どうなる、金融改革2017

レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長に聞く 投資信託はおまけ、売るのは将来の夢や希望

2017.06.06

コンテンツマーケティング

  • 鈴木 亮

    日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター 鈴木 亮

一連の金融庁の改革を、金融機関はどう見ているのか。今回はひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長を訪れた。かつて中小型株投資で驚異的なパフォーマンスを上げ「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた藤野氏。「国民のためのファンドを作り育てたい」と立ち上げたひふみ投信にこめられた思いを聞いた。

藤野英人(ふじの・ひでと)氏 レオス・キャピタルワークス社長 兼最高投資責任者

藤野英人(ふじの・ひでと)氏
レオス・キャピタルワークス社長
兼最高投資責任者

1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、野村投資顧問(当時)、ジャーディンフレミング投資顧問(当時)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年にレオス・キャピタルワークス創業。現在は社長兼最高投資責任者。販売会社を通さずに投資信託を直接販売する直販ファンドの「ひふみ投信」を運用する。

錦の御旗がこちら側にやってきた

金融庁が顧客の利益を第一に考える営業を金融機関に強く求めていますが、独立系の投資信託会社については、「すでにしっかりやっている」と評価しているようです。

藤野社長(以下、藤野) 森信親長官が登場されて、私と同じようなことをおっしゃる方だと、とても驚いた。それまで金融庁は、どちらかと言えば敵対する立場だと思っていたが、森長官はこちらの言いたいことを代弁してくださる。そんな方が金融行政のトップになられた。まるで錦の御旗が突然、こちら側にやってきたような感覚だ。

藤野社長は日ごろから「業界の常識は非常識」と語っておられます。

藤野 顧客の利益を第一に考えろという森長官のご指摘は、しごく当たり前のことなのに、自社の利益を第一に考える金融機関が多かった。販売手数料が大事だから運用成績が良くても悪くても解約させる回転売買が横行してきた。これでは企業の経営者とのつながりもできないし、投信が日本を支える力にもなれない。このままではだめだ、投信は変わらなければと思っていた時、あるドラマをみていて、これぞ今後の投信の目指す道だと思うようなシーンがあった。

ドラマ「龍馬伝」の中に、今後の投信が目指す道を見た

どんなドラマですか。

藤野 龍馬伝だ。ドラマの中で三菱財閥の創業者・岩崎弥太郎が坂本龍馬の実家から木材を買い、それを売り歩くシーンがあった。一軒一軒訪ね歩くが、なかなか売れない。奥さんにおまけを付けたらとアドバイスされ、端材で人形を作ったが、やはり売れない。ある時、訪問先で木材はいらないが、便所が壊れているから直して欲しいと言われた弥太郎は、手持ちの木材を使って便所を修繕してあげた。お客は大喜び、結果的に修繕に使った木材の代金を払ってくれた。弥太郎は以後、無料で家屋などの修理を引き受け、そこに自分の木材を使うことで、結果として木材はどんどん売れるようになった。

「ひふみ投信」を売るのではない、売るのは投資の楽しさや夢

なるほど。発想の転換ですね。

藤野 弥太郎は木材を売ろうとしても売れなかったが、売る対象を修繕というサービス、すなわち、より清潔な空間、より快適な生活を売ることに変えた。その瞬間、木材はおまけになった。私がこれだ!と思ったのは、投資信託は木材だと思ったからだ。投信を売ろうと思っても売れない。投信はおまけだ、と考えればいい。我々が売るのは、将来の夢や希望、不安の解消であり、投信はあくまでおまけ。こういう考え方を社員に徹底させた。ひふみ投信を売るんじゃないぞ、売るのは投資の楽しさや投資の夢、意味だぞと、販売担当から運用担当まで浸透させた。

