ここが違う! 自費出版とカスタム出版/企業出版

2016.08.23

コンテンツマーケティング

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    日経BP社 カスタム企画部 担当部長 大塚 葉

自費出版とカスタム出版・企業出版。どちらも制作費用を著者(クライアント)が負担する方法ですが、違いはどこにあるのでしょうか? それぞれの特徴をご紹介しましょう。

柔道でオリンピックをめざしていた20代女子が出版社に就職し、コミック編集者として活躍する物語『重版出来!(じゅうはんしゅったい)』(松田奈緒子著/小学館)。TVドラマでは黒木華さん、オダギリジョーさんらが出演し、原作コミックとともに話題になりました。「重版」という出版用語を、このドラマで初めて知った人もいるかもしれません。

最初に発行した分が「初版」。初版分が売れて刷り増しをするのが「重版」(増刷)です。コミックの最終ページ(奥付)に「第2刷、第3刷」などと書かれていたら重版がかかったということで、それだけ売れたということになります。もちろんコミックだけでなく書籍も同様。重版がかかることが著者、出版社、書店にとって最高に嬉しい瞬間です。

さてその書籍ですが、出版の形がいくつかあります。書籍を発行するには原稿料、デザイン料、印刷・製本費などの費用がかかりますが、これらを出版社が負担し、販売費などで売上をたてるのが商業出版と言われる形態です。

一方で、出版費用を出版社ではなく著者(クライアント)が負担する場合もあります。その一つが自費出版、または個人出版という方法です。自費出版の例としては、「自作の俳句を集めた句集を作って、俳句仲間に配りたい」「自分史を作って、米寿のお祝いに親族に配布したい」「亡くなった家族をしのぶ追悼集を会葬者に渡したい」などがあります。

自費出版では、たいてい著者(本を出したい人)本人が原稿を書き、編集者が手を入れることはあまりありません。作った書籍を書店に流通させないことも多いものです。読者として想定されているのが著者の周囲の関係者だけ、というわけですね。

もっと多くの読者に届く、カスタム出版/企業出版

同じように著者が出版費用を負担するケースで、カスタム出版、企業出版と呼ばれる方法もあります。自費出版と、どのように違うのでしょうか。

先ほど「自費出版では、著者の周囲の関係者だけが読者」と書きましたが、制作した書籍を多くの一般読者にも読んでもらうことで、著者の知名度を向上させたり、ブランディングやマーケティングに役立てたりすることもできます。同じように著者が費用を負担するにしても、より多くの読者に届けることを目的とした出版形態を、自費出版と区別してカスタム出版、企業出版と呼ぶのです。この形で出る書籍を、カスタム書籍ということもあります。

カスタム/企業出版と自費出版の違いを具体的に見ていきましょう。前述のようにカスタム出版、企業出版では、書籍の取次店を経由した正規ルートでの書店販売を行えます。リアルな書店だけでなくネット書店でも扱ってもらえるので、幅広い読者に本をアピールすることができます。

商業出版と同じようにカスタム/企業出版の場合は、書籍の販促に力を入れることもできます。例えば新聞や雑誌などに書籍の広告を出したり、メールマガジンなどに広告を入れてより多くの読者に発行を伝えることができます。

また、書店で書籍の販促(販売促進)をするための様々な施策があります。その一つが「拡材(拡販材料、拡張営業材料)」を利用するもの。書店の売り場に書籍のポスターを飾ってアピールするのも一つの方法です。

書店に貼られたポスターでお客の目を引く

書店に貼られたポスターでお客の目を引く

何よりも自費出版との大きな違いは、より多くの読者にアピールし、著者のネームバリューを上げたりブランディングに役立てたりするために、担当編集者が書籍の内容について丁寧にアドバイスする点です。文章の書き方、目次の構成、見出しのつけ方など企画段階からプロの編集者がパートナーとして参加し、作った書籍の商品価値を高めるお手伝いをするのです。

こうした理由で、特にビジネス書はカスタム出版、企業出版で発行されるものも増えています。書籍を発行することで企業のインナーブランディング、アウターブランディングなどの効果を狙うというわけです。カスタム書籍の担当編集者は書籍のニーズや売れ行きなどのトレンドを常にチェックしていますから、こうした編集者と二人三脚で作れるのがカスタム書籍の大きなメリットと言えるでしょう。

いま注目のビジネス書と、トレンドは?

それでは現在、ビジネス書ではどのようなものが売れているのでしょうか? まずはリアルな書店の声をお聞きしてみましょう。

東京駅近くにある丸善 丸の内本店。ここには、ビジネスパーソンを中心に、1日約1万5000人のお客様が訪れます。

同店副店長兼和書グループ長補佐の茂垣憲一さんによれば、最近のビジネス書では、人生論や問題解決に関する書籍の売れ行きが良いとのこと。著者も企業の経営者やコンサルタントなどのビジネスリーダーだけでなく、スポーツ選手や哲学者が執筆した本がビジネス書の棚に並べられることもあるそうです。

表紙は書籍の「顔」とも言いますが、茂垣さんによれば、最近の表紙デザインのトレンドはシンプルなものとのこと。また書籍の題名に関しては「以前、文章のように長いタイトルの書籍が流行った時期もありましたが、最近は短めのタイトルも増えています」(茂垣さん)。

最近のビジネス書のブームは、もう一つあります。「このところ特に増えているのは、マンガ仕立てのビジネス書です」と茂垣さん。ビジネスコミックスとも言われ、ビジネス書の売れ筋ランキングでも上位に出るものが多いとか。さっと読めて、理解しやすいためでしょうか。

タイトル、デザインなどで様々な工夫がこらされている書籍ですが、書店での販促にもいろいろあります。前述の書籍のポスターのほかに、POP(Point of purchase advertising)広告を出す場合もあります。書籍のそばに、本の特徴やおススメの理由などを書いた小さな紙が置かれているのを見たことがあるかもしれません。

POP広告で書籍の魅力をアピール
POP広告で書籍の魅力をアピール

茂垣さんによれば、カスタム出版も商業出版も売れ行きに違いはないとのこと。商業出版でも売れない書籍はありますし、カスタム書籍でも話題になることもあるそうです。要は、読者にとって書籍のコンテンツが魅力的であるかどうかということでしょう。冒頭の話で言えば、商業出版と同様、カスタム出版や企業出版も「重版を期待できる」書籍を出すことができるのが、自費出版との大きな違いです。

「どちらにしても、拡材は効果的に使う必要がありますね」と茂垣さんはアドバイス。ポスターもPOP広告も、コンテンツや出す時期、場所などを工夫することが大事です。

個人や企業のブランディング、マーケティング、そしてリクルーティングにも生かせるカスタム書籍の中には、周年事業の一環として企画、発行するものも増えています。次回は、こうした周年事業におけるカスタム出版、企業出版のケースも見ていきましょう。

日経BP社 カスタム企画部 担当部長
大塚 葉

雙葉高校、早稲田大学法学部卒。技術評論社でPC入門誌「パソコン倶楽部」、日本初の女性向けPC誌「パソコンスタイルブックforWomen」を編集長として創刊。日経BP社では「日経PCビギナーズ」編集長、発行人を務める。「日経ビジネス」「日経WOMAN」「日経ビジネスアソシエ」のWebサイトのプロデューサーとして、深澤真紀氏、白河桃子氏などのヒット連載を企画。初心者向けIT、働く女性、仕事術についての執筆・講演多数。著書に『やりたい仕事で豊かに暮らす法』(WAVE出版)、『ミリオネーゼのコミュニケーション術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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