グローバル・リーダー育成の“今”

グレタさんに共感する日本のSDGsネイティブ

  • 松﨑 祥悟

    サステナビリティ本部 コンサルタント 松﨑 祥悟

2018年度からSDGs(Sustainable Development Goals)を学校教育に導入した武蔵野大学附属千代田高等学院(東京都千代田区)では、文化祭や啓発活動など、SDGsに関する多彩な取り組みを生徒たちが自発的に展開している。“SDGs1期生”として2018年に入学し、現在2年生で生徒会長を務める菊池隆聖さんは、様々な学校行事や日常の活動をSDGsと結びつけ、生徒への浸透と理解促進を牽引する立役者だ。SDGsに興味を持ったきっかけや現在進める活動、さらに今後の夢などについて話を聞いた。 聞き手=松﨑祥悟/文=斉藤俊明

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SDGsが採択されたのは中学1年時

最初に、武蔵野大学附属千代田高等学院に入学したきっかけを教えてください。

菊池 実は中学校の頃は勉強があまり好きではなく、部活でバスケットボール漬けの毎日でした。高校を選ぶとき、人と違ったことにチャレンジできる学校がいいと考えていたのですが、2018年4月から男女共学となって校名も変わる千代田高等学院は僕の世代が1期生になるので、学校づくりを自分たちで進めていけるのではないかと期待して選びました。

千代田高等学院にとっては教育にSDGsを取り入れ始めるタイミングでもありましたが、SDGs自体はいつ頃に知ったのですか。

菊池 SDGsが国連で採択された2015年、僕は中学1年生で、その頃はまだ知りませんでした。その後、中学3年だったと思いますが、どこかの企業がSDGsに取り組んでいる話をニュースで知り、興味を持って自分で調べ始めたのがきっかけです。

武蔵野大学附属千代田高等学院
生徒会長(2年)
菊池 隆聖氏

いま、SDGsに関する情報はどうやって入手し、調べていますか。

菊池 子どもの頃に祖母から新聞を読みなさいといわれ、新聞を読む習慣は身に付いているのですが、いまは毎日、まずインターネットのニュースを確認しています。自分がSDGsの活動をしているので、ニュースで知った情報をSDGsと関連付けて考えています。学校の図書室や家の近所の図書館に行くこともありますが、英語の情報も含めてインターネットで調べるケースがほとんどです。

SDGsの活動を校外にも広げる

SDGsに関して取り組んでいることを具体的に教えてください。

菊池 生徒会が活動の柱になるものとしては、文化祭でのSDGsに関係する展示や発表、SDGs啓発ポスター作成、小中学生へのSDGs教育、他校生徒会とのSDGs勉強会などを行っています。2019年の文化祭はすべての活動をSDGsと結びつけ、文化祭パンフレットにも一つひとつにSDGsの番号を掲載しました。代表的な取り組みには、食品を寄付するフードバンクや、浅草の老舗和菓子店と共同開発した揚げ饅頭の販売(以上、2番)、ゲームを活用したSDGsの紹介(4番)などがあります。また、SDGsの17目標それぞれについて身近な事例を引きながら解説する「千代田×SDGsハンドブック」も制作し、文化祭で配布しました。

このほか、2019年2月には回収した小型家電をリサイクルして東京オリンピック・パラリンピックのメダルを作る「SDGs・メダルプロジェクト」を実施しました。今後は環境循環や再生可能エネルギーなどの意義をゲームソフトで可視化し、小学生に体感してもらうプロジェクトを計画しています。また、ペットボトルの蓋をアンケートに答える投票用ツールとして活用し、ボックスに投票する形で回収するプロジェクトも実施予定で、近々校内にボックスを設置しようと考えています。

活動は校内だけでなく、学校の外にも広がっていますね。

菊池 校外では生徒会の団体に3つ所属しており、そのうちの1つで代表、2つで副代表を務めています。中でも副代表を務める多摩地区の団体では、SDGsの目標11を使い、生徒会活動と地域貢献を組み合わせてどのようなことができるかを話し合っています。生徒会団体以外に、学校の枠を超えてSDGsに取り組む学生プロジェクト「Doers」を2018年に立ち上げ、運営代表を務めています。高校生だけでなく中学生も参加できる「Doers」は、SDGsに関するアクションを起こすための仲間がほしいと考えて設立しました。生徒会でSDGsの活動を進めるのも、他校の生徒会と協力関係を築くのも、そして「Doers」を立ち上げたのも、中高生にSDGsを広げ、何か行動を起こしたいと考えた人が動きやすい環境を作っていくことが目標です。

千代田高等学院の生徒はSDGsをもちろん知っていますが、他校の生徒や若い人たちにはまだあまり知られていないので、ぜひ知ってほしい。知ってもらうために、自分が考えていることを主張し、目標に向けたアクションを起こす。そのためには、仲間を作って活動したほうが早いかなと思ったのです。僕には僕の個性がありますが、自分一人の力だけでは何もできません。様々な個性を持った人、様々な知識やスキルを持った人が集まって初めて何かができる、そういうイメージが自分の中にはあります。そして、取り組みがどんどん積み重なることで、SDGsの理解と協力の輪が学校や世代を超えて広がり、地域社会を動かし、最終的には国をも動かすことにつながるのではないか。そう考えています。

