会社に「奇跡」を起こす社史・周年史とは?

2015.07.14

ブランディング

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    日経BP社 カスタム企画部 担当部長 大塚 葉

周年事業として制作される社史や周年史は、企業のブランディングやマーケティングにも大いに活用できます。オリジナリティあふれる社史・周年史をご紹介しましょう。

29歳「腐女子」の主人公が勤務する、ある中堅商社の社史編さん室。多忙な開発部や営業部と違い、部長は不在、課長は遅刻魔という「ゆるい職場」でした。しかし社史制作にあたり会社の歴史を調べるにつれ、30年前の秘められた会社の過去に気づく主人公と同僚。これを機に編さん室のメンバーが一丸となって、会社の秘密を暴くべく立ち上がります…。

こんな風に始まる、三浦しをんの小説『星間商事株式会社社史編纂室』(筑摩書房)。社史編さんという一見地味な作業の中から生まれるドラマを描いています。

さて周年事業の際に、社史や周年史の編さんを検討する会社は多いことでしょう。とはいえ、社史や周年史は書店で売られることはほとんどないため、関係者以外が目にする機会は少ないもの。世の中にはいったい、どんな社史・周年史があるのでしょうか。

企業の姿勢を「見える化」する社史・周年史

神奈川県立川崎図書館では、全国有数の社史・周年史を約1万7000点コレクションしています。この図書館で2015年6月24~27日に開催された「社史フェア2015」を覗いてきました。このフェアは同図書館が2014年1~12月までに寄贈などで収集した社史200点を、分類して展示したもの。昨年に続き2回目の開催で、期間中には約200人以上が展示室を訪れました。

司書を務める高田高史さんは、「社史は日本の文化と言えます」と語ります。「社史には会社の考え方や社風が詰まっています。編さんを進めながら、皆でアイデアを出し合い会社の歴史をまとめていく。そこに、それぞれの思いが込められているので、完成した社史は百社百様です」。

高田さんの言うように、展示された社史はコンテンツ、デザインともに本当に様々。一般的なのはA4サイズの冊子ですが、書籍、CD-ROMなど形態もいろいろで、デザインも各社各様に工夫されています。

社史フェア2015の展示の様子1

社史フェア2015の展示の様子2

社史フェア2015の展示。業種ごとに分類され、手に取って読むこともできる

映画の制作・配給を行う日活の社史『日活100年史』は、箱入り・上製の書籍とDVDのセット。歴史ごとに100のトピックを紹介し、DVDの「映像篇」では、手型モニュメントの除幕式と祝賀式の様子や、ムービングロゴの変遷を収録しています。

アパレル事業者ユナイテッドアローズが創業25周年に発行した社史は、表紙に個性的なイラストを配し、巻末にカラーでカタログなどを掲載した書籍のような体裁。タイトルも「UAの信念 すべてはお客様のために」とオリジナリティあふれるつくりになっています。

社史・周年史つくりの課題・問題とは

神奈川県立川崎図書館が社史や周年史を収集し始めたのは、開館した1958年から。当初は書庫に保管していましたが、1998年に同館4階に「社史室」をつくり、公開を始めました。これから社史をつくりたいというビジネスパーソンが訪れてデザインやコンテンツの参考にしたり、就活中の学生が企業研究のために来ることもあるそうです。

「社史は企業の歴史を知るだけでなく、その会社の経営や、その地域について知ることもできます。読んでいても楽しいですよね」と高田さんは語ります。

社史や周年史を制作する際の課題や問題点は、どんなことでしょうか。

「まず、最初に大変になる作業は資料集めでしょうか」と高田さん。「古いデータが散逸していたり、整理されていなかったりします。社史作成を機に資料のデジタル化を進めたり、アーカイブズの体制を整備したりする会社も多いようです」。

