ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション 第3回
サービスサイトへのコンテンツ集約、評価指標の設定“リード獲得とブランド価値向上”
検索エンジンでの上位表示は、オーガニックトラフィックを増やし、広告費を削減する効果があります。また、デジタル広告の費用対効果を向上させ、顧客獲得単価を下げることも重要な目標です。しかし、これらの施策にのみ固執するアプローチには限界があります。オウンドメディアとLPO(ランディングページ最適化)の歴史をたどると、指標としてPV(ページビュー)の向上と顕在層の獲得が中心になってしまった点が浮き彫りになります。
オウンドメディアは顧客に対して価値ある情報提供をする場所
オウンドメディアは、企業が自ら運営するサイトやブログを通じて直接的に情報を発信する手法として登場しました。初期の目的は、ブランド認知度の向上や顧客とのエンゲージメント強化でした。しかし、次第にSEO(検索エンジン最適化)の重要性が高まり、検索エンジンでの上位表示を狙ったコンテンツ制作が主流となりました。この結果、オウンドメディアはPV向上を目的とするようになり、量産型のSEO対策コンテンツが氾濫することとなりました。顧客にとって価値ある情報提供よりも、検索エンジンでの露出を重視するあまり、質の低いコンテンツが増えたことも一因です。
LPO(ランディングページ最適化)の成果は顧客獲得だけではない
LPO(ランディングページ最適化)は、特定のキャンペーンやデジタル広告から訪問者を誘導し、コンバージョンを最大化するための手法として発展してきました。初期段階では、ユーザー体験の向上や訪問者のニーズに応じたページ設計が重視されました。しかし、デジタル広告の費用対効果を最大化するために、CPAの低減が強く求められるようになり、LPOもまた顧客獲得偏重となり、短期的なコンバージョンにのみ焦点を当てる傾向が強まりました。
例えば、コンバージョン率が2%とした場合、残りの98%の訪問者に対する視点を無視してはいけません。これらの訪問者に対しても価値あるコンテンツを提供し、将来的な関係構築やブランド認知度の向上を図ることが重要です。短期的な成果だけではなく、長期的な視点で顧客との関係を築くことが、持続可能な成長を実現する鍵となります。
リード獲得とブランド価値向上を両立するコンテンツ戦略
サービスサイトへの集客を行う上で重要なのは、ターゲットの態度・関与度に応じたコンテンツを提供することです。リード獲得とブランド価値向上の2つの視点を分けて考えることが不可欠です。
リード獲得は、GOAL設定・ビジネス目的を数値化した定数であるKGIを基に設定したKPIを測定します。これは具体的な数値目標に対して進捗を評価するものであり、訪問者を顧客に変換するための重要な指標です。例えば、新規リード獲得数などが含まれます。一方、ブランド価値向上は競合他社との比較によって評価されるため、相対的な指標となります。ブランド認知度や顧客のエンゲージメント、企業の信頼性といった要素が含まれ、これらは市場や業界内でのポジショニングに影響します。
例えば、潜在層に対しては教育的なコンテンツを提供すれば、ブランド認知度を高めることが期待できます。顕在層に対しては、具体的な課題解決を提案するコンテンツが効果的です。さらに、既存顧客に対しては、深い専門知識や最新の業界動向を共有することで、長期的な関係性を強化し、ブランドロイヤリティを向上させることができます。
動画コンテンツの重要性
第2回でお伝えした通り、動画は、ターゲットの関心を引きつけ、情報を視覚的かつ聴覚的に伝える強力な手段です。動画を活用することで、複雑な情報を分かりやすく伝え、エンゲージメントを高めることが可能です。例えば、商品のデモ、使い方の説明、事例紹介、ホワイトペーパー、オンラインセミナーなどを動画で提供することは、顧客との信頼関係を築くのに非常に有効です。
また、リード獲得のために動画視聴をフックにする戦略も効果的です。興味を引く動画コンテンツへのアクセスを提供することで、直接、リード獲得につなげられます。さらに、動画コンテンツは多くの情報量を含むことができ、ブランド価値の向上にも寄与します。専門知識の共有、有識者によるインタビュー、対談など、テキストや画像では伝えきれない情報を動画で提供することで、ブランドの信頼性と価値を高めることができます。
動画コンテンツについては、弊社のブランド戦略&マーケティング情報メディア“CCL.”にて、記事を掲載していますので、ご覧ください。
- 「結局動画ってどうなの?」成果に直結する動画とコンテンツ論
今なぜ「映像」が、企業コミュニケーションにおいて強く求められるのか? - テキスト記事、動画、どっちがいいの?「得意領域」と「ケーススタディ」で考える最適な使い分け
- 成果を上げる動画とは? 5つのポイント
重要なのはサービスサイトへのコンテンツ集約
