イベントレポート〈ブランド・ジャパン発行19周年記念ブランドセミナー〉
ブランディングのための体験デザイン
多様な事業のトータルとしてのブランド確立を目指す
セミナーは楽天 常務執行役員 CMOの河野奈保氏の基調講演でスタートした。「社会的価値を創造するイノベーションとブランディング」と題された講演で河野氏は、まず「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」という楽天のミッションを紹介。「“エンパワーメント”という言葉は創業以来、継続して掲げてきたものです」と語り、楽天の歴史と拡大する事業展開を説明した。
楽天では、現在国内で1億人以上の楽天会員と約70に及ぶ事業・サービスを「楽天エコシステム」と呼ぶ経済圏でつなげている。河野氏は、「楽天エコシステム」は、「ブランド」「メンバーシップ」「データ」の3つのアセットで構成されていると述べた。
(参考) 楽天エコシステム
まずは「メンバーシップ」。楽天エコシステムの大きな特徴がポイントシステムの存在だ。付与されたポイントを利用するために、ユーザーの次のアクションが生まれる。ポイントをユーザーに提供することが、顧客育成サイクルの起点になっている。
続いて「データ」。同社ではビッグデータをAIで分析し、見込み顧客の発見に活用しているという。
そして「ブランド」。現在の楽天のコーポレートおよびサービスロゴは2018年7月に一新したもので、「Rakuten」という文字の下に「はじまり」「ひとつになる」「一番・最高」「唯一」を象徴的に意味する「一」という漢字をデザインしている。この新たなロゴのもと、多彩なサービスのトータルとしてのブランド確立を目指している。
ブランド戦略として、現在はスポーツ・エンターテインメント分野にも注力。「プロ野球の楽天イーグルス、Jリーグのヴィッセル神戸をはじめ、国内外のスポーツ分野に参入し、チームの運営やパートナーシップを推進していくことで、マス広告に代わる手法でブランド価値向上を目指しています」と河野氏。こうした活動を通じ、ブランド・ジャパン2019のBtoB編の総合力ランキングで過去最高の4位を獲得した。
ランキングはここ数年着実に伸長しているが、中でも顕著なのが「先見力」(2018年12位→19年1位)と「活力」(18年24位→19年2位)だ。とりわけ「先見力」については、スポーツ分野への進出のほか、携帯キャリア事業への参入や物流改革への挑戦など、多彩なテクノロジーを通じて新たなイノベーションに取り組み続けていることが好結果をもたらしていると河野氏は分析する。
最後に河野氏は「様々なサービスを提供していく中で、楽天ブランドを多くの人に使っていただけるようになりました。創業時からの信念である“エンパワーメント”を改めて徹底するため、社会課題に向き合う多彩な戦略を立て、推進しています」と語った。
分析結果を次の施策につなげることが重要
続いて、ブランド・ジャパン企画委員会委員長を務める一橋大学大学院・経営管理研究科教授の阿久津聡氏が登壇。ブランド・ジャパン2019の総括を行った。
阿久津氏は前年のセミナーで解説した「総合力の安定均衡圏」のテーマに沿い、前年取り上げたブランドの総合力がこの1年でさらにどう変化したかについて検証、解説した。
「BtoC編で過去2年、3位だったAmazonが、2019年は1位になりました。ずっと右肩上がりに総合力の上昇を続けてきたAmazonでしたが昨年はそろそろ天井を迎え、安定均衡圏を形成するかもしれないと分析しました。しかし、今年はその安定均衡圏をさらに押し上げる勢いです。これは例外的な事例ですが、今後しばらく上がり続けることも可能だと考えます」と指摘した。
阿久津氏はそのほか、Apple、Google、任天堂、パナソニックについても前年からの変化を分析。「安定均衡圏から大きく外れたときは翌年に“より戻し”が来ることが多いため、変化の理由をよく分析し、次の施策につなげていくことが重要です」と語った。
続いて、ブランドコミュニケーション部ブランド・ジャパンプロジェクトマネージャーの石原和仁が、ブランド・ジャパン2019の結果を解説。「BtoC編のトップ10は、EC・IT系、食品・日用品が増える傾向にあります。トップ50で見ると流通、飲食、量販、製菓が約半分を占め、量販、飲食、製菓でスコアが向上したブランドが目立ちます」と分析。トップ3のAmazon、YouTube、日清食品のブランドを紹介した上で、CSR活動の評価とブランド力の密接な関係について指摘した。
(参考) ブランド・ジャパン 2019|ブランドランキングTOP100
ブランドピラミッドで全社一丸同じ目標に向かえた
セミナーの最後は、ユー・エス・ジェイ マーケティング部ブランド・マーケティング部長の山本歩氏が登壇し、特別講演を行った。テーマは「どうやってUSJブランドは強くなったか」。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)はBtoC編の総合力ランキングで、昨年の42位から今年は13位へと大幅躍進を遂げている。山本氏はUSJブランド強化の要因として「ブランドのゴール・戦略を会社の全アクティビティで徹底したこと」と「ブランドコミュニケーションの戦略的展開」を挙げた。
USJは業績拡大を図るため、2010年以降、「生きている喜びを感じ、活力をえられる」をブランドのゴールと定め、アクティビティを「Who:誰にむけて」「What:何を」「How:どうやって」というフレームワークに当てはめることで、マーケティングの方向性を整理した。その際、最上層に「Who:すべてのテーマパーク好き」、中間に「What:ありえないワクワク・ドキドキ」、一番下に「How:プロダクト/ゲストサービス/空間演出」を設定するブランドピラミッドを構築し、戦略策定に生かした。
(参考)USJのブランドピラミッド:簡略版
「日本人のテーマパーク好きの多くは、USJファンでもありディズニーファンでもあります。この層に対して“ありえないワクワク・ドキドキ”を提供し、刺激的な非日常体験をしたいときはUSJを選んでもらうことが重要だと考えました」と山本氏。その上で差別化ポイントを導き出し、エンターテインメント空間やゲストサービスの演出に力を入れたという。
「ブランドピラミッドを使うことで、全社一丸となって同じ目標に向かうことができ、提供できる価値を強化できたと考えています」と振り返る。その結果、ゲスト満足度も毎年右肩上がりを達成している。
USJならではの体験価値を、どのように伝えてきたか。山本氏はブランドコミュニケーションの大きな目的として「短期=来場者の創造」と「長期=USJブランドの確立」の2点を挙げた。
まず短期の部分では、個々のアトラクションの集客最大化のために前述のフレームワークを使い、「Who:ターゲット」「What:ベネフィット」「How:具体的特長」を見直した。
次に長期のブランド確立では、ディズニーとの差別化ポイントを強く打ち出すCMを制作。“ありえないワクワク・ドキドキ”を体験できるというコンセプトを伝えることに力を入れた。これにより、USJの価値がより明確に伝わるようになったと山本氏は指摘する。
「2021年の20周年に向けて、訴求するメッセージの見直しや大型アトラクション導入を進め、世の中をもっと元気にしたいと考えています」と山本氏は締めくくった。
特別講演のラストには、USJの空気を体感できるショートイベントを披露。会場の出席者たちも音楽に合わせて体を動かし、盛り上がっていた。