マーケティングカオスから抜け出せ 第一回

ブレのない戦略を描く切り札はジャーニーマップ

2020.06.29

コンテンツマーケティング

ブレのない戦略を描く切り札はジャーニーマップ

「戦略のない戦術はカオス、戦術に欠けた戦略はファンタジー」

かつて鋭い観察眼を持つ同僚から聞いたこの言葉は、ツールの活用やKPIの達成にばかり腐心しがちなデジタルマーケティングの悩みの相談を受けたとき、頭に浮かびます。ツールの使い方にへきえきしたり、KPIの達成に目が向いてしまい無駄な尽力をしたり、へたをすると「空回り」に陥るような動きを取ってしまうことがあるからです。これを戒める助言として、カオスとファンタジーの例えを使っています。

もちろん戦略に凝りすぎて、空論を展開するばかりでは身も蓋もありません。しかし戦術に振り回されて、カオス、つまり混沌とした大混乱の現場に陥ってはもっと困ります。カオスから抜け出し、ビジネスに役立つデジタルマーケティングを進めるためにぜひ活用したいのが「ジャーニーマップ」です。潜在的なリードから顧客に至る購買行動、そして何度も購入してくれるリピーターまでの流れを描き、顧客のライフタイムバリューも意識できる図です。BtoCではカスタマー・ジャーニーマップと呼びますが、BtoBではバイヤーズ・ジャーニーの呼称のほうがピンと来るかもしれません。

このコラムではBtoBのデジタルマーケティングの推進、つまり企業が商品・サービスを購入する際の意思決定プロセスを押さえたデジタルマーケティング策を的確に企画し、ブレなく進めるための戦略作りという観点で、ジャーニーマップの作り方についてまとめていきます。

この記事のポイント

Point1 リアルもデジタルも合わせて考え、情報発信を設計していくための戦略を練る

Point2 購入を促したいターゲットは、社内でその購入責任を持つことも意識する

Point3 ジャーニーマップを作る際は4つの段階で考える

そもそもジャーニーマップとは何か

ジャーニーマップとは、潜在的なターゲットを自社や自社商材の購買に導き、ファンにするためにたどるべき道筋を描くものです。リアル戦術もデジタル戦術も合わせて考え、情報発信を設計していくための戦略と言っていいでしょう。ターゲットを一個人としてとらえ、将来的にお客様候補になりうる潜在的な購買層の段階から、潜在需要を掘り起こし、検討や購買のためにふさわしい情報を、ふさわしいタイミングで届けるための情報発信を設計する流れを可視化する。これを「ジャーニーマップ」と呼びます。

しかしデジタルマーケティング(=デジマ)においてジャーニーマップはしばしば、マーケティングオートメーションツール(=MAツール)などで使うシナリオと勘違いされることも少なくありません。

シナリオももちろんジャーニーマップの一部分です。しかし、シナリオは自社のデジマを活用するためのWebサイトにおける戦術を中心に考えた、部分的なものです。お客様およびお客様候補であるターゲットリードを、Webサイトの「ユーザー」としてだけとらえたものとも言えます。

デジマを展開するうえでは、マーケティングシナリオの設計も非常に大切です。しかしシナリオだけを気にしていると目先のページビューやクリック率ばかり追いがちで、へたをすると本質を見失い、戦術にこだわることになりかねません。デジマに携わる人は、Webまわりの戦術に関する権限は持っていても、それ以外は手を出せないことが多いため致し方ないのかもしれません。

BtoBのデジマは、Webサイトをコアにして推進することが多いので、このコラムでもWebサイトを活用することを前提とします。
では早速ジャーニーマップの作成事例を見てみましょう。

購買ステータスごとの接点と提供する情報を設計

【ジャーニーマップの記入例】

図はジャーニーマップの例です。新しいサーバーを売り込むキャンペーンを展開するという仮定で作成しています(ジャーニーマップの記入例はダウンロードすることができます)。

縦軸にリードや顧客との接点、横軸に購買ステータスを取ります。
接点はデジタル接点となる自社のWebサイトを中心に、自社サイトへの誘導戦術や誘導に関わるデジタル戦術やリアルの接点を書き並べます。

