どうなる、金融改革2017

森信親金融庁長官インタビュー「貯蓄から投資へ」実現のため、顧客本位迫る 金融庁、金融機関に「7つの基本原則」の採択要請へ

2017.03.06

コンテンツマーケティング

  • topic_thumb01.jpg

    日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター 鈴木 亮

金融庁は銀行・証券会社などに対し、顧客の利益を第一に考える営業姿勢を強く求める。手数料を重視した無理な営業を見直し、個人顧客が長期投資によって資産を形成できるように改める。顧客の年齢、金融知識、保有資産などを考慮し、それぞれのニーズに合った商品を、わかりやすい説明によって販売することを要求していく。

こうした方針を実現するために、金融庁は「7つの基本原則」を打ち出した。これまで掛け声ばかりで実現しなかった「貯蓄から投資へ」「個人の資産形成」の流れが、いよいよ動き出す。一連の改革のねらいを金融庁の森信親長官に聞いた。

森信親(もり・のぶちか)氏 金融庁長官

森信親(もり・のぶちか)氏
金融庁長官

東京出身。東京大学教養学部卒業後、大蔵省(のちの財務省)に入省。金融庁総務企画局総務課長、総括審議官、検査局長、監督局長などを経て2015年7月、金融庁長官に就任。

販売手数料を稼ぐための回転売買は行うべきではない

金融機関に対し、顧客本位の営業を求めるねらいは何ですか。

 金融機関は、顧客が満足する商品、顧客のためになる商品を提供するという、ビジネスの基本、ごくあたりまえのことができていなかった。

これまでも適合性の原則などのルールはあったが、形式だけ整えても、金融機関が顧客の利益を第一に考えるように意識と姿勢を変えないかぎり、改まらない。

販売手数料を確保するため、2、3年保有したら新しい投資信託に乗り換えるような無理な回転売買を繰り返していたら、いつまでたっても顧客に投資による成功体験を与えられないだろう。

一部原則を採用しない場合、理由の説明と代替案提示を求める

今後、金融機関に対し、どのように方針を浸透させますか。

 1月19日にパブリックコメント(意見公募)に付した『顧客本位の業務運営に関する原則』を金融機関が採択する場合には、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表した上で、その方針に基づいて業務運営を行うことが求められる。

実施しない原則がある場合は、その理由や代替策をきちんと説明してもらう。また、方針を策定・公表した後の実際の取組状況についても、定期的な公表が求められる。宣言しただけで実行しない金融機関がないように、方針は分かりやすい表現での記載を求めるとともに、当局としてもベスト・プラクティスの実現を目指した対話を行っていく。

独立系の投資信託運用会社など一部には、すでに顧客本位の業務を実現しているところもある。必ずできるはずだ。まじめにやっている金融機関が報われるようにしないといけない。新しい原則は3月にも確定・公表し、顧客本位の業務運営の本格的な実現を目指したい。

金融機関は経営の内容を変えていく必要がある

金融機関の経営環境が厳しい中での新方針になります。

 ゼロ金利、マイナス金利の時代になっても、銀行に預金が集まり、銀行は運用に困っている。国債を購入しても高い利回りは得られないし、貸し出し先もそうそう増えない。

だったら、良質な投信などを毎月積み立てでコツコツ買ってもらい、長期保有してもらう方が、金融機関と顧客の双方の利益につながる。ゼロ金利、マイナス金利の下で3%の販売手数料を取っていたら、顧客は手数料を上回る利益をあげるだけでも大変だ。

金融機関は、販売手数料収入が減ると最初は苦しいかもしれないが、長期の分散投資を促進し顧客の安定的な資産形成を助けるとともに、金融機関も、適正な手数料収入を安定的に得られるような経営に変えていく必要がある。

金融庁が公表した「顧客本位の業務運営」に関する7つの基本原則

【原則1】 顧客本位の業務運営に係る方針の策定・公表等
金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。

