危機を乗り越えるために

SDGs×クラウドファンディング 北海道下川町のコロナ対策への挑戦

  • 浅野 恵子

    コンテンツ本部 編集第2部 浅野 恵子

SDGs×クラウドファンディング  北海道下川町のコロナ対策への挑戦
新型コロナ禍で経営が悪化した事業者に対して、クラウドファンディングを活用する動きが全国で盛り上がっている。クラウドファンディングは「crowd(群衆)」と「funding(資金調達)」を組み合わせた造語で、プロジェクトの目標に共感する不特定多数の人が、インターネットを通じて、目標実現に必要な資金調達に協力できる仕組みだ。
2018年に「SDGs未来都市」に選ばれた北海道下川町では、自治体主導により、町内の飲食店を応援するクラウドファンディングが進行中だ。自治体がクラウドファンディングに乗り出した理由はどこにあるのか。その経緯、SDGsとの関連、そして成果などについて、北海道下川町 森林商工振興課主幹 下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部統括の高原義輝(たかはら・よしてる)氏に話を聞いた。
聞き手=浅野恵子/文=二村高史/写真=下川町提供

「コロナにも負けぬ」プロジェクト誕生の経緯

コロナ支援にクラウドファンディングを活用する動きが盛り上がっていますが、その多くは店舗自身やお気に入りの店を支援するために個人やグループが行っているものです。自治体が主体となったクラウドファンディングは珍しいと思いますが、どのような経緯で実現したのでしょうか。

高原義輝氏

北海道下川町 森林商工振興課主幹
下川町産業活性化支援機構
タウンプロモーション推進部統括
高原義輝氏

下川町は、2018年に「SDGs未来都市」に選ばれるのに先立ち、住民の皆さんとともに、「2030年における下川町のありたい姿」を考えてきました。そこで出た大きな目標は、「誰一人取り残されず、しなやかに強く、幸せに暮らせる持続可能なまち」を目指すというものでした。この将来像のもとで「人も資源もお金も循環・維持するまち」、「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」など、SDGsの17の目標に紐づけたオリジナルの7つの目標を掲げたのです。

ところが、今回のコロナ禍では、飲食店を経営する方々を中心に、大きな売上の減少を招いています。このままでは、経済的にはもちろん社会的にも取り残されかねず、SDGsの目標達成とは逆の動きとなります。個々の店舗の努力も大事ですが、この困難に対しては、町として地域全体で取り組む必要があると考えてクラウドファンディングの活用を提案し、「雨にも負けずコロナにも負けぬ 北海道下川町の飲食店を応援しよう!」プロジェクトが誕生したのです。

下川町へのコロナの影響と対策

下川町ではどの程度コロナの影響が出ているのでしょうか。また、クラウドファンディング以外、町ではどのような対策を行っていますか。

ご存じのように、北海道では全国に先駆けて、道による緊急事態宣言が2月28日に発出されました。それから現在(注:5月末)に至るまで3カ月という長期にわたって営業自粛が続いたため、経済的に大きな影響を受けています。

国からの持続化給付金はありますが、対象になるのは月単位の売上が昨年比で50%以上減った事業者に限られます。しかし、実際にはその枠に入らない事業者さんが多いため、下川町では20%から50%減の事業者への支援を行うことにしました。また、資金繰りについても、売上が減った事業者には、町が利子を全額全期間補給しています。さらに、飲食店については、緊急事態宣言中に休業していた店に対して一律30万円の給付を実施しました。

しかし、これらの支援策の効果は一時的です。コロナの流行はいったん収束しつつあるように見えますが、まだまだ予断を許しません。今後も、地域全体を盛り上げていくには、住民の皆さんをはじめ、色々な方を巻き込んだ取り組みが大切だと考えました。その点、クラウドファンディングは、この状況に対して「何かをしたい」という多くの方々の気持ちをつなげることができます。そこで、下川町産業活性化支援機構という地域経済活性化に特化した官民一体のコンソーシアムが主体となって、クラウドファンディングにチャレンジしてみよう、となったのです。

クラウドファンディングで応援できる対象が飲食店に絞られているのはなぜですか。また、どのような仕組みになっているのでしょうか。

今回、緊急対策をもっとも必要としていたのは飲食店でした。私は、町役場で産業振興や地域振興を所管していますので、早くからコロナの影響を受けた地元の飲食店の方々から資金繰りや経営の相談を受けてきました。あるスナック店主のお話では、3月時点で売上が7割減少し、5月には9割減少したということで、まさに危機的状況でした。

商工会と町役場が連携して実施したアンケート調査でも危機的な状況が伝わってきました。印象に残っているのは、ある飲食店の「今回は国難だからしかたがない。休業には協力しますが、経済的には本当に死活問題だ」という言葉です。これを聞いて背筋がピンと伸びるような気持ちになり、なんとかしなくては、と強く感じました。

クラウドファンディングのプロジェクト概要を教えてください。

プロジェクトの応援対象となる飲食店として参加したい店舗は、希望すれば無条件で参加できます。プロジェクトのWebサイトにあるように、参加店舗は5月末現在で15軒。下川町内の飲食店の約半分が手を挙げてくださいました。

雨にも負けずコロナにも負けぬ 北海道下川町の飲食店を応援しよう!

