【AIツールレビュー】企業コミュニケーションにおけるAI活用の可能性(第2回)

AI活用でIR業務はどこまで効率化できるか──「exaBase IRアシスタント」実証実験レポート

2025.07.28

コンテンツマーケティング

  • コンテンツ本部 ソリューション1部/AI企業コミュニケーション タスクフォース 平野 優介

日経BPコンサルティングの「AI企業コミュニケーション タスクフォース」によるAIツールレビューの第2回目では、エクサウィザーズ(東京・港)が提供する「exaBase IRアシスタント」を取り上げます。IR業務では情報開示要請の拡大や投資家対応の多様化により、従来以上に迅速で正確な対応が求められています。同サービスは会議の音声データから議事録やQ&Aを一気通貫で自動生成し、こうした課題に対応します。本記事では、日経BPコンサルティングが2025年5月に実施した実証実験の結果を基に、その機能と実用性、導入時の考慮点を検証しました。
調査=日経BPコンサルティング 文=平野 優介

拡大するIR業務と人材不足のジレンマ──ガバナンス改革が求める新たな対応

近年、企業の情報開示を取り巻く環境は大きく変化しています。金融庁主導のコーポレートガバナンス改革やサステナビリティ情報の充実要請などにより、上場企業のIR部門に求められる役割は拡大し続けています。

一方で、市場とのコミュニケーション強化やグローバルな投資家対応、高度な対話記録の整備といったニーズが拡大する中、IR業務を担当する人材の不足という課題にも直面しています。

こうした課題解決に向けてエクサウィザーズが開発した「exaBase IRアシスタント」は、2025年5月時点で100社以上に導入されており、東証33業種のうち約8割の業種をカバーしています。特にIR面談件数が多い大手企業や、情報開示頻度の高い鉄道・製造・電機・IT・金融などの業種で積極的に採用されています。

導入拡大の背景には、現場の課題解決につながるDX推進や、AI技術の実用化への期待があると考えられます。

画面1:「exaBase IRアシスタント」がカバーする業務領域の例。投資家面談・取材対応から投資家傾向の分析など多岐にわたる(画像提供:エクサウィザーズ)

官庁記者会見とサミット音声で検証──実際の業務でどこまで使えるか

今回の実証実験は、日経BPコンサルティングの同タスクフォースによる生成AIツール比較検証活動の一環として、2025年5月下旬に実施しました。

「exaBase IRアシスタント」はIR説明会や投資家面談、取締役会などの録音・動画データをプラットフォームにアップロードするだけで、AIによる文字起こし、要約やQ&A抽出などで構成される議事録を一気通貫で自動生成できることが大きな特徴です。

複数話者の同時発言は正確に識別できるか?──気になる機能を1つずつ検証

1. 音声・動画情報のAI要約と精度

今回の実証実験では単独話者(例:官庁の記者会見)や複数話者が登場する講演(例:官庁主催のサミット)のデータを使用し、以下の観点から評価しました。

  • 話者分離(複数の発言者を自動で識別・区別する機能)の精度
  • 不要なフィラー(「あの」「まあ」「えっと」などの間投詞)の除去
  • 会話の文脈に沿ったトピック・専門用語の抽出
  • 要約結果の自然さ

検証の結果、単独話者については高精度な文字起こし・要約が得られました。複数の話者がいる場合でも、発言者ごとに発言が記録される仕組みが整っており、60分程度の音声データからでも生成物は約5~10分程度で出力されました(専門用語がきめ細かくフォローアップされているため、文字起こしの精度は単独話者で約9割、複数話者で約8割強を記録:当社検証結果)。2時間半以内の長尺音声などにも対応している点も大きなメリットです。

一方、検証の過程では、他の類似したサービスと同様に以下などの課題も一定程度確認されました。今後のアップデートや機能拡充に期待したい部分です。

  • 雑音環境の程度に応じた処理が可能なものの、音声が不明瞭な場合や雑音が多い環境では認識精度の低下がみられる
  • 業界特有の専門用語以外の固有名詞の誤変換
  • 複数話者の同時発言時には発言者の特定に限界がある

画面2:「2025年4月25日の武藤大臣記者会見(経済産業省)」をサンプルに書き起こした音声記録の事例(画像提供:エクサウィザーズ)

画面3:「2025年5月16日の武藤大臣記者会見(経済産業省)」から作成したアジェンダ例。報道各社からの質問の多い会見だが、的確に要点がまとめられている(画像提供:エクサウィザーズ)

2. 多言語対応・翻訳精度

日本語と英語のいずれでも対応しており、記者会見やサミット動画など異なる言語が混在するファイルもスムーズに処理されました。

特に注目すべきは、英語音声を英語で文字起こしした後、要旨や議事録の生成をすべて日本語で出力する機能です。議事録では発話者が使用した「脱炭素」「ガバナンス」などの専門用語も適切にカバーされ、Q&Aについても日本語で構造化された形で抽出されました。今後は「英語→日本語」直接変換機能などのアップデートも検討されています。