【原則2】 顧客の最善の利益の追求
金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。

【原則3】 利益相反の適切な管理
金融事業者は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把握し、利益相反の可能性がある場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。金融事業者は、そのための具体的な対応方針をあらかじめ策定すべきである。

【原則4】 手数料等の明確化
金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

【原則5】 重要な情報の分かりやすい提供
金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

【原則6】 顧客にふさわしいサービスの提供
金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

【原則7】 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等
金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。

※上に掲載した、「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」は2017年1月19日に公表され、2017年2月20日17時を期限としてパブリックコメントが募集された。

商品を分かりやすく説明している例はほどんどない

長期投資にふさわしい金融商品が登場しましたね。

 個人型確定拠出年金iDeCoや来年登場する積立NISAは、長期投資、積立投資、分散投資の3つの要素を満たしており、時間をかけて安定的に資産形成をしたい人たちに合った商品だ。

これまでは、顧客の年齢や状況をあまり考慮せず同じ商品を販売することがあったが、これはおかしい。人によって取れるリスクが違うし、商品への理解度や、運用期間などにも差がある。それぞれの顧客の利益につながる商品を提供しなければいけない。

また、商品の説明書を渡されても、分かりにくいことが多い。例えばこの利回りを実現するために、どんなリスクを取っているのか、わかりやすく説明している例はほとんどない。外債と投信をパッケージにして販売する商品の場合、外債と投信をばらばらに購入した場合とコストはどう違うのかなど、説明がなされていない。これでは顧客本位とは言えない。

他の省庁、機関とも連携し投資教育を進める

若い人たちは投資そのものを縁遠く感じています。

 この改革を進めれば顧客の利益になることを広く知ってもらい、継続することがまず重要だ。さらに投資教育を一段と強化したい。若年層に投資への興味をもってもらい、知識を増やしてもらえるよう、職場でのセミナーや、学校での投資の授業なども取り入れたい。そのためには金融庁だけでなく、厚生労働省、文部科学省、日銀、日本証券業協会などとも連携し、一体となった投資教育を進めたい。

貯蓄から投資へと言われて50数年。ようやく動き出しますね。

 顧客本位の業務運営が実現し、個人顧客が長期投資で資産を形成できるようになれば、顧客や金融機関にはもちろん、日本経済全体にとっても大きなプラスになる。掛け声だけでなく、魂の入った改革を実現したい。

topic_thumb01.png

鈴木 亮(すずき・りょう)氏

日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター。
1960年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞入社。兜記者クラブキャップなどを経て、1997年ロンドン駐在特派員。大阪本社経済部次長、東京本社証券部次長、日経マネー編集長、日経電子版マネー編集長兼マーケット編集長などを経て現職。著書に『株はよみがえった』(日本経済新聞出版社)、『ど素人でも経済ニュースがすぐわかる本』(PHP研究所)など。

(初出 日経ビジネスオンライン)

Point of View
金融コンテンツLab.の視点

年に1度、個人投資家が優れた投信を選出する「日本ファンド・オブ・ザ・イヤー2016」の発表会が1月に開催され、発表に先立って森 信親金融庁長官がコメントを寄せ、話題になりました。貯蓄から投資へ、といわれ続けて数十年、日本では掛け声ばかりでなかなか投資が普及しなかった理由の一つとして「金融商品を提供する金融機関が、手数料収入の獲得を重視するあまり、そのときどきの流行に乗ったテーマ型で売りやすい投資信託や過度に仕組みが複雑な商品の組成・販売に注力し、かつ、そうした商品の短期・回転売買を勧めてきたことなどがあるのではないでしょうか」と切り込んだのです。

その上で、「金融機関の行動や組成・販売する商品を顧客にとってより見えやすく、わかりやすくすることで、投資商品の質や金融機関の取組みが顧客から正当に評価され、より良い商品や取組みが自ずと顧客に選択されていくメカニズムを構築していきたい」と続けています。

