「働き方改革」という言葉がすっかり定着した昨今ですが、この言葉から思い浮かべるのは、就業時間の短縮だったり、在宅勤務だったりと、どちらかと言えば“働きやすさ”に関する話題が多いのではないでしょうか。ただ、仕事のやり方、進め方をそのままにして単に就業時間を短くすると、その分、生産性は下がることになります。
生産性とはシンプルに言えば、製品やサービスなどの「付加価値」を、人・モノ・金といった「投入資源」で除したものです。「生産性=付加価値÷投入資源」であり、投入資源を減らして、付加価値を維持できるのであれば生産性は上がるはずです。ただ実際には、この付加価値を維持もしくは増大する施策は後手に回っているのが現状ではないでしょうか。
この付加価値を増大することに対して、「働き方改革」という言葉が世に出る以前から注力している企業が、今回、ここで紹介する書籍「結果が出る 仕事の『仕組み化』」(写真1)の著者であるスタディストというベンチャー企業です。
使われないマニュアルを見て一念発起
スタディストはマニュアル作成のクラウドサービス「Teachme Biz」を開発・提供しています。創業者の鈴木悟史社長はコンサルタントの出身で、生産性向上の施策に長らく携わってきました。そんな同氏がコンサルタント時代、忸怩たる思いで見ていたのが、苦労して作り上げたにもかかわらず、現場で忘れ去られている分厚い業務マニュアル。何とかして使ってもらえるものを作りたい――。そんな時、日本で発売されたのがiPhoneでした。
鈴木氏は、iPhoneを使えば誰にとっても分かりやすい映像入りマニュアルが手軽に閲覧できるだけでなく、簡単に制作できると直感。即入手し、最初のプロトタイプを作り上げ、そして2010年、スタディストを起業しました。そんな同社はあれよあれよという間に成長し、今や米セールスフォース・ドットコムやリクルートホールディングス、そのほか多くのベンチャーキャピタルから出資を受ける企業になっています。
ただ、鈴木氏は単にマニュアル作成ツールを作りたかったわけではありません。その思いはもっと先にありました。マニュアル化できる業務は比較的定型的な業務が中心です。こうした業務を効率化することで、マニュアル化が難しいクリエイティブな業務にもっと時間を割いてほしい――。これこそが鈴木氏が抱いていた本来の思いです。クリエイティブな業務こそ、生産性の方程式の“分子”に当たる付加価値を大きくする源泉となるのです。
そんな思いを実践的な内容にまで昇華させたのが、9月4日発行の書籍「結果が出る 仕事の『仕組み化』」です。どんな企業でも無理なくできる生産性向上の取り組みが具体的かつシンプルに説明されています。内容をここでほんの少しだけ紹介しましょう。
書籍は“思い”を表す一形態
書名にある「仕事の『仕組み化』」とは、生産性向上のための一連の活動のことで、「見える化」「標準化」「マニュアル化」「ツール化」の4ステップで構成します。そして最終的に自動化/半自動化できる業務、自動化できない業務を切り分けます。自動化/半自動化できる業務は、例えばITを適用して省力化・効率化し、生産性における投入資源を減らします。一方、その分の浮いた人手や時間を、自動化できない業務に振り分けます。つまり、付加価値をこれまでよりも上げる土壌ができるわけです。
この自動化できる/できない業務を切り分ける上で最初にやらなければならないことが、業務の「見える化」です。この段階で業務を三つのタイプに分けるのがポイントです。三つのタイプとは「A:感覚型業務」「B:選択型業務」「C:単純型業務」となります。Aは、長年の経験や知識を基に、瞬間的かつ感覚的に高度な判断を必要とするクリエイティブな業務、Bはいくつかの限られた選択肢の中から最適なものを選ぶ業務、Cは誰がやっても同じであるべき業務となります(図1)。
この中でBとCは標準化し、マニュアル化を進めて、ツール化できる業務であり、自動化、半自動化の対象となります。一方、Aは無理に標準化、マニュアル化せずに、その業務を伝える際は、例えば事例化するなどしてやり方を共有します。このAとB+Cの比率は、「どのような業種の企業でも、おおむね2:8になる」(書籍の執筆者であるスタディスト取締役COOの庄司啓太郎氏)そうです。この3タイプへの具体的な振り分け方や標準化、マニュアル化、ツール化については、ぜひ本書を手に取ってご覧ください。
同社の思いを表したこの書籍。世に出たきっかけは、以前取材で知り合った筆者に宛てられた鈴木社長の1通のメッセージでした。今回は書籍という体裁でその思いが形になりましたが、思いを表す手段は必ずしも書籍だけではありません。セミナーだったり、イベントだったり、Webサイトだったりと様々です。思いを伝える最適な手段は何かをいっしょに考え、何より思いをこれからもぶつけてもらえるように、日々活動したいと思います。
日経BP総研 イノベーションICT研究所
大谷 晃司