日経BP総研「2019年 10の予測」(中)

ブロックチェーン、AI、ワークプレイス、企業を変えるテクノロジー

2019.01.17

研究員ブログ

  • 日経BP総研 星野 友彦、伊藤 暢人、徳永 太郎

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日経BP総研による「2019年・10の予測」の中編をお届けします。選んだ10のテーマは、どのテーマも既に変化の「兆し」は見えています。 2019年は、これらの「兆し」が「結実」へと向かい、評価が定まっていく年となるでしょう(本記事は日経 xTECH「研究員の眼」からの転載記事です)。

【予測4】ブロックチェーン:金融以外でも世界を変える

仮想通貨の「Bitcoin(ビットコイン)」を支える中核技術であり、分散型台帳技術とも称される「ブロックチェーン技術」が注目を集めています。「インターネット以来の大発明」と呼ぶ向きもあり、近い将来、社会を支える基盤技術となり、ビジネスや組織のあり方を根底から変えていくでしょう。

当初は「FinTech」に代表される金融分野が中心だったブロックチェーン技術の実証実験も、ここに来て流通、貿易、医療など様々な分野に広がりを見せています。いくつかの課題を抱えていますが、ブロックチェーン技術は2019年以降、大きく花開くでしょう。

調査会社の米IDCによると、世界のブロックチェーン関連支出額は今後、年率73・2%の高い成長率で伸び続け、2022年には117億ドルに達するとのことです。国内の支出額も、2018年の49億円から2022年に545億円へと急拡大するとみています。2018年の支出額は15億ドルと見込まれ、2017年の支出額の約2倍になります。

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組織や取引のありかたを大きく変える

ブロックチェーン技術は、2008年にサトシ・ナカモトという謎の人物が書いたビットコインに関する論文に端を発します。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などと異なり、まったく突然、世に現れた技術です。

ブロックチェーンとは、インターネット上に公開された分散型の「台帳」のこと。複数拠点に分散配置されたサーバーなどに、それぞれ同一のデータを同期させて一つの台帳を維持します。

これにより政府や中央銀行に依存せず、ネットワークの参加者全体でデータを改ざんできないように管理し、その信頼性を担保するのです。中央集権型の組織による「集中取引」から、非中央集権型の「利用者間の直接取引」への転換を図るもので、中央管理サーバーを介さない、低コストでの資産移転や決済が可能になります。

例えば、複数の銀行を経由することが多く、手数料も日数も多くかかる国際送金に応用すれば、圧倒的なコストダウンと日数短縮が図れます。

別の言い方をすると、ブロックチェーン技術は、「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」に代表されるプラットフォーマーとは対極にある概念です。膨大なデータを中央集権的に管理するGAFAに対して、ブロックチェーン技術はネットワーク全体でデータの真正性を証明します。

こうした可能性に着目し、ブロックチェーン技術に取り組む企業が増えています。

対話アプリ大手のLINEはブロックチェーン技術を使った仮想コイン(トークン)サービスを2018年末までに開始します。発行するトークンの総量や、どのようなロジックで配布したのか、ブロックチェーンを通じて全て可視化します。透明性を担保することでサービスへの信頼を高めます。

ソニーはグループ会社と共同でブロックチェーン技術を使ってデジタルコンテンツの権利情報を管理するシステムを開発しました。音楽や映画、教科書、電子書籍などのデジタルコンテンツの作成日時や作成者をシステムの参加者間で証明できます。今後、ソニーグループの事業にどのような形で適用できるかを検討していきます。

ほかにも医療情報管理や電子投票、貿易、保険、コミュニケーション、トレーサビリティーなど、ブロックチェーンの適用領域はどんどん拡大しています。

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「ブロックチェーンならでは」を見つけられるか

大きな潜在力を持ったブロックチェーン技術ですが、技術者不足や処理性能(スケーラビリティー)など、乗り越えなければいけない課題は山積みです。

中でも大きいのは、「ブロックチェーンでないと解決できない」とか「ブロックチェーンにすれば圧倒的に性能が上がり、コストが下がる」といったユースケース(事例)がまだ見つかっていないこと。既存のビジネスロジックを置き換えたり、技術の検証をしたりといった試みはたくさんありますが、現状では決定打に欠けます。

