ブランド価値評価調査の活用事例

「半導体技術で不可能を可能にする」思いを込めた新社名のブランディング

  • ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント 池田 梨子

自動車や医療機器、電子機器やスマホなどに不可欠なアナログ半導体の専業メーカーであるエイブリックは2016年にセイコーインスツルから分社化され、18年1月にはエスアイアイ・セミコンダクタから現在のエイブリックに社名を変更・独立した。20年4月にはミネベアミツミグループの一員となり、新たなスタートを切った。セイコーインスツル時代から広報に携わっている八髙浩一さんは現在、広報・ブランディングを含めた戦略推進部門の責任者としてエイブリックという新社名の認知度向上とブランドのイメージアップに取り組んでいる。その経緯と苦労を聞いた。
エイブリック株式会社
グローバルワンチーム戦略推進ユニット GM
八髙 浩一氏

聞き手=池田 梨子/文=吉村 克己

2018年からブランド・ジャパン(BJ)のカスタム調査をご利用頂いておりますが、調査を始められた背景をお教えください。

八髙 2016年に親会社だったセイコーインスツルから分社化されたことをきっかけに、社内で新社名を作るプロジェクトを立ち上げ、私はそのリーダーとして関わっていました。新社名をいくつかの候補に絞り、そこから全社員にアンケートを実施、エイブリックの社名とロゴマークを決定しました。エイブリックとは、「ABLE(~できる)」と半導体の「IC」を組み合わせた造語で、半導体技術で不可能を可能にするという思いを込めています。

約1年半をかけて準備し、18年1月に現在の社名に変更しました。しかし、新社名の認知がないため営業などの活動に支障が出ているとの声もあり、何とか認知度を向上させたいという思いでブランディング活動を本格的に開始しました。ブランディングを推進するためには認知度がどのくらい向上しているのか、定点的に分析と検証が必要です。そこで、ブランド調査をやろうということになりました。どこの調査機関を選ぶかとなったときに、BJはすでに長い歴史と実績があり、客観的な評価を得られることを私自身も知っていたので、お願いすることにしたのです。

新社名の認知率の変化はいかがですか。

八髙 最初から一朝一夕に認知率が上がるとは思っていません。しかし、限られた予算でもターゲットを絞って継続的にブランディング活動を行う事で、広告・宣伝を集中的に投下しているエリアや分野では結果が出ていると評価しています。

認知度だけでなく、ブランドイメージも調査していますが、私たちがこう見られたいというイメージに近いとらえ方をされており、アプローチの手法はおおむね間違いないと考えています。同時に伝え切れていない弱い部分も見えてきたので、切り口や媒体をどのように選定するか、ブランド調査はそのための参考になります。18年以来、毎年実施していますが、私たちにとって大変役に立つ調査になっています。

どのような媒体を活用していらっしゃいますか。

八髙 私たちは認知度ゼロからスタートしていますし、まずは取引先や学生などへ効果的にアプローチできる媒体と手法に絞った活動を行っています。具体的にはウェブ広告、取引先企業が立地するエリアでの交通広告、ターゲット層の接触率が高いテレビやラジオ番組へのCM展開等でブランドの刷り込みを行っています。また、学生採用のためには、学校を絞って最寄り駅などに広告を掲出しています。

ブランドイメージでは過去3年間で「エネルギッシュ」「時代を切り開いている」など活力や先見力の指標が高いですね。

八髙 エイブリックとして独立するまで「品質」「技術」などのスコアが高かったのですが、新ブランドでのスタートとなりすべてがリセットされました。一方で、簡単ではありませんが、新しい企業の姿を白いキャンバスに描けるので、私たちが見られたい企業イメージを自分たちで作りやすい側面もあります。私たちとしては活力のあるワクワクする楽しい会社というイメージを感じてほしいと考えていて、そのために「半導体技術で不可能を可能にする」というメッセージを打ち出しています。イメージ調査にその結果が反映されているのがうれしいです。今後は具体的に当社の技術力を訴求していきたいと考えています。

社員向けのインナーブランディングの状況はいかがでしょうか。

八髙 全社員で決めたエイブリックという社名、ブランドは、社員のさらに成長したいという思いの求心力になっています。

現在、取り組んでいるブランディング活動は社外向けだけでなく、社員のモチベーションにも大きな影響を与えています。知り合いやお客様からテレビCMのことを聞かれると社員もうれしいですからね。

