研究員ブログ

なぜ、リーフを分解するのか

2018.11.08

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    日経BP総研 クリーンテック研究所 中道 理

なぜ、リーフを分解するのか

日経BP総研 クリーンテック ラボでは、2017年11月からxTECH編集部とともに、日産自動車が同年10月に発売したリーフを分解し、分析するプロジェクトを実施しています。本プロジェクトは、自動車の電動化、自動運転化の時代を見据え、車両の分解とその分析から、新しいクルマに求められる要件や工夫を調べようというものです。

写真1 新型の日産自動車「リーフ」 この車両を分解した。
新型の日産自動車「リーフ」

この成果として、2018年10月までに、「日産自動車『リーフ』徹底分解2018[全体編]」「日産自動車『リーフ』徹底分解2018[ECU編]」「日産自動車 知財戦略2018」を刊行しました。なお、日産自動車 知財戦略2018は、もともとリーフの知財を調査する予定でしたが、調べていくうちに日産自動車の全体戦略に踏み込むこととなり、このような形となったものです。今後、さらに分析を進め、モーターやインバーター、電池などについての詳細レポートを刊行すべく計画を進めています。

このリーフ分解の企画ですが、もともとクリーンテック ラボが運営している新事業創出コミュニティー「リアル開発会議」のプロジェクト「リアル解体ラボ」として始まりました。目的は、トヨタ自動車や日産自動車などの自動車メーカーであれば、当たり前に行っている競合他社の製品の分解・分析(ベンチマーキング)を、中小中堅企業ができるようにするというものです。自動車メーカーであれば1社で競合他社の車両を購入し、分析することは可能ですが、それほど大きくない企業にとって、予算的にも、人員的にも、1社で実施することは難しいのが実情です。そこで、皆でお金を出し合いながら、得意な分野の技術知識を持ち寄って、分解・分析をしようと呼びかけました。日経BP社としては、分析した内容をレポート化し、外販することで売り上げを確保し、次の車両の購入費などに充てようというわけです。

こうしたプロジェクトを進めようと考えたのは、自動車部品を扱う中小・中堅企業にそのニーズがあると推測したからです。生態系の頂点に位置する自動車メーカーは、ニーズに応じて部品供給メーカーをどんどん変えていけますが、部品メーカーにとっては、ニーズが変われば、これまでの製品が通用しなくなります。

資金集めと役割分担に苦慮

写真2 パーツを取り外したリーフ
新型の日産自動車「リーフ」 この車両を分解した。

とはいえ、この企画は、始めてみると思い通り進まないことの連続でした。まず、分解にかかわる原資の問題があります。そもそもこのプロジェクトが成功するかどうか分からないのに、企業としては予算を確保するのが難しいのです。

また、各社で分析を分担してもらうという考え方にも無理がありました。参加企業に幅広い分析をお願いしようと考えていたのですが、網羅性を持たせるのが難しいのです。当然ですが、参加企業は、自らが興味のある部分は解析するものの、それ以外には興味はないですし、興味のない分野の分析をしてもらうのは彼らにとって負担でしかありません。そして、網羅性がなければレポートとしては成立しません。ニーズとリソースがマッチしなかったというわけです。

そこで、当初資金については、今回は日経BPがリスクを負い、車両購入費、分析費用などを負担することとしました。また、解析作業については、個別の企業ではなく、大所高所から技術を分析している、研究機関や大学、あるいはさまざまな企業を会員に持つ技術組合などと連携して進める形になりました。今回ある程度、協力関係が出来上がってきたので、次回以降の分析はスムーズに進みそうです。

リーフ分解で見えた5つのこと

図1 日産の知財
  • 2000年〜2002年 2000年〜2002年
  • 2003年〜2005年 2003年〜2005年
  • 2006年〜2008年 2006年〜2008年
  • 2009年〜2011年 2009年〜2011年
  • 2012年〜2014年 2012年〜2014年
  • 2015年以降 2015年以降
明るい場所が、特許出願が盛んな領域。
2006年(公開日ベース)をピークに特許出願件数を減らしている。

さて、今回のリーフの分解および分析結果について、おおよそ次のようなことが見えてきました。(1)モーター周辺の温度はほとんど上がらない、(2)汎用部品の採用が拡大している、(3)新型リーフでは軽量化に力を注いでいない、(4)電子化による味付けで差異化している、(5)外部音遮断や気密に気を遣っている――です。

(1)については、モーター周辺であっても、60℃ぐらいまでしか上がりません。これまで耐熱部品を供給してきたメーカーにとっては、死活問題かもしれません。

(2)の汎用部品の採用の拡大は、随所に見られました。これは、日産自動車の方針によるものと思われます。ルノー・日産アライアンス(現在ではルノー・日産・三菱アライアンス)の調達力を生かし、グローバル規模で安く調達することを意識しているとみられます。

(3)の軽量化に力を注いでいない点について、顕著だったのが車体の材料です。初代モデルではドアやボンネットにアルミ材が採用されていましたが、今回はすべて鋼板でした。理由は不明ですが、コスト低減と、グローバルでの生産を考慮したものとみられます。ただし、樹脂素材やアルミ加工に関する特許を出願していることから、軽量化については、今後別のタイミングで実施してくるものと予想できます。

(4)の電子化で味付けをしているというのは、車体のプラットフォーム自体は、初代と今回のリーフは共通だからです。初代モデルとの大きな差異は電子制御にあります。具体的には、高速道路単一車線での自動運転機能「プロパイロット」や自動駐車機能「プロパイロット パーキング」、あるいはカーブや路面などの状況に応じて足回りを積極的に制御する「シャーシ制御モジュール」の搭載などです。

(5)の外部音遮断や気密に気を遣っているという点については、ドアの中やモーターケースと運転席との間、床、天井など、音や熱が逃げそうな、あらゆる場所に防音や防振、保温のための不織布や発泡剤が充填されていました。静音性を高めるためであることに加え、消費電力量の多い空調の効率を上げるためと思われます。

今回のレポートではデジタル版も発⾏しています。レポートに掲載されている文章や図表をデジタルデータとして扱えるようになっています。デジタル化の目的は、購入者がレポートの内容を検索したり、プレゼン資料に使ってもらったりすることです。今後、他のメーカーや車種の分析が同じデータベース上に蓄積されていくことで、部品や技術をWeb上で比較できるようにしたいと考えています。

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中道 理

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