サステナビリティを意識した「新業態の喫茶店」が、ブランドを醸成させる
コメダが新業態「KOMEDA is □(コメダイズ)」を出店
店舗立ち上げ担当である同社事業開発部の上石安寿部長に、店舗のコンセプトなどを聞いた。
植物由来、プラントベース100%のメニューを提供
「KOMEDA is □(コメダイズ)」は、プラントベース(植物由来)100%の材料によるメニューを提供する新業態の喫茶店である。サステナブルとSDGsを意識したコンセプトで作り上げられており、今後のコメダのブランドパーセプションに影響を与えそうな試みとして注目される。
日経BPコンサルティングが年1回実施する日本最大規模のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン(BJ)」によれば、コメダの認知率は、北海道・東北を除くと、90%近く。
BJでは4つの指標によってブランドを評価しているが、その中でブランドの「卓越性」を示すスコアは年々上昇しており、BJ2018で1000ブランド中192位だったが、BJ2020では34位にまでランクを上げた。もはや名古屋出身のユニークな喫茶店という時代を過ぎ、ナショナルブランドとして定着したと言っていいだろう。
さらにBJではCSR評価も行っているが、「多くの人の生活や心を豊かにしている」という項目では約28%と、飲食店業界平均の2倍という高評価を得ている。
「KOMEDA is □(コメダイズ)」の店舗立ち上げ担当である同社事業開発部の上石安寿部長はこう語る。
「当社は2018年に創業50周年を迎えましたが、その年から『心にもっとくつろぎを』を推進してきました。そもそも、経営理念が『お客様にくつろぐ、いちばんいいところを提供します』なので、一貫してくつろぎを重視してきました」
「KOMEDA is □(コメダイズ)」の基本的なコンセプトは『地球とくつろぐ喫茶店』である。ハンバーガーのパテも食品メーカーとの共同開発による大豆ミートであり、食感は牛肉に近い工夫を施している。
「畜産は環境に負荷をかけるとともに、飼料や水などを大量に消費します。また、牛のげっぷから出るメタンガスがオゾン層の破壊にもつながる。それならば、牛肉ではなく、直接植物をベースにした料理にすることで、地球もホッと一息つけると思います」と上石氏。
最先端の店にも喫茶文化のDNAを
「KOMEDA is □(コメダイズ)」では卵や乳製品、蜂蜜も一切使っていない。バンズに塗るバターもマヨネーズも大豆製だ。
さらに、夜に提供されるコメダ初のワインやビールといったアルコール飲料も、醸造過程において動物由来の清澄剤を使っておらず、100%プラントベースである。
それは、ベジタリアンだけでなく、ビーガンにも対応したメニューになっているからだ。ベジタリアンが肉や魚を食べないのに加えて、ビーガンは乳製品類なども口にしない。
ただ、ビーガン対応のためにメニューを開発したわけではない。環境負荷を考えて動物性由来を一切無くし、100%植物由来メニューにした、その結果として、ビーガンの方も口にできるものになっている。
「KOMEDA is □ 東銀座店」店内
「コメダイズ」が「米・大豆」とも読め、店名に遊び心もあるこの「KOMEDA is □(コメダイズ)」。店舗開発は50周年を迎えた2018年から始まった。
「また、欧米中心に進むビーガン、ベジタリアンなど新たな食習慣の流れをつかみたいという狙いもありました。発端は臼井(興胤)社長の強い思いからです」
とはいえ、意識が一歩先行くアーリーアダプター的な顧客層をターゲットとしているわけではない。店舗には「PLANT BASED KISSA(プラントベースド喫茶)」とあり、コメダの喫茶店文化が漂う。
「まさに喫茶店文化が我々のDNAであり、ターゲットを絞っているわけではありません。立地上、ビジネスパーソンを想定し、20~40代の女性が多いと予測していましたが、どなたでもお迎えするのが当社のDNAです」と上石氏。同社コーポレートコミュニケーション室の中島絵里子氏もこう語る。
「来店されるお客様の8割は特別な嗜好をお持ちでない普通の方々です。ただ、コメダ珈琲店とは違う客層もいらっしゃいます」
