大学が持つ多彩な専門分野を生かし、オピニオンメディア化を図る情報発信に意欲

国立大学法人 長崎大学

2024.10.11

大学広報

  • 伊藤 憲

    ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 部長 伊藤 憲

長崎市に位置する国立大学として地域社会とともに歩みつつ、蓄積された「知」を時代や価値観を越えて継承していくことを基本的目標に掲げる長崎大学。大学が持つ魅力を学内外に発信する広報活動にも力を入れています。積極的な情報発信に意欲を示すビジョンについて、広報戦略本部長を務める松井史郎副学長にお話を伺いました。聞き手=ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 部長 伊藤 憲 文=北湯口 ゆかり

広報戦略本部ではどのような広報活動を推進しているのですか。組織の位置付けと合わせて、お聞かせください。

松井 広報業務は学部や各部署を横断して情報をやりとりすることが多く、大学の意向をできるだけ早く把握する必要もあるため、広報戦略本部は特定の部署にひも付くことなく、学長直下に位置付けられています。

「戦略本部」と名乗るからには、長期的な視点を持って業務を展開し、組織を運営していくことが求められます。私が就任した3年前からは受け身な姿勢はできるだけ廃止し、大学をどのようにアピールしたいのかを学内取材を通して考え、プランし、学内外に協力を求めることを徹底しています。そのため、部内にいわゆる「番記者」体制を作りました。部員は皆、複数の学部や部局を担当し、それぞれが常に情報収集や情報交換にあたっています。

これまでの取り組み、これからの取り組みはどのようなものでしょう。

写真:松井 史郎

長崎大学 副学長 広報戦略本部長
松井 史郎

松井 就任後の3年間は、メディアへの露出を増し、大学と社会の接点を増やすことを目標に、広報活動の活性化に注力してきました。各種オウンドメディアを強化したかったからですが、最初から戦略的な思考で動いていたわけではなく、戦略本部内で議論を重ね、試行錯誤した結果、今のような体制ができたと言えます。

これからは、ブランディングに取り組むことを想定しています。大学として目指したい未来像の明確化が必要で、学長や執行部、学部長などの話しを広く集め、語られる思いに共通するキーワードを探しています。そうした取り組みが大学ブランディングの第一歩につながると考えています。

成果を判断するために見据えている指標やKPIなどはありますか。

松井 広報活動の成果は、一概に数値化しづらいところがあります。それでも定性的、定量的な評価指標を得て、成果を客観的に分かりやすくすることは重要な課題だと考えています。

定性的な評価手段として重視しているのは、広報紙やセミナーに関するアンケートの結果です。特に、自由記入欄に書かれていることは重視しています。受け手にどのように映ったのかを知る手がかりですから、その内容がポジティブであれ、ネガティブであれ、きちんと分析して共有をするようにしています。少しでも回答しやすくするために、アンケートの質問はできるだけ具体的にするなどを心掛けています。

定量的な成果としては、どこでも取り組んでいることだとは思いますが、プレスリリース数や、広報紙の発行部数、大学公式サイトのページビューなどの数値を記録して指標としています。例えば、2021年に年間のプレスリリース件数210本以上という数値目標を掲げ、初年度から達成しています。

プレスリリース件数

プレスリリース件数を示したグラフ。2019年度は171件、2020年度は174件、2021年度は220件、2022年度は214件、2023年度は220件。

ただし、これらの数値はあくまでも実施した広報活動を数値化したに過ぎません。広報活動に対する本来の評価は、メディアの反応やステークホルダーにどのような意識変容や行動変容を及ぼしたのかに表れます。ただ、その評価をどうすべきかが大きな課題です。

今は発表したプレスリリースがマスメディアに報道された数(報道率)や、ウェブメディアに転載された率(転載率)、公式サイトを見に来てくれた人の滞在時間などに加えて、独自の調査で得られる各広報活動に対する認知度や体験率、参加意向率など各種のデータを集めながら傾向を分析しています。

広報活動の活性化にあたって、どのようなターゲットに向けたメディア展開を意識されたのか、お聞かせいただけますか。

松井 広報を展開する原則として、目的とターゲットを明確にすることは重要です。ただ、大学にとってのステークホルダーはあまりにも多彩です。学生や保護者、自治体に地域の住民の皆さん。共同研究を行う企業や他の研究機関や取引先。さらには、受験生やその保護者、高校や予備校の教師もステークホルダーです。

多彩なステークホルダーそれぞれが異なる思いで大学と接点を持っているので、大学側としては、活動目的とターゲットを意識した上で、ターゲットがアクセスしやすいものを想定しながらメディアを展開しなければなりません。

それを踏まえて、押さえておきたいメディアはやはり大学の公式サイト(※1)です。幅広いターゲットが誰でも最初に接する媒体ですから。それぞれが目的とする情報に容易にアクセスできるようにするとか、若者世代を意識して、スマートフォンで閲覧しやすいデザインにすることも心掛けています。また、コロナが一段落し、対面で情報提供できる、オープンキャンパスや教員が出向いて講義を行う「出前講義」、「市民公開講座(※2)」などをターゲットに合わせて強化することも進めています。