そのあたりが評価されて、資産残高も順調に伸びているのですね。

藤野 3月16日に運用資産残高が2500億円を超えた。1月末に2064億円だったから、急激な伸びだ。中核のひふみ投信は1500億円で、うち直販が500億円、ネット証券経由と地方銀行経由がそれぞれ500億円だ。地銀の販売ルートが増えている。2013年から始まり、今や21行がひふみ投信を販売してくれている。

いやいや売らされ、精神的にボロボロの人も

地銀の販売担当者の意識も同じように変えるのは大変ではないですか。

藤野 全国の地銀を行脚して、行員向けにセミナーを開いている。顧客向けセミナーもあるから、年間120日くらいは出張している。地銀の販売員に、私は投信を売りに来たのではありません、皆さんを癒やしに来ましたと言うと、だいたいみんな面食らう。投信を売ることが、顧客はもちろん、経済全体にどれだけプラスになることなのか、販売員の仕事がいかに誇り高き仕事であるのか、その意味を2時間でも3時間でもこんこんと話す。地銀の販売員の中にはいやいや売らされ、精神的にボロボロの人もいる。私の話を聞いて、投信を売ることの意味がわかったと、元気になってくれる人も多い。

販売担当者を接待するカネがあったら、顧客に返したい

こういう姿勢でアプローチしてくる方は珍しいのでしょうね。

藤野 地銀の場合、系列のメガバンクなどが手掛ける投信の販売を求められる。販売時のセールストークもすべて決まっており、余計なことは言うなと指導される。地銀の販売責任者はゴルフや宴席などの接待を受け、たくさん売った販売員はディズニーランドに招待される。私が訪問した地銀の中に、露骨にゴルフ接待を求めてくる責任者もいたが、我々は接待などしないし、報奨金もない。そんなカネがあったら顧客に返したい。投信を売ることの意味がわかった販売員は、顧客に私から聞いた話と同じようなことを話し、その顧客が成功体験を重ねると、別のお客を連れてきてくれる。そんな循環の中で資産残高が順調に伸びている。

投資教育の第一歩は、働くことの素晴らしさを教えること

個人投資家にも同じように語っているのですか。

藤野 いや、個人にはもっと分かりやすい次元から始めないといけない。だいたい普通の個人は、投資イコール悪だと思っている。最近は投資だけでなく、会社イコール悪、さらに労働イコール悪という発想が若い世代に広がっているような気がする。働くことに対するリスペクトがなくなった。若い世代にコンビニで買い物をして、ありがとうって言ってますかと聞くと、ぽかーんとしている。なんで買い手がお礼を言う必要があるのかと。でも本来、売り手と買い手は対等の立場で、お客が偉いなんて誰が決めたのか。

日本は長くデフレが続き、お客の立場が強くなりすぎた。お客が横暴になった。飲食業がブラック職場と言われるが、お客がブラック顧客になっただけで、ブラックな消費者を作ったのは、我々一人ひとりの責任だ。働くことはステキなことなんだよ、その延長線上に会社があって、そういうステキな会社を支えるのが投資なんだよと、ここまでかみ砕いて説明しないと、わかってもらえない。投資教育の第一歩は、働くことの素晴らしさを教えることだ。

運用資産が10兆円あったら東芝の半導体子会社を買いたい

投信の売り手と買い手の意識を変えるのも大事ですが、やはり運用成績も大事ですよね。

藤野 運用成績がいいことは最低限必要な条件で、ひふみ投信は設定以来の上昇率が280%だ。ただもっと大事なこともある。それは成長する会社を少しでも多く見つけて、成長に必要な資金を、投信が安定して供給することだ。ひふみ投信の場合、成長が期待できる企業群として800~900社をリストアップしている。地方の中堅企業も少なくない。企業の発掘や将来性は、実際に足を運び、経営者と面談し、現場を自分の目で見て、判断する。もしひふみに1兆円の資金があれば、全社買いたいくらいだ。

