日経BP総研「2019年 10の予測」(上)

デジタル診療、スポーツテック、MaaSはどうなるのか

2019.01.10

研究員ブログ

  • 日経BP総研 藤井 省吾、高橋 史忠、河井 保博

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今回から3回にわたって、日経BP総研による「2019年・10の予測」をお届けします。選んだ10のテーマは、どれも変化の「兆し」は既に見えているものです。 2019年は、これらの「兆し」が「結実」へと向かい、評価が定まっていく年となるでしょう(本記事は日経 xTECH「研究員の眼」からの転載記事です)。

【予測1】オンライン診療・アプリ診療:医療のオンライン化が加速

衝撃的な数字があります。日本の医療費の膨張です。日医総研が予測する2030年の医療費は実に2015年を10兆円近く上回り、50兆円を超えます。ところが、医療費の主たる担い手である65歳以下の就業人口は減少し、その負担は1.5倍にもなります。

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そこで今、明確な日本の政策目標になったのが、健康寿命の延伸と生涯現役を目指す雇用、そして社会保障の変革です。2018年9月4日の日本経済新聞一面トップには「『生涯現役』へ3年で改革」という記事が、安倍晋三首相のインタビューをもとに掲載されました。

この健康寿命の延伸に効果的なのが、オンライン診療や治療アプリです。従来の外来診療は、診察と診察の間には、医師と患者の間のコミュニケーションはほとんどありませんでしたが、オンライン化やアプリにより、その間のモニタリングやコミュニケーションが可能となります。医師やアプリからのアドバイスで、患者の行動をより治りやすくする方向に変えることができたり、日常の食事や運動についてもきめ細かく指導ができたりするようになります。

デジタル&ICT化で行動変容が実現、開発容易に

2018年春、オンライン診療に初めて正式な保険点数がつきました。専用アプリとシステム「YaDoc(ヤードック)」を開発したインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐医師は「薬が効くかどうかが重要だったかつての感染症治療中心の医療から、生活習慣病中心の医療に変わった。治療は患者の行動変容が主眼。患者に寄り添うICTによるオンライン診療は行動変容に寄与する」と話しています。

また2019年中には、禁煙治療アプリ「CureApp禁煙」が保険医療のツールとして承認される見通しです。

開発に当たるキュア・アップ代表取締役社長の佐竹晃太医師は、「禁煙治療では、ニコチンに対する身体的依存を薬でケアする。薬でできない精神的な依存に対処し、禁煙を続けられるよう治療アプリを開発した」と話します。まさに行動を変えるわけです。同社は食習慣などの行動変容が必要なNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の治療アプリも開発中です。

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医師のアイデアをベースに異業種も参加、イノベーションが加速

デジタル化、IT化というと人工知能(AI)なのかと思う人もいるかもしれませんが、「既存の医師のノウハウ、診療やケアのコツをプログラム化したもの」と佐竹医師は言います。しかし、その効果は時に医薬品の新薬並みだとのこと。「米国の糖尿病治療アプリBlueStarが、私が開発を始めたきっかけ。糖尿病の指標の改善度は、新薬並みだった」(佐竹医師)。

医療分野の新薬を開発する場合、有効な分子を探して、ときには3万分1の可能性にかけることもあります。それに対して、治療アプリについては既存の医師の行動変容へのノウハウを集約することで開発が可能で、開発費も医薬品に比べるとかなり低くなります。

一方、患者の行動変容をよりよく促すために、ゲーム要素を取り入れたゲーミフィケーションやコミュニケーションの要素も必要です。運動支援アプリの開発では、アステラス製薬が、ヘルスケア領域では新顔のバンダイナムコと提携し、共同開発も始まります。2019年は、医療のオンライン化とアプリ化が、ヘルスケアビジネスのプレーヤー交代を加速しそうです。

【予測2】スポーツテック:スポーツ×テクノロジーは成長軌道に

2019年、国内のスポーツビジネスは大きな変革期を迎えます。ラグビーワールドカップ(W杯)を皮切りに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年のワールドマスターズゲームズ2021関西と、3年連続で世界のメガスポーツイベントが日本を舞台に開催されるからです。

