ブランド・ジャパン活用事例
自社の存在意義を問い直しリブランディングを図る
2021.03.15
ブランディング > 事例紹介/ホワイトペーパー
株式会社東芝
コーポレートコミュニケーション部
ブランド推進室 室長
佐々木 智子氏
ブランド推進室 参事
和田 直子氏
聞き手・文=石原 和仁
リブランディングにあわせて、2019年から連続してブランド・ジャパン(以下BJ)を活用していただいています。リブランディングのためにBJをどのように使われていますか。
コーポレートコミュニケーション部
ブランド推進室 室長
佐々木 智子氏
佐々木 実はBJが始まった当初からずっと参考にさせてもらっていたのですが、改めて 2019年から活用し始めたのは、2015年に起きた不正会計問題があったからです。
失った信頼を回復し、傷ついたブランドを立て直すために、2016年からリブランディングのプロジェクトがスタートしました。その後、原子力事業の減損などもあり、会社の存続が危ぶまれ、メディカルや家電事業等も売却、事業ポートフォリオが大きく変わるなど、変化の真っ只中でのプロジェクトでした。その中で、東芝グループが力を結集して将来に向けて成長していくために、拠り所となるものとして、理念の見直しを始めたのです。
私自身は当時、風土変革を担当していたのですが、理念をどのように社員に共有していくかという観点からプロジェクトに加わることになりました。
自社調査でも当社のイメージが大きなダメージを受けていることは分かっていましたが、それを客観的に評価し、変化を確認したいということで、BJを活用させてもらいました。
プロジェクトが始まる際、他のブランド調査なども比較されましたか。
佐々木 BJは国内をターゲットにしていますので、グローバルとの比較はできません。そこで、自社でも国内外を対象とした独自の調査を行いましたが、やはり比較対象ブランドの数には限界があります。その点、BJは客観性が高く、比較対象の数が多いのが魅力でした。
BJは結果の紐解きにコツがいる面もありますが、調査・分析手法や考え方が公開されており、透明性が高いことも選んだ理由です。我々ユーザとしては結果に対して、なぜそうなったのか納得できるまで知りたい。知らないと次のアクションにつなげられないからです。
リブランディングは簡単ではないと思いますが、どのように進められたのですか。
佐々木 これまで東芝は、総合電機メーカーとして145年以上の歴史を持ち、高い技術力で社会に貢献してきたという誇りや自負を、多くの社員が持っていたと思います。そのような共通のメンタリティの中、経営理念はいわば暗黙知のようなものになっており、正直なところ、積極的に全社に浸透させるといったことはやってきませんでした。ある意味、それでうまく回ってきたのかもしれないし、何かをはき違えていたのかもしれません。
リブランディングを進める中で、核となったのが理念体系の再構築と共有です。今回、理念の定着を図れなかったらもう終わりだという危機感があり、経営幹部からスタートしてワークショップを何度も開きました。その中で、ある役員が「長い会社生活の中で、こうして理念をじっくり話し合ったのは初めてだ」とつぶやいたのがとても印象に残っています。
コーポレートコミュニケーション部
ブランド推進室 参事
和田 直子氏
和田 私はリブランディングプロジェクトの事務局をしていました。若手メンバーが集結して、何度も議論し、経営層からのフィードバックなども経て、理念を作り上げていきました。理念は制定したら終わりなのではなく、定着こそが重要です。根気よく浸透を図っていきたいと考えています。
理念の見直しはどのようにされましたか。
佐々木 自分たちは「何のために存在し、何を目指していくのか」といった、根本的な存在意義(パーパス)を問い直すプロセスを大事にしました。今回新たにつくった「私たちの存在意義」の「新しい未来を始動させる。」という言葉には、「現在の延長線ではなく、東芝が関わることで、世界をよりよい場所にしていく」という強い想いをこめています。また、1990年からスローガンとして使ってきた「人と、地球の、明日のために。」を東芝グループの変わらない信念として、経営理念に掲げました。この言葉には、多くの人が愛着をもっており、30年以上前からサステナブルな視点に基づいていることにあらためて驚きました。
さらに、大切にする価値観として、「誠実であり続ける」「変革への情熱を抱く」「未来を思い描く」「ともに生み出す」の4つを定め、「東芝グループ理念体系」として明文化しました。私たちのありたい姿は明確になりましたが、まだまだステークホルダーのイメージとはギャップがあります。それをBJで確認したかったのです。
先日、お話を伺ったソニーも「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを設定して浸透を図っています。ミッションよりパーパスの方が社会への貢献という要素が加わり、社員が一枚岩になりやすいと考えています。新たに導入された理念とステークホルダーとのイメージギャップは何でしょうか。
佐々木 当社はもともと「安心」「親和力」「信頼性」「技術力」という要素は強いのですが、「先見性」「活力」「変革」といった要素が弱い。簡単にはギャップは埋まらないと思いますが、今後、どのように埋めていくかが私たちの課題です。
BJのビジネス・パーソン編を年齢別に分析すると40代後半から60代にかけては認知度が高いですが、20~30代の中には、東芝のことをよく知らないという人たちもいます。こうした人たちに対して、社会の課題を解決するポテンシャルを持った会社であることを分かってもらいたいと願っています。
