長期的には投資リターンと矛盾するものではない

中塚 森さんがESG分野に関わるようになったきっかけを教えてもらえますか。

森 敦仁氏

FTSE Russell
サステナブル投資部門日本代表
森 敦仁氏

森 もともとヘッジファンド系の投資顧問会社でファンドマネージャーを長く務めました。2013年にオランダの投資顧問会社ロベコ(Robeco)を日本のオリックスが買収し、インベストメント・オフィサーに就任したことがESGに関わるようになったきっかけです。ロベコはオランダで上位の資産規模を持つ投資企業で、早くからサステナビリティを投資戦略に組み込んで運用していました。しかし当時日本はもちろん、欧州の金融業界でもESGやサステナビリティという言葉はいまほど浸透していませんでした。そのような中で、サステナビリティが長期投資や企業経営に重要であり、投資戦略に組み込むことで長期的には投資リターンにも貢献するという哲学に共鳴したことがESG投資を追求するきっかけとなりました。

その後2015年に日本に戻って、オリックス銀行部門でESGを取り入れた投資信託を機関投資家や個人投資家に提供してきました。

2021年9月、縁あってFTSE Russellのサステナブル投資部門の日本代表に就任することになりました。前職では、投資戦略にサステナビリティを組み込むアクティブ・ファンドが中心でしたが、FTSE Russellでは、企業をESGレーティングで格付けし、インデックスを作成し投資ツールとして投資家に提供しています。

ESG投資というと、特定の産業、例えば化石燃料関連の産業などからダイベストメント(投資対象からの金融資産引き揚げ)するという側面もありますが、以前在籍したロベコでは企業に対するエンゲージメントを重視していて、投資を続けながら企業の改善を促して企業価値を高めることに重点を置いていました。これはFTSE Russellにも共通する考え方だと思っています。

中塚 私自身は、2015年ごろにGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の事業で、FTSE RussellとQUICKで共同提案して実施したプロジェクトが、ESGやサステナビリティの原点になっています。

現在、市場にはインデックスに連動したパッシブ運用の投資信託が数多くありますが、インデックス提供企業としてのFTSE Russellの役割や特徴と、他のインデックス企業との違いなどを教えてもらえますか。

森 インデックス全般について話しますと、株価などの指標になっていることから、投資家にとって算出方法の透明性が高くて明確であり、また運用手数料も低いなど投資しやすい点が強みだと考えています。

FTSE Russellの強みは、世界トップクラスのインデックス提供企業であるということです。株式だけでなく、債券のサステナビリティ運用資産も比較的大きいという特徴があります。また、気候変動対策やサステナビリティ対応は欧州が先行していて、投資資産に占めるサステナビリティ投資比率が高く、FTSE Russellはサステナビリティの最前線である欧州に本拠を置いているという地の利があります。

FTSE Russellのある英国では、2000年の年金法改正で年金基金の受託者が投資方針書で投資の種類やバランス、リスク、期待収益率などのほかに、投資対象の選択・保有・売却の際に社会・環境・倫理を考慮しているか、考慮しているならどの程度かについて方針を開示することが義務づけられました。この規定の発効以降、英国では社会的責任投資(SRI)が急拡大したと言われています。

こうしたことを受けて、FTSE Russellでは2001年から「FTSE4Good Index(フッツィー・フォー・グッド・インデックス)」を算出しており、最も歴史があるESGインデックスの1つになっています。FTSE4Good Indexの手法を基に、日本企業を対象にFTSEのESGレーティング(格付)を取り入れて2017年に算出を開始したのが「FTSE Blossom Japan Index(フッツィー・ブロッサム・ジャパン・インデックス)」です。

FTSE Russellにおける企業のESGの評価手法(メソドロジー)はあらかじめ決められたルールに基づき評価・格付を行うため、透明性が高く顧客や投資家、評価される企業にとっても非常にわかりやすいのが特徴です。また、FTSE Russell はESG格付に専念しており、利益相反につながるような周辺ビジネスは実施していないため、公平性と信頼性が高いと自負しています。