これだけ大型のスポーツ大会が連続して同じ国で開催されるのは世界でも極めてまれで、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」とも称されます。先駆けとなる日本の取り組みに対し、世界から大きな関心が集まっています。

グローバル視点で見ると、スポーツビジネスは成長産業の一つです。そのけん引役が「スポーツテック」です。

スポーツテックとは、先端ITを中心に、スポーツを「する」「みる」「支える」取り組みに変革をもたらすテクノロジーのことを指します。今や、米国におけるスポーツテック関連のベンチャー投資額は10億ドルを超えているといいます。これは、日本における、すべての産業を合わせたベンチャー投資全体に匹敵する金額です。基盤となる技術には、「AI」「IoT」「ブロックチェーン」「脳科学」など旬の名称が並びます。

例えば、野球の米大リーグが2015年に全30球団のスタジアムで採用した「スタットキャスト」。ミサイルを追尾する軍事用レーダーや、カメラによる映像解析の技術を応用して、ボールや選手の動きをリアルタイムで追跡するシステムです。投球の速度や回転数、打球の打ち出し角度や軌跡、選手の走行距離やスプリント回数など、プレーに関する多種多様な対象を計測します。そのデータ量は、1試合当たり7Tバイト。年間では実に17Pバイトに達します。

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この膨大なデータはテレビ中継の娯楽性を高める素材などに使われると同時に、野球というスポーツそのものの常識も変えます。選手が能力向上のためにデータを活用するケースが増えているからです。代表例は、「フライボール革命」。上から下へのダウンスイングでボールを叩くことを是とする常識は過去の話。下から上のアッパースイングで打球の打ち出し角度を高め、ホームランになる確率を上げようとする選手が増えているといいます。打球のデータが可視化され、打ち出し角度を高める方が好成績につながる可能性が高いことが分かったためです。

データによる可視化の盛り上がりは、プロスポーツの世界に限った特殊な話ではありません。2018年9月に米アップルが開いた新型iPhoneの発表会では、AIを活用してバスケットボールのプレーを分析するアプリ「ホームコート」が注目を集めました。iPhoneのカメラでシュート練習の模様を撮影すると、リアルタイムで動画を解析し、シュートを打ったコート内のエリアと成否を自動で割り出します。新型iPhoneに搭載したAIチップによって端末上での解析が可能になりました。

データによって医療・健康分野と結合、巨大産業に変わる

ホームコートが象徴するのは、スポーツにおける「データ活用の民主化」の急速な進行である。スマートフォンさえあれば、アマチュア選手や一般市民が誰でも手軽に自分の身体に関する情報を解析できます。この環境の広がりには、“スポーツ”にとどまらない波及効果があります。

例えば、世界的な社会課題である医療費の抑制策。予防医療へのシフトが大きな流れになる中、人間の動作やバイタルデータを可視化するスポーツテックは、いずれ医療や介護、健康づくりの分野と密接な関わりを持つことになり、巨大産業に変貌する可能性を秘めています。

日本政府は、スポーツ産業の市場規模を2025年に15.2兆円と現在の3倍程度に伸ばす目標を掲げています。

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この取り組みがうまく進めば、2019年からの3年間はメガスポーツイベントという祭りを推進力として世界的な成長の勢いを取り込む時期になるでしょう。

【予測3】MaaS:五輪を契機にブレークへ、2019年は勝負の年に

自動運転、電動化、ライドシェア――。デジタル技術の進歩を背景として、クルマを中心とするモビリティー市場が大きな転換期を迎えようとしています。とりわけ「所有から利用へ」の流れを生み出したライドシェアと、それを一気に加速させる可能性のある自動運転はインパクト大です。

