研究員ブログ

海外の新エネルギービジネスに学ぶ

2018.01.25

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    日経BP総研 クリーンテック研究所 藤堂 安人

日経BP総研 クリーンテック研究所は創設以来、事業の柱の1つとして、電力システムを中心とした世界のエネルギー業界における新しいビジネスモデルを継続的にウオッチしています。

欧米やオーストラリア、ニュージーランドといった電力システムが自由化されて、新しいビジネスが勃興している国を中心にエネルギー事業者を直接取材し、その知見を基に専門レポートや事業戦略を構築するお手伝いをしています。日本でも電力システムの自由化が徐々に進んでいることから、先行する海外諸国の状況は日本の未来を見通すうえでも重要だからです。

その電力ビジネス先進国でこのところ、頻繁に聞かれるようになったキーワードが2つあります。エネルギー業界にいない方には耳慣れない言葉かもしれませんが、「DER(分散エネルギー資源)」と「(エネルギー)ストレージ」というキーワードです。

DERとは、家庭や工場、ビルなど電力を使う立場の消費者の家やビルに設置されたさまざまなエネルギー機器を指します。屋根に設置された太陽光パネル、家庭に電気とお湯を供給する燃料電池、ヒートポンプ給湯器などが一般的ですし、工場やビル、病院には非常用電源が昔から設置されてきました。さらに日中発電した電力を貯めて夜間に使うために電気を貯められる蓄電池や電気自動車(EV)もDERとして位置づけられてきました。

これらは一見バラバラで薄く広く分散しているエネルギー機器ですが、これらをIoT(モノのインターネット)を活用して、あたかも1つの大きな発電所に匹敵する技術が確立されて、一躍脚光を浴びることになりました。この手法を「バーチャルパワープラント(仮想発電所)」と呼びます。

「仮想発電所」では当初、事業所や工場が持つ非常用電源が中心でしたが、太陽光や蓄電池の設置が増え、さらには需要家が持つエアコンなどの使用量を削減することによって電力供給と見なすデマンドレスポンスのスキームも登場してきて、これらをすべて統合して、DERという言葉でひとくくりにして管理するようになってきたのです。IoTの進歩がそれを技術的に可能にし、DERを集めて電力会社や市場で取り引きして利益を得る「アグリゲーター」という事業者が登場して、ビジネスモデルとして普及してきました(図1)。

図1 VPP(仮想発電所)のビジネスモデル

VPP(仮想発電所)のビジネスモデル

(出所:日経BP総研 クリーンテック研究所『世界分散エネルギービジネス総覧』)

社会の隅々に分散するDERを活用することは、これまで大手電力会社が原子力発電所や火力発電所などから一方向で電気を供給するシステムから、DER同士が電力を地域内でやり取りするシステムへの転換も意味します。現在は、「大規模集中型」から「分散型」への移行期だと見る向きもあります。

DER同士の取り引きを達成させる仕組みとして近年注目されているのが、P2P(ピア・ツー・ピア)というビジネスモデルです(図2)。これまで電気の売買取引は大手電力会社を介してしかできませんでしたが、これによって発電設備を保有する需要家同士が直接取引できるようになるほか、需要家が特定の発電所を選択できるメニューも可能になります(図3)。

図2 P2Pのビジネスモデル

P2Pのビジネスモデル

(出所:日経BP総研 クリーンテック研究所『世界再エネ・ストレージビジネス総覧』)

図3 発電所を選択しているインターフェースイメージ

発電所を選択しているインターフェースイメージ

(出所:Open Utility)

これは、ブロックチェーン技術などを活用して取引をセキュアにしたり、両者の発電・消費状況を30分単位で管理することで直接取引状況を作り出すP2Pプラットフォームを開発することで可能になりました。こうしたP2Pプラットフォームを開発・提供するソフトウエアベンチャーやプラットフォームを活用して新メニューを打ち出す電力事業者や金融関係者も登場してきて、エネルギー業界の参入者は多彩になってきました。

もう一つのキーワードであるストレージは、需要サイドと供給サイドの両面でこのところにわかに注目され始めました。

需要サイドとしては、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が世界的に拡大する中で、系統網の周波数が秒単位から分単位で変動する「短周期変動」と、数時間から数日単位で需給バランスが崩れる「長周期変動」という2つの問題が深刻化してきたことがあります。それらを一挙に解決する「万能薬」としてストレージに期待が集まってきたのです。

しかし、ストレージはコスト面からこれまでは実ビジネスとしては採用が進んできませんでした。そこで、供給サイドとしては、ストレージの主役であるリチウムイオン電池の量産化が進み、価格が下がってきたことから採算性に合うケースが多くなってきました。

リチウムイオン蓄電池の最大の需要先は電気自動車で、電気自動車向けに製造した蓄電池セルをエネルギー用途にも転用して、コストダウンできる企業がここ数年大胆な価格を提示してきて、年率20%で価格が下がっていると言われています。

量産化と価格競争の先頭を走っているのが、米テスラとパナソニックですが、LG化学やサムスンSDIといった韓国勢がこのところ受注を伸ばしています。さらに、CATL(寧徳時代新能源科技)やBYDといった中国メーカーも強気の増産計画を発表していて、蓄電池セル製造は韓国、中国勢が中心になりつつあります。

ただし、リチウムイオン蓄電池システムのエネルギー市場は、バリューチェーンのレイヤーごとに分業する産業構造が形成されつつあり(図4)、付加価値が上流から下流に移行しつつあります。

図4 リチウムイオン蓄電池システムを中心としたバリューチェーンの概要と各レイヤーの主要参入企業。

リチウムイオン蓄電池システムを中心としたバリューチェーンの概要と各レイヤーの主要参入企業

注:企業によって複数のレイヤーにまたがるが、主要と思われる所に配置(出所:日経BP総研 クリーンテック研究所『世界再エネ・ストレージビジネス総覧』)

特に、ストレージ・バリューチェーンの中心的存在になってきたのが「ストレージ・インテグレーター」です。蓄電池セルメーカーと蓄電池ユーザーの中間に位置し、ユーザーの環境に合せて最適な蓄電池を選択して、自社または他社のソフトウエアやインターフェースを組み込んで、ソリューションとして提供する業種です。

大手インテグレーターは、蓄電池セルの評価装置を持っていて、自社基準で認証したものを採用することが多く、蓄電池セルメーカーは大手インテグレーターに採用してもらえるかどうかで、ビジネスの成否が決まってしまうほどになっています。

日本企業の中にも蓄電池セル製造から撤退して、インテグレーターとしてのビジネスに注力するケースが出てきました。

これまで日本企業の多くは蓄電池というハードに強みを発揮してきましたが、戦略変更を迫られていることは確かです。また、これまで蓄電池になじみのない企業でもバリューチェーンのどこかでビジネスチャンスをつかむ可能性もあります。そのために参考になる海外事例の紹介など、事業戦略のお手伝いをさせていただければと思います。

日経BP総研 クリーンテック研究所
藤堂 安人

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