日経BP総研「2019年 10の予測」(下)

消費増税、SDGs、組織風土、シニア、ルールが変わり社会が変わる

2019.01.24

研究員ブログ

  • 日経BP総研 安達 功、田中 太郎、麓 幸子、中須 譲二

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日経BP総研による「2019年・10の予測」の第3回目をお届けします。選んだ10のテーマは、どのテーマも既に変化の「兆し」は見えています。 2019年は、これらの「兆し」が「結実」へと向かい、評価が定まっていく年となるでしょう(本記事は日経 xTECH「研究員の眼」からの転載記事です)。

【予測7】消費増税:省エネとキャッシュレスが加速

消費税の歴史は混乱とともにありました。

1989年、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て竹下登内閣によって3%の消費税が導入された際には、1円硬貨不足でパニックになりました。

2014年の8%導入時には、4月の導入を前に住宅や耐久消費財の駆け込み需要が発生。増税前の駆け込みによって2013年度に着工した住宅数は前年度比で10%増え、反動減で2014年度は10%減りました。駆け込み需要の刈り取りとその後の需要減に対応するために住宅業界では価格競争が激化し、住宅性能向上の議論が一時棚上げとなりました。

2019年10月、消費税が10%へと引き上げられたら、どんなことが起こるでしょうか。

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今回の増税による影響自体は、前回、前々回ほどは大きくはならない可能性が高そうです。前2回の教訓を踏まえ、すでに景気下支え策が相当、準備されているからです。日本銀行は各種対策による補正効果を盛り込んだ実質的な影響をマイナス2.2兆円とみています。これは前回の8%増税時の4分の1程度です。

立ち遅れる中小のキャッシュレス化を後押し

今回の10%への増税は2度にわたり延期されました。結果としてこれが政策的な準備期間を生み、日本の経済インフラ、住宅インフラのアキレスけんを克服するプラスの方向に働く可能性がありそうです。増税対策として検討されている施策で注目するのは、増税2%分のポイント還元と、再開される住宅エコポイント制度です。この景気下支え策によって、中小企業を含めたキャッシュレス決済の進展や住宅の省エネ化が加速する可能性があるからです。

政府は消費税の引き上げに伴う消費の落ち込みを避けるため、中小の小売店で現金を使わずにキャッシュレス決済をすると、2%分をポイントとして還元する施策を導入予定です。デビットカードやQRコードなどによる決済も対象とします。ポイント還元制度の導入と並行して、今は現金決済しかできない小さな店舗のキャッシュレス決済を後押しするために、クレジットカード各社に対して加盟店手数料を引き下げる方向で要請を行う検討を進めています。

日本では決済に占めるキャッシュレスの比率は2割にとどまります。韓国の9割、中国の6割はもとより、米国や欧州の4〜5割より大幅に低く、デジタル経済化に向けたインフラの弱点とも言われています。特に中小小売店の導入が遅れています。経済産業省が2016年に実施した調査では、キャッシュレス決済を導入しない理由は「手数料が高い」が42%で最も多い結果となりました。政府は消費冷え込み緩和とキャッシュレス促進の両方を追う政策を打ち出したわけです。

資産価値と健康リスク軽減を住宅省エネ化で

また、住宅分野では、2015年度に実施した「住宅エコポイント」に近いものが検討されています。これは立ち遅れている住宅の省エネ化を後押しする狙いがあります。住宅エコポイントは一定の省エネ基準を満たした一戸建て住宅やマンションの購入、窓や外壁の断熱改修に対してポイントを還元する仕組み。前回の省エネエコポイント制度では、新築購入に上限30万ポイント、断熱改修などの改修に30万ポイントを発行しました。

住宅・建築分野では2020年までの段階的な省エネ基準義務付けが検討されていますが、住宅分野では対応が遅れ、いまだ省エネ対策を施していない住宅が全住宅ストックの約4割を占めます。

省エネ対策を施していない住宅はエネルギー効率が良くないだけにとどまらず、住宅の資産価値維持を難しくしています。さらに、居住者の健康、特に急増する単身高齢世帯のヒートショック事故などにつながる危険を内包します。