3. IR業務特化型の活用機能

「exaBase IRアシスタント」には、以下のような特化機能があります。

  • 決算説明会動画・音声データの即時要約とQ&A抽出
  • 各投資家面談の要点サマリー
  • 質問傾向の可視化(会議ログのデータベース化)
  • 各面談アジェンダの自動構造化

例えば、決算説明会後に音声データを投入すれば、高精度の文字起こしと議事録(アジェンダ・要約)が自動生成されます。

さらに、これらの情報に基づいて面談参加者・会話テーマ別の質疑応答集が可視化され、登録されているQ&Aカテゴリに応じて迅速にQ&Aが生成できます。カテゴリは、ユーザー企業のニーズに応じてカスタマイズが可能です。

画面4:エクサウィザーズ「2025年3月期 通期 決算説明会」から作成したQ&Aの例。「Q&Aカテゴリ」として、企業価値、連結・単体実績、事業等のリスク、経営戦略、株主の状況など十数件以上の項目を基本カテゴリとして選択し、迷うことなくQ&A生成ができる(画像提供:同社)

画面5:情報が蓄積することで、「どの投資家が何に関心を寄せたか」「会議全体でどんなQ&Aが多いか」「どこに改善要求が集中しているか」などが高い精度で可視化されていく(画像提供:エクサウィザーズ)

4. 決算説明資料や有価証券報告書などからもQ&Aを生成

本サービスではIRドキュメント(決算短信、有価証券報告書、決算説明資料など)を生成AIに読み込ませ、想定されるQ&Aを自動生成できます。投資家向け説明会の準備では100問以上の想定質問を準備するケースもあるので、その準備にこれまでIR担当者は多くの時間を費やしてきました。このサービスを活用すれば、担当者の負担軽減につながると期待できます。

画面6:参照するドキュメントをアップロードすることで、投資家からの想定質問・回答を迅速に生成できる。画像上がサービスイメージ、画像下は実証実験で実施した実際の生成例(画像提供:エクサウィザーズ)

ただし、エクサウィザーズ担当者によると、「現時点(2025年5月時点)では、個人投資家・機関投資家ごとのQ&A作成の出し分けは未実装だが、今後の開発を鋭意検討中」とのことです。この機能拡張に大きな期待が寄せられます。

類似サービスと比べて「選ぶ理由」はあるか?──差異化ポイントを探る

IR支援ツール市場における「exaBase IRアシスタント」の位置づけを把握するため、他社サービスと機能を比較しました。文字起こしの精度では大きな差は見られませんでしたが、IRに特化した機能においては以下の差異化要因が確認されました。

  • Q&Aカテゴリーにおける事前設定による構造化された出力
  • 投資家面談データの蓄積・分析機能
  • IRドキュメントからの自動Q&A生成機能

ただし、他社製品にも独自の強みがあり、例えばリアルタイム翻訳機能や音声合成機能など、用途によっては優位性を持つ場合もあります。企業のニーズと予算に応じた選択が重要といえるでしょう。

導入コストは「月額8万円~」──中小企業にとってのハードルを検証

本サービスの導入にあたっては、以下の点を検討する必要があります。

  • 月額利用料金:8万円〜(2025年7月現在)
  • 既存のIRワークフローとの整合性確保

総合評価と導入検討のポイント

今回の検証により、「exaBase IRアシスタント」はIR業務の効率化に一定の効果をもたらすことが確認されました。特に大量の音声データを扱う大手企業にとっては、人的リソースの削減効果が期待できます。一方、導入コストや各種の運用体制の整備といった課題も存在します。上場企業であっても規模の大小に応じて、費用対効果を慎重に検討する必要があるでしょう。AI技術の進歩とともに今後さらなる機能向上が期待される分野でもあり、継続的な検証が重要となります。

連載:【AIツールレビュー】企業コミュニケーションにおけるAI活用の可能性

日経BPコンサルティング
「AI企業コミュニケーション タスクフォース」について

生成AI技術の戦略的活用を推進する組織横断プロジェクト。広報・IR部門における生成AI活用の調査・分析と、実証実験を通じたビジネス活用の検証を行い、企業コミュニケーションの高度化と新規事業機会の創出を目指している。2025年1月より調査・実証の2チーム体制で活動を展開。

コンテンツ本部ソリューション1部
AI企業コミュニケーション タスクフォース
平野ひらの 優介ゆうすけ

記者・編集者・防災士。日経BPコンサルティング内のAI企業コミュニケーション タスクフォース所属。中央省庁関連書籍の担当を経て、2011年3月より地方行政の総合誌の記者・編集者、税務分野の月刊誌副編集長に就任。2017年9月、日経BPコンサルティングに入社。NTTデータの30周年事業、NTT東日本の東京2020大会記録事業など、大手企業の周年・イベント記録事業にプロデューサーとして多数参画。また、NTT西日本の「Biz Clip」やBIPROGYの「BIPROGY TERASU」などのビジネスメディアで取材・編集を担当。

※肩書きは記事公開時点のものです。