2019年に期待したいと思います。

【予測5】AI時代の中小企業経営:デジタル革命で人手不足解消狙う

全国の有効求人倍率は1.64倍(2018年9月時点)と、前月より0.01ポイント上昇。バブル期の1.46倍を超える水準が18カ月続き、人手不足感が一層根強まっています。47都道府県のすべてで1倍以上となっており、日本全国で人が足りないという異常事態に陥っています。中小企業の人材枯渇感は強く、日本政策金融公庫の中小企業景況調査では、人手不足感を表す従業員状況DIは20%を超える高い水準が続いています。

こうした中、中小企業の間でもAI(人工知能)やIoT、ロボットといったデジタル化投資が一挙に進む動きが見え始めました。

RPAやロボットの導入で先行したのは、資本に余力のある大企業でした。その結果、従業員1人当たりの付加価値は2009年度を底に上昇軌道に乗っており、例えば製造業では7年間で32.1%向上しました。伸び悩む中小企業との差は拡大する一方となっています。このまま生産性改善で大きく出遅れたままでは、長時間労働や休日出勤が恒常化してしまい、採用で苦戦している中小企業からますます人材が遠のく事態を招きかねません。

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中小企業経営者200人に、日経BP総研中堅・中小企業ラボがアンケートしたところ、人手不足に危機感を募らせる経営者の中で31%は「自動化、ロボット化を進めざるを得ない」と答えています。

一方で、景気には浮遊感が続いています。金融公庫の同調査では、基本的には過去2年にわたって売り上げ、利益とも増加している企業が多いというデータが出ています(18年10月時点)。中小企業経営者からは「従業員が足らなかったので、仕事を断らざるを得なかった。創業以来、初めてのことだ」(関東、設備業)などという声が聞かれます。仕事は十分にあり、この先の景況感も強いことから、人手不足対策として投資を進める余力が高まっているのも事実です。

さらに、IoTやAIなどの技術は、普及拡大期に入って価格が下がり始めており、中小企業でも手が届くサービスが増え始めています。こうした流れが相まって、一気に中小企業がデジタル革命に踏み切る兆しが見えてきました。

IoTやAIが工場や店頭を変え始めた

では、その先行事例を見ていきましょう。

まず、人間による作業の代わりにデジタル技術を使うという流れが起きています。

製造業では、様々なセンサーを使うIoTの普及が進んでいます。画像処理、温度、振動センサーなどを組み合わせることで、従来人の目や耳、カンに頼っていた不具合対策を機械に任せることができるようになっています。例えば、冶具の交換では、従来の冶具の使い方と摩耗の関係についてのデータを集めておき、故障する前に交換することが可能になっています。

小売業では、画像処理により短時間でレジ精算ができるシステムが動き出しました。導入しているパン販売店では、それぞれの商品の画像と価格をAIに記憶させることにより、レジ打ちから従業員を解放しました。

もう一つ、注目すべきは、デジタル化を活用した業界横断的なプラットフォームづくりです。

見積もり発注システムの簡素化に取り組んでいる月井精密(東京・八王子)では、様々な製造業で活用できる見積もり受発注システムを開発しました。発注先が条件を提示して図面をこのシステムに掲載すると、登録している会社から見積もりが届く仕組みです。図面についてはデータ管理しており、いくらぐらいの価格で受注しているのかなどが記録されていきます。すると、次回からそのデータを基に効率的に受発注が行えます。

加盟企業はこれまで見積もりに費やしていた時間を大幅に削減できるうえ、月井精密側には様々な見積もりに対するデータが蓄積できるというメリットがあります。名取磨一社長は「見積もりのプラットフォームを目指す」と力を込めます。

