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安全と企業業績の間には、ある相関があった

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    日経BP総研 社会インフラ研究所 荻原 博之

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ここに、とても興味深い調査結果があります。図1をご覧ください。これは、安全全般に関わる費用を「企業価値の向上や中長期的な収益につながる『投資』」と考える企業ほど、業績が「増収増益」になる割合が高いことを示したものです。安全は「収益を生み出さない『コスト』」という考えは、もうそろそろ改めなければなりません。

図1 社会インフラ研究所が実施したアンケートの結果

図1 社会インフラ研究所が実施したアンケートの結果

「安全全般に関わる費用を『コスト』と『投資』どちらに近いと考えるか」と「3年前と比較した連結売上高と営業利益の変化」の関係をみたところ、安全を「投資」と捉えている企業の方が「増収増益」になっている割合が高い。回答数は632。

この調査は「企業活動における安全への取り組みに関する調査」と題して、社会インフラ研究所が上場企業3622社を対象に2017年春に実施したものです。アンケートの有効回答数は、この種のテーマとしては上々の632件。26問に及ぶ、安全全般に関する質問を通して、日本企業が今、安全に対してどのような認識を持ち、どのような体制の下、どのような取り組みを実施しているかなど、安全に関する基礎的なデータを広く収集することができました。

では、私たちが今なぜ、このような調査を実施したかと言うと、企業経営において安全が今後ますます重要になってくると考えているからです。理由は、主に三つあります。

第一は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大。投資残高は既に約23兆ドル(約2600兆円)と世界の運用資産の3割に迫り、日本でも公的年金を中心にESG投資を取り入れる動きが相次いでいます。実際、「ESGファンドに組み入れられた日本企業の株の値動きは2008年の金融危機以降、市場平均を上回っている」(日本経済新聞)状況。安全は、ESGの中のS(社会)の1テーマに相当し、特に「労働安全」は「人的資源の有効活用」に次ぐ主要テーマに位置付けられています(日興リサーチセンター調べ)。このように重みを増しつつあるESGの観点から、安全はより重要な 経営課題として浮上してきているのです。

第二は、第四次産業革命の急速な進展。経済産業省によれば、第四次産業革命では、人と機械が協調する新しいデジタル社会の構築を目指しています。実は、そのためには、1990年代に欧州から輸入された現在の安全の考え方とは異なる、新しい安全の考え方が不可欠になります。両者の違いについては後述しますが、事実、その点に気付き始めた先進企業が今、自社の安全への取り組み方を見直し始めています。

最後が、グローバル化や少子高齢化、ネットワーク化といった社会構造の変化に伴う新しいリスクの顕在化です。例えば、グローバル化に伴うサプライチェーンの複雑化により、大元の発注者が知らぬ間に、材料や部品が安くて低機能・低品質のものに勝手に変更されてしまう「サイレントチェンジ」が新たな事故を引き起こしています。私たちの身近なところでも、高齢ドライバーによるブレーキとアクセルの踏み間違いによる、高齢化社会特有の交通事故が増えていますし、ネットワーク化に伴う自動車や公共施設をターゲットにしたハッキングリスクが急激に高まってきています。

ところが、です。私たちの安全を取り巻く環境が大きく変化する中で、企業に対して安全への積極的な取り組みを求めても、それが利益に結びつくことが明確でないとなかなか重い腰を上げてはくれません。安全の難しさはすなわち、その費用対効果や企業業績との関係が不明瞭な点にあります。

改めて、図1をご覧ください。企業の安全への投資と業績が「正の相関関係」にあることが、私たちの調査によって初めて明らかになりました。安全にきちんと投資をすれば、それに見合った効果がある――。これからの安全受難の時代に向け、企業が重い腰を上げる時がいよいよやってきました。

建設業の3割は「Safety 2.0がすぐに必要」

社会インフラ研究所は、一般社団法人セーフティグローバル推進機構(IGSAP、会長:向殿政男 明治大学 名誉教授)と協力して安全に関するさまざまなサービスを提供していきます。

一つ目は、安全に積極的に取り組む、あるいは取り組んでいきたいと考える経営者や上級管理者が一堂に集う場の提供。同じ悩みを持つ経営者同士、上級管理者同士が胸襟を開いて語り合ったり、異業種の方から思いもよらぬヒントを得たりといった機会を設けます。それだけではありません。日本の安全を牽引してきた専門家が集まるこの場では、国内外の安全関連の最新情報が入手できます。IGSAPが持つグローバル人脈を活用し、海外の安全先進企業・機関と情報交換したり、世界で活躍するキーマンを囲んで膝詰めの議論をしたりと、安全を軸に貴重な人材交流が体験できます。

二つ目は、技術導入支援。上述したように、これからの時代は新しい安全の考え方が不可欠になります。従来の人の注意力・判断力に頼る安全を「Safety 0.0」、欧州から輸入された「隔離の原則」「停止の原則」に基づく安全を「Safety 1.0」というのに対し、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などを駆使して人と機械と環境を情報でつなぎ、そこから発信されるリスク関連情報を受けて人を安全側に導く新しい安全を「Safety 2.0(協調安全)」と呼びます(図2)。昨今話題の協調(協働)ロボットや介護支援ロボットなどを安全に使っていくためには、このSafety 2.0の考え方が必須になってきます。

図2 社会インフラ研究所とIGSAPが提唱する新しい安全の概念「Safety 2.0」

図2 社会インフラ研究所とIGSAPが提唱する新しい安全の概念「Safety 2.0」

人による安全が「Safety 0.0」、人と機械それぞれによる安全が「Safety 1.0」に対し、「Safety 2.0」は人と機械の協調による安全を目指す。これからの時代の安全には必須の考え方。

実は、冒頭で紹介したアンケートではSafety 2.0についても聞いています。例えば、「『Safety 2.0』の考え方が今後必要になるか」という問いに対しては、7割強が「必要になる」とし、中でも建設業の3割が「(今)すぐに必要になる」と答えました。私たちはそのためのお手伝いをしていきたいと考え、さらにはSafety 2.0技術を導入した証しとして「Safety 2.0適合マーク」を発行していく計画です。先進的な取り組みを埋没させるのではなく、堂々とアピールしながら商品価値や企業価値の向上に結びつけていただきたいと思います。

そして、三つ目のサービスが、人材育成です。さまざまなタイプのリスクが顕在化してくる中で安全を構築していくためには、日本が強みとする従来の現場からのボトムアップだけではもはや限界。経営者が自ら安全の旗を振り、多様でかつ複雑なリスクに対してヒト・モノ・カネをきちんと投入していくというトップダウンのアプローチが欠かせません。従って、これからの時代は、企業のトップから現場までベクトルを合わせて安全構築を図ることが求められてきます。こうした視点から、私たちはIGSAPと協力して新しい安全人材の資格制度「SE(セーフティエグゼクティブ)資格制度」を展開し、安全人材の育成のお手伝いをしていきます。

「安全を底上げしたい」「安全を企業価値として高めていきたい」「新しい安全技術を導入したい」「安全と生産性を両立したい」などなど、どのようなお問い合わせでも構いませんので、安全に関するお悩み、ご相談はぜひ社会インフラ研究所にお寄せください。

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荻原 博之

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