親和力と活力の両方で高く評価されているのはトヨタやサントリーなど限られたブランドで、なかなか両立しにくい要素ですからね。ところで、理念の社内への浸透はどのように図っていますか。
佐々木 理念の共有をどのように行っていくかを議論する中で、腹落ちする時間が必要だという意見が多く、先ほどお話ししたワークショップを始めました。経営幹部を対象としたワークショップでは、まず新しくできた理念に対して、想いを吐き出してもらいました。賛否いろいろ出てきますが、敢えて反論せず、「それでは仕事で大切にしている価値観は何ですか」と聞くと、様々な意見が出るものの、「私たちの価値観」のどれかに当てはまるのです。従業員の声を集約して作ったのだから当たり前なのですが、こうして、ていねいに時間をかけることで、理念に対する共感が高まっていくと考えています。
ワークショップを主催していると、毎日の業務に追われている参加者が、未来志向の「遠い目」をするようになるなと感じます。自分が経験してきたことを振り返って、悔しかったこと、仲間と達成したこと、その時に何が支えになったかなどを考えるうちに、同じような経験をこれからの若手にもさせてあげたいと言うのです。俯瞰的な時間軸の中でそんな想いが出てくるのでしょう。こういう人たちがいる会社でよかったと思いました。
やはりインターナルコミュニケーションは大切ですし、いったん立ち止まって何が大切なのかを考える時間は必要ですね。
佐々木 7月1日が当社の創立記念日なのですが、2019年からその日を「東芝グループ理念の日」として、グループ全体で理念に向き合い、大切に引き継いでいくための活動を行っています。2020年は残念ながら新型コロナの影響でリアルでの活動は制限されてしまいましたが、新たな日常「New Normal」の時代においても、世界各地で変わらず社会を支え続ける東芝グループの従業員にフィーチャーしたビデオを作って配信しました。
また、東芝ブランドを現場で育む仲間たちの想いや大切にしている価値観をストーリーで紹介するシリーズとして、これまでグローバルで40人以上の役員や従業員を対象にインタビューを行ってきました。昨年は理念の日の企画として、社長への突撃インタビュー、というスタイルで動画を含めたストーリーを紹介し、大変好評でした。
海外の社員への浸透はどのように図っているのですか。
和田 海外でもワークショップを開催するなど、国内と同じエネルギーをかけて展開しました。海外では理念に対する反応は早いしビビッドです。「このパーパスはいいね」と、いろいろな機会に言ってくれたり、社内発信時には必ず価値観に言及するなど、グローバルスタンダードなのだと思いました。
理念は全部英語バージョンがあるのですが、英語は英語として、海外の従業員と共に考えたものであり、日本語の理念の直訳ではありません。そのため、むしろ英語の方が分かりやすい、しっくりくるという人もいます。例えば「変革への情熱を抱く」は「Look for a better way」で、英語ならではの深い意味があります。
佐々木 私たちのありたい姿である、経営理念や存在意義、価値観は、一方的に主張するものではなく、その姿に近づいているのかを客観的に判断して、従業員を含めてステークホルダーに共感してもらわないといけません。その検証にBJが役立つと思っています。内に閉じこもっていると目が曇ります。やはり外部の目が大切で、BJはその水先案内人になっています。
ブランド・ジャパン活用事例
- 1)ブランド統一の成否、注視したのはBJでした
- 2)お客様からの評価を正直に伝えてくれる調査
- 3)一瞬にして失ったお客様との接点。本気でブランドに取り組みました
- 4)客観的なブランド価値を測る指標がほしかった
- 5)ブランド力の可視化に役立つ調査「3年で総合力100位以内目指す」
- 6)データドリブンの議論にブランド・ジャパンの調査は必須
- 7)コーポレート・ブランディングの本格的な開始を機にブランド・ジャパンを活用し始める
- 8)自社の存在意義を問い直しリブランディングを図る
- 9)「出発するホテル」としてリブランディング ブランド・ジャパンを評価指標に
- 10) サイボウズ、パーパスを原動力に“行動するブランド”として認知を高める
- 11) 東横INN、持続的成長に向け、創業以来初のリブランディングに着手
株式会社東芝
コーポレートコミュニケーション部
ブランド推進室 室長
佐々木 智子氏
株式会社東芝に入社以来、広告、広報などのコミュニケーション、CSR、環境などを担当。2015年から経営刷新推進部で風土変革、2018年からリブランディングを担当し、現在は、ブランドコミュニケーションの責任者を務める。
※肩書きは記事公開時点のものです。
株式会社東芝
コーポレートコミュニケーション部
ブランド推進室 参事
和田 直子氏
株式会社東芝にて、知的財産業務などを担当。主に商標管理の面からブランド業務に携わり、リブランディングプロジェクトの事務局を経て、ブランドコミュニケーション業務に従事。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント
石原 和仁
大学ではバイオテクノロジーを専攻。卒業後は、飲料メーカー、リサーチ会社、マーケティング会社を経て、日経BPコンサルティングに入社。2015年より日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」のプロジェクトマネージャーを担当。様々な企業のブランディング業務(調査、体系づくり、PDCA設計、ブランドメッセージ制作など)に従事。
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