これからのウェルビーイング②

いま、求められるウェルビーイング経営 ~企業が取り組む意味と事例~

2021.11.12

マーケティングリサーチ

  • 吉田 美優

    マーケティング本部 コンサルティング部 吉田 美優

国連諮問機関SDSNが発表した世界幸福度ランキングによると、世界の150カ国以上の中で日本は56位。先進7カ国(G7)では最下位となっています。
そんななか、ウェルビーイングと経営重要指標の強い相関が報告され、
ウェルビーイング市場が世界的に拡大(※1)、日本国内でもウェルビーイングを経営に組み込む動きが加速しています。
いま、求められるウェルビーイング経営とは何か、背景にある考え方と取り組みを事例とともにご紹介します。

1. ウェルビーイングとは?

ウェルビーイングとは何でしょうか。

直訳すると、「良い状態」。抽象的な概念のため、具体的にしていく必要があります。ウェルビーイングの定義は一つに定まっていませんが、WHOが健康を定義した下記が基準になります。(※2

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態(well-being)にあることをいいます。(日本WHO協会仮訳)

2. 主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング

ウェルビーイングの考え方は様々ですが、近年注目されているウェルビーイングには「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」の2つの側面があると考えられます。

① 主観的ウェルビーイング
調査による包括的な自己評価によって把握されるもの
② 客観的ウェルビーイング
生活の豊かさを社会的指標により測られたもの

主観的ウェルビーイングとは「個人の幸福度」や「人生の満足度」など個人が幸福度をどのように評価しているかであり、客観的ウェルビーイングとは、「GDP」や「平均健康寿命」など外部的に定められた基準に基づき客観的に測れるものです。

まずは、日本における客観的ウェルビーイングの数字を見ていきます。

(図1)2020年 世界GDPランキング

出典:IMF(International Monetary Fund)

(図2)2021年 健康寿命世界ランキング

出典:WHO 世界保健統計2021年版に掲載されている健康寿命統計より。

データから見て分かる通り、日本はGDPや健康寿命など客観的ウェルビーイングでは世界的に比較しても非常に高い一方で、世界幸福度ランキングの結果では56位、先進7カ国(G7)では最下位と、日本は主観的ウェルビーイング=「個人の幸福度」が非常に低い水準となっています。

(図3)2021年 世界幸福度ランキング/スコア G7比較

出典 : 世界幸福度ランキング2021(World Happiness Report 2021)

3. 主観的ウェルビーイングが企業で重要視されている理由

主観的ウェルビーイングは、企業活動を左右する様々な要素に対して強力な相関関係が指摘されたことで(※参考文献)、企業経営の文脈でも大きな意味を持つようになっており、欧米では積極的な推進活動が行われるようになっています。
企業がウェルビーイングに取り組むメリットは以下の3つです。

  • ① 優秀な人材の確保
  • ② 生産性の向上
  • ③ 人的資本情報開示とSDGs

① 優秀な人材の確保

  • 離職率低下
  • 口コミによる採用への影響

離職率低下

継続的な労働人口の減少が見込まれるなか、新卒採用~長期育成を前提とした多くの日本企業において、離職は大きな損失です。しかし2019年における入社3年以内の離職者は、約3割と決して少なくありません。(※3)ウェルビーイングは離職率低下に寄与することが指摘されています。(※4

口コミによる採用への影響

就職活動時、求職者が口コミサイトを利用することが一般化しています。
従業員の主観的ウェルビーイングはその口コミ上の評価を左右する大きな要因となりえます。離職率低下の観点だけでなく、採用観点からもウェルビーイングは重要度を増しています。

② 生産性の向上

  • 生産性、創造性、売上との強い相関
  • 生活様式変化に伴うデジタルウェルビーイングの重要性

生産性、創造性、売上との強い相関

主観的ウェルビーイングは、経営を左右する重要指標との強い相関が指摘されています。
主観的ウェルビーイングの高い人は、そうでない人に比べて創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%も高い傾向にある、とされています。(※5

生活様式変化に伴うデジタルウェルビーイングの重要性

COVID-19の流行に伴い、テレワークが一般化したことにより、プライベートな活動と仕事を同じ空間で行うことが必要になりました。オンオフの切り替えが難しい、働こうと思ったらいくらでも働けてしまう、といったウェルビーイング上の問題が発生する可能性があります。デジタルツールとどう関わるかはウェルビーイングに大きく影響していることから「デジタルウェルビーイング」と総称され、個人としてだけではなく、組織として取り組むことが必要な問題になっています。