中塚 企業の方と話をする中で、FTSE Russellは企業とのエンゲージメントが強く、企業からの質問などにも丁寧に対応しているという声をよく聞きます。

森 FTSE RussellはESG評価に際して、企業が開示した情報のみを使っており、企業に対してESGに関する質問状を別途送ったり、インタビューを行ったりしてESG評価をすることはありません。

ただ、実施した1次評価は評価先の企業に開示して、4週間のフィードバック期間を設けています。評価結果に異論がなければそのままESGレーティングが決まり、それを使うインデックスに反映されますし、フィードバック期間外でもクライアント・サービスのチームが随時質問などに対応し、企業には理解してもらって評価を行っています。またローカル言語にも対応しており、日本の企業に対しては、日本語で対応をしています。

日本企業のESG評価と情報開示は改善している

中塚 GPIFがFTSE Blossom Japan Indexを採用した2017年には、対象とした日本企業約150社を平均したESGスコアは2.2程度でした。現在は約230社で2.7程度にまで上がっています。

日本企業のESGに関する情報開示は進んでいると考えてよいのでしょうか。

森 ご指摘の通り日本企業のESGスコアは、5年間で大きく改善しています。ただ、グローバルで見ると海外の企業もスコアが上昇していますので、相対的にESGの平均スコアは先進国では依然下位にランクされています。一方でESGスコアが世界的に見ても高い日本企業は増えており、高い企業と低い企業に二極化しているのではないかとも感じています。

中塚 一徳氏

株式会社QUICK ESG研究所
リサーチヘッド
中塚 一徳氏

中塚 2022年3月にFTSE Blossom Japan Indexシリーズを拡張して、新たに「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index(フッツィー・ブロッサム・ジャパン・セクター・リラティブ・インデックス)」の提供を開始しました。GPIFもFTSE Blossom Japan Sector Relative Indexを最新のESGパッシブファンドのベンチマークとして採用しましたが、新たにセクターごとのインデックスを作成した狙いはなんでしょうか。

森 これまでFTSE Blossom Japan Indexは、インダストリー割合を親指数に対してニュートラルとしながら、ESG指数の絶対値が3.3以上の企業を組み入れ、2.9未満になったらインデックスから外す運用を行っています。

これまでESGインデックスを算出してきて、ESGスコアはセクターごとに平均値がまちまちであることがわかってきました。ある業界ではESGスコアが高く、ある業界では低いというように、インダストリー(業種)やセクターごとに傾向やばらつきがあります。昨今、重要度を増してきた気候変動に関しては二酸化炭素(CO₂)の排出量が大きいハイカーボン・セクターが排出量を減らすことが鍵になるため、ESGスコアが基準未満という理由でハイカーボン・セクターの企業を外していくだけでは本来の目的が達成できません。

もう1点、コアとなるベンチマークインデックスの乖離(かいり=トラッキングエラー)を少なくしたいという投資家にとっては、11種類のインダストリーより詳細な業種ニュートラルのニーズがありました。

この主に2つの理由により、45種類ある各セクターで相対的にESGスコアが高い企業を採用することにしたのが、このインデックス開発の背景です。

 FTSE Blossom Japan Sector Relative Indexでは、ESGスコアが2.0以上の企業を対象に、より詳細な45セクターの上位50%の企業をインデックスに組み入れることで、相対評価を実施し投資家のニーズに応えることができるようにしました。

 また、このインデックスは、ベンチマークにおいて炭素排出量が多い上位10%の企業はインデックスから除外しますが、そうした企業であっても、自社の温室効果ガス排出管理や低炭素経済移行に関するリスクと機会への対応度合いをスコア化した「TPI MQ(Transition Pathway Initiative Management Quality) スコア」が5段階で3以上であればインデックスから除外せず、企業の脱炭素の流れを後押しします。企業における気候変動リスクへの対応状況や体制、経営戦略への取り込みといった評価を取り入れることで、CO₂排出量の大きな企業から単にダイベストメントするのではなく、脱炭素に向けてエンゲージメントを高める狙いがあります。