BtoC企業では、SNS連携やリアル店舗との連動による販促活動を中心に、オウンドメディアを中心に据えたマーケティング・コミュニケーションの事例が多く見られます。特に小売り、食品・飲料、日用品・生活用品の分野で成功しています。
しかし、LTV(ライフタイムバリュー)型、ARPU型ビジネス、BtoC向けの耐久消費財、BtoBマーケティングなど、購入までの検討時間が長い商品・サービスを取り扱う場合、オウンドメディアよりもサービスサイトにコンテンツを集約すべきです。これらの分野では、顧客が詳細な情報を容易に探し、深く理解するためには、統合化されたサービスサイトが最適な情報提供の場となります。
サービスサイトへのコンテンツ集約は、一貫性のあるユーザー体験を提供し、情報の探しやすさを向上させ、カスタマージャーニーの最適化やコンバージョン率の向上が期待できます。加えて、ブランドメッセージの統一が図られ、信頼性が向上します。これにより、顧客はブランド全体のメッセージや価値観を理解しやすくなり、購入検討段階から企業との長期的な関係構築が促進されます。
マーケティングKPIの設定方法
コンテンツの集約と拡充を行う際には、部門横断的にサービスサイトに取り組むことが重要です。しかし、運営の中心となるデジタル部門やマーケティング部門がマーケティングKPIの設定を誤ると、本来のゴールから逸脱し、事業部門との対立を招く恐れがあります。例えば、事業との因果関係が不明なオウンドメディアを運用し、ページビューをKPIに設定するケースや、様々な視点からデータ分析を行っているものの、具体的な改善がなされていない実質放置状態のサービスサイトなどが見受けられます。このような状況では、GOAL/ビジネス目的から逸脱し、KGIに貢献しないサービスサイトになってしまいます。
KGIは業績に直結する売上、営業利益、契約件数を設定し、マーケティングKPIはその前段階の指標として、多くとも3つ程度に絞る必要があります。マーケティングKPIに関連する集計・分析データを照らし合わせ、サービスサイトの継続的な改善を行うことが望ましいです。また、KSF(重要成功要因)は、KPIの達成に不可欠な活動や要素として明確に定義し、それに基づいたアクションを取ることが重要です。
ブランド評価指標は相対的
売上金額などの絶対的な目標に向かって進めるマーケティングKPIとは異なり、ブランド評価指標は相対的なものであり、競合他社と比較可能な客観的数値を基に評価を行う必要があります。ブランド評価指標の設定には、業種やベンチマークする他社を定点観測し、SNSなどのオープンデータを活用して日々の比較を行うことで、改善サイクルを継続的に回すことが重要です。
ブランド評価指標については、24年間にわたって定点観測を続け、延べ1,500社以上に利用されている「ブランド・ジャパン」をご参照ください。ブランドのギャップ分析やリブランディングの評価、コーポレート・ブランディングの因子分析などに幅広く活用されています。
ブランド・ジャパン -企業ブランド、認知度の調査。広報の指標に
第1回から第3回にわたり、ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーションとサービスサイトの在り方について解説してまいりました。記事をご覧いただいた皆さまが自社の取り組みを検討する際には、まずコンテンツ戦略の立案と、それに合わせたマーケティングKPI及びブランド評価指標の設定から取り組むことをお勧めします。また、コーポレートサイトからターゲットに個別に対応する目的別サイトとして、より深いコミュニケーションを実現するためには、各部門の連携と体制の構築が欠かせません。日経BPコンサルティングでは、豊富な経験と実績を持つ専門家が、統合的にこれらの取り組みをご支援いたします。お気軽にお問い合わせください。
連載:ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション
- サービスサイトが担う役割 “デジタル化だけでは競争力にならない”
- サービスサイトの全体設計 “未開拓層/興味関心層へのアプローチが重要”
- サービスサイトへのコンテンツ集約、評価指標の設定“リード獲得とブランド価値向上”
資料ダウンロード
ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション
“サービスサイトの整備・見直し”
ポストデジタル時代への移行期である今、競争力を高めるための考え方やポイントをまとめています。
ぜひダウンロードいただき、ご活用ください。
マーケティング本部 本部長
伊達 和幸
デジタルエージェンシー及びコンサルティング会社で、通信、エネルギー、航空業界のデジタル戦略立案、マーケティング、新規事業・サービス開発に従事。
2016年に日経BPコンサルティングに入社し、デジタル領域のコンサルティング及び施策の立案・実行を多数手掛ける。
※肩書きは記事公開時点のものです。