需要と供給を最適化、世界市場は年平均30%成長

この変化をとらえ、米国のフォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、ドイツのBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンと、世界の自動車大手は、こぞってライドシェアを中心とする新しい事業に乗り出しています。トヨタ自動車や日産自動車も同様です。トヨタは2018年1月に「e‐Palette」のコンセプトを打ち出したほか、同10月にはソフトバンクと提携。合弁会社の「MONET Technologies」を立ち上げました。クルマや人の移動に関する様々なデータを活用し、移動における新たな価値を創造するといいます。

これら自動車メーカー各社が目指すようになっている新分野のビジネスが「MaaS(Mobility as a Service)」。クルマや人の移動に関し、その需要と供給を最適化して、快適なモビリティー環境を提供するサービスです。自動車メーカーは、従来のような車両提供の枠を超え、MaaSのためのプラットフォーム提供を狙います。

ライドシェアを中心としたMaaS事業は、世界中で急速に広がり始めています。調査会社のOrbis Researchによると、2017年の世界のMaaS市場規模は約241億ドル(2兆8000億円)。これが2025年末には約2300億ドル(26兆5000億円)に達します。2018年から2025年までの年間成長率は32.6%になる計算です。

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この市場の伸びのけん引役は、主にウーバー(Uber)やリフト(Lyft)、グラブ(Grab)といったライドシェア事業者です。このため、ライドシェアが広がっていない日本では、まだ影響は限定的と言わざるを得ません。ただ、MaaSを、ライドシェアを超えて、鉄道やバス、施設内などでのパーソナルモビリティー、最適な交通手段や経路を案内するサービスまでを対象としたサービスと捉えれば、日本国内でも急速に市場が拡大していく可能性があります。

新サービスも登場、ICTなど周辺業界にも波及

MaaSは人の移動を最適化するサービスである以上、対象となるモビリティーは、自家用車にはとどまりません。例えば各種の交通手段を使い分ける、いわゆるマルチモーダル向けのサービスなども市場を伸ばしていくはずです。国内ではジョルダンが、以前から提供していた乗換案内に、地図情報をベースにした行き方案内を一体化させたアプリを提供し始めました。

JR東日本も2017年に、「モビリティ変革コンソーシアム」を設立し、各業界の企業に参加を呼びかけました。オープンイノベーション型で、新しいモビリティーサービスを考えようという取り組みで、ICT企業、家電メーカーなど80社以上が参加。Door to Doorなどいくつかのテーマのワーキンググループを設け、MaaSの新サービスを模索しています。

こうしたサービスに付随して、周辺の市場も拡大しています。一つは「Uber Eats」での食事のデリバリーと同様の、MaaSを活用したサービス。トヨタがe‐Paletteで打ち出している移動無人店舗なども、こうした分野に入ります。

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シェアリングや自動運転という環境に合わせたサービスや商品、素材の市場も拡大していきます。例えば、次々に利用者が入れ替わるシェアリングモデルでは、車内の衛生を高めたいというニーズが強まるはず。こうなると、例えば清掃サービスや、簡単に張り替えられる抗菌シートなど、従来とは違った需要が生まれます。

新モビリティーも加わり、MaaSでも2020年が節目に

モビリティーそのものにも、新しいものが登場してくる可能性があります。典型例が空飛ぶタクシーや、家を出てすぐに、あるいは何らかの施設内で利用できるパーソナルモビリティー。空飛ぶタクシーではウーバーが東京でサービス提供する方針を明らかにしています。一方、パーソナルモビリティーでは、電動車いすを開発するWHILLが、空港内でのシェアリングサービスを皮切りにMaaS事業に乗り出しています。

これらの動きは、今後さらに加速していきます。特に2020年にオリンピック・パラリンピック開催を控えた東京では、モビリティーサービスの改善は必須。2019年は日本にとって、MaaSに勝負をかける年となります。

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日経BP総研 マーケティング戦略ラボ/メディカル・ヘルス ラボ(予測1・オンライン診療・アプリ診療)
藤井 省吾

日経BP総研 未来ラボ(予測2・スポーツテック)
高橋 史忠

日経BP総研 クリーンテック ラボ(予測3・MaaS)
河井 保博

連載:日経BP総研「2019年 10の予測」

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