中塚 TPI MQスコアの評価のフレームワークを作成するにあたって、投資家のエンゲージメントなどはあったのですか。

森 TPIは、2017年に設立されたアセットオーナーが主導して資産運用会社が支援するグローバルな取り組みで、低炭素経済への移行に向けた企業の準備状況を評価し気候変動に対応する取り組みを支援するイニシアティブです。

TPI MQスコアは、TPIの公開されたメソドロジーに基づき、FTSE RussellのESG格付の気候テーマからデータを抽出して作成されています。企業、特にハイカーボン・セクターの脱炭素への移行を促すことがスコア算出の目的となります。

中塚 FTSE Blossom Japan Sector Relative Indexでは、親指数となる「FTSE Japan All Cap Index」1394銘柄のうち、493銘柄(2022年4月29日現在)が選定されています。45セクターの上位50%の企業を組み入れるということであれば、インデックスの選定銘柄数が増えることもあるのでしょうか。

森 インデックスへの組み入れ基準は、ESGスコアが2.0以上かつ各セクターの上位50%。また炭素排出の大きい企業はTPI MQスコアも基準となってきます。またインデックス運用上のルールにより、浮動株調整を行ったり、株式時価総額の小さな企業は除外したりしているので、現在の選定銘柄はそれに基づいています。その意味では、この基準を満たすことが必要となってきます。ESG評価やTPI MQスコアの改善という意味では、今後選定銘柄が増える可能性もあると思っています。

中塚 FTSE Blossom Japan Sector Relative Index発表後の反響はいかがですか。

森 2022年3月に発表してから、日本のみならずアジアなど海外のメディアにも多く取り上げられ、反響は大きかったと思っています。4月21日時点で57社が構成銘柄に選定されたというプレスリリースを出されています。前インデックスと同様に、FTSE Blossom Japan Sector Relative Indexでも独自のロゴマークを作成して、選定企業はこのロゴを利用できるようにしました。

ESGの取り組みについて情報開示が重要

中塚 FTSE RussellのESGレーティングの特徴は企業の網羅性が高く、絶対評価であることと、地域なども含めてマルチ・ステークホルダーの幅広い課題から基準を作成していることではないかと感じています。

森 FTSE Russellの役割としては、投資家を中心としたさまざまな顧客の皆様に対してインデックスを提供することです。ESGレーティングは各種のESGインデックスを作成する基礎として、評価者によって評価に偏りがなく網羅性と公平性、透明性があり、いかにインデックスに加工できるかということが重要になります。

FTSE RussellのESGレーティングは企業を格付するのがメインの目的ではなく、インデックスを開発するためのツールです。そのため偏りがなく公平で、レーティングにあたって企業に負担がなく、納得感があって評価はシンプルである必要があります。

中塚 日本企業はESGレーティングを使用しているFTSE4Good IndexやFTSE Blossom Japan Index、あるいは今回のFTSE Blossom Japan Sector Relative Indexに目が向きがちですが、FTSE Russellが提供しているサステナブル投資インデックスはどれくらいの数があるのでしょうか。

森 2021年12月時点で、約180種類、70以上のファンドが運用されており、運用金額(AUM)は約 21兆円あります。

中塚 すごい数と額のインデックスがありますね。FTSEのサステナブル投資インデックスに採用されれば、広い波及効果があるということですね。

森 サステナブル投資インデックスはESGレーティングだけでなく、グリーン・レベニューのデータなども活用しています。

2019年に欧州委員会が公表した「非財務情報開示指令に関するガイドライン」が示されたこともあり、「ダブルマテリアリティ」「シングルマテリアリティ」「ダイナミックマテリアリティ」といった用語が使われ始めました。

基本的にESG格付会社は、社会・環境から受ける財務的影響のみを考慮した「シングルマテリアリティ」により企業を格付けしています。

一方、FTSE Russellはインデックス提供企業として投資家に透明な評価のESG格付を使ったインデックスを活用してもらうのが主目的ですので、財務的マテリアリティと企業が環境・社会に与える影響というマテリアリティの両方を重視する「ダブルマテリアリティ」を考慮する余地はあるとは思います。

