マーケティングカオスから抜け出せ 第4回

デジタル接客の極意、すべてのページをLPと見なすことが大切

ターゲットを招き入れたWebサイトの展開方法が第4の段階です。BtoBマーケティングのためのジャーニーマップ作りの非常に重要な段階と言えます。これまでマーケティングカオスから脱却するためのジャーニーマップの役割ペルソナ・クリエーションメインルートと購買ステータス別のチャネルについて書いてきました。今回は、デジマ担当者が最も気になる、ターゲット別に購買に結びつけるWebサイトの構成についてまとめます。前回も書いた集客→接客→送客の動線、このルートを「ショートトリップ・ルート」と呼びます。

この記事のポイント

Point1 サイト来訪前も視野に入れ、広告LP以外の複数の入り口も想定する

Point2 閲覧を制限せずに、必要なとき、知りたい情報の選択肢を提供する

Point3 トンマナの統一にとどまらず、メッセージマネジメントにも配慮する

Webサイト内に用意すべき機能やコンテンツに、サイトの入り口からどう導くのか、リアルの営業現場に引き渡すことを強く意識しながら動線を検討します。前回も書きましたが、集客→接客→送客のメインルートであるこの動線を、私はショートトリップ・ルートと呼んでいます。ジャーニーマップをマーケティング業務に生かすうえで、最も身近なところです。

【ショートトリップのイメージ】

ショートトリップ・ルートは、図に示したような動線です。購買ニーズがまだ潜在的なリードを自社サイトまたはオウンドメディアに呼び込むところから始まり、ニーズを顕在化させ、購買の検討と決定、営業につなげるためのリード情報の入力フォームまでとします。MAツールにおけるシナリオに近いと感じるかもしれませんが、サイト来訪前からを視野に入れ、広告から引き込むLP(=Landing Page)以外の複数の入り口も想定する点と、ターゲットと見なしているビジターに閲覧順序を強いることがないことを前提とする点が違います。

ターゲットビジターに対して、購買検討やコンテンツ閲覧の経路を強いることはしません。逆に、ターゲットの行動に寄り添うように情報提供していくルートを考えます。想像力が求められる設計だと思います。

秘策は「制限より選択」

こういった考え方で作成したジャーニーマップがあれば、Webサイトに来る前のタッチポイントを整理して、リードはすでにどんな情報を入手しているかを把握したうえでコンテンツやリンクを用意することが容易になるでしょう。

注意すべきは謙虚になること。情報の閲覧順序を限定して強いるのではなく、ターゲットの要望に合わせ、行動に寄り添って、いつでも必要なルートを選べるようにしておくことが大切だからです。

このルートしかない、ここでしか見られないという「制限」ではなく「選択」です。いつでも必要なとき、知りたいときに、欲しい情報を選べるように、選択肢を提供するわけです。具体的には必要とされるリンクを用意しておくことです。

例えばニュースリリースを基に書かれた業界などのニュースや外部サイトの記事を出発点とすると、入り口となるページはリリースコンテンツとは限りません。そして欲しい情報はリリースの先に置かれた、商材の情報です。

入り口は、ニュースサイトや情報サイトに張ってあるリンクや、検索エンジンでヒットしたページになります。関連するニュースサイトや技術サイトなどを閲覧した場合、そこに書かれた内容から検索キーワードを選んで来訪するかもしれません。もしかすると企業名を入力し、企業サイトトップページから入るかもしれません。商材名やブランド名を入力して該当する商材ページにいきなり到達するかもしれません。

その際にビジターが知りたいのはニュースリリースと同じ情報ではありません。購入に当たって必要とする情報です。

商材の詳細だけでなく、課題解決事例、導入事例、商材が誕生した背景、企業としての信用度合など、知りたい情報はさまざまです。取引先選定のため、ESGへの取り組みなどが知りたい情報に入るかもしれません。

しかしWebサイトを訪問したとき、ニュースリリースと同じ情報しか掲載されていなかったり、売り文句ばかりのLPしかなくて、求める情報を探しにくかったりすると、ビジターはがっかりするでしょう。ニュースリリースを目にしていないビジターもいるかもしれないので、ニュースリリースと同等の情報を掲載することは必要ですが、それだけで終わらないようにします。

閲覧したい情報をそろえ、いつでも閲覧できるように、必要と思われるコンテンツを用意し、それらのコンテンツに容易にたどり着けるリンクを設定しておくことがポイントです。特定のページでしか閲覧できないような制限を与えるのではなく、該当コンテンツでは必要な情報をいつでも選択できるようにしておくわけです。具体的には、求められそうなショートトリップ・ルートの案内板を、サブメニューとしてコンテンツページに用意すればいいでしょう。

MAツールでも複数のシナリオ設定はできますが、導線は限定されます。売る気満々の導線よりも、関連するコンテンツページに来訪させた後、ターゲットリードが必要とする情報を、必要とするタイミングで選べるように準備しておくことが大切だと思います。

だから始めにペルソナを設定し、ジャーニーマップを作成するのです。マーケッターの本来の業務は、商材をより売りやすくすること、購買の確率を上げることです。毎回毎回戦略を確認し、想像力を働かせていては、戦術の展開に差し障りが出るかもしれません。

ニュースリリースと同じじゃないか、こんな情報しか提供してくれないのか、と思わせないようなコンテンツページを設計するためにも、ジャーニーマップで戦略をまとめておくことは欠かせません。

メッセージマネジメント時代の到来

戦略に合致したコンテンツページを作るときは、「メッセージマネジメント」の考え方も意識してください。先行してカスタマーエクスペリエンス(=CX、顧客体験)の最適化に取り組んでいる米国では、「メッセージマネジメント」という考え方が広まっています。

企業と顧客の接点は非常に多岐にわたります。CXを考えることは、Webサイトにおいてトンマナを統一することや、イメージをそろえることにとどまっているWebサイトも多数あります。これらの統一は、すでに常識となっていますが、メッセージにも配慮が必要です。すべての接点で、顧客に与える企業イメージ、メッセージを統一しよう、という考え方を忘れてはなりません。潜在リードからカスタマーまでを見通したジャーニーマップを作っておけば、一貫したマーケティング施策を打てますから、メッセージも統一しやすくなります。全社的なCRM(Customer Relationship Management)の導入なども、メッセージマネジメントを助ける基盤となります。

マーケティングや営業チームだけではなく、最終的な購買処理を行う受注管理や、運用フェーズでのサポート窓口を含め、企業が一丸となって統一されたメッセージでよい体験を提供していく。マーケティングの業務領域は全社横断的に考える必要が高まってきたとも言えます。

全社横断的なマーケティングの流れの中で、一部の企業ではCMO(Chief Marketing Officer)が企業としてのメッセージを統括して管理する動きも出てきています。近い将来、日本でもCMOの存在、また全社的なメッセージマネジメントもマーケティング部門の重要な役割と認識される時代がやってくるとも言われています。

次回は営業につなげるために必要なリードの情報についてまとめます。

(コンテンツコミュニケーション・ラボ)

連載:マーケティングカオスから抜け出せ

このコラムは、
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「BtoBマーケティングの最適解 ビジネスにつながるジャーニーマップ」
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