研究員ブログ

地方自治体の「子育て支援施策」は、地域ごとの“横並び”?

2018.03.15

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    日経BP総研 ビジョナリー経営研究所 渡辺 博則

日経BP総研が運営している情報サイトの1つに、「新・公民連携最前線」があります。PPP(公民連携)事業や「地方創生」関連の政策や取り組みの動向など、地方自治体の関係者を対象に情報を提供しているウェブサイトで、様々な調査も手掛けています。例えば、「シティブランド・ランキング2017」や「人口増減率ランキング2017」といったランキング調査が代表的なものです。

こうした調査は、アンケート調査の結果、あるいは公表されている統計データを使ってそれぞれ単独で分析したり、ランキングしたりする場合が多いのですが、一つの試みとして、アンケート調査や各種の統計データを組み合わせて「子育てのしやすさ」のランキング化を図ったのが、先日公開した「ヒト・モノ・カネで見る『自治体子育てランキング』」でした。地方自治体ごとの「子育てのしやすさ」を“複眼”で見て評価してみようというわけです。

具体的には、「子育てのしやすさ」について自治体ごとに、「ヒト」(住人によるアンケート評価)、「モノ」(統計データを基にした幼稚園や保育所のキャパシティ評価)、「カネ」(統計データを基にした子ども1人当たりの子育て関連予算評価)の3つの軸を設定してそれぞれをスコア化(偏差値化)。それらの合計スコアをさらに偏差値化して、総合ランキングを作成したものです(対象となったのは、全国の主な市および東京23区の合計325市区)。

「子育てのしやすさ」は全国的に見ると“東高西低”の傾向

そのランキング結果から見えてきたのが、全国的には「子育てしやすい自治体、“東高西低”の傾向」ということでした。総合ランキングでTOP100に入った101市区(99位が同率3市のため)を、全国6つのエリアに分けて見ていくと、「関東エリア」(1都6県)が47市区の最多ランクインとなったほか、「北海道・東北エリア」(1道6県)から13市、「中部エリア」(甲信越・北陸・東海の10県)から16市、「関西エリア」(2府4県)から9市、「中国・四国エリア」(9県)から9市、「九州・沖縄エリア」(8県)からは7市がそれぞれランクインしました。こうした結果から、“東高西低”の傾向が見えてきます(図1)。

図1 ヒト・モノ・カネで見る「自治体子育てランキング」TOP100のエリア別ランクイン数
図1 ヒト・モノ・カネで見る「自治体子育てランキング」TOP100のエリア別ランクイン数
※数字は、ランクインした自治体の数。99位が同率3市のため、合計は101市区

そのうえで非常に興味深かったのは、エリアごとに、「ヒト」「モノ」「カネ」の3軸のスコア獲得傾向が大きく異なるということです。エリアごとに、それぞれ強み、弱みの傾向が現れます。

「モノ」に強い北海道・東北、「カネ」に弱い関西・・・・・・

エリア別の特徴としては、「カネ」に強い北海道・東北・関東、「モノ」に強い中部・中国・四国――といった状況です。こうした特徴をベースに、エリアそれぞれで自治体のスコア獲得傾向に似たようなパターンが出現します。

まずは東日本となる、北海道・東北エリアのTOP10自治体のスコア獲得傾向を見てみましょう。そこでは、3軸で満遍なくスコアを獲得するパターンの自治体が多く、全体的には各軸でそれほどの低スコアは見当たりません。こうした傾向の中で、概して「モノ」軸スコアの高い自治体が上位にくる結果になっています(図2)。

図2 北海道・東北エリアTOP10の「ヒト」「モノ」「カネ」3軸のスコア傾向
北海道・東北エリアTOP10の「ヒト」「モノ」「カネ」3軸のスコア傾向

では、もう少し西のエリアではどうでしょうか。例として関西エリアを見てみると、TOP10の自治体でも全体的に「カネ」軸のスコアが下振れしていることが分かります。「カネ」軸スコアは1位の京都市が53.0、2位の門真市が50.2とかろうじて50を超えたものの、3位の生駒市以下は、すべて50未満です。関西エリアでは上位自治体であっても、“「カネ」不足”の傾向にあることが見えてきます(図3)。

図3 関西エリアTOP10の「ヒト」「モノ」「カネ」3軸のスコア傾向
関西エリアTOP10の「ヒト」「モノ」「カネ」3軸のスコア傾向

さらにエリアを西に移して九州・沖縄エリアを見てみましょう。同エリアの自治体で多いのは、「ヒト」軸のスコアはいいのだけれど、残る2軸のスコアが足を引っ張るというパターン。「ヒト」には強いが、「モノ」「カネ」には弱い――TOP10では福岡市、浦添市、大野城市、春日市が似たようなスコア獲得傾向を示しています(図4)。

図4 九州・沖縄エリアTOP10の「ヒト」「モノ」「カネ」3軸のスコア傾向
九州・沖縄エリアTOP10の「ヒト」「モノ」「カネ」3軸のスコア傾向

このようにして、全国6エリア別に自治体のスコア獲得傾向を見ていくと、それぞれのエリアごとに特徴的なパターンが浮かび上がります。エリア内という地理的な“横並び”で同じような施策が取られやすい傾向があるのかもしれません。ただ、東の北海道・東北エリアの自治体と、西の九州・沖縄エリアの自治体では、そのパターンは大きく異なります。言い換えると、自治体の子育て支援施策では、地理的な“横並び”で同様のパターンを取ることになりやすいが、そうしたパターンもエリアが移っていくにつれて変化していく――。こうした仮説も、異なるデータによる多面的な分析によって見えてくるというわけです。

日経BP総研の「新・公民連携最前線」では、このように地方自治体を対象にした、様々な調査を継続して手掛けています。調査はカスタマイズして実施するといったことも可能ですので、ご要望がございましたらぜひお声掛けください。

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渡辺 博則