雨にも負けずコロナにも負けぬ 北海道下川町の飲食店を応援しよう!」のWebサイト

募集しているのは、飲食チケットでの応援と純粋な寄付の2本立てで、両者の組み合わせを含めて1000円から100万円まで9種類のコースを用意しています。現在のところ、3000円から1万円コースの支援が多いですね。比率としては飲食チケットが4割ほどとなっています。

課題としては、飲食チケットという形にすると、客単価の高いビジネスモデルである予約制の飲食店では対応しづらい場合があるようです。クラウドファンディングという試み自体には抵抗感はないものの、仕組み上、参加するのが難しいという声がありました。

クラウドファンディングの意義とは?

今回のクラウドファンディングは6月末まで続きます。目標金額は設定していらっしゃいませんが、5月末時点で108万円が集まっていますね。この手ごたえをどのように感じていらっしゃいますか。

本当にありがたい限りで、感謝しかありません。私だけでなく、参加店舗の皆さんもとても喜んで感謝しています。ある飲食店の店主さんは、毎日クラウドファンディングのサイトをチェックして、金額や支援者の方々の温かいメッセージを読んでいるそうです。

私はプロジェクト管理者として、支援してくださった方のメールアドレスが見られますので、お一人おひとりにお礼のメッセージを送っています。すると、それにご返信をくださる方もいて、その内容は本当に嬉しいものばかり。こんなに私たちのことを思って支援してくださる人がいるのかと思うと、勇気が湧いてきます。ある意味、こうして生まれるつながりは、資金そのもの以上に意義深い面があるのではないかと感じています。

ところで、クラウドファンディングの運営会社としてACT NOWをパートナーに選んだのは、どういう理由からでしょうか。

私自身、大手のクラウドファンディング運営会社は知っていましたが、ACT NOWは今回初めて知った会社です。北海道にあって、「地域活性化を目指す人たちのためにインターネットを活用して挑戦を応援する」という理念に共感を持ちました。ほかのさまざまなサイトと比較検討した結果、ぜひお願いしたいということになったわけです。費用は通常10%+消費税であるのに対して、地域支援のプロジェクトについては決済手数料5%のみという点にも同社の思いが感じられ、大変感謝しています。

クラウドファンディングは、今回のコロナ対策に限らず、今後も別の機会に利用できる手法といってよいと思われますか。また、SDGsとの関わりでクラウドファンディングに期待できることは何でしょう。

クラウドファンディングはまず、資金調達のための便利なツールであることは確かでしょう。加えて、先ほども述べたように、人と人とのつながりや思いを伝えるツールとしても優れていると実感しています。支援してくださる人とのつながりが、はっきり目に見えるのがいいですね。

 

SDGsとの関連で言うと、「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」を体現していると思います。今回の場合は、他にも貧困をなくすことを掲げる目標1、生産的な雇用と働き甲斐のある人間らしい仕事の実現を目指す目標8、経済発展と人間の福祉を実現する産業発展を謳う目標9、とも密接に関係しています。

SDGsの達成には、柔軟な発想による多様なアクターとの連携や、様々な方法への挑戦が不可欠なので、今回クラウドファンディングに挑戦できてよかったと思っています。コロナ対策にとどまらず、こうした取り組みが全国各地に広がり、様々な可能性が生まれることを期待しています。

 

<取材を終えて>

日本におけるSDGs推進において重要な柱の一つが地方創生です。政府は、2018年から毎年「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」を選定し、地方自治体のSDGsに対する積極的な取り組みを後押ししています。今回取材した北海道下川町は、2017年に第1回「ジャパンSDGsアワード」総理大臣賞を受賞し、2018年度には「SDGs未来都市」、「自治体SDGsモデル事業」の両方に選ばれ、SDGsの核となる価値観である「誰一人取り残されない」町づくりを推し進めてきました。インタビューさせていただいた高原様から「コロナの影響下で誰一人取り残されることがないよう、地域として盛り上げていく必要があると強く感じた」、という言葉が自然と出てきたところに、これまでのSDGsに対する取り組みの真摯な姿勢が感じられました。

前回取材した陸前高田市についても言えることですが、地方自治体でSDGsに取り組んでいる方々は、SDGsという枠組みをいかに地元の未来に生かすことができるか、とても真剣に考え、熱意を持って取り組んでいらっしゃいます。そしてさらに、そうした動きが日本の中で横のつながりを持ち、広がっていくことを願っておられます。日経BPコンサルティングは、様々な方法で企業広報のお手伝いをさせていただいていますが、地方自治体の発信にもそのノウハウを生かすことを通じて、日本にとって喫緊の課題である地方創生のためにより大きな貢献をしていければと願っています

高原 義輝氏

北海道下川町 森林商工振興課 主幹
下川町産業活性化支援機構
タウンプロモーション推進部 統括
高原 義輝(たかはら・よしてる)氏

1974年、北海道生まれ。北海道下川町役場に勤務し、2013年から産業振興、地域振興に従事。2019年から下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部を兼任。現在に至る。

 

※肩書きは記事公開時点のものです。

浅野恵子

コンテンツ本部 編集第2部
浅野 恵子(あさの・けいこ)

政府系機関等を経て、子ども支援の国際NGO勤務。ミャンマーに駐在し、保健・教育・貧困削減案件に従事した後、日本で広報・ブランディング、アドボカシーを担当。「誰一人取り残さない」ことを誓うSDGsの本質に深く関与する「ビジネスと人権」に注力し、企業価値を高めるコミュニケーションを支援します。

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