あらゆるモノがインターネットにつながるIoT技術を住宅に活用した「IoTスマートハウス」の注目度が高まっています。大和ハウス工業やLIXILといった最大手の住宅関連メーカーが、2018年からサービスの提供を始めると発表したからです。今年は「IoTスマートハウス“元年”」になりそうです。
スマートハウスは過去に何度かブームになっています。“電脳住宅”や“ユビキタス住宅”と呼ばれていました。今回のブームは冒頭に記したようにIoT技術を取り込んだ点が大きな違いです。あらゆる建材や家電がインターネットにつながり、情報をやり取りできることから、これまでにないサービスが提供できると期待されています。そんな住宅をここでは「IoTスマートハウス」と呼んでいます。
日経BP総研・社会インフラ研究所では、2016年頃からIoTスマートハウスの動向について国内を中心に注視してきました。今年はグローバルな状況も確認しておきたいと考え、1月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された世界最大の消費者向け技術の総合イベントCES2018を視察してきました。
防犯、家電、住設のメーカーがアイデアを競う
CESはラスベガスで毎年、開催されているイベントで、50年以上の歴史があります。対象はコンシューマ向けの様々な分野のイノベーション技術で、家電はもちろんクルマ、音楽、ゲーム、健康、ロボットなど多岐にわたります。住宅関連では、「スマートホーム」のカテゴリーがあり、100社を超す企業が出展していました。なお、呼称は「スマートホーム」「スマートハウス」がありますが、以下では「スマートハウス」で統一します。
CESに出展しているのは、スマートハウスのサービスプロバイダーや家電、防犯設備、住宅設備を扱う企業などです。
米国におけるスマートハウスのサービスプロバイダー最大手であるビビント(Vivint)は、玄関錠や防犯カメラなどのセキュリティシステムと照明の自動化、温熱センサーなどを、一つのアプリケーションで制御できるサービスを展示していました。今年の目玉は、このセキュリティシステムをご近所まで広げる新しいモバイルアプリ「Streety」です。近隣住民が共有する住宅用カメラのネットワークを介して住宅周辺の状況を監視することができます。地域ぐるみの“安心”を提供する狙いです(写真1)。
写真1 ビビント(Vivint)の展示ブース
セキュリティシステムを住宅周辺にまで広げる新しいモバイルアプリ「Streety」を説明するため、家形をいくつも並べて、ご近所を再現していました。
家電や住設のメーカーも、様々な提案を試みています。家電大手ワールプール(Whirlpool、米国)は、レシピサイト「ヤムリー(yummly)」と連携してサービスの充実を図っていました。例えばオーブン。ヤムリーではスマホのカメラを食材にかざすと、それらを使った料理を提案してくれる機能があります。その調理方法に応じて、オーブンの予熱温度を自動で設定し、調理の手順をタッチパネルで知らせてくれます。いわば、家事を楽にする“便利”な機能と言えます(写真2)。
写真2 ワールプール(Whirlpool)の展示ブース
レシピサイト「ヤムリー(yummly)」との連携でオーブンや電子レンジのスマート化を図っています。
また、水まわり機器メーカーのコーラー(Kohler、米国)が展示した「コーラー・コネクト(Kohler Konnect)」も斬新です。水栓、洗面台、シャワー、バス、トイレなどの水まわり機器をインターネットに接続して一つのアプリで制御するというものです。洗面化粧台に取り付けた照明や水栓を声でも制御できます。例えば「メイクアップに適した照明にして」「8オンスの水を注いで」と話し掛ければ、機器が対応します。シャワーやバスについては、あらかじめ好みの温度や水量を設定しておけば「スタート・マイ・モーニング・シャワー」あるいは「スタート・マイ・イブニング・バス」といった一言で好みの設定が再現されます。便利に加えて“快適”を提供するアイデアと言えます(写真3)。
写真3 コーラー(Kohler)の展示ブース
「コーラー・コネクト(Kohler Konnect)」を出展していました。
AIスピーカーはIoTスマートハウス普及のトリガーとなる
スマートハウスの展示スペースで目に付いたのは、アマゾン・エコーやグーグル・ホームといったAIスピーカーに対応した製品です。コーラーの音声制御はアマゾンのAIアシスタント「アマゾン・アレクサ」を内蔵した製品でした。これなら、近くにAI スピーカーが無くても音声に対応できます。音声制御であれば、スマホの操作に慣れていない子供や高齢者でも機器を操作しやすくなります。今後ますます、AIスピーカー対応製品は増えていくでしょう。AIスピーカーはIoTスマートハウスを普及させるトリガーになるかもしれません。
CES2018では、メーンとなる家電の展示会場でも、スマート家電が出展されていました。特に、サムスン電子やLGエレクトロニクスといった韓国勢が最も積極的だった印象です。
サムスンは、冷蔵庫を“ファミリーハブ”と位置づけ、扉にディスプレイを付け、ここにドアホンや防犯カメラの映像や、温熱センサーの値、家族への伝言などを表示する機能を搭載しています。LGは、スマホで操作できる洗濯乾燥機やレシピサイト対応の冷蔵庫などを出展していました。
日本でIoTスマートハウスといえば省エネルギーの機能が注目されることが多いのですが、海外勢はより安心に、より便利に、より快適に、と様々な方向でサービスの充実を図っています。日本でもIoTスマートハウスが普及するには、コンシューマのニーズにこたえるサービスが欠かせません。そんなサービスを生み出すには、米国のCES2018で見たような家電や住設がヒントになるに違いありません。
日経BP総研 社会インフラ研究所
桑原 豊