デジタル×リアルの最適解

パーソナルデータストアで描く未来志向のジャーニーマップ

  • 吉森大介-2

    コンテンツコミュニケーションラボ・コンサルタント 吉森 大介、前島 寛子

ジャーニーマップは今後、より利便性を増すと思われる。
これまでのマーケティングの仕組みが大きく変わる。パーソナルデータストア(以下PDS)や情報銀行の登場が、この変化を現実のものとしようとしています。
どう変わり、どう対処すべきなのか。
お客様を目的地まで導く橋と称されるジャーニーマップを例に取り、マーケティング施策の内容や、マーケティング手法がどう変わるのかを考えていきましょう。

マーケティング施策の道筋と行方を見える化する役割を負いながら、これまで仮説に過ぎないと言われてきたジャーニーマップは、パーソナルデータストア(以下PDS)を使った情報銀行が誕生すると、より現実的な、利便性の高いツールになる可能性が高いと言えます。

ただ、実際に、ジャーニーマップを描いてみると、検証がきわめて難しい個所がある、と気づかれる方も多いのではないでしょうか。たとえば、自社ブランドや製品を認知する前の行動、店舗やリアルな場での接触、他サイトでの行動などは、たしかに推測でしかありません。

情報銀行は、PDSのシステムを活用して、個人がデータを管理するとともに、個人の指示または予め指定した条件に基づいて、個人に代わり妥当性を判断のうえ、第三者にデータを提供する仕組みです。これまで、許可なく企業から企業へ提供されていた個人のデータが、許諾を得た上で活用できるようになります。

つまり情報銀行の登場で、ジャーニーマップのネガティブな点を克服できるのです。情報銀行があたりまえになり、データがマーケティングに使えるようになったら、パーソナルな行動情報がわかるようになるからです。

  • 情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。

情報銀行のイメージ。ニーズに合ったサービス・製品の提供を可能にすることを示している

「AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまとめの概要」
(内閣官房IT総合戦略室)より

本当に必要なデジタルマーケティング施策にお金が使える状況に

例えば、電力の使用データと、IC定期などの移動データを組み合わせて分析すると、生活時間がわかります。「購買データ☓移動データ」から生活圏が割り出せ、「移動データ☓購買データ☓SNS」によって趣味嗜好が、「家族構成☓金融データ☓所有データ」から、結婚・離婚・両親・子供にまつわるイベント・家の購入などのライフイベントの実施時期がわかってきます。

情報銀行の登場で割り出せる行動データ。生活時間、生活圏、趣味嗜好、ライフイベントなどの割り出し方のイメー

これらの情報が明らかになればニーズが顕在化し、個人情報や、生活動態を取得するためのデジタル施策は不要になるでしょう。購買習慣、ブランドスイッチ、さらに比較検討の状況がわかるようになるので、届くかわからないバナーの制作や、キャンペーンハンターしか集まらないキャンペーンも不要になります。顧客とのコミュニケーションに関するコストがかなり減るのではないでしょうか。

その結果、今後は商品・サービスなどの価値を伝えるコンテキストをくみ上げることが、より重要になるものと思われます。
そうなると、ジャーニーマップも不要になるのでしょうか。

ファクトをベースとした真のジャーニーマップが登場

いいえ、ジャーニーマップは不要にはなりません。コンテキストが重要になると、購買行動の流れを見て施策を講じる必要が出るので、重要性は一層高まると考えられます。
これまでのジャーニーマップはCX、顧客体験の全体を見据えてマーケティング施策を設計する際に、有用なツールです。実際の施策に結び付けやすいジャーニーマップには、以下の4つの要素が必要になります。

  • ロングレンジのジャーニーマップから、ショートレンジのジャーニーマップを切り出すことができる
  • ターゲットと自社との接点「タッチポイント」が必要に応じて詳細化できる
  • ターゲットの流れがつかめ、それぞれのタッチポイントでの要件を明確化できる
  • BtoBなど、意思決定に複数の人が絡む場合、それを明確化できる

ジャーニーマップの最適なフォーマットは目的ごとに異なるため、「これが正解」というものはありません。ただし、これらの要点を抑えておけば、戦略策定のための有効なツールとして活用できます。
ですが、PDS実用化により、その内容と役割は大きく変化するでしょう。PDSが明らかにするのは、行動データだけだからです。