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消費増税を契機として、日本が国際的に遅れているキャッシュレス、住宅省エネといった施策がどのくらい加速するのか、2019年はこれを注視したいと思います。

【予測8】SDGs市場:ビジネスの“共通言語”になったSDGsが浸透

2030年に向けて世界が達成すべき目標を国連がまとめた「持続可能な開発目標(SDGs)」。2019年は、SDGsを基点にした新しいビジネスが全国で生まれるでしょう。というのも、SDGsを推進する政府や自治体の政策が急速に動き出すとともに、SDGsに貢献する企業に投資したいと考えるESG(環境・社会・ガバナンス)投資家の急拡大が見込まれるからです。

SDGsの内容は「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「エネルギーをみんなに そしてグリーンに」「海の豊かさを守ろう」といった単純明快な17の目標と、これらを細分化した169のターゲットで構成しています。これらを達成するには大規模な開発投資が新たに必要となります。世界経済フォーラムのダボス会議で発足した「ビジネスと持続可能な開発委員会」は、「エネルギーと材料」「都市」「食糧と農業」「健康と福祉」の4分野で年間最大12兆ドルのビジネスを生み出すと試算しています。

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SDGsが2016年に発効して以来、日本国内でも企業や行政の間に急速に広まりました。例えば、大手企業が発行するサステナビリティーリポートやCSR報告書などでは、17の目標に対応させて自社の取り組みを整理・紹介することが常識になりつつあります。先進的な企業では、中長期の経営計画に今後の成長分野としてSDGsを位置付ける例もあります。もはやビジネスの“共通言語”になっているのです。

国は、安倍晋三首相を本部長とするSDGs推進本部を立ち上げ、2018年6月に「拡大版SDGsアクションプラン2018」を策定しました。「地方創生」を柱の1つに据え、全国29の自治体を「SDGs未来都市」に認定し、10のモデル事業を進めています。

北海道下川町もその1つで、「SDGsパートナーシップによる良質な暮らし創造実践事業」を進めています。面白いのは、吉本興業と連携し、「エンタメ力」で地方創生を図っているところ。連携協定の一環として、「プロジェクト“下川町株式会社”」を発足させました。(1)特産品の開発、営業、販路拡大、国内外への発信、(2)お笑いイベントを生かした集客・交流による、笑いあふれる地域コミュニティーづくり、(3)スキージャンプのまちづくり──の大きく3つのテーマに取り組んでいます。

国際的イベントが続々 SDGsの機運はいや応なく盛り上がる

2019年はSDGsに関連した国際的なイベントが国内で目白押しです。例えば、6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議では、目標14の「海の豊かさを守ろう」が焦点になるでしょう。廃プラスチックの海洋汚染が世界的な脅威として急浮上する中で、対策に出遅れた日本政府はG20で失地回復を図ろうと躍起になっています。8月に横浜で開かれる第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でも、アフリカの持続可能な成長のためにSDGsが話題に上るのは必至です。

経団連は、TICAD7に向けた戦略の方向性として一番に「イノベーション推進による包摂的成長の実現(Society 5.0 for SDGs)」を掲げます。これらに合わせてSDGsを推進する政策が加速し、地方や中小企業にも取り組みは広がるでしょう。「SDGsビジネス戦略を社内で策定中だ。地方では青年会議所などを中心に若手経営者がSDGsを基点にしたビジネスを立ち上げようと盛り上がっている」。北陸地方のある中小企業経営者はSDGsの可能性に期待をかけます。

SDGsは企業や投資家だけでなく、次世代との“共通言語”にもなっていきます。2020年からは小中学校の教科書でもSDGsが紹介されます。社会の課題に敏感な若い人材を獲得するためにも、SDGsの取り組みは欠かせなくなるでしょう。

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【予測9】組織風土改革:「基準となる社員像」が大きく変わる

2016年に女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者数が301人以上の企業には、女性活躍に関する数値目標を含む行動計画の策定が義務付けられました。そして2018年、働き方改革関連法が成立し、日本の労働法制で初めて残業時間の上限規制の導入が決定しました。これにより、2019年は、日本企業の「基準となる社員像」が大きく変わることになります。

