SDGsが浸透した理由と、今後の展望

令和の企業経営は、SDGsへの姿勢が左右する

  • 古塚 浩一

    マーケティング本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長 古塚 浩一

田中太郎氏

当初、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が掲げる各目標は、絵空事ではないかと思われがちだった。しかし、ESG投資をめぐる投資家の動きを軸に企業による取り組みは拡大し続け、実際にビジネス上の成果につなげた企業も続出している。さらには“SDGsネイティブ”世代の登場で、企業には将来的な人事戦略の面でもSDGsの視点が必要となってきている。SDGsが単なる流行から“本物”に向けて動き出した流れと、企業が今後なすべき取り組みについて、「日経ESG」の田中太郎編集長に話を聞いた。


ESG、SDGsの盛り上がりは一時のトレンドではないかという声も聞きます。ESG、SDGsは流行なのでしょうか、それとも本物なのでしょうか。

田中 2015年末にSDGsがまとまった頃は、私も国連が描いた“おとぎ話”、つまり机上の空論だと感じていて、企業の人たちが本気で受け止めるとは思えませんでした。その後、投資家の企業へのまなざしが長期目線に変わり、いわゆる非財務的な指標が企業価値を決定するという共通認識が生まれたのです。その変化を実感し、SDGsは本物だと感じるようになりました。

具体的にどういった部分が変わったのでしょうか。

田中 最初に投資家が変わり、それに対応して、日本の大手企業がESG説明会を続けざまに開きました。自社のESGやSDGsに関する取り組みを発信したいというニーズが高まったのです。加えて、投資家はもちろん、もっと広げてステークホルダー全体、さらには自社の社員に対しても、ESGやSDGsの活動を説明しなければならないという切迫感を企業側が持つようになりました。

つまり、企業側としても「やらなければいけない」という思いが強まっているのです。基本的には長期目線で取り組むべき課題ですから、まずはトップがSDGsを理解し、その上でトップ自身の言葉で「この会社は何を目指して継続的に成長していくか」を伝えることが重要になってきました。

これは机上の空論ではないという実感を持ち始めたのはいつ頃ですか。

田中 2018年7月に丸井グループが「RE100」に加盟し、新電力と提携して通常よりも高い料金で再生可能エネルギー電力を購入しはじめました。その後、エポスカード会員にも再生可能エネルギーへの切り替えを勧めるなど、中長期で増収を図る構図を描いています。これはとても印象的な出来事で、SDGsはもはや机上の空論ではないと実感しました。

SDGsは人を初心に返らせる

会社の未来を説明するツールとしての、SDGsの利点とはなんでしょうか。

田中 なにより、アイコンとして便利です。先日、ある飲料メーカーの人から、自社のプラスチック問題への取り組みを発信しているのに、社外どころか社内にも伝わらないという悩みを聞きました。こうした場合、SDGsというアイコンがあれば伝えやすいですし、わかりやすいキャッチフレーズにもなります。加えて、ミレニアル世代やそれに続くZ世代はグローバルな課題への関心が強いので、SDGsをアイコンとして使えば学生や就活生にも自社のビジョンを伝えやすくなるでしょう。

ビジネスパーソンの多くは、仕事を通じて社会をよくしたいという思いを持っているのではないでしょうか。SDGsの目標は、そもそも自分はなぜこの会社を選んだのか、社会に貢献したいという思いがあったのではないかと、初心に返らせる効果もあると考えられます。

また、企業のビジョンが最も伝わりにくいのは消費者です。とはいえ、消費者もエコ商品に対する感度はあり、SDGsに取り組んでいない企業より、取り組んでいる企業の商品を選ぼうという潜在的ニーズがある。SDGsを通せば消費者にもビジョンを伝えやすくなり、結果として実際のビジネスにもプラスの効果が生まれるでしょう。

ESGとSDGsの関係がわかりにくいという声もあります。両者の関係をわかりやすく捉えるにはどうすればいいでしょうか。

田中 ESGは本来、ESG投資という視点が前提となります。E、S、Gの3つの要素のうち、EとSに関する活動の羅針盤、地図となるものがSDGsだと考えています。そして、EとSの取り組みを進めていく土台となる、企業のあり方を示すものがGです。つまりGは企業としての強い基盤を整えるためのものであって、それ自体は目標ではなく、あくまでも追求する目標はEとSだということです。

各企業の印象的なSDGs/ESGの取り組み

トップが自分の言葉で語れるようにならなければESGやSDGsを推進できないという話でしたが、その点で印象に残る経営者について教えてください。

田中 例えば日清食品は、主力製品である「カップヌードル」の容器にプラスチック使用量と焼却時のCO₂排出量を削減する「バイオマスECOカップ」を採用し、2021年中には全量の切り替えを完了すると発表しました。同社の安藤宏基社長は、バイオマス容器の採用を進める理由について、プラスチック問題の解決という目標を念頭に自分自身の言葉できちんと説明しています。アイデア自体は現場から上がってきたのかもしれませんが、それをきちんと理解し、社長自ら発信しているという点で印象に残りました。最大手として何らかの施策を行わなければ世間から批判されますし、ビジネスに支障が出るという経営判断もあるでしょう。しかし、この発表の真価は、「カップヌードル」が時代の要請に応えて進化するブランドだと知らしめた点にあるのではないでしょうか。先々のブランド戦略まで見越した、見事な判断だと思います。