初めて自社を知ってもらう接点としては展示会や雑誌広告があります。興味を持ってくれた後に調べを進め、購買検討に必要な情報を集めるためのパンフレットや情報サイト、競合のサイトや自社の商材スペック、事例紹介などのコンテンツ、キャンペーンサイト、オウンドメディアなども接点です。もちろん購買相手として認めてもらうため、信頼性を担保する意味で、企業情報も重要です。

忘れてならないのは、クロージングに向けて自社の営業担当者が電話をかけたり、対面で説明するためのリアル接点の用意です。ジャーニーマップのみほんで例にあげたサーバーなら、エンジニアやサポート窓口も書き込むがそれにあたります。デジタル接点だけでなく、リアルの接点を明確に意識することは非常に重要です。

よこ軸の購買ステータスは、自社商材を購入することでビジネス上の課題を解決したいリードの検討~活用の状況を大きく5つくらいのStepに分割し、購買行動に関わる人物を書き込みます。

Stepは

  • Step1 認知~自社サイトへのランディング
  • Step2 検討~問い合わせの実施
  • Step3 商談開始~契約決定
  • Step4 導入~運営・活用
  • Step5 契約更改

に分け、Stepごとにさらに細かく、購買に関わる人物を書き込みます。

購買に関わる人物は、商材の購入を提案する立場、探索する立場の人も含みます。登場する際の購買ステータスは異なりますが、だれに向けてマーケティング策を施すのかを明確にするために、ステータスごとに明記しましょう。自社商材が購入候補となったときに、どれを選ぶのかを比較検討する立場、購入すべきかどうかの検討に参加する立場、検討結果を審議する立場、決定権を持つ立場の人々をピックアップします。

この横軸に沿って、縦軸に設定した接点で、どんなタイミングで、どんな購買ステータスの人に、どんな情報を提供していくのか、どんな接触を図るのかを設計していきます。

マーケティング施策だけに終わらないジャーニーを想定する

マーケティング施策を練る際に使うのは主にStep1~Step2の部分です。その先は作らなくても大丈夫だと思うかもしれません。マーケティング施策を練るうえでは不要なように思えます。しかしそれは間違いです。

Step3やStep4まで用意するのは、購入する人が購入責任も持つことを意識しておくためです。会社のお金を使って何かを買おうとするとき、特にBtoB商材は安くないものが多いので、稟議申請しなければならないケースもあります。リードが躊躇せずに購買できるように、購入、導入してどんな良いことが起きるのかを顧客の立場で考えたいものです。

リードや顧客がどんな課題をかかえ、どんな行動を起こすかを想像したり、営業の担当者に聞きこんだり、場合によっては実際にお客様にヒアリングしたりして書き込んでいきます。

商材そのものの価値を訴求するコンテンツを作成する場合や、ライフタイムバリューも考える場合には、商材を活用する姿や契約を更新するシーンも意識したいので、Step5まで用意した方が良いでしょう。

完全な横軸を作ることは難しいので、ジャーニーマップを作りながら書き足して行ってもいいでしょう。

ペルソナ→購買ステータス→シナリオ→ショートトリップの流れ

ジャーニーマップを作る際の流れは4つの段階に分かれます。ペルソナの構築、購買ステータスの仮定、シナリオの設定、「ショートトリップルートルート」の検討という4つです。ショートトリップルートルートについては後述します。
まずはターゲットを「見える化」すること。ペルソナと呼ばれる人格を作り、どんな人に向かって話しかけていくのかを明確にすることが最初の段階です。

そして第2段階として、その人格の購買ステータスの整理を行います。将来的なマーケティングリードとなりうる対象者の市場で、ユニバースという言葉を使うこともあります。

3段階目ではユニバースにおける自社との接点、つまりタッチポイントを洗い出します。タッチポイントは初めて自社を知ってもらうポイントから、自社や商材について深く理解してもらう接点までを整理します。もちろんタッチポイントごとにどのようなルートをたどって、接点を持ちたいのかの戦術検討も含みます。いわゆるシナリオがこれに当たります。

タッチポイントから引き込んだWebサイトでの展開方法の検討が第4の、最終段階です。サイト内に用意すべき、必要な機能・コンテンツを検討します。Webサイトの入口から読み物や機能などのコンテンツへどう導くのか、リアルの営業現場に引き渡すことを強く意識しながら導線を検討します。私はこれを「ショートトリップルート」と呼んでいます。

これらの4つの段階の流れについて、次回以降、少し詳しく見ていきましょう。
(コンテンツコミュニケーション・ラボ)

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