社内でブランドの浸透を図る取り組みはありますか。

八髙 ブランドやロゴを使用するときは厳格なルールを設けています。マニュアルを作り、使い方を間違えないように働きかけています。それによって社員のブランドに対する意識も高まり、自分たちの財産のひとつであると思ってもらえます。ロゴマークを使用する際は都度広報に申請書を提出するよう指導しており、今では自主的に相談をもらえるようになりました。

私は社員1人ひとりが広報マンだとよく言っているんです。社員の言動がブランド価値につながるので意識を高く持ってほしいと伝えています。また、広告やイベントは社内ポータルで紹介し、どんなブランディング活動をしているか皆で共有するようにしています。

インターネットなどデジタル・コミュニケーションの重要性が増している状況ですが、ブランディングの取り組みに変化はありましたか。

八髙 コロナ禍で街中の往来が減り、交通広告などの見直しを行うとともに、ウェブを中心とした広報・広告活動を強化しています。展示会やセミナーなどもオンライン化による「ウェビナー」(オンライン上のセミナー)を推進しています。

一方、ステイホームでラジオやテレビの聴取率・視聴率が上がっており、継続して力を入れています。テレビCMはこれまでBSで放映していましたが、この4月からは地上波での放映を始めました。ブランド調査の結果を分析する中で、短時間で認知度を上げるためにはテレビCMも効果的だという話も御社から聞いていたので、一度検証してみようと思ったわけです。それが次の調査でどんな結果をもたらすか非常に関心を持っています。

オンライン展示会やウェビナーはこれまでにない新しい施策だったと思いますが、反響などはいかがですか。

八髙 昨年度からスタートしたばかりで、最初は皆、分からないことが多かったのですが、最近は少しずつ慣れてきて、ウェビナーの良いところをうまく活用できるようになっています。

先日コーナーを出展した「ワイヤレスジャパン2021」では、初めての試みとして説明員を配置せずに、オンラインによる映像とチャットのやりとり、非接触タグを使った資料提供を実施しました。当初はきめ細かい対応ができるかどうか心配したのですが、思いのほか、臨場感のあるコミュニケーションでスムーズにオペレーションでき、興味を持っていただいたお客様との新しい商談も生まれました。

リアルな展示会とオンラインの組み合わせも可能であることを学び、今後はオンラインだけの展示会も含め、Webを活用したPRの可能性を検証していきたいと思っています。

20年4月からミネベアミツミグループの一員となられましたが、ブランディングへの影響はありますか。

八髙 ミネベアミツミグループには個性的なブランドがいくつもあり、それぞれの企業の強みを活かしながら総合的な効果を高めていて、当社もエイブリックというブランド価値を高める事でグループに貢献していきたいと思っています。

現在、ロゴの下に「MinebeaMitsumi Group」というグループステートメントを入れた新ロゴを作り、既存の広告と差し替えているところです。

最後に、今後のブランディング活動を通じて、これまで以上に伝えたい取り組みやイメージがありましたらお聞かせください。

八髙 当社のコアコンピタンスである「Small Smart Simple」を軸にした技術力や、お客様から信頼を得ている品質の高さは、これからますます力を入れて訴求していきたいと考えています。特に、「不可能を可能にする」につながるフラッグシップともいえる「CLEAN-Boost®」という独自技術は、他社との差別化になる強みとして発信を強化していきたいと考えています。これは、例えば自然の力を活用し電池レスで漏水などを検知して無線で知らせることが可能になる技術です。

従来は捨てられてしまっていたエネルギーを活かしたサステナブルな社会にも深く貢献する技術でもあり、IoTイノベーションを起こすことができる画期的な技術として、もっと知ってもらいたいと思います。

エイブリック ロゴ

エイブリック ロゴ

エイブリック株式会社
グローバルワンチーム戦略推進ユニット GM
八髙 浩一氏

2018年エイブリック入社。
精密機器メーカーで、営業、マーケティング、広報等を担当し、2016年より半導体部門の独立を背景に新たなブランドの立ち上げに携わる。2018年からはエイブリックの広報責任者としてブランディング活動全般に従事。現在は、コーポレートコミュニケーションを含めた戦略推進部門の責任者を務める。

※肩書きは記事公開時点のものです。

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント
池田 梨子(いけだ・りこ)

Webサイト評価調査「Webブランド調査」を担当するほか、各種ブランド調査やメッセージ制作などのブランディング支援に従事。周年事業センターのコンサルタントとして周年事業の支援も行う。2016年3月、日経BPコンサルティング入社。

 

※このプロフィールは、掲載時点のものです。最新のものとは異なる場合があります。

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