研究員ブログ

少人数の塾で南魚沼市への移住者を“探索”

2017.09.07

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    日経BP総研 クリーンテック研究所 神保 重紀

「2016年度中に、首都圏から当市への移住者3名を“成果”とする委託業務案を企画してもらえないでしょうか」――。新潟県南魚沼市の地方創生担当者から、こんな“驚き”の相談をいただいたのは2016年の春。そこから同市とクリーンテック研究所がタッグを組み、同市の魅力や移住支援策の内容だけではなく、暮らしやすさなどの本音を伝える少人数の塾形式セミナーを展開することで首都圏の移住希望者を探し出すプロジェクトをスタートさせました。

地方創生・グローカルビジネス塾の現地交流会の様子地方創生・グローカルビジネス塾の
現地交流会の様子

昨年度は8月から、中高年をターゲットとした「セカンドライフ塾」と、地域の資源を生かした起業をテーマにした「地方創生・グローカルビジネス塾」をそれぞれ2クール開催。年間の延べ参加者数は、セカンドライフ塾が107人、地方創生・グローカルビジネス塾が156人でした。

具体的な成果も上がっています。これらの塾を契機に、南魚沼市に新居を建てて首都圏からの移住の準備を始める参加者や、もともと所有していた同市のリゾートマンションに居住場所としての重点を置いて子供服の古着店を開業する参加者、あるいは四季折々のイベントに参加するために頻繁に訪問するようになった参加者が現れました。

南魚沼市は新潟県南部に位置し、六日町、塩沢、大和の3町が合併して誕生しました。米どころやスキーリゾートとして知られ、東京から上越新幹線でわずか1時間半程度で、四季がはっきりした大自然に触れられるのが最大の魅力です。

その一方で、頭を悩ませているのは人口減少対策。そこで、同市は大和庁舎の一角を改装してシェアオフィス「Global IT Park南魚沼」を開設し、スリランカなどのIT企業を誘致して若者向けの雇用創出を図るユニークな試みを実施しています。中長期の対策としては、高齢者が元気な時から住み始め、介護が必要になれば継続的にケアを受けられるコミュニティ「南魚沼版CCRC構想」をまとめ、民間資本による建設を推し進めています。

もちろん、UターンやIターンの移住者を増やすため、関連イベントに出展したり、若者向けに移住をアピールする刊行物を定期的に発行したりと、努力を重ねてきました。ただし、 南魚沼市はリゾートマンションや温泉で有名な越後湯沢町に隣接していますが、それに比べると同市の知名度はあまり高くありません。そのため、Global IT Park南魚沼の開設に合わせて、首都圏からIT関連人材の移住を進められないかというアイデアが生まれ、冒頭のような相談がクリーンテック研究所に持ち込まれることになりました。

実は、南魚沼市との縁は先述のCCRCがきっかけ。クリーンテック研究所は米国で先行するCCRCの国内展開に注目しており、そのなかで南魚沼市の取り組みに関心を持ちました。そこで共同で「南魚沼CCRCビジネス研究会」という無料の会員組織を立ち上げ、CCRCにおけるビジネス創出に向けて参加企業と地元企業が3回にわたって議論する場を作った経験がありました。

現地を訪問して住民と交流

人口減少に直面した地方自治体はどこも都市からの移住者の獲得に必死です。単なるアピールだけではほかの自治体との競争に埋没します。そこで提案したのが、少人数の複数回の塾形式で、南魚沼市での暮らしの良さばかりではなく不便さも含めて理解してもらい、実際に現地に足を運んで目で見てもらうセカンドライフ塾と地方創生・グローカルビジネス塾という企画です。日経BP社が所有する首都圏在住の読者やイベント参加者などのリストが、南魚沼市が想定する移住対象者と合致したことも決め手になり、受託に至りました。

ただし、メールマガジンによる集客には最初から自信があったわけではありません。仕事関連の情報を収集するためにメールマガジンを購読している読者が、地方への移住をテーマにしたイベントに関心を示すのか。年齢層や役職など属性をいろいろ検討しながら集客を続け、それぞれの第1回は30~50人程度の参加者登録を獲得できました。参加者の年齢は20~70代と幅広く、中高年齢は地方移住、若者は地方への貢献を参加の動機として挙げていました。

昨年度の「セカンドライフ塾」は1回2時間程度のセミナー4回を1クールとし、2クール実施しました。具体的には、第1回で南魚沼市の概況や公共インフラ、自然環境、南魚沼版CCRC構想などを紹介し、第2~3回では移住者の経験談や住宅・就業状況などを説明しました。ハイライトは第4回に実施した現地交流会です。

セカンドライフ塾の様子セカンドライフ塾の様子

地方の移住先を検討するには、まずその地域の人と顔見知りになり、自分の居場所や時間の過ごし方を想像できなければ始まりません。そこで現地交流会では、参加者が交通費を負担して実際に南魚沼市を1日かけて訪問し、生活インフラなどを視察するとともに、農業従事者や観光事業者、移住者などの地域関係者と直接会って、質問したりアドバイスを受けたりする意見交換会を開催しました。懇親会で地酒を酌み交わして盛り上がり、翌日に連れ立って南魚沼市の観光名所を巡る参加者もいました。こうした濃密な交流が、移住や2拠点居住につながったとことは間違いないでしょう。

今年度は、「南魚沼市田舎ライフ塾」と「南魚沼市ソーシャルビジネス研究会」の2本立てで事業を継続して受託しています。前者はセカンドライフ塾に比べて、南魚沼市での暮らしをより深掘りして伝える内容に改め、後者は同市の有力企業(八海醸造や雪国まいたけなど)との協業にテーマを絞ったプログラムとして実施しています。

日経BP総研 ビジョナリー経営研究所
神保 重紀

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