日本だけでなく世界から学ぶ

そもそもSDGsを広げていこうという思いはいつ頃、どういったきっかけで生まれたのですか。

菊池 高校に入ってからです。SDGsに取り組める環境と、がんばる人を応援し生徒の活動をフォローしてくれる先生方の存在があったからこそ、率先して動き始めることができました。僕自身、すぐ行動に移すタイプですが、校長先生も「考えたことは今すぐやりなさい」と言ってくださるので、背中を押されました。仮に何か失敗をしても学校や先生がフォローしてくれますし、そもそも失敗を恐れていたら何もできません。そうして動いているうちに、仲間やコミュニティがどんどん生まれ、広がってきました。

8月、武蔵野大学との高大連携の一環で、工学部環境システム学科の学生や教員と共にスウェーデンを訪れ、環境先進国の現状を体験してきました。高校生の参加は菊池さん一人だったそうですが、スウェーデンではどのようなことを感じましたか。

訪問したスウェーデンでのSDGsの取り組みについて紹介する菊池氏。

菊池 スウェーデンはとにかくSDGsが浸透していることを強く実感しました。例えばバスは生ゴミから作ったバイオガスで走っていますし、電気も風力など自然エネルギー比率が高く、排出するCO₂の量は日本と全く違います。ゴミは100種類ほどに分別するのですが、ゴミではなく資源と呼んで回収し、何らかの形で活用します。捨てるという発想がありませんし、細かな分別も当然の行動として染み付いています。スーパーマーケットではペットボトルを入れるとお金が戻ってくる回収箱が普及していましたが、デポジットのお金をそのまま貧しい人たちに寄付できるシステムも用意されていたのは興味深かったです。そのほか、自然素材だけを使った美容院、フェアトレードやオーガニックの商品が並ぶショップなど、スウェーデンで見る一つひとつの徹底した仕組みに、僕は大きなショックを受けました。

日本でSDGsのことを学んではいても、実際に行ってみると日本とはレベルが違う。違いすぎました。また、スウェーデンは環境教育もしっかりしています。生ゴミはコンポストで自然循環させるなど、環境に配慮した行動を小学校に入る前の年代からきちんと学び、日常的に実行しているので、自分ごとになっていると感じました。僕は小学生や中学生にSDGsについて教えることがあるのですが、効果的な環境教育のヒントをスウェーデンで学べた気がしています。

SDGsネイティブが企業に求めること

話を日本に戻しますが、日本の企業関係者と話をする機会も多いと聞きました。SDGsの観点で、企業にはどういったことを求めていますか。

菊池 僕はまだ高校生ですから社会に出ているわけではないですし、会社を経営していく以上様々な制約があることも理解しますが、できればSDGsを後回しにせず、もっと積極的に取り組んでほしいと思います。スウェーデンでは、市民が環境配慮の行動を続けると、巡り巡って自分たちのもとにお金となって戻ってくる仕組みが生まれています。例えば美容院も自然素材だけを使うのは最初大変だったそうですが、社会が「環境」という視点を軸にして動いているため、最後は美容院にもお金が入ってきて、経営が順調になったと聞きました。日本企業にも、環境に積極的に取り組んだことで、従来より利益を得た事例はありますから、そういった考え方を持って臨んでほしいですね。

将来はどのような仕事に就くことを目指していますか。

菊池 小学校の教員になりたいと考えています。「持続可能」に焦点を置き、人のため、環境のために仕事がしたい。そうでなければ意味がないと思っています。収入の多い少ないも気にしません。子どもたちにSDGsや環境のことを教えながら、社会貢献につながる活動を企業に提案し、Win-Winの関係で取り組みを進めていけたらうれしいです。

SDGsの課題はどれについても危機感を抱いていますが、とりわけ環境に関する課題は深刻に捉えています。地球が健康でなければ、その他のすべてはうまく回りません。グレタ・トゥンベリさんと考えていることは根本的に同じ。ですが彼女はそれを行動に移したところがすごい。僕ももっと行動に移していかなければと思います。

武蔵野大学附属千代田高等学院 生徒会長(2年)
菊池 隆聖(きくち・りゅうせい)

学生プロジェクト Doers 設立・代表。日本生徒会代表者会議 設立・代表。多摩生徒会協議会、生徒シンポジウム副代表。

※肩書きは記事公開時点のものです。

SDGsデザインセンター コンサルタント
松﨑 祥悟(まつさき・しょうご)

これまでCSRレポートや統合報告書だけでなく、採用ツール、会社案内などの企業が発信すべき情報をステークホルダーに対応した形でお届けするカスタムメディアの制作に従事。紙、映像、Web、リアルイベントなど媒体ごとの特性も生かし、コミュニケーションを通じた企業の価値向上を支援。SDGsデザインセンター、周年事業センターのコンサルタントを歴任。