御社のウェブサイトは本当に「使えて」いますか? 改正障害者差別解消法から考えるウェブアクセシビリティ

2025.06.12

ESG/SDGs

  • 山崎規弘

    ビジネスサポート本部 ディレクション部 山崎 規弘

2024年4月、改正障害者差別解消法が施行されたことをご存じでしょうか。これにより、従来は民間の事業者に対しては努力義務であった合理的配慮の提供が義務化されました。この記事では改正障害者差別解消法の内容に触れながら、ウェブサイトを通じた情報の提供や収集に関連する概念であるウェブアクセシビリティについて解説します。

改正障害者差別解消法とは

障害者差別解消法は正式名称を障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律といい、2016年の4月に施行されました。2021年5月に改正され、改正法が2024年4月に施行されています。

同法では、不当な差別的取り扱いを禁止し、同時に合理的配慮の提供を義務づけています。このうち、不当な差別的取り扱いについては比較的理解しやすいでしょう。障がいがあるというだけの理由で入店を拒否することなどは不当な差別的取り扱いに該当し、法令違反となります。

合理的配慮の提供とは

2024年の改正法の施行により、従来は民間の事業者に対しては努力義務であった合理的配慮の提供が義務化されました。ここでの事業者とは営利・非営利を問わず、個人・法人も問いません。営利企業はもちろんのこと、個人事業主やNPO法人なども含まれます。

それでは合理的配慮の提供とは具体的に何を指すのでしょうか。同法からの引用です。

事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

まとめると、「障がい者から社会的障壁の除去を求められた場合、事業者は合理的な配慮を行う必要がある。ただし、負担が過重になる場合を除く」ということができるでしょう。

合理的配慮の具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 車椅子に乗っており、買い物に来たが高いところにある商品が取れない。そのため、店員に頼んで取ってもらった
  • 視覚障害があり、飲食店のメニューを読むことができない。そのため、店員に頼んでメニューを読み上げてもらった
  • 聴覚障害があり、音声による会話ができない。そのため、筆談で対応してもらった

これらはいずれも合理的配慮の提供に該当します。

ウェブサイトで問題になる例

車椅子では高いところにあるものが取れなかったり、聴覚障がい者の方が筆談を必要としたりといった例は想像しやすいと思いますが、ウェブサイトで同じようなことが起こるということは想像しにくいかもしれません。中には、障がいのある方がウェブサイトを利用する場面を想像したことがないという方もいらっしゃるかもしれません。

例えば画像です。視覚に障がいのある方はどのようにウェブサイトを利用しているのでしょうか。

キジトラの子猫。フローリングの上に横たわっており、前にテレビのリモコンが置いてある

この画像は猫の画像です。キジトラの子猫で、フローリングの上に横たわっており、猫の前にテレビのリモコンが置いてあります。この記事をお読みの方が視覚的に情報を得られる方であれば、見ればわかります。しかし、全盲の方はどうでしょう?全盲の方、あるいは弱視・ロービジョンと呼ばれる矯正しても非常に視力が低かったり、視野に欠損のある方はスクリーンリーダーと呼ばれる画面上の情報を読み上げるソフトウェアを使用することがあります。スクリーンリーダーはテキスト情報であれば読み上げることができるので、利用者は文章の読み上げを通じて、ウェブサイトに掲載されている情報について知ることができます。

しかし、画像となるとそうはいきません。少し技術的な話になりますが、代替テキストというものを画像に指定する必要があります。これはその名の通り画像の代替となるもので、これを指定していないとスクリーンリーダーは画像があることに気づかなかったり、ファイル名を読み上げてしまったりします。上記の画像には「キジトラの子猫。フローリングの上に横たわっており、前にテレビのリモコンが置いてある」と代替テキストを指定しているので、スクリーンリーダーはそのように読み上げ、全盲の方であっても問題なく情報を得ることができます。

さて、御社のウェブサイトは画像にきちんと代替テキストを指定しており、スクリーンリーダーで読み上げても問題のないようになっているでしょうか。即答できる方は少ないのではないでしょうか。

