この6月に米国シリコンバレーに出張し、自動運転車の開発メーカーである米Waymoを取材、自動運転車に試乗し(写真1、2)、その完成度の高さに感心しました。運転席に担当者が乗っていましたが、ステアリングには触れることはありませんでした。交差点の左折で、左折ラインに入り、信号が赤になると急に止まったため初めは怖さを覚えましたが、青信号になると左折して確実に走行車線に入ったので安心しました。日本の左側通行に慣れた筆者は、右側通行の米国で運転する際、左折時に戸惑っていたので、筆者よりも上手に左折していると感じるほどでした。
(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ。以下、同)
Waymoは、2017年7月からアリゾナ州フェニックス市で運転席にドライバーのいない無人の自動運転車両の公道テストを開始、2018年中に、自動配車サービスである「ライドヘイリング・サービス(ride-hailing service)」を同市で開始すると発表しました。いよいよ、ドライバーレスの自動運転車が実用化することになりました。
Waymoは、ライドヘイリング・サービスに続いて、物流会社向けのロジスティックサービス、自治体向けの公共交通機関の一部として提供するサービス、自動車メーカーにライセンス供与して個人が使うパーソナルユース向けという合計4個のビジネスモデルを検討しているといいます。
スマートシティやスマートグリッドをウオッチしている筆者が、今回自動運転車に注目しているのは、こうして自動運転車の用途が広がり、都市のモビリティ手段として、重要な位置を占め始めたからです。
例えば、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国で建設が進むスマートシティ「マスダール・シティ」は2018年1月、地域内のモビリティとして、フランスのベンチャー企業Navyaが開発した自動運転型の電気自動車(EV)「Navya」(写真3)を採用すると発表しました。Navyaには運転席がなく、全長4.75m、定員は15人でマイクロバスに近い形状です。
これまでマスダール・シティ内には、軌道上を無人運転する電動コンパクトカー「PRT(personal rapid transit)」の導入が進められてきましたが、研究施設内に建設した段階で2010年に発表された大幅見直しで凍結されました。軌道建設にコストがかかりすぎたのが原因です。その後、マスダール・シティは代替案を模索してきましたが、グローバル規模で公募を行った結果、技術面と事業面からNavyaが最適な手法であると判断したといいます。
マスダール・シティは2018年中に試験運行やアブダビ運輸当局からの許認可を取得し、運行対象範囲の道路の整備などの準備を行った後、2019年からNavyaによる走行実証をスタートする計画です。
一方でマスダール・シティは、都市間の長距離輸送向けに電気自動車バス(写真4)の導入も検討しており、都市間をバス、ラストワンマイルの都市内を小型で電気自動車の自動運転車で担うという構想を描いています。
米国でもDoT( Department of Transportation:米国運輸省)が旗振り役となって、各都市がモビリティの最適化を中心としたスマートシティの構築を進めていますが、自動運転車が重要な位置を占めそうです。
例えば、今回訪問したテキサス州オースティン市の交通当局の担当者は、今後スマートシティを構築するうえで自動運転車の導入は重要な要素の一つだと見ていました。この担当者は、フェニックス市に先を越されてことに悔しさをにじませ、「将来的には、自動運転車を活用したタクシーサービスなどを住民向けに提供できるように環境を整備していきたい」と言っていました。
今回、自動運転車向けのソリューションを提供しているNVIDIAも取材しましたが、そこでは別の面から自動運転とスマートシティの結びつきを感じました。
同社は自動運転車向けに半導体チップにAI(人工知能)のソフトウエアを組み込んだAIプラットフォーム「DRIVE PX」を開発して、自動車メーカーなどに提供しています。その一方で、スマートシティ向けに、AIプラットフォーム「Metropolis」を開発し、現在は交通システムの最適化やスマートパーキングなどの限られた領域でのプロジェクトに採用されています。
担当者が強調していたのは、同社が提供するAIプラットフォームは、どの分野であれ同じアーキテクチャで構成されていることでした。このため、同社の技術陣は開発プロセスを効率化できているといいます。それは、自動運転向けソリューションとスマートシティ向けソリューションが同じプラットフォームで運営できることも意味し、より広い意味でのスマートシティに統合されていくことを意味しているようです。
クリーンテックラボでは、今年末には自動運転も含めたモビリティ中心のスマートシティの動向をまとめたレポートを発行する予定です。
日経BP総研 クリーンテック研究所
藤堂 安人