ただ、定義や開示ルールが決まっていない中で、評価される企業の理解や開示などが進んでいない面もあります。FTSE Russellがダブルマテリアリティをインデックスに取り入れるには、まず国際的なフレームワークに基づいてデータが開示され、その開示資料に基づいて評価するという流れになるでしょう。

中塚 日本企業の中にはESG経営に積極的に取り組んでいるところと、ESGに対して意識が追いついていないところに分かれるのではないですか。

森 大企業・中規模企業はESGに対する意識は高まってきていますが、小規模の企業にもESGに対する理解と意識を高めていただくことも目的の1つとして、FTSE Blossom Japan Indexでは2020年12月の定期見直しから、小型株を含む親指数にベンチマークを変更しました。また、企業向けにFTSE Russell のESGレーティングに関するセミナーなどを積極的に開催しています。

中塚 日本企業にお伝えしたいことがあればお願いします。

森 ESGは企業の長期的なリスクおよび成長に大きな影響を与え、かつ株価の動向を大きく左右する事項となってきています。投資家によるESG情報の開示に対する高まりとともに、昨年東証が発表した改訂コーポレートガバナンス・コードでは、サステナビリティの基本方針や取り組みの開示に加えて、プライム市場上場企業に対しTCFD提言に沿った気候変動リスクの情報開示が実質的に義務付けられましたし、金融庁も積極的な情報開示を求めており、企業にとって投資をしてもらうためのESG情報の開示は必須となるとともに、ESGが企業戦略に大きな影響を与えるようになってきています。

FTSE Russellとしては、ESGを長期の重要な経営戦略として位置付け、ぜひESGの戦略や取り組みについて情報を積極的に開示してほしいと考えています。どれだけ良い取り組みをしていたとしても開示しなければ評価ができませんし、情報は投資家に届きません。有価証券報告書や統合報告書に記載されていれば、わかりやすいのですが、ウェブサイトなどでの記載でも構わないので積極的にESG情報の開示を進めてもらいたいと考えています。

森 敦仁氏

FTSE Russell サステナブル投資部門日本代表
森 敦仁(もり・あつひと)氏

1990年代半ばから約20年、投資顧問会社にてCTA・ヘッジファンドマネージャーを務め、米国のファンド・オブ・ファンズの資金、日本の上場企業年金の資金などを運用。2013年、1990年代からESG投資を開始/リードしてきたオランダの投資顧問会社RobecoのInvestment Officerに就任し日本における同社のESG関連ビジネス拡大などを推進。その後2015年から2021年までオリックス銀行にて機関投資家および個人投資家向けにESGを取り入れた金融商品などを取り扱う資産運用営業部長兼役員補佐を務める。2021年9月から、ロンドン証券取引所グループであるFTSE Russellのサステナブル投資部門日本代表として、同社の日本におけるサステナブル投資のインデックス、データ、アナリティクス・ソリューションを担当。

※肩書きは記事公開時点のものです。

中塚 一徳氏

株式会社QUICK ESG研究所 リサーチヘッド
中塚 一徳(なかつか・かずのり)氏

1992年入社以来、機関投資家を中心とするホールセール向け情報端末サービスの企画、開発、マーケティングを中心に担当。執行コスト推計モデルの開発、デリバティブのプライシングなど金融工学を利用した研究とサービス化に多く取り組む。ESG研究所では、ESGデータを活用した定量分析、ESGアドバイザリーサービスに従事。運用会社、信託銀行などでの年金基金向け投資研修会、東京理科大学経済学部特別講座などでの講演や、みずほ年金レポート、FPジャーナルなどへの執筆実績。東京理科大学大学院理工学研究科経営工学修士課程修了。

※肩書きは記事公開時点のものです。

日経BPコンサルティング通信

配信リストへの登録(無料)

日経BPコンサルティングが編集・発行している月2回刊(毎月第2週、第4週)の無料メールマガジンです。企業・団体のコミュニケーション戦略に関わる方々へ向け、新規オープンしたCCL. とも連動して、当社独自の取材記事や調査データをいち早くお届けします。

メルマガ配信お申し込みフォーム

まずはご相談ください

日経BPグループの知見を備えたスペシャリストが
企業広報とマーケティングの課題を解決します。

お問い合わせはこちら