高田さんは、川崎図書館が主催する社史編さんに関する講演などを通して、制作の協力を出版社や制作会社に依頼したときの問題や感想なども耳にしていると言います。「例えば制作会社からコンぺなどで最初に提出された企画が、作業を進めていくうちに、企業の担当者のイメージと異なってしまうということはあるようです」。

もちろん逆に、いい結果が出ることも。「制作会社に想像以上によくやってもらって助けられたと、という声も聞きます。こういったことは、企業の担当者と制作会社の担当者、あるいは外部のライターなどとの相性もあると思います」と高田さん。

社史や周年史は、企業と制作会社の間でしっかりコミュニケーションを取りながら制作に当たらないといけないということですね。

「社史フェア2015」のロゴ入りTシャツを着た司書の高田高史さん

「社史フェア2015」のロゴ入りTシャツを着た司書の高田高史さん

トレンドは「社員の顔」を前面に

最近の社史のトレンドは、あるのでしょうか?

「特にこの1年は、その企業の社員の姿をクローズアップした社史が増えているように感じます」と高田さん。確かに、社員全員の顔写真を掲載したり支局や支店ごとにスタッフの集合写真を載せたり、という社史をよく見かけるようになりました。

企業にとって重要なのは人材。社史は会社の歴史をまとめたものではありますが、その先の50年、100年を見据えてつくる必要があります。そのためには、「今」を共有し「未来」を担う社員たちの姿を前面に出すことが大事なのかもしれません。

2013年刊行のため今回のフェアでは展示されていませんでしたが、「面白い社史」として高田さんが紹介してくれたのが、アクセンチュアが日本進出50周年記念に作成した『KISEKI Accenture Japan 1962-2012』。アクセンチュアの1962~2012年までのエピソードのほか、学者や経営者、芸術家の名言集や、社員から募集した川柳を掲載するなど、楽しい企画やアイデアが散りばめられています。

そもそも「…会社100周年史」「…のあゆみ」といったタイトルが多いなか、「KISEKI」と名付けたところに筆者はセンスを感じました。このタイトルは、「アクセンチュアの道程の軌跡」「多彩な才能の輝石」「出会いと僥倖の奇跡」の、3つの「きせき」からのネーミングとのことで、なかなかしゃれています。まさに、会社に奇跡を起こしてくれる社史ともいえるかもしれません。

『KISEKI Accenture Japan 1962-2012』は、表紙が赤、オレンジ、緑など全部で6色あり、社員にランダムに配布したとのこと。「なぜ隣の人と違う色なのか」と話題になることを期待したそうです。社員が自分の夢や未来を書き込める空白のページもあり、この周年史がインナーマーケティングを狙っていることも見て取れます。

社史や周年史もつくり方次第で、企業のブランド力、社員の結束力を高めることにもつながります。会社の周年事業を企画している方は、ぜひ神奈川県立川崎図書館で、日本の豊かな社史・周年史文化に触れてみてはいかがでしょうか。

単なる記念に終わらない戦略的な社史・周年史とは?単なる記念に終わらない戦略的な社史・周年史とは?
日経BPコンサルティングの制作する社史・周年史は単なる企業の歴史紹介ではありません。貴社の未来を描くための戦略的なご提案をします。

日経BP社 カスタム企画部 担当部長
大塚 葉

雙葉高校、早稲田大学法学部卒。技術評論社でPC入門誌「パソコン倶楽部」、日本初の女性向けPC誌「パソコンスタイルブックforWomen」を編集長として創刊。日経BP社では「日経PCビギナーズ」編集長、発行人を務める。「日経ビジネス」「日経WOMAN」「日経ビジネスアソシエ」のWebサイトのプロデューサーとして、深澤真紀氏、白河桃子氏などのヒット連載を企画。初心者向けIT、働く女性、仕事術についての執筆・講演多数。著書に『やりたい仕事で豊かに暮らす法』(WAVE出版)、『ミリオネーゼのコミュニケーション術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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