マーケティングカオスから抜け出せ 第5回
営業担当者が動きたくなるデジマ戦術
今回は、刈り取るための戦術、営業担当者が自発的に動きたくなる戦術についてまとめます。
この記事のポイント
Point1 リードナーチャリングとは、リードの状態情報をデータベースに追加していくこと
Point2 必要とされるリードの状態情報はBANTやSCOTSMAN
Point3 営業担当者が欲しいBANTやSCOTSMAN情報を取得できればベスト
ジャーニーマップでお客様の購買ステータスを整理でき、戦略に沿ったコンテンツを配置したWebサイトを構築していたら、刈り取りのために営業担当者の動きを待つだけです。Webサイトの情報構造に合致したターゲットの引き込み策を講じ、ショートトリップ・ルートが整備されており、マーケティングシナリオができているからです。営業担当者に動いてもらうためには、動きたくなるようなリード情報を提供するのが一番です。昼食をおごったり、一杯誘ったりするよりももっと効きます。
リアル営業につなげるリード情報
リードをナーチャリングして、デマンドジェンする。こういう言葉を耳にすることも多いと思います。Webサイトに呼び込んだターゲットの、購買ステータスに関わるリード情報を取得して、営業につなぎ込むことを意味しています。購買ステータスに関わる情報こそがリード情報で、より有意義なリード情報をつかむことが、リードナーチャリングです。
名刺情報や、読み物コンテンツの閲読回数、サイトへの来訪回数も大切ですが、よくKPIといわれるこれらの情報だけでリードが自社商材の営業対象になるのかどうかは判別できません。
営業につなげるために必要なリード情報として、まず必要なのが名刺情報であることは言うまでもありません。連絡をつけられなくてはそもそも営業活動を開始できません。しかし、それだけではありません。購買ステータスが推測できる状態情報、すなわちBANT情報とSCOTSMAN情報があることが望ましいでしょう。
名刺情報は連絡をつけるために必要です。名刺情報は多くの場合、ハウスリストとしてストックされているでしょう。展示会やイベント、情報収集のための問い合わせなどを通して、リードの氏名、企業名、部署、連絡先としてのメールアドレスや電話番号などが整理されていると思います。
しかし名刺情報だけでは、営業担当者はなかなか動いてくれないのが実情です。具体的で現実的な目標数字を設定されている営業担当者は、連絡先だけでは動きたくないのが本音です。既存客も抱えていて時間がないなか、訪問の優先順位をつけるべき情報もない、訪問したとして、どこから話のきっかけを見つければいいのかも分からなければ困ってしまいます。優秀な営業担当者ほど、時間を割く価値を認めてくれません。
リードの状態情報をつかむためにはまず、サイト内に用意すべき、必要な機能・コンテンツを検討しましょう。Webサイトの入り口から読み物や機能などのコンテンツへどう導くのか、リアルの営業現場に引き渡すことを強く意識しながら動線も検討しましょう。前回のコラムで紹介したデジタル接客術の極意、「ショートトリップ・ルート」です。
もう一度書きますが、ショートトリップ・ルートとは、購買ニーズがまだ潜在的なリードを自社サイトまたはオウンドメディアに呼び込むところから、ニーズを顕在化させ、購買の検討と決定、営業へのつなぎ込みまでと仮定しています。MAツールにおけるシナリオに近いと感じるかもしれませんが、サイト来訪前から視野に入れ、LP(=Landing Page)以外の複数の入り口を想定する点と、閲覧順序を強いることがないように考える点が違います。
忙しい営業担当者でも動かざるを得ない状態をつくるために
リアル営業につなげるために必要なリード情報は、先に示したBANTやSCOTSMANといった、課題の有無や検討段階、予算の有無などの「状態情報」です。それぞれの具体的な内容は下記の表をご参照ください。
営業担当者が動きたくなる状態情報の例
■ BANT情報
- B = Budget(予算)
- A = Authority(決済権限)
- N = Need(必要性の強さ)
- T = Timeframe(購入のタイミング)
■ SCOTSMAN情報
- S = Situation(立場)
- C = Competitors(競合)
- O = Opportunity(機会)
- T = Timeframe (購入のタイミング)
- S = Size(企業規模、導入・購入規模)
- M = Money(予算)
- A = Authority (決済権限)
- N = Need (必要性の強さ)
状態情報を取得するためには、ターゲットの閲覧履歴をアクセスログで追跡しましょう。ただしページ単位でログを追っても、だれがどこを見たのかは分かりません。cookieを発行して、ブラウザ単位、個人単位で履歴を追跡します。