もしひふみ投信の運用資産が10兆円あったら、東芝の半導体子会社を買いたい。日本のファンドが尻込みしている状況は、みていて歯がゆい。東芝のほか、オリンパスやシャープなど、古いしがらみ、くびきを解き放ってやれば、まだ十分に成長できる分野や技術、人材を抱える伝統企業も多い。屋久島の古木が落雷で倒れても、そこから新しい芽が出てくる「倒木更新」のような動きが企業でもある。年に10~25%くらいの成長が見込める若い企業と、新しい芽が出てくる伝統企業。投資対象のバランスを取って、それぞれに必要な資金を供給する。そんな存在に投信はなるべきだ。

投信を根付かせるには、販売にも責任を持たなければならない

その先頭に藤野さんが立っていると。

藤野 私は野村アセットマネジメント(旧・野村投資顧問)、JPモルガン・アセット・マネジメント(旧・ジャーディンフレミング投資顧問)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントと、この業界の大手でファンドマネジャーを経験し、カリスマと呼ばれたこともあった。でもまったく満足できなかった。それはどこにいても、投信が大事にされていない、と感じていたからだ。どうして投信は長期保有されないのか。どうして投信は根付かないのか。それには運用だけでなく、販売にも責任を持たなければならない。そんな思いから、私はひふみ投信を立ち上げた。

サラリーマン化した日本のファンドマネジャー

日本の投信のファンドマネジャーはサラリーマン化が進み、株価指数から大きく離されない運用を第一に求められる。せいぜい3~5%の乖離しか許されない。だから指数に影響の大きい大型株にばかり投資する。積極的にリスクを取るのがアクティブ運用なのに、株価指数に連動する運用と大して結果が変わらず、手数料が高い分だけ投資家は損をする。

そんな時代だからこそ、ひふみ投信の存在価値が高まる。投信が成長する企業を見つけ、そこに個人のリスクマネーを供給する。企業は成長し、投資家も潤い、経済全体が活性化する。そういう金融本来の流れを取り戻し、機能させるためには、今のやり方ではだめだというのが、金融庁が進めている改革の本質だ。

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鈴木 亮

日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター。
1960年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞入社。兜記者クラブキャップなどを経て、1997年ロンドン駐在特派員。大阪本社経済部次長、東京本社証券部次長、日経マネー編集長、日経電子版マネー編集長兼マーケット編集長などを経て現職。著書に『株はよみがえった』(日本経済新聞出版社)、『ど素人でも経済ニュースがすぐわかる本』(PHP研究所)など。

(初出 日経ビジネスオンライン)

Point of View
金融コンテンツLab.の視点

金融機関へのインタビュー第2回目は、ひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長です。森金融庁長官の一連の施策を評して「錦の御旗が、突然こちら側にやってきたような感覚」という藤野社長。かつて中小型株投資で突出したパフォーマンスをあげ、カリスマファンドマネジャーと呼ばれた藤野社長ですが、手数料ほしさに回転売買が横行する現状に、投信は変わらなければと強い思いを抱いていたそうです。そのためには販売にまで責任を持たなければ、と考え、ひふみ投信を立ち上げました。

「我々が売るのは、将来の夢や希望、不安の解消であり、投信はあくまでおまけ。こういう考え方を社員に徹底させた。ひふみ投信を売るんじゃないぞ、売るのは投資の楽しさや投資の夢、意味だぞと、販売担当から運用担当まで浸透させた」――もともとこうした考えの下に投信を販売しているレオス・キャピタルワークスにとって、金融行政の大きな変化はむしろ遅すぎるくらいなのかもしれません。

投信が成長する企業を見つけ、そこに個人のリスクマネーを供給する。企業は成長し、投資家も潤い、経済全体が活性化する。そういう金融本来の流れを取り戻し、機能させるためには、今のやり方ではだめだというのが、金融庁が進めている改革の本質だ、という藤野社長の投信哲学をぜひお読みください。

金融コンテンツLab.
所長 山上祥子

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