共働きが1188万世帯、組織の主流派に

これまでの日本企業は、「時間制約・制限がなく働ける元気な男性社員」を組織の基準としていました。つまり、専業主婦のいる片働きの男性が基準でした。専業主婦に家事・育児・介護など私的な領域のことを全部任せ、無制限に働ける男性を基準としてきたのです。それで組織をマネジメントし、企業活動をしてきたわけですが、その変革を迫られることになります。

男性の雇用者と無業の妻からなる片働き世帯と、共働き世帯の数を比較すると、共働き世帯が圧倒的です。1980年は片働き1114万世帯、共働き614万世帯だったが、90年代半ばに逆転し、2017年では片働き641万世帯に対し共働き1188万世帯と、共働きが547万世帯も多くなりました。

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若手の共働き世帯にとっては家事も育児もシェアするのが当たり前。連合調査(2014年)では、育児休業を取得したい20代は全体の8割と高く、育児参加意欲が高い結果が出ています。また、少子高齢が進む日本は、2025年に高齢化率30%という世界でも類を見ない超高齢国家となります。中高年層では、性差問わず今後介護と仕事の両立を迫られる人が急増するでしょう。

「専業主婦に育児・介護を任せて無制限・無制約に働ける男性社員」は少数派となり、これからは、時間制約・制限が生じがちな社員が多数派となる。これを筆者は『日経ビジネス』で「新しいマジョリティ」と名付けましたが、それを基準とした企業活動のあり方(組織マネジメントや人事制度をも含む)を組み立てる必要があります。つまり、女性活躍、そしてそれに続く働き方改革において企業が迫られているのは、単なる「女性管理職を増やすこと」や「残業時間を削減すること」ではなく、組織風土自体を変えるという大きな変革なのです。

男性育休が個人の多様性を促進しイノベーションも期待

その変革の例として日立製作所のケースを紹介しましょう。

日立では、男性の育児休業取得者が直近3年で延べ1000人(配偶者出産休暇取得者含む)であり、しかも育休取得日数は平均309日と意外なほど多くなっています。“女性並みに”育休を取る男性が増えているのです。

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「もっと女性が活躍できる会社にしたい。そのために男性が今まで以上に家事・育児に参加する必要がある」──。こう語るのは人財統括本部人事勤労本部長兼ダイバーシティ推進センタ長の三輪高嶺氏。日本を代表する大企業である日立の風土が変わってきたことがこの数字に表れています。

日立はこの10年で事業構造を大きく変え、社会イノベーション事業を中心とした企業となりました。社会イノベーション事業をグローバルに展開するために、多様な人財が活躍するダイバーシティ経営を進めていますが、組織のダイバーシティだけでなく、個人内の価値観の多様化(パーソナルダイバーシティ)も重視しています。つまり、イノベーションを生み出すために、社員には仕事以外でも様々な経験をしてほしいというのが日立の考え方です。

男性社員も、仕事のみではなく育児参画をはじめとする社会の接点を通して様々な経験や価値観を持ち、多様性を深める。そうすることがビジネスメリットにもつながるというわけです。

この戦略が、風土改革をもたらし、それが男性育休の数値に表れていると筆者は見ています。

【予測10】シニア人材力:人生100年時代に先駆け活用の動きが本格化

働くシニア比率が世界一高くなった日本。2014年に初めて60%を超えた60〜64歳就業率はそのまま続伸し、2017年に66.2%と過去最高を記録(総務省労働力調査)。就労者が65歳まで働けるようにした2013年の高年齢者雇用安定法の施行が大きく影響しています。

その年齢も70歳に引き上げる方針で、2019年夏までに3年間の実行計画が閣議決定されます。35〜64歳の3人に2人が65歳以降も働く意欲を持ち(内閣府調査より)、今日本は世界に前例のないシニア人材活用社会に向かっています。

