ジュリーこと沢田研二が歌う「TOKIO」(作詞:糸井重里)がヒットしたのは1980年。このなかで「TOKIO」は、空を飛び、そして闇を裂いて舞い上がると歌われました。
当時、人口1000万人が集積する「メガシティ」は数カ所。ニューヨークを追って世界のメガシティとなった東京はピカピカに輝いて見え、スーパーシティーとして舞い上がる勢いがありました。
それから40年近くの歳月が流れ、世界のメガシティは31カ所に増えました。都市間競争でしのぎを削る新進気鋭のライバルたちが登場し、東京はそのなかで埋没しかねない状況になったわけです。特に新しいテクノロジーの導入やイノベーションを実現する場としての「東京」は、どうもくすんで見えてしまいます。Uberの日本での苦労なども分かりやすい例で、規制を変えるための議論をここ数年していて、いまだに本来の形でのサービスを提供できていません。
新しく台頭してくるコンゴ共和国のキンシャサや、インドのチェンナイといった都市のほうが、東京よりも新しいテクノロジーを実装しやすい、あるいはイノベーションを実現できる可能性が高いかもしれません。また、例えば都市を「ビジネスとイノベーションのためのエコシステム」と位置付けるA.T.カーニーの「2017年グローバル都市調査」では、急速に成長を遂げる都市として、インフラ分野でテルアビブを、ビジネスの容易さの分野でサンクトペテルブルグを挙げています。
ビジネスを生成するという観点からの都市間競争は激しさとスピードを加速させています。いったん流れができると「多様性」と「集積力」をドライビングフォースとして、雪だるま式に能力の高い多様な人材が集まり始めます。
そんななかで東京がブレークスルーするにはどうすればいいのか。世界から人が集まり、情報が集まり、経済活動も盛んで、活気がある。そんな「東京の未来」をつかむためにはどうすればいいのか――。日経BP総研では、これを考えるためのサイトを開設しました。
写真2 東京の未来はどうなる?Beyond 2020:日経BP総研リポートのトップ画面
篠山紀信氏が撮る東京の「現在」、星野リゾートの星野佳路氏や法政大学総長の田中優子氏ら識者による座談会、日経BP総研の所長対談など、東京の過去・現在・未来を多面的に分析する。
これまでの東京の100年は、いわば「開発と利権」をエンジンにして、次々に湧き出してくる国内を中心とした需要を消費する時代でした。しかし、少子化や国内人口減少によって需要が減じていくこれからの100年は、「魅力」と「もてなし」で世界から需要を呼び込む時代になります。
縮小する未来に戦々恐々とするのではなく、アジア、そして世界の需要を呼び込む。そんな新しい東京の未来像を実現するために必要なことは何か? 日経BP総研の各所長が議論して得た結論のひとつは、社会とテクノロジーの両方の動きを理解し、周囲を引っ張っていく「人材」の必要性。東京をビジョナリストとアーキテクトの両方の資質を兼ね備えたリーダーたちが競って集まってくる場にしていくことが真っ先に必要なことです。
約1000日後に迫った2020年オリンピック・パラリンピックの開催はこれを実践するために極めて大きなチャンスです。開催に合わせて、特区を活用しながら東京をイノベーションショーケースにして、人材が活躍する場を世界に示していく。見本市として世界に東京全体をお披露目する場なんて、ほかにはなかなかありません。東京オリンピック・パラリンピックで何を示すかは待ったなしの重要課題なのです。
日本の首都・東京は、2016年時点で集積人口3814万人を擁する世界最大の人口集積地であり、世界でもトップレベルの治安の良さ、医療体制、公共交通網などを誇ります。一方でこれからさらに進む高齢化、世界の中での都市間競争、首都直下型地震への備えなど、乗り越えるべき多くの課題に直面します。
「人材」という観点を主眼に置きながら、新しい結合を促す「オープンイノベーション都市」を目指し、2020年までに是が非でも目に見える形で示す。それが21世紀にTOKYOが再び空を飛び、舞い上がれるかどうかを大きく左右するのだと思います。
日経BP総研副所長 コンサルティング局長(予測7・消費増税)
安達 功