また、先ほど話した丸井グループの青井浩社長や、地球環境の変化を背景に「KAITEKI」という旗印で経営のサステナビリティを考える三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長も、私がお会いした中で印象に残る経営者です。

 

各企業の取り組み例

■丸井グループ「共創経営レポート」

丸井グループ「共創経営レポート」

青井浩社長自身がメッセージを執筆するのはもちろん、編集・制作全般にわたって議論に参加。顧客、取引先、社員、地域社会、株主などのステークホルダーと共に、新しい価値をつくり出そうとする「共創サステナビリティ経営」の考え方をていねいに紹介している。

出典)
https://www.0101maruigroup.co.jp/ir/lib/i-report.html


■三菱ケミカルホールディングス「KAITEKI経営」

資本の効率化を重視する経営(Management of Economics)、イノベーション創出を追求する経営(Management of Technology)に加えて、サステナビリティの向上を目指す経営(Management of Sustainability)という3つの経営を、時間や時機を意識しながら一体的に実践し、企業価値を高めていく独自の経営手法。

出典)
https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/kaiteki_management/kaiteki/

大手企業の例が出ましたが、非上場企業や中小企業はESG、SDGsにどう向き合うべきでしょうか。

田中太郎氏

田中 非上場企業や中小企業については、投資家からの直接的な圧力を受けないので、ESGやSDGsに取り組まなくてもいいという声が確かにあります。しかし、いま政府機関はSDGs推進一色の状況ですし、全国の商工会議所などでもSDGsの機運が盛り上がっており、SDGsから新しいビジネスが生まれる可能性は大いにあります。また、SDGsに真剣に取り組んでいる中小企業は、採用や社員の成長にプラスの効果が生じているという実例も数多く聞いています。

例えば横浜の大川印刷は、CO₂ゼロ印刷や認証紙使用をはじめSDGsに積極的に取り組んでいますが、同社ではパート社員が正社員となってSDGsの活動を引っ張るなど、社員の成長という面で大きな効果が出ています。中小企業といっても千差万別で一概にはいえませんが、このようにSDGsを武器とする中小企業が増えていることは間違いない事実です。

SDGsネイティブにメッセージを伝えるには

先ほどミレニアル世代やZ世代の話が出ましたが、いわゆる“SDGsネイティブ”の実態についてどう考えていますか。

田中 小中学生の新学習指導要領にSDGsが盛り込まれたり、テストに社会問題を考えさせる設問が登場したりと、社会全体のSDGsに対する関心は確実に高まりつつあります。SDGsネイティブの意識調査をしていたところ、非常に感度の高い人たちがいました。ただ、SDGsに関心を持つ人は、まだ全体の一部です。教育の充実によって、これから本格的に増加するのではないでしょうか。

一方で、この世代が環境や社会課題に関心を持ち、その解決に関わりたいと考えている傾向も如実に見られました。SDGsに高い意識を持つ人の割合が変わらないにせよ、一部の優秀な層の目線がSDGsに向いてきたと言えるでしょう。

とはいえ、教育への導入をきっかけとして、SDGsに興味を抱く学生は今後増加していくはずです。その中でもSDGsにとりわけ強い関心を持つ学生は、同時に高い課題解決能力を有し、企業に入ってからも力を発揮するという仮説は十分に立てられます。

“SDGsネイティブ”が今後台頭してくるにあたり、企業はどう対応すべきでしょうか。

田中 2020年の大イベントが終わった後、日本が、そして世界がどのような方向に向かうのかは不透明です。何が起きるのか誰もわからない時代を迎えるにあたり、将来を予測し、それに合わせて戦略を立てる方法論は果たして有効なのかという話になるでしょう。そのとき、常にSDGsに照らして初心に返り、「この会社で自分は何をやりたいのか。どのような形で社会課題の解決に貢献できるのか」という思いを持つ人材でなければ、不透明な時代にビジネスを切り開くのは難しいのではないでしょうか。

感度が高く問題意識を持った学生ほど、就活のときに「この会社は何を目指しているのか」と尋ねるでしょうし、企業側が答えられないとそっぽを向かれる恐れがあります。それに備えるためにも、企業理念の原点に返り、SDGsを自分事として捉えられる社内啓発を進めておくことが重要でしょう。

日経ESG編集長
田中 太郎

1990年早稲田大学卒業、日経BP社入社。「日経ビジネス」副編集長、「日経エコロジー」編集長などを経て2018年4月から現職。

マーケティング本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

カスタムメディアのプロデューサー、ディレクターとして主にBtoB領域の企業コミュニケーションを支援。ナショナルジオグラフィック日本版広告賞(三井物産)、日経電子版広告賞BtoBタイアップ広告部門賞(三菱商事)等受賞。

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