コロナ禍のブランド力向上事例に迫る②

消費者インサイトをブランドづくりにつなげるモスフードサービスのマーケティング

  • マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

国内約1250店舗、海外で約450店舗のモスバーガーを展開する(株)モスフードサービス(東京都品川区大崎)は、「ブランド・ジャパン2022」で「アウトスタンディング」と「フレンドリー」のスコアが前年から大きく伸び、総合順位でも75位から43位へとジャンプアップした。この急上昇につながった同社のマーケティング施策のベースにある、消費者インサイトを正確に捉えて“共感”を呼ぶブランドづくりにつなげていく取り組みにフォーカスした。
(2022年4月6日実施「ブランド・ジャパン2022」発行記念オンラインセミナーより)

文=斉藤 俊明、構成=金縄 洋右
写真=海老名 進

明確なターゲット設定とナンバーワンブランドとのコラボでアプローチ

(株)モスフードサービスは、2019年に商品開発本部とブランド戦略室を統合してマーケティング本部の新設を契機に、それまでのプロダクトアウト主体からマーケットインのマーケティング手法へと転換した。それを受けて、2020年にモスバーガー流のファンベースマーケティングやターゲット戦略を展開。さらにその流れの中で、2021年は新型コロナウイルスのパンデミックの影響で生じた消費者ニーズや世の中の動きに対応し、「テイクtoホーム(持ち帰り需要)」「エシカル消費」のキーワードにフィットする施策へと進化させた。

上席執行役員 マーケティング本部長の安藤芳徳氏は、「ブランド・ジャパン2022」において直接的にはこの2021年の取り組みが評価されたと分析するものの、それは2021年の単年度で生まれたものではなく、2020年から連続している施策の成果だと強調する。

(資料:(株)モスフードサービス提供)

まず2020年は、既存のモスバーガーのファン対象ではなく、「モスバーガーと共通点がある」(安藤氏)と考えられる芸能人やキャラクターなどのファンにアプローチして販売を広げるため、多様なコラボレーションによる“モス流ファンベースマーケティング”を展開した。さまざまなコラボが実施されたが、なかでもとくに話題となったのは、日本酒ブランド「獺祭」で知られる旭酒造(株)(山口県)とのコラボから誕生した商品だ。

「モスバーガーはハンバーガー業界全体ではトップではありませんが、“日本生まれのバーガーショップ”など特定のセグメントにおいてはナンバーワンブランドといえます。同様に別の業界で、セグメントされた中でのトップである獺祭ブランドのようなナンバーワンとモスバーガーがコラボすれば、成功の確率が上がるのではないか。その考え方に基づき、モス流ファンベースマーケティングを実施しました」(安藤氏)

安藤 芳徳 氏
株式会社 モスフードサービス 上席執行役員
マーケティング本部長・安藤 芳徳 氏

こうしたユニークなマーケティングのベースとなるのは、やはりしっかりとしたターゲット設定だ。同社は2020年から強化ターゲットの設定や、ターゲットごとに細分化した商品・販売企画などの戦略に取り組んできた。

そのうえで、2021年はコロナ禍によって消費者の意識が大きく変化し、テイクアウトニーズの増加とSDGsへの関心の高まりが顕在化したことから、「テイクtoホーム」「エシカル消費」の2つのキーワードに注力することになったという。

ただ、モスバーガーはテイクアウトニーズの割合がもともと高く、消費者から“健康的”というイメージも持たれていたこともあるなかで安藤氏は「私たちのほうからそれらのキーワードに近づいていったというより、世の中のほうがモスバーガーに近づいてきたという実感を持っている」と手応えを口にする。

的確な消費者インサイトの把握がブランドイメージ向上のきっかけに

同社のマーケティングチームでは、この2つのキーワードに合った商品づくりやキャンペーンの手法について議論を続けてきた。そしてその過程では、消費者からもたらされるインサイトが重要な役割を果たす。まず「テイクtoホーム」では、「定番で安心できる商品を選んでいきたい」という消費者心理の変化からインサイトを獲得し、定番商品を強化する、キャンペーンで定番商品を訴求する、あるいは持ち帰り専用商品を強化する、といった施策を考案した。

図:インサイトを捉えることが“共感”へ

(資料:(株)モスフードサービス提供)

一方、「エシカル消費」についても、消費者インサイトを基に、SDGsにつながるさまざまな取り組みを行った。

「コロナ禍で困っている人を助けたい」という消費者インサイトでは、キャンセルが相次ぎ廃棄の危機に直面している生産者の原料に着目。愛媛県・愛南漁協の真鯛を利用した日本の生産地応援バーガーを販売した。また「楽しみながら頑張りすぎず健康的な生活を送りたい」というインサイトからは、食の多様性に対応した動物性食材不使用のグリーンバーガーの提供を実現している。

2020年、2021年と2年続けて実施したこれらの取り組みから、「インサイトを正確に捉えることが共感につながり、ブランドイメージの向上につながる」という大きなヒントを得られたと安藤氏は語る。この流れを受けて、新中期経営計画が始動した2022年度は「Green&Smart」というテーマのもとで会社全体の方向とマーケティング本部が向く方向を一致させ、「売上平準化」「プロモーション最適化」「ダイレクトマーケティング」といった施策に取り組む考えだという。

図:エシカル消費

(資料:(株)モスフードサービス提供)

まず売り上げの平準化について。モスバーガーは昼の時間帯が売り上げの中心であり、それ以外の時間にはまだ伸びしろがあると考えており、ランチタイムだけでなく朝や午後のティータイム、夜のディナータイムへの来店も促進する施策を考えている。あるいは、特定の時期だけに売れる商品を他の時期にも売る、といったアイデアもあるとのことだ。

これに加え安藤氏は「デジタルを活用したプロモーション最適化やダイレクトマーケティングにも力を入れれば、さらに“共感を呼ぶ”ブランドへと成長できるのではないか」と、今後に向けた期待感を寄せている。

ブランド・ジャパン活用事例

安藤 芳徳(あんどう・よしのり) 氏

株式会社 モスフードサービス 上席執行役員
マーケティング本部長
安藤 芳徳(あんどう・よしのり) 氏

2019年商品開発本部とブランド戦略室が統合されたマーケティング本部を新設。プロダクトアウト主体からマーケットインのマーケティング手法へ転換し、定番商品の革新・強化や、お持ち帰り需要を見据えた喫食時品質の向上などを推進、商品企画段階からマーケティングまで全体を統括している。また、SDGsへの取り組みを示すシンボリックな商品「グリーンバーガー」、エシカル消費の食材を使用した「真鯛カツ」、話題となった物販商品の食パンなど、新ライフスタイル提案型の商品にも次々着手している。

※肩書きは記事公開時点のものです。

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