こんな情報を閲覧した、このコンテンツページには長い時間滞在した、このコンテンツページは同じドメインの異なるCookieが来訪した、といった閲覧履歴から関心の度合い、つまりニーズの強さ(=Need)や、導入時期、購入のタイミング(=Timeframe)を推測できます。
閲覧した商材の種別が分かれば予算感(=Budget、Money)を推測できますし、同一ドメインからの来訪のタイミングを整理すれば、導入・購入商材を探している立場なのか、検討する立場なのかなどの権限(=Authority、Situation)を推し量ることもできます。
予算がいくらくらい用意されていて、購買権限の有無が分かって、ニーズの強さが分かり、購入希望時期が分かったら動かない営業担当者はいません。とは言うものの、BANTのすべてをデジタル戦術で取得することは難しいでしょう。ある程度の情報を取得し、特に対面でも聞き出すことが難しい予算や権限などの情報は、導入シミュレーションや導入事例の閲読傾向などから推測するにとどめざるを得ないことがほとんどです。
ホワイトペーパーや機能コンテンツは、初回訪問の際に名刺情報を頂戴するツールとなります。役立つ情報を提供する代わりに、申し込みフォームを通して個人情報を頂くわけです。アクセスログでは取得しにくい情報のうち、あまり躊躇することなく提供してくれる属性を入力してもらいます。氏名、会社名、メールアドレスなどの名刺情報は入力してくれるでしょう。
コンテンツの閲覧に関わる行動の分析をもとにした状態情報以外にも、アンケートなどを用意して、欲しい事例を聞くという手法もあります。欲しい導入金額の規模から予算感を推測したり、欲しい内容として導入後のオペレーションの要不要などを聞けば、立場を推し量ったりすることもできます。
SAL(=Sales Accepted Lead)の条件、すなわち営業がリードを引き継いで、動きたくなる条件を営業側と詰めておく必要はありますが、有望なリードになりうる情報があればリアルの営業をかけやすくなります。すぐに動いてくれなくても、営業の隠し玉やハウスリストとしてすぐに使える情報が盛り込まれます。名刺情報と状態情報は同じデータベースにストックしておくことが望ましいといえます。
ただし、鮮度は問題です。いつ取得したリード情報なのかは明確にしておく必要があります。賞味期限は半年から1年以内だと思います。
どのように入手したかも大切
営業担当者に渡すべきリード情報で、意外に見落とされがちなのが、リード情報をどうやって入手したか、という情報です。ターゲットが明示的に提供してくれた展示会やイベントなどで記入したり、名刺をくれたりした情報や、Webサイトのフォームに書き込んでくれた情報であれば、入手時に示したプライバシーポリシーの範囲内でいくらでも利用できます。公開されている企業規模(売上高や従業員数など)も利用可能です。これらの情報は、営業相手に伝えてよい情報として明示しましょう。
しかしログ解析や行動履歴の推測から得られた暗示的な情報は、非公開情報です。情報は社内限りとし、絶対に社外へ知らせてはいけません。従来なら、営業担当者が何度も足を運んで少しずつ聞き出して蓄えてきた、虎の子の情報でもあります。BANTやSCOTSMANなどのいわゆる購買ステータスに関する情報は、営業担当者には渡すにしても、完全社外秘にする必要があります。
BANTやSCOTSMANはWebサイトの行動履歴だけからでは高い精度で入手できないにしても、ジャーニーマップで仮説を立てたうえでアクセスログを通して取得しておけば、営業担当者は訪問先での話題の振り方を考えることが容易になるでしょう。
ショートトリップ・ルートを実体験できるビジネスゲームがあります。株式会社Nexalが開発した「リードビジネスゲーム」という研修プログラムで、BtoBマーケティングの基礎知識を半日で体系的に学ぶことができます。限られた年間予算とスタッフで、デジタル、リアルの基本的なマーケティング戦術を使い、2年間でいかに多くの顕在化したリードを獲得できるかを競います。BtoBマーケティングの基本を確認しておきたい方、イベント、デジマ施策の標準的な効果を知っておきたい方にはお薦めです。
次回は連載最終回、コラムのネタ本の内容を大公開します。
(コンテンツコミュニケーション・ラボ)
連載:マーケティングカオスから抜け出せ
- 【1】 ブレのない戦略を描く切り札はジャーニーマップ
- 【2】 ジャーニーマップの第一歩はペルソナから
- 【3】 購買ステータスに合わせ、デジマのメーンルートに着眼
- 【4】 デジタル接客の極意、すべてのページをLPとみなせ
- 【5】 営業担当者が動きたくなるデジマ戦術
- 【6】 「ビジネスにつながるジャーニーマップ」内容を大公開