別の例を挙げます。ウェブサイトを閲覧する際に、キーボードしか使用できない方がいます。例えば、何らかの障がいによって首から下が動かず、口にくわえた棒でキーボードを操作する方などです。御社のウェブサイトは、キーボードだけで操作できるようになっているでしょうか。ウェブサイトをキーボードで操作するには、Tabキーを使います。Tabキーを押すと、ページの中のリンクや検索フォームなどに移動することができます。ところが、今いる場所がわからなかったり、マウスを使ってカーソルを乗せないと表示されないコンテンツがあったりするなど、キーボードだけで操作できるようになっていないウェブサイトも残念ながら数多くあります。これはすぐにでもご自身で確認できますので、ぜひ試してみてください。

環境の整備としてのウェブアクセシビリティ

車椅子に座った状態では高いところからものが取れないのと同様に、ウェブサイトの閲覧や利用においても、視覚障がい者の方がメニューの読み上げを必要とするようなことがあり得るとご理解いただけたかと思います。合理的配慮の提供は実店舗に限った話ではありません。ウェブサイトに関しても障がいのある方からの申し出があった場合に対応することが義務づけられています。申し出に応じて、電話や電子メールなどによって個別に対応する方法もありますが、もっとよい方法があります。それは、あらかじめウェブアクセシビリティを考慮したウェブサイトにしておくということです。

アクセシビリティという言葉にはなじみのない方も多いかもしれません。似たような意味を持つ言葉にはバリアフリーユニバーサルデザインなどがあります。ごくごく簡単に言ってしまうと、「様々な人が様々な状況で使えるようにする」ということです。最初からアクセシビリティを考えたウェブサイトにしておけば、そもそもウェブサイトの閲覧等に対して利用者から合理的配慮の提供を求められることが減り、個別に対応する手間を減らすことができます。これは改正障害者差別解消法で努力義務とされている環境の整備にあたります。

行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

ウェブアクセシビリティを考慮したウェブサイトにすることは、改正障害者差別解消法の考え方にも則ったことなのです。

法的な側面以外から考えるウェブアクセシビリティ

ここまで改正障害者差別解消法の内容に触れながら、ウェブアクセシビリティという概念を説明してきました。それでは、ウェブアクセシビリティを改善することは障がい者のためだけになるものなのでしょうか。答えはノーです。アクセシビリティを改善することは、全ての人のためになることなのです。

ウェブアクセシビリティに関するJIS規格としてJIS X 8341-3:2016があります。これは正式名称を「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」といい、高齢者も対象としています。人は加齢に伴って、一般には身体能力が衰えていきます。視力が衰えたり、細かい操作が苦手になったりしていきます。そのような場合でも、アクセシビリティが確保されていれば、そのサイトは利用しやすいものになります。

また、健康な人であっても、疲れたり怪我をしたりすることはあります。眼精疲労でものが見えにくい場合や、怪我で片手が使えない場合でも、アクセシビリティを確保しておけばメリットが得られます。心身の状態に問題がなくても、周囲の環境などによって一時的に障がいのある状態になることもあり得ます。普段はメガネをかけているが壊れてしまって十分な視力を得られない状態でウェブサイトを見なければいけない、公共の場所でイヤホンもなく、音声がない状態で動画を視聴する必要があるといった状況などです。

このように、アクセシビリティの向上は特定の人のためだけのものではなく、全ての人のためになることだということをご認識いただければ幸いです。

そうは言っても、「いきなり改正障害者差別解消法やアクセシビリティと言われてもよくわからない」「何から手をつけていいかわからない」という方も多いでしょう。この記事では最低限の説明に留めましたが、より多くの具体的な例や、JIS規格とそれに関連する国際的なガイドラインの解説など、より詳しい情報をご希望の方はお問い合わせをいただければと思います。

アクセシビリティは単に法律と関連しているだけのものではありません。SDGsやCSR、ESGなどとも関連することですし、海外ではウェブアクセシビリティの不備による訴訟が多く起こされており、海外で事業を展開する日本の企業が訴訟を起こされた例もあります。そして何より、御社のウェブサイトがより多くのユーザーに、より快適に閲覧されるようになるために――、ウェブアクセシビリティの改善についてぜひご検討ください。

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山崎 規弘

ビジネスサポート本部 ディレクション部
山崎やまざき 規弘のりひろ

イベントディレクターを経験後、ウェブ業界に転身。マークアップエンジニアやフロントエンドエンジニアを経て2022年に日経BPコンサルティングに入社。プロジェクトマネージャーやウェブディレクターとして、クライアントとユーザーの双方にとって情報が見つけやすく理解しやすいウェブサイト制作を信条としている。猫派。

※肩書きは記事公開時点のものです。