シニアは機能するか?民間企業の8割が「とりあえず継続雇用」

急速な変化はひずみも伴います。高年齢者雇用安定法が定める選択肢は「65歳までの継続雇用」「65歳までの定年の引き上げ」「定年の廃止」ですが、現状「継続雇用」が全体の8割と大半を占めます。人員確保で苦労している中小企業及び医療・介護・運輸といった業種で「定年延長」を選択する傾向が高いものの、全体で見ると一部。大きな違いは賃金です。

「継続雇用」企業の社員は再雇用される際に賃金が減り、「定年延長」企業では賃金水準が維持されるケースが主流です。制度導入当時「継続雇用」企業に「労務費の削減」効果はありました(高齢・障害・求職者支援機構調査より)。しかし、シニア社員のモチベーションとパフォーマンスは落ちました。

その後、働いてもらう以上は戦力になってもらいたいとの意向も働き、直近の調査では「継続雇用」シニア社員の賃金は改善傾向にあります。それでも定年直前の基本給を100としたとき、「定年延長」社員の基本給は94.9なのに「継続雇用」社員は71.6と開きがあります。

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「定年延長」企業では、60歳以降も同じような仕事、責任、役割、賃金で働くケースが大半(同機構調査より)。モチベーションも維持され、企業が得た効果も「人材確保」「優秀な社員に働いてもらえた」「遠慮せず戦力として働いてもらえる」が上位回答でした。

先述の通りこうした企業は少数派で「定年延長」のハードルは高いのですが、厚生労働省は「継続雇用」企業に対して「定年延長」や65歳超の「継続雇用」を働きかけています。

同省所管の高齢・障害・求職者支援機構が、企業の人事労務管理経験者や経営コンサルタントといった専門家約500人を65歳超雇用推進プランナーに養成し、2022年までに全国の12万社を訪問して見直しを促しています。

同機構はこれまでも企業に接触しており、各社の人員構成、人事制度、課題を把握しています。その情報を基に特に見直しが有効な企業、少なくとも3万社に他社事例に基づく具体的プランを作成。「個々の企業単位にプランを示しその4割(3万社であれば1万2000社)が何らかの見直しを行うことを目標にしている」(同機構 雇用推進・研究部長の浅野浩美氏)としています。

過去、「昭和60年に定年60歳」のフレーズで55歳定年が60歳に引き上げられたことがありました。当時も、容易に実現したわけではありませんが、「周りが引き上げるのなら」と他社の動きに追随する企業が出て潮目が変わるタイミングがありました。「今は定年延長に関心を持つ企業、検討を始める企業が増え始めた時期」(浅野雇用推進・研究部長)。65歳定年だと人材採用で有利なこともあり、「定年延長」企業の割合が半数に近づくと一気に流れが加速する可能性はあります。

課題は年下上司の抵抗 年上を管理する管理職教育が必要

課題もあります。機構が定年延長検討中の企業に聞いた導入時の課題は、「若年・中堅社員の能力開発」「組織の若返り」「高齢社員の部下を持つ管理職のマネジメント能力」と若年中堅社員への配慮が並びます。

調査からはシニア部下に対する年下上司の抵抗感が見え、「経験を生かしたアドバイスがもらえる」「面倒見がよい」「人脈を持っている」というプラス評価の一方、「柔軟性に欠ける」「過去の経験に固執している」「事務的仕事を自分でやろうとしない」「言うだけで行動が伴わない」と苦言が並びます。

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報告書からは、期待する役割の伝達、目標作成、面接、仕事配分の相談なども、対シニア社員では行われにくくなる実態が分かります。シニア活用組織の実現は、年上をしっかり管理できるようにする中堅管理職教育が絶対条件になります。

2019年は、アラ環およびアラ環を使う中堅社員双方にとっての“マインドリセット”元年となるでしょう。

日経BP総研副所長 コンサルティング局長(予測7・消費増税)
安達 功

日経ESG編集長(予測8・SDGs市場)
田中 太郎

日経BP総研 フェロー(予測9・組織風土改革)
麓 幸子

日経BP総研 コミュニケーション ラボ所長(予測10・シニア人材力)
中須 譲二

連載:日経BP総研「2019年 10の予測」

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