※1 https://www.nagasaki-u.ac.jp/

※2 https://nu-relay.jp/

卒業生と在学生の保護者をターゲットとしたメディアの中心は広報紙(※3)です。大学の応援団を増やし、寄付の依頼をするなどのため、できるだけ多くの人に送付できるよう、制作費を抑えることができるタブロイド判の広報紙を作っています。

※3 https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/guidance/kouhou/publicity/085.html

長崎大学の認知度を高めるための工夫として、地方新聞などのマスメディアも活用しているとうかがいましたが。

松井 3年前から長崎新聞紙上に連載枠をいただき、月に1度、本学教員の寄稿記事を掲載しています。2021年は「カーボンゼロ社会への挑戦(※4)」、2022年は地球の健康を支えるために有効な解決策を求めて、地球上の生態系や社会のあるべき最適な姿を模索する「プラネタリーヘルス(※5)」、2023年は海の食料生産を持続させる養殖業産業化共創拠点プロジェクト「ながさきBLUEエコノミー(※6)」、そして今年は長崎大学が持つ半導体技術を伝えようと「半導体による人・街づくり(※7)」を年間テーマとし、それぞれ12回連載しています。

※4 https://www.plh.nagasaki-u.ac.jp/media/zerocarbon/

※5 https://www.plh.nagasaki-u.ac.jp/media/planetaryhealth/

※6 https://choho.nagasaki-u.ac.jp/tag/blue/

※7 https://choho.nagasaki-u.ac.jp/tag/semiconductor/

定期的にマスメディアに寄稿記事を掲載できるのは大きな武器で、長崎大学の研究力をアピールし、イメージアップに役立っています。

写真:伊藤 憲

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 部長
伊藤 憲

ブランディングを始めるにあたって、指標づくりの参考にしているデータなどはありますでしょうか。

松井 世間の声を知るための客観的なデータとして「大学ブランド・イメージ調査」を入手し、本学の強みと弱みを分析しています。調査データを3年間取得して推移を比較してみると、長崎大学のブランド・イメージはグローバル感や躍動感が伸び悩んでいることが浮き彫りになりました。

例えば、躍動感に欠けるイメージはどこから派生しているかをひもとくと、サークル活動の認知が薄いことが分かりました。この方面の広報が足りていないわけですから、そこに強化すべき課題があり、次の成長のための指標になります。

課題解決に向けて「長崎大学サークル応援サイト」を立ち上げ、各サークルの活動状況報告として大会への参加や成績をアピールできるようにした上で、卒業生からサークルごとに応援や寄付による支援ができるシステムを構築しました。ネット経由で現役学生と卒業生が交流を持つ接点が生まれたことで、応援の輪が広がっています。こうした動きは、ゆくゆくはブランド・イメージ調査の結果にも反映されていくだろうと期待しています。

ただ、大学ブランド・イメージ調査結果だけでは、自分たちの活動がどのような影響を及ぼしたのか相関関係が分かりづらいのは事実です。そこで、日経BPコンサルティングさんにご相談させていただき、本学独自の活動評価調査も始めました。年間の主だった活動を全て調査票に列記し、それぞれの認知度などを聞いていくものです。この調査結果を加えたことにより、より高精緻な戦略が立てられるようになったと思います。

最後に、今後のビジョンや将来展望について、お聞かせください。

松井 広報担当として大切にしたいのは、長崎大学の強みや価値を広く世間に知ってもらうこと。大学には専門家が揃っていますから、社会の動きにアンテナを張り、科学的エビデンスに基づいた解説が必要だと思えば、メディアの先回りをし、教員に働きかけながら自発的に情報を発信していく姿勢をとりたい。いわば、広報がオピニオンメディアを構築するエディターになるわけです。

例えば、新たな感染症の脅威として、エムポックス(サル痘)の流行が広がっている今、高度感染症研究センターや熱帯医学研究所を有し、感染症に強い長崎大学の視点で情報を発信できるはずです。経済分野なら、米国のリーダーが変わった後、長崎経済にはどのような影響が出るのかを解説することもできるのでは、と思います。このように取材の有無に関わらず、科学的エビデンスに基づいた解説が常に発信されている状態を作り出せたら、大きな武器になるはずです。今後は、そのような挑戦もしてみたいと考えています。

大学が果たすべき責任として、意志を持つメディアになることを目指されているわけですね。素晴らしいと思います。貴学の今後の活躍に期待しています。

伊藤 憲

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 部長
伊藤(いとう) (けん)

大学卒業後、広告代理店勤務を経て2005年より調査業務に従事し、企業のマーケティングリサーチ、国・自治体の各種調査を担当。
2019年日経BPコンサルティングに入社し、企業や大学などのブランドコミュニケーション活動支援を行う。
「大学ブランド・イメージ調査」のプロジェクトマネージャーを務める。