企業サバイバル戦略としてのSDGs

SDGs経営で自社のリブランディングと世界戦略を(後編)

  • 古塚 浩一

    マーケティング本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長 古塚 浩一

笹谷秀光氏

ESGとSDGsが浸透し、大きな潮流となる一方で、両者の関係性についてはいまだに混乱が見られる。自社の事業にESG、SDGsをスムーズに適用するには、この混乱を解消する必要がある。いま、多くの企業がESG、SDGsに本腰を入れ始めた理由とは。具体的な適用において、どのような点を重視し、どのような手法で自社の事業に紐付ければよいのか。また東京五輪を境にSDGs経営の拡大が予想されるいま、将来に向けて注力すべき点は何か。当社SDGsデザインセンター シニアコンサルタントであり、新刊『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版社)を上梓し、CSR/SDGsのコンサルタントやアドバイザーとして幅広く活躍する笹谷秀光氏に伺った。聞き手=古塚浩一 / 文=斉藤俊明

>前編はこちら


SDGsの浸透は全方位的に進む

ESGは投資を前提としたものであり、非上場企業や中小企業は取り組まなくてもいいのではという指摘も聞かれます。この点についてはどうお考えですか。

笹谷 上場していない企業もSDGsを推進する流通大手、自動車など基幹製品製造業企業、大規模プロジェクト発注企業などの「プラットフォーマー」が形成するサプライチェーンに組み込まれています。また前編で述べたように投資家以外のステークホルダーからのSDGsへの要請も強まっている以上、ESG、SDGsに取り組まなければ事業を思うように進められなくなる構図も生まれてきています。

また、2020年の東京五輪・パラリンピックでは、調達する全ての物品に「持続可能性に配慮した調達コード」が定められ、中でも農林水産品については特別な調達ルールが示されています。SDGsの取り組みに努力していなければ、調達に参加すらできません。五輪後の様々なイベントや公共調達全般にも、このルールがレガシーとして広まると予想されますし、2025年の大阪・関西万博も“SDGs万博”を打ち出しています。このタイムライン上で、SDGsの目標年次である2030年まで切れ目なく受け継がれていくのではないでしょうか。この流れの中で、SDGsの浸透が進むことはあっても、後退することはないと見ています。

東京 2020 五輪・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード 〈4つの原則〉

  • ① どのように供給されているのかを重視する
  • ② どこから採り、何を使って作られているのかを重視する
  • ③ サプライチェーンへの働きかけを重視する
  • ④ 資源の有効活用を重視する

※出典:東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
「東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード 基本原則」2ページ

(URL)
https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/data/sus-principles-JP.pdf

一方、人材採用の面でもSDGsは無視できないテーマになるでしょう。今後はSDGsについて学んだ学生が増えますし、ミレニアル世代やZ世代はSDGsに対し、上の世代に比べ特に感度が高いというデータもあります。非上場企業や中小企業もSDGsに対応しないと、人材採用面でのリスクが高まるでしょう。さらにはこうした流れを通じて、消費者の目線もSDGsに向くはずです。つまり、事業に直接影響する投資家対応、取引関係に始まり、人材、さらには消費者まで、全方位にSDGsの浸透が進むと考えています。まさに、SDGsを経営に実装することは企業の「サバイバル戦略」になるのです。

日本企業のリブランディングにはSDGsが不可欠

企業としては社内でSDGsの考え方を定着させるために、どのような取り組みが必要でしょうか。

笹谷 一刻も早くこの世界ルールになじみ、「自分事化」すべきです。SDGsは経営全般に絡みます。また17目標に加え169のターゲットもビジネスチャンスとリスク回避に必要です。そうなると相当に複雑ですので、これまでの日本企業特有の自前主義では時間がかかります。速度感をもって世界の流れについていくには、的確な専門家の支援が必要になるでしょう。もちろん経営トップから社員までの社内理解の深まりも重要です。例えば、役員向けには企業での実装経験のある専門家を招いた深い意見交換が有効です。社員向けには、eラーニングのような方法で、一方通行ではなくインタラクティブに知識を身につけていく工夫が求められます。研修プログラムとして、質が高く実践的なeラーニングを活用すると効果的です。さらに、SDGsに関わる取り組みのベストプラクティス形成については、社内表彰制度の実施が有効でしょう。企業により事情が異なるので、それぞれの業態や企業の特性・企業風土に合わせて、まさに経営課題として推進すべきです。