上石氏によれば、来店客はコメダ珈琲店のファンと、今まで利用したことがなかった客層が半々だという。コメダのブランドイメージに新しい風が吹き込んでいるのは確かだろう。ただし、守るべき伝統はしっかりと守っている。
その1つが味とサイズだ。メニュー開発では著名な料理家であるべっぴんプラス代表の廣瀬ちえ氏の協力を得て、おいしさにこだわった。
「我々も様々なプラントベースの料理を調査、試食しましたが、一般的には味が薄くぼやけている印象です。そこで、メリハリのある味を出すのに苦労しました。一番の人気メニューは『べっぴんバーガー アボ照り』というアボカドをのせた照り焼きソースのバーガーですが、大豆ミートのパテは肉の食感が出るまでメーカーと試行錯誤を繰り返しました。通常の大豆ミートはボロボロと崩れやすいのですが、アボ照りのパテはしっかりとした食感で味にもメリハリがあります。また大豆の加工品は青臭さが残るのが問題ですが、その臭いもうまく消しました」と上石氏は誇らしげに語る。
コメダは顧客を刺激し続けるブランド
コメダのメニューはサイズが大きいことが売りになっているが、「KOMEDA is □(コメダイズ)」でも女性客が多いことが想定されていたにもかかわらず、同じサイズを維持した。
「コメダファンの皆さんの期待に応えられるようにコメダサイズを守りました。もちろん、切り分けてお出しすることもできます」と中島氏は語る。
顧客の評判も上々で、ベジタリアンに強く支持されているのはもちろんのこと、それ以外の来店客からも「想像していたより100倍おいしい」「名古屋にも作ってほしい」との声が寄せられている。また、社内では評価する声がある一方、「店舗は未完成なので、もっと磨いていくべき」という励ましが大勢を占めている。
コメダ珈琲店では今年9月1日から「コメ牛」という牛カルビ入りのハンバーガーを売り出した。牛肉量が「並」「肉だく」「肉だくだく」と3種類ある。肉だくは並の2倍、肉だくだくは3倍で330gもある。その肉量に狂喜するのが、コメダファンでもある。
「KOMEDA is □(コメダイズ)のコンセプトを練っている間、お肉大好きのコメダが正反対のブランドを出すのはいかがなものかという社内の反発もありました。コメダの名前を使うべきではないという意見もありました。しかし、我々の合い言葉は『お肉を休む日を、つくろう。』です。肉だくだくを食べたら、次の日はアボ照りで一休み。人間ですから矛盾は当たり前で、コメダの商売にも両方あっていいはずだと確信していました」と上石氏は力強く断言した。
こうした姿勢や手法がコメダブランドの卓越性を押し上げる原因だろう。肉だくだくは顧客に衝撃を与え、SNSでは「写真よりも実際の方がすごい」「相変わらずの写真詐欺(逆の意味で)」と、ファンにサプライズを与え喜ばせている。その一方で、「KOMEDA is □(コメダイズ)」のようなサステナブルの新業態を出し、顧客に驚きを与える。ウィズコロナ時代になっても、顧客に刺激を与え続けられるブランド、また、企業の新しい「顔」を見せる、いわばブランドパーセプション・チェンジに積極的に取り組んでいるブランドが、記憶に残るブランドとして、ますます評価されるようになるだろう。
「KOMEDA is □(コメダイズ)」の今後の展開としては「まずは足元を固め、コメダブランドを引っ張る店にしたい」と上石氏。上石氏は「臼井社長に『コメダの切り込み隊長として進めてくれ』と言われました」という。今後もコメダは切り込み隊として喫茶店という文化に新たな風を吹き込み続けるだろう。
ブランド本部 本部長 兼 ブランドコミュニケーション部長
兼 大学ブランド・デザインセンター長
兼 周年事業・デザインセンター長
吉田 健一
IT企業を経て、日経BP社に入社。日経BPコンサルティングに出向後、2001年より始まった日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」ではプロジェクト初期から携わり、2004年からプロジェクト・マネージャー。2020年から現職。企業や大学のブランディングに関わるコンサルティング業務に従事する傍ら、各種メディアへの記事執筆、セミナー講師などを務める。著書に「リアル企業ブランド論」「リアル大学ブランドデザイン論」(共に弊社刊)がある。