また、2015年7月に金融庁長官に就任して以来、掲げているのが地域金融改革です。「金融機関は相変わらず担保と保証に頼り、事業の中身や成長性を見ようとしない」という企業側の不満を受け、地域に密着して顧客をよく理解し、成長を後押しするような経営の実現を望んでいます。単純な経営統合による再編ではなく、経営の効率化や特徴ある金融機関たることで、生き残りを図ることが肝要であるとの認識に立っているのです。

このシリーズでは長官が発信し続けている顧客本位の業務運営、いわゆるフィデューシャリー・デューティーの確立に向け、どのような考えの下、どのような取り組みがなされているのか。一連の動きに対して金融機関はどう対応していくのか、個人投資家の受け止め方は? といったことを取り上げ、今後の日本の資産形成について考えるヒントを提供できればと思っています。

金融コンテンツLab.
所長 山上祥子

個人型確定拠出年金「iDeCo」とは

個人型確定拠出年金「iDeCo」

individual-type Defined Contribution pension planの略で個人型確定拠出年金の愛称。
加入者が月々の掛金を拠出(積立)し、予め用意された金融商品で運用。
60歳以降に年金または一時金で受け取る。2017年1月より開始した制度。
※60歳になるまで、引き出すことはできない。

【iDeCoの概要】

~税制優遇~
1 積立   全額所得控除の対象
2 運用   運用益非課税
3 受け取り 公的年金等控除、退職所得控除の対象
※年金で受け取る場合は雑所得(公的年金等)となり公的年金等控除が適用される一時金として受け取る場合には、退職所得控除として課税され、退職所得控除が適用される

【積立金額(上限)】

公務員         月1万2,000円
会社員(企業年金あり) 月1万2,000円・2万円(企業年金の種類によって異なる)
会社員(企業年金なし) 月2万3,000円
専業主婦(夫)     月2万3,000円
自営業         月6万8,000円(国民年金基金や付加保険料と合わせた金額)

【金額の変更】

年1回
毎年4月~翌年3月までの間に1回だけ変更できる
(被保険者種別変更時の金額変更は回数に含まない)

【掛け金拠出の休止・再開】

申し出手続きはいつでも可能

【納付方法】

口座振替
※自営・無職の人は本人口座より
※会社員は給与天引きまたは本人口座より

【運用】

金融機関(運営管理期間)により、金融商品が異なる

【給付】

給付の種類は3種類
・老齢給付金
・障害給付金
・死亡一時金
※通算加入者等期間の長さにより受給開始年齢が異なる
※5年~20年の有期年金または一時金

「積立NISA」とは

「積立NISA」

長期の積立を前提とした非課税口座という位置づけ。

【積立NISAの概要】

年間投資(買い付け)上限額が40万円、非課税期間20年
※長期の積立、分散に適した一定の投資商品(分散投資型、非毎月分配型ファンド等で、信託契約期間が無期限または20年を超えるもの)
※非課税期間終了後、新たな非課税枠への移管(ロールオーバー)は、上限なしで行える
※恒久措置

今後、NISAは積立NISAに一本化される可能性もある。

「iDeCo」は60歳まで払い出しできないのに対し、「積立NISA」は自由に売却、払い出し可能。
「積立NISA」は60歳までのライフイベント用、「iDeCo」は60歳以降の老後資産形成用 と位置づけられそうだ。

日経BPコンサルティング通信

配信リストへの登録(無料)

日経BPコンサルティングが編集・発行している月2回刊(毎月第2週、第4週)の無料メールマガジンです。企業・団体のコミュニケーション戦略に関わる方々へ向け、新規オープンしたCCL. とも連動して、当社独自の取材記事や調査データをいち早くお届けします。

メルマガ配信お申し込みフォーム

まずはご相談ください

日経BPグループの知見を備えたスペシャリストが
企業広報とマーケティングの課題を解決します。

お問い合わせはこちら