グローバル・リーダー育成の“今”

SDGsネイティブはこうして生まれる

  • 松﨑 祥悟

    サステナビリティ本部 コンサルタント 松﨑 祥悟

東京都千代田区にある武蔵野大学附属千代田高等学院は、学校教育にSDGs(Sustainable Development Goals)を取り込んだことで注目されている。国連グローバル・コンパクトに参加し、国際バカロレア校にも認定されたことで、生徒主体による多彩なSDGs関連の活動を展開。成果として生徒会を中心とした自発的活動が活性化し、他校や企業など外部組織を巻き込んだ動きにも発展している。同校がSDGsを導入した背景と成果、今後の展望について、荒木貴之校長にお話を伺った。 聞き手=松﨑祥悟/文=斉藤俊明

>関連記事:生徒会長・菊池 隆聖さんのお話はこちら


創立の理念のままに取り組めるSDGs

はじめに、武蔵野大学附属千代田高等学院の成り立ちや概要について教えてください。

荒木 1888(明治21)年、浄土真宗学僧の島地黙雷によって、女子文芸学舎という名の女子校として創設されました。創立時の理念として掲げていたのが「国際教養人の育成」。島地自身が明治の初めに欧州へ視察に出かけた国際派で、早い時期から女子教育の重要性を主張するなど開明的な人物でした。

戦後も千代田女学園高等学校として長らく女子教育を専門に行ってきましたが、創立130年を機に2018年4月、男女共学化を実施。校名も武蔵野大学附属千代田高等学院に変更しました。

2018年には国際バカロレア校に認定されました。1968年にスイス・ジュネーブで始まった国際バカロレアは、世界市民の育成を謳っています。当校はそもそもの理念が国際教養人の育成ですから、国際バカロレア認定校となることで、理念通りに世界基準の教育を導入できると考えました。

SDGsを学校教育に取り入れることになった背景について教えてください。

荒木 SDGsは「誰一人取り残さない」ことを掲げています。考えてみれば当校を作った島地は浄土真宗の僧侶で、浄土真宗といえば「いわんや悪人をや」の悪人正機説が有名です。つまり、誰一人見過ごさずにすくい取るという発想が建学の根本にありますから、SDGsについても創立の理念そのままに取り組むことができます。

SDGsは共学化・校名変更と同じく2018年4月から取り入れています。SDGsを活用して身近なところからアクションを起こすことで、生徒たちにとっては物事をグローバルに考える力を育成できるという思いのもと導入しました。ちなみに、これに先立ち2017年には、東日本の高校としては初めて国連グローバル・コンパクトに署名しています。

まずは共学化・校名変更後に初めて迎えた2018年の新入生から、校章代わりにSDGsバッジを配布しました。生徒全員がSDGsバッジを付けているのを見ると、これはさすがに壮観ですね。校外でも、通学時の車内などで同様にSDGsバッジを付けた方から声をかけられることがあるようです。このエピソードから、SDGsは世代を超え、国境を超えてコミュニケーションやコラボレーションのきっかけを生むツールになると感じています。

教育現場にSDGsを取り入れたことで、現場の変化などはありましたか。

荒木貴之氏武蔵野大学附属千代田高等学院
校長
荒木 貴之氏

荒木 まず生徒の変化としては、秋に行われた文化祭で「フードロス」をテーマとし、すべての展示がSDGsに関連付けられていました。これについては教師側から一切指示を出していませんし、私も原案を見ていなかったので、話を聞いて驚きましたね。生徒会や実行委員会が自主的に取り組んでいこうと決めたものですから、生徒たちがSDGsを“自分ごと化”していると強く感じました。

生徒会が主導的立場になって、校内の廊下にはSDGsの各ゴールに関する解説を張り出していますし、この9月にはSDGsの17ゴールごとに自分たちが目指す取り組みをまとめたパンフレット「千代田×SDGsハンドブック」も作成して文化祭で配布しました。生徒会は当校だけでなく他校の生徒会にも呼びかけ、SDGs勉強会を開催しています。

そのほか、2019年2月には携帯電話、充電器、イヤホンといった小型家電を回収し、金属をリサイクルして東京オリンピック・パラリンピックのメダルを作ろうというプロジェクトが始動しました。これは武蔵野大学鉱山プロジェクトに参加したもので、高大連携の一環です。スタートからまだ1年半ほどですが、このように様々な成果がすでに表れています。

2030年は中高生にとっては確実に迎える未来

SDGsに取り組む生徒の姿を見てどのような印象を持っていますか。

荒木 いまの高校生は発信力が高いと感じます。自分の学校はもちろん、他校も巻き込みながら活動している姿を見て、私の世代の大人よりも高校生のほうがSDGsに対する感度が高いと感じました。スウェーデンの高校生環境活動家グレタ・トゥンベリさんの国連での演説が話題となりましたが、グレタさんの語る「許さない」という言葉が、高校生や中学生の正直な感覚なのかもしれません。だからこそ真剣ですし、本気です。

SDGsは2030年までのゴールですが、2030年というと大人たちは「逃げ切れる」と思ってしまうのでしょう。ところが中高生にとっては、2030年は現実的な、自分がこれから確実に迎える未来。だからこそSDGsに対する本気度も高いのだと思います。

