研究員ブログ

「太陽光発電」が地方と産業を変える

2018.01.29

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    日経BP総研 クリーンテック研究所 金子 憲治

「日本に適したクリーンエネルギーの本命」と言われつつ、一部では「バブルに過ぎない」「投資家が儲けているだけ」と中傷される―――。固定価格買取制度(FIT)によって2012年以降、急速に増大した太陽光発電に関しては、いまでも毀誉褒貶が絶えません。

実際、太陽光関連事業から撤退する事業者がある一方で、ここに来て新規参入する企業もあります。では、今後、国内の太陽光発電市場は、どうなっていくのでしょうか。「温暖化対策のため必要」という「べき論」を離れて考えてみましょう。

キーワードは、「産業の民主化」「地方の自立」にあると思っています。

メガソーラー(大規模太陽光発電所)の取材で東北や北海道、九州などを訪れると、地方の優良な建設会社や電設会社が、太陽光発電システムを勉強しつつ設計・施工し、発電事業に乗り出しているケースが多いことに気付きます。どの会社も公共投資や電力会社の仕事が先細りのなか、次の成長事業を求めて必死になっています。

「メガソーラーの次」に発展

FITで自ら発電所を建設し、売電を始めた地方企業は、みなその面白さや売電収入という安定的なビジネスに目覚めます。「これまで電力会社に吸い取られていた地域のお金が地域で回るようになった」と実感しています。

太陽光発電は2つの視点で産業を民主化します。これまでの巨大な火力発電所を中心とした電力システムでは、大手プラント会社が設備をつくり、大手電力が電気を供給していました。地方企業は、大手の「下請け」であり、電気は買うしかありませんでした。

地方企業によるメガソーラーでは、地方中小企業が設備を作り、電気を売ります。こうした産業構造の変化は、「産業の民主化」と「地方の自立化」をもたらします。

千葉県匝瑳市のソーラーシェアリング写真 千葉県匝瑳市のソーラーシェアリング(出所:日経BP総研 クリーンテック研究所)

ただ一方で、「メガソーラーは雇用を生まない」とも言われます。それは、作ってしまうと手がかからないからです。ただ、稼働して数年経ち、「意外に不具合が多い」ことも分かってきました。こまめに点検する役割は地域の企業が担っていくことになります。

加えて、目先の効く地方企業は、「メガソーラーの次」を模索しています。ここでは4つの方向性があります。1つは太陽光以外の再生可能エネルギー、具体的には、バイオマス、小水力、地熱発電などです。2つ目は、将来的に大量に発生する使用済みパネルのリユース・リサイクル、適正処理の事業。3つ目は、太陽光と農業を組み合わせた「ソーラーシェアリング」(写真)。そして、4つ目が、今後発生する太陽光の余剰電力などを活用した自家消費型事業、代表的なものが水素製造や植物工場です。

メガソーラー自体の雇用創出効果は、限定的です。しかし、その周辺には、一次産業やリサイクル産業などと連携した、さまざまな事業展開が想定できるのです。

大企業の植民地か?

こうした話をすると、「そうはいっても、地方のメガソーラーの多くは東京や大阪の大手資本によるもので、大企業の植民地になっているだけ」と反論する人もいます。確かにFITがスタートして1~2年には、大手商社などがこぞって10MWを超える巨大な太陽光発電所を地方に作りました。

しかし、国内大手商社は、買取価格の低下とともに日本での再エネ開発からはほとんど手を引き、今では中東やインドなど海外での大規模開発に軸足を移しています。ここ数年、国内メガソーラー開発は、国内ベンチャーや地方中堅企業、そして外資系企業が主体です。地方銀行の再エネに対する積極的なファイナンスがそれを可能にしています。

このうち外資系企業の開発案件は、いずれ国内企業に売却されると見ています。現在、セカンダリー市場は高値が続いていますが、稼働年数がたつにつれ、売値が下り、地方企業などが低価格で購入し再投資して、FIT後に発電を続けるシナリオも考えられます。

将来のエネルギーシステムの在り方を巡っては、「エネルギーの地産地消」がよく叫ばれます。このキーワードが特に好きなのは、地方から選出された国会議員です。その背後には、こうした再エネのもたらす「地方の自立」効果への気付きがあります。

この満足度別に、「今の仕事」に対する評価をみると、次のような項目で評価の差が大きくなりました
「プロジェクト開始から終了までの全プロセスに関わる」
「アウトプットに対する評価・成果のフィードバックを受けている」
「勤務先にとって重要な仕事である」
「自分が興味・関心や強みを持つ領域に近い内容である」
「異動や職種転換などの仕組みがあり、新しいことにチャレンジできる」

このことから、組織に対する満足度をより高めるには、今の仕事の延長線上ではなく、任せる範囲を広げること、新しいことにチャレンジする機会を与えることが重要といえます。

「太陽光100GW」も視野に

「今後、国内の太陽光市場はどうなるのか」という問いから、地方創生の話に展開してしまいましたが、それは、「市場規模」を考える時に、こうした地方の動きがカギを握るからです。

政府はベストミックスで2030年の再エネ比率を22~24%、そのうち太陽光分を7%と想定しました。これは約64GWの太陽光設備に想定します。一方で、現在の設備認定は80GWに達し、改正FITに伴う失効分を引くと、65G~70GWと見られます。

「64GWで打ち止め」とすると、もはやそれほど大胆な新規開発は必要ないことになります。しかし、自民党を含め地方出身議員の多くは、「再エネ比率22~24%では国際的に見劣りする」として、30~40%への引き上げを求めています。

こうした主張は、「原発再稼働が遅れる中で地球温暖化対策に不可欠」との「大義」が前面に立ちますが、本音としては「再エネが地方自立の切り札」との思いがあります。

仮に「再エネ比率30%」となれば、開発余地の大きい太陽光は、いまの「64GW」を「100GW」に積み増す可能性が高くなります。ただ、工場用の未利用地などメガソーラーの最適地は、すでにほぼ開発しつくされおり、残された「平たんで広い土地は、耕作放棄地しかない」というのが、太陽光デバロッパーの一致した見方です。

逆に言うと、太陽光100GWを達成するには、耕作放棄地の利用が大きな政策課題になります。それは、既述したように、「地方の自立」という議員にとって温暖化問題以上に差し迫った政策課題の解決と一石二鳥になります。

今後の太陽光市場の動向を考える際には、こうした視点を持ちつつ、エネルギー政策と地方活性化のための政策の動きを追うことが重要になります。

日経BP総研 クリーンテック研究所
金子 憲治

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