2017年の中小企業白書では、「AI、IoT、ロボットなどの活用を検討中」との回答は、業種・目的別に見ると4.0~8.0%の範囲に収まっていました。これを基に、日本全体の中小企業の数は380万社ということから試算すれば、少なくとも20万社ほどの中小企業が2019年以降、デジタル化投資に乗り出すと推定できそうです。

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【予測6】ワークプレイス:人に合わせて働く場所が変わる

人が働くオフィス(ワークプレイス)は、これまで場所に応じて働き方が縛られていた側面がありました。都市部のオフィスに毎朝、ほぼ決まった時間に出勤し、ビルの形状に沿ってレイアウトされた執務フロアでは個人に割り振られた固定の机で業務にあたってきました。

しかし、状況は変わりつつあります。人々の働き方が多様化したことで、「人に合わせて場所(オフィス)が変わる」時代を迎えているのです。

2018年7月23~27日の5日間、全国一斉に「テレワーク・デイズ」が実施されました。テレワークとは場所や時間にとらわれず、いつものオフィスとは違う場所で勤務すること。2018年のテレワーク・デイズでは計1682団体(前年の1.8倍)、約30万2000人(前年の4.8倍)が参加しました。期間中は東京23区内への通勤者が延べ約41万人も減少したといいます。

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会社の制度としてテレワークを導入する企業も増えています。2018年には、日立製作所が2~3年以内に、グループ社員の過半数にあたる10万人規模でテレワークを導入する方針を明らかにしました。デンソーも従来のテレワーク制度を拡充して、オフィス部門の全社員約2万人に対象を広げると発表しました。

社員の選択肢を拡大、増加するサテライトオフィス

在宅勤務だけがテレワークではありません。最近、企業が本社などの通常のオフィスとは別の場所に、「サテライトオフィス」という拠点を設ける動きが目立っています。サテライトオフィスがあれば、本社まで来なくても自宅により近い場所で働くことができます。

不動産会社や鉄道会社のなかには、サテライトオフィス事業を積極的に展開するところも出てきました。都心だけでなく、鉄道沿線の郊外にあるビルにもサテライトオフィスが広がっています。

いまや育児・介護中の時短社員、派遣社員、業務委託など雇用形態は拡大し、副業や兼業の解禁なども加わって、人々の働き方は多様化しています。人手不足の折、企業としても様々な事情を抱えるワーカーを戦力化するために、社員の働き方の選択肢を広げていく必要があります。女性やシニアの就業機会を拡大したり、移動時間を解消できることで、時短勤務しかできなかった人がフルタイムでの勤務が可能になったりすることからも、ワークプレイスの見直しが進みます。

2019年にはテレワークを導入する企業が増加し、在宅勤務だけでなく、サテライトオフィスの活用も普及していきます。「どこでもオフィスになる」環境が整備されていくでしょう。

オフィスの多様化・多目的化が加速する

いまワークプレイスについては、「ABW(Activity Based Working)」という考え方が主流になっています。時間や場所に縛られず、自由に場所を選択する働き方です。無駄な時間を省くことによる生産性の向上や、自由な働き方を実現することでクリエーティブな成果が期待できます。

働く人を支える場所として、本社オフィスも多様化してきています。倉庫などの大空間をリニューアルして自由なレイアウトのオフィスにしたり、遊び場やジムを設けたりするなど、働くスタイルに応じた多様な空間を実現する企業も増えています。複合施設の渋谷キャストでは2018年に、キャンプ用のテントを設置したアウトドアオフィスも登場しました。

「場所が人に合わせる」流れは2019年以降、さらに加速していくでしょう。サテライトオフィスだけではなく、働き方が多様化していく人を支援するための新しいソリューションが、ワークプレイスの現場でも次々に生まれていくに違いありません。

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近い将来には、自動運転車など移動体がオフィスになったり、育児や介護の場所にオフィスが共存したりと、オフィスという場所の多様化が進むでしょう。また、オフィスで働きながら健康増進も同時に実現するなどオフィスが多目的化する未来も見えています。

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連載:日経BP総研「2019年 10の予測」

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