また、大人はどうしても経験や知識が邪魔をしますし、しがらみもあります。中高生にはそうしたものがない分、本質に迫ることができます。SDGsで目指す社会課題の解決は、本当に大切なことだと考えて行動しているのでしょう。それは同世代のグレタさんも同じだと思います。

いまの中高生は、課題に対して単独で深く考え、解決していく力ももちろん持っていますが、それ以上に多様性を大事にしながら、お互いの意見を尊重し、共同で解決していく力が私たちの世代よりも優れている。こうした共同課題解決能力は、未来に必要な力だと思います。

一方、教員側の役割についてはどのように考えていますか。

荒木 学校教育へのSDGsの取り込みは、出発点こそ確かに学校や教員の意図に基づくものです。しかし当校の場合は文化祭の展示であったり、SDGsパンフレットであったり、あるいは他校生徒会への呼びかけなども生徒会が自発的に進めています。

きっかけさえ与えられれば、すべての中高生が自ら気づいて行動できるでしょう。その気づきを与え、機会を作り、企業から問い合わせがあればつなぐ役目を担うなど、生徒がやりたいと発案したことをどれだけサポートしていけるかが、教員や学校の役割であり責務だと考えています。もちろん教員もSDGsを意識し、授業や様々な行事をいかにSDGsと関連付けられるかで工夫していると思いますが、現時点では生徒が主体となっている面が明らかに強いので、逆に教員が生徒から教えてもらう場面が多いですね。

これは、教員が上、生徒が下という関係ではなく、同じ社会の構成員として、情報を共有し合っているということだと思います。管理主義に立つと、こういった共有はできません。国際バカロレア認定校になりましたが、その目指すところは生徒主体。生徒中心主義に基づいて教育を行います。そのためには生徒の意見に耳を傾け、一緒に授業や行事を作り上げていくことが必要です。私たちの判断基準も、これは生徒にとっていいものかどうかを最優先に考えます。

サポートで苦労していることはありますか。

荒木 私の場合はサポートで困っていることは特にありません。私は国連グローバル・コンパクトのSDGs分科会の幹事をしており、2019年も8月に当校で「教育とSDGs」というテーマで会議を開催しました。当校の生徒もいくつかのグループに入っていたのですが、生徒の発表が素晴らしかったという評価を聞いています。

その中にはこの春入学した1年生もいました。おそらく中学ではSDGsについてそれほど学んでいないでしょうし、入学からも4カ月しか経っていません。それでも高い評価を得られたということは、真摯に取り組む上級生の姿が影響を与えていることに加え、当校の教育の力でもあるのだと思っています。こうした成果を見れば、教員のサポートもうまくいっているといえるのではないでしょうか。

感度が高い中高生の意見を取り入れる

多くの企業もSDGsに積極的に取り組んでいます。いま企業が高校生に手を差し伸べられることがあれば教えてください。

荒木 企業には、高校生と一緒に取り組んでいくという意識を持ってもらうことが大切だと思います。先ほども言ったように、社会課題に対する感度は大人よりも高校生や中学生のほうが高い。だから何らかの社会課題に取り組むとき、あるいは社会に役立つ商品を開発するときに、未来の担い手として中高生の意見も尊重してくれるとうれしいですね。その上で、対等な関係でコラボレーションができれば、なおありがたいと思います。

最後に、学校でのSDGs教育を含め、今後に向けた展望を教えてください。

荒木 SDGsには答えがないと思います。ある学校、あるいはある国で正解と呼べるものがあったとしても、違う学校、違う国で異なることは当然あり得ます。ですから今後は、多様性のある議論の中で生じるコンフリクトを生徒たちに経験させ、落としどころを見つけて、お互いに尊敬し譲歩もしながら解決策を見いだすことを学ばせていきたいと考えています。

また、すでに生徒会が他校生徒会を巻き込んでいるように、学校は学校として他校と連携していきたいですし、国連グローバル・コンパクトで圧倒的多数を占める企業のリソースを教育に活用するようなコラボレーションも進めていきたいと考えています。もちろんその前提として、まだまだ一般には認知度が低いSDGsをいかに普及させていくかも課題ですね。

>関連記事:生徒会長・菊池 隆聖さんのお話はこちら

武蔵野大学附属千代田高等学院 校長
荒木 貴之 (あらき・たかゆき)

武蔵野大学教育学部・大学院教育学研究科教授。日本アクティブ・ラーニング学会副会長。東北大学大学院。

公立中学校教諭からキャリアをスタートさせ、東京都教育庁指導主事、立命館小学校副校長、追手門学院参与、河合塾主席研究員を歴任。武蔵野大学附属千代田高等学院では、校長として国連グローバル・コンパクトへの署名、国際バカロレア・ディプロマプログラム認定取得、経済産業省「未来の教室」実証事業の開催など、Society5.0時代の学校教育のあり方を模索している。兼務する武蔵野大学大学院では、国際教育研究・国際教員養成コースを担当。

※肩書きは記事公開時点のものです。

SDGsデザインセンター コンサルタント
松﨑 祥悟(まつさき・しょうご)

これまでCSRレポートや統合報告書だけでなく、採用ツール、会社案内などの企業が発信すべき情報をステークホルダーに対応した形でお届けするカスタムメディアの制作に従事。紙、映像、Web、リアルイベントなど媒体ごとの特性も生かし、コミュニケーションを通じた企業の価値向上を支援。SDGsデザインセンター、周年事業センターのコンサルタントを歴任。