ネットを通じて獲得できる、アクセスログなどのテクノロジーからのデータは、より豊富に獲得できるようになります。「モノのインターネット(IoT)」の普及と5G規格の通信によって、自動車などの道具の利用状況や食品などの購買のタイミングといった環境などのオープンデータも獲得が容易になります。売上や顧客情報などのビジネスデータは、そのままPDSに紐づきます。

その延長上で、これまで推測、妄想で仮設していたファクトが全て見える、真のジャーニーマップを描くことができるようになるでしょう。しかし、ファクトを超えるところ、つまり心の動きや意識は、これらのデータからはわかりません。

意識を左右するブランドの価値が高まる

意識を左右するのはブランドです。ブランディングのための、コンテキストがより重要性を増すことになりそうです。

いよいよ重要になるであろうコンテキストを明らかに活用するツールとして、ジャーニーマップを定義してみると、次のようになります。顧客候補の購買ステータスと、自社とのタッチポイントを軸に取り、ターゲットごとのメーンルートを見極めることにより、マーケティング施策を見える化できる、便利な企画立案や分析の手法と言っていいでしょう。マップの中の必要な部分を詳しくブレークダウンし、要素を書き込むことによって、具体的な施策内容を検討したり、施策の実施に当たって、次のステップをにらみながら準備を進めたりできます。

ジャーニーマップの一番の価値は、ゴールを達成するために、力を注ぐべき誘導路はどこか、なにを用意すべきか、must事項はなにかなどの重要なポイントを、担当者全員で共有できること。
タッチポイントごとに、どんな施策を講じるべきか、その先にどんな行動を取ってもらい、さらなる施策はどうすべきかも決定できるため、効率的なマーケティング施策推進にたいへん役立つ手法です。
ジャーニーマップのこういった部分は、新時代にも変わらないでしょう。

PDSがジャーニーマップの「妄想」を「現実」に

「ジャーニーマップってフィクションじゃん」、「マーケティングファネルもありえない動きだ」、「ログを追って、自社のCRMデータとつなげば自社のもつデータの範囲なら補足できる。でも、肝心の自社の商品を買っているかはわからない」など、これまで指摘されてきたジャーニーマップの欠点があります。こういった欠点も、PDSの登場により解消されるのではないでしょうか。
逆に仮説の真贋が検証できるので、言いっぱなしのコンサルタントは淘汰されるでしょう(ブーメラン発言にならないよう気をつけなければいけませんね)。

これまでグレーゾーンなデータに頼らざるを得なかった行動データ取得の障壁はなくなり、ブラウザ外の行動すら、デジタルマーケティングに活用できるようになります。

いまでも、ジャーニーマップによって、「タッチポイント」と「施策」を結びつけ、コンテキストを意識したコンテンツを用意し、フェーズを進めてビジネスに近づけることはできています。ウィークポイントである、結局は仮説であることや、検証するにしても取れるデータが断片的で本当かどうかわからない点、最初に壮大なジャーニーマップを作ったものの、検証ができないために塩漬けになりがち、という事態も解消されそうです。

マーケティングを劇的に変えていくと考えられる「パーソナルデータストア」と「情報銀行」について
日経BPコンサルティングでは勉強会を開催します。
興味がある方はぜひ下記ページよりご応募ください。
3/13(水) 3/20(水) パーソナルデータ活用 勉強会

(吉森大介、前島寛子=コンテンツコミュニケーション・ラボコンサルタント)

※この連載は、2019年2月に開催した、マーケティング・テクノロジーフェア2019におけるミニセッションを再構成したものです

※この連載は、2019年2月に開催した、マーケティング・テクノロジーフェア2019におけるミニセッションを再構成したものです

日経BPコンサルティング デジタル本部 コンテンツコミュニケーションラボ・コンサルタント
吉森 大介

デジタルエージェンシーで、映像編集・ディレクション・PMを担当。
コーポレートサイト制作、映像制作、アプリ制作、キャンペーン施策など企業のデジタルコミュニケーション施策を実施。2011年 証券会社の資産管理サービスにてGoodデザイン賞受賞。
近年は、消費財メーカーのオウンドメディアの立ち上げと運用を担当。
2018年7月日経BPコンサルティングに入社。

日経BPコンサルティング デジタル本部 コンテンツコミュニケーションラボ・コンサルタント
前島 寛子(まえじま・ひろこ)

大学で社会心理学、メディア論などを学んだのち、2001年、大手外資系ITベンダー入社。マーケティング業務に従事したのち、企業のオウンドメディア活用のための調査、コンサルティング、戦略企画などを担当。特にWebサイトを中心としたデジタルメディア活用、リアル施策との連携を得意分野とする。

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