③ 人的資本情報開示とSDGs

  • 義務化が発表された人的資本情報開示項目の多くにウェルビーイングが関わる
  • SDGs8「働きがいも、経済成長も」の観点からも、重要に。

義務化が発表された人的資本情報開示項目の多くにウェルビーイングが関わる

投資意思決定における、非財務情報の重要度高まりのなか、人材データが企業価値を表す重要指標の一つとして認識されるようになりました。
アメリカにおいて、企業の人的資本開示が義務化、国際標準化推進機構(ISO)が、2018年12月に始めて国際標準ガイドライン「ISO 30414」を発表。その開示項目の多くににウェルビーイングが直接または間接的に関わっています。

(図4)人的資本情報開示項目とウェルビーイング

出典:ISO : Human Resource Management Guidelines

SDGs8「働きがいも、経済成長も」の観点からも、重要に。

SDGsゴール 8.包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する(※6)という観点、特に「8.5 2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに 同一労働同一賃金を達成する。」において従業員のウェルビーイングは重要な意味を持ちます。
このように、従業員の主観的ウェルビーイングは企業経営に関わる重要な指標に大きく関わっており、長期的な企業価値向上、経営安定を考えたときに、ウェルビーイングは欠かすことのできないキーポイントになるでしょう。

4. いま、求められるウェルビーイング経営と取組事例

では、いま企業に求められるウェルビーイング経営とはどのようなものでしょうか。効果的に機能するウェルビーイングの取り組みには3つの特徴があります。

  • 定義:目的を明確にし、自社にとってのウェルビーイング(健康)を定義している
  • 可視化:数値化による成果の可視化と継続的改善を行っている
  • 具体化:概念浸透にとどまらず、取り組みやルールにブレイクダウンしている

上記特徴をすべて満たし、継続的に成果を上げている取り組み事例をご紹介します。

これら企業の取り組み事例からヒントを得ることで、従業員全員のウェルビーイングを目指した経営へ一歩踏み出してみましょう。

企業事例① デンソー

デンソーは、先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカーです。
2016年から定期健診などのデータを基に、社員の健康状態の「見える化」に尽力され、5年連続で「健康経営優良法人 ホワイト500」にも認定されています。
データに基づく健康経営を行なっていることが特徴です。

「デンソー健康宣言」
デンソーは、社員一人ひとりが健康で、個々の能力や個性を発揮することにより、会社がさらに活性化すると考えます。また、健康な心身からうまれる笑顔と情熱は人を惹きつけ、元気な会社づくりの推進力となります。これまで取り組んできた健康施策を進化させるとともに、経営理念にある『個性を尊重し活力ある企業をつくる』ために、より社員が健康でいきいきと働くことのできる会社づくりに努めることを宣言します。
  • 健康経営指標として企業独自の生活習慣スコアを設定
  • 心身の健康不調への影響が大きいと考えられる睡眠に着目したストレスチェックの実施と事後対応
  • 常時、専任の医療スタッフが相談対応できる「こころの相談室」の設置
  • 産業医による管理者向けの事例研修や新任研修カリキュラムでのメンタルヘルス研修
  • 食生活改善の意識づくりのための社員食堂を活用した食育活動

※7

ウェルビーイングスタートセット

働く1119名に聞いた、ウェルビーイングに関する意識調査、ウェルビーイングに取り組むための手順とヒントをまとめました。ぜひご活用ください。

ウェルビーイング調査レポート/スタートガイド

  • ウェルビーイング実現にあたって、仕事をする上で「あったらよいもの」と「排除したいもの」
  • 職場環境とビジネスパーソンの幸福度の関係
  • ウェルビーイングの取り組みを始めるための手順とヒント
  • 重要概念(心理的安全性、デジタルウェルビーイング)
  • ウェルビーイング×テクノロジーのユースケース

(※1)https://www.jiji.com/jc/article?k=000000875.000071640&g=prt

(※2)初めてウェルビーイングという言葉が言及されたのは、1946年の世界保健機関(WHO)設立の際に考案された憲章。WHO設立者の1人である施思明(スーミン・スー)が、予防医学(病気の予防・治療)だけでなく、健康の促進の重要性を提唱し、“健康”を機関名や憲章に取り入れるよう提案した。

(※3)厚生労働省:新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移より

(※4)Do Happier Employees Really Stay Longer?(David Wyld Southeastern Louisiana University)

(※5)アメリカ・イリノイ大学名誉教授のエド・ディナー博士らの研究で明らかになった。

(※6)総務省による国連資料の仮訳

(※7)https://www.denso.com/jp/ja/about-us/sustainability/society/health/

これからのウェルビーイング

マーケティング本部 コンサルティング部
吉田美優(よしだ・みゆ)

コミュニケーションプランナーとして、BUZZマーケティングを得意とした、デジタルマーケティング領域全般の企画に従事。2021年1月、日経BPコンサルティング入社。

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