笹谷 秀光氏

SDGsの取り組みを進める上で、どういった点を重視すべきでしょうか。

笹谷 大切なのは発信すること。その前提として、本業を軸にした企業のブランドデザインが必要です。まず、財務指標に表れにくい企業文化や社風に加え、ノウハウや特許、ビジネスモデルの特性やネットワークといった無形資産を凝縮、分析し、自社の強みと個性がどこにあるのかを洗い出しましょう。それらをもとに価値創造のストーリーをまとめ、統合報告書やWebサイトなどを通じて効果的に発信すべきです。すでにクボタ、セイコーエプソン、伊藤園などの様々な企業が、各社の本業と個性を反映したSDGs経営から生まれるストーリーを発信しています。

世界へ発信するにはノウハウや工夫も大切ですが、ストーリーにSDGsを当てはめると非常に伝わりやすくなります。SDGsの各目標のピクトグラム(ロゴ)や番号を付け加えるだけでも、一気に理解しやすくなるのです。そうした活動が、企業のブランディング、企業価値の向上につながっていきます。

つまり、SDGsは世界に向けたサバイバルのための競争に応用できるツールなのです。グローバル時代を生き抜くために、日本企業こそSDGsをうまく使い、自社のリブランディングを進めてほしい。そのためにも、日本よりも大きく先行した世界での成功事例、ベンチマークすべき優良事例を参考にして、一刻も早くSDGsへの取り組みを始めるべきです。ただし、専門的な知見も必要ですから、SDGs経営の専門家のサポートを受けつつ、自社の本業に素早くSDGsを埋め込んでいくことが大切です。

CSR/SDGsコンサルタント
現在、日経BPコンサルティング・シニアコンサルタント、社会情報大学院大学客員教授
笹谷 秀光 (ささや・ひでみつ)

特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム理事、日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事。

1976年東京大学法学部を卒業、77年農林省(現農林水産省)に入省、81年~83年人事院研修でフランス留学、外務省出向(在米国大使館、一等書記官)。農林水産省にて中山間地域活性化推進室長、市場課長、国際経済課長等を歴任。2003年環境省大臣官房政策評価広報課長、05年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て、08年退官。同年伊藤園に入社、取締役等を経て19年退職。同年より現職。

著書に『Q&A  SDGs経営』(日本経済新聞出版社、2019年)、『環境新聞ブックレットシリーズ14 経営に生かすSDGs講座』(環境新聞社、2018年)、『協創力が稼ぐ時代 ビジネス思考の日本創生・地方創生』(ウィズワークス社、2015年)、『CSR新時代の競争戦略 ISO26000活用術』(日本評論社、2013年)。

※肩書きは記事公開時点のものです。

マーケティング本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

カスタムメディアのプロデューサー、ディレクターとして主にBtoB領域の企業コミュニケーションを支援。ナショナルジオグラフィック日本版広告賞(三井物産)、日経電子版広告賞BtoBタイアップ広告部門賞(三菱商事)等受賞。

『Q&A  SDGs経営』(笹谷秀光著、日本経済新聞出版社刊)

楽天常務執行役員 CMO マーケティングディビジョングループ マネージンクグエグゼクティブオフィサー、河野奈保氏

SDGsへの対応はなぜ必要なのか。ビジネスの常識として、SDGsが世界的に浸透・定着した経緯とは。東京五輪、大阪・関西万博によって、SDGs経営の拡大が予想される未来にどう備え、どのような経営戦略を持つべきか。日本と世界の潮流を踏まえつつ、それらの疑問に経営視点からわかりやすく答えます。

https://www.nikkeibook.com/item-detail/32299

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