どうなる、金融改革2017

金融庁が断、「金融機関の営業は顧客の利益になってない」

2017.01.24

コンテンツマーケティング

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    日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター 鈴木 亮

金融行政が大きな転機を迎えている。金融庁はこれまで不良債権処理など「銀行の健全性」を重視していたが、「企業と経済の成長と資産形成」を最大の目標として打ち出した。改革を進める金融庁・森信親長官は何を目指すのか。金融機関や顧客はどのように変わっていくべきか。

「これを読んで、思わず苦笑しましたよ」。ある独立系投資信託会社の首脳が示した文章は、金融庁が2016年8月に出した2017年度の税制改正要望だった。そこにはこう書かれていた。

「金融機関が真に顧客の利益になる商品・サービスを提供していない現状を、改める必要がある」

銀行や証券会社の営業の現場は目を疑ったに違いない。監督官庁である金融庁から、今の金融機関の営業では、顧客の利益につながらないと断言されたに等しいからだ。実際、この独立系投信会社の首脳は、地方銀行の担当者などと話していて、首をかしげることが多かった。自社の投信を窓口で販売してもらおうと交渉に行っても、たいがい答えはNo。その理由が「これまで関係のある、大手銀行傘下の投信会社の商品を販売しなければいけないから」だった。

この投信が個人顧客の利益につながっていればいいが、現実は違っていた。2016年10月までの株式相場低迷で、購入した顧客の大半は含み損を抱えていたという。個人の顧客は、毎月一定額を積み立てるドルコスト平均法と呼ばれる手法で、コツコツ投信を購入するのが、結果的に利益につながることが多い。だが現実は、販売手数料の確保を優先する金融機関が、設定直後に最低でも100万円程度、一括での投信購入を勧める。新しい商品が出るたびに、これを繰り返すから、個人顧客は勧められるまま、「回転売買」の連鎖にはまる。

こうした流れを断ち切るために、金融庁は動き出した。その代表例が、2016年10月に打ち出した金融行政方針の中で掲げた「フィデューシャリー・デューティー」だ。金融機関に対し、もっと顧客本位の業務運営をせよと勧告した。

行き過ぎたノルマ営業をやめ、顧客の利益を最優先する営業への転換を金融機関に求めている。森信親長官の基本方針である「顧客本位の業務運営」が強く反映されている。こうした金融庁の方針が浸透すれば、無理な投信販売は減る見込みで、代わりに増えそうなのが、長い時間をかけ、コツコツと資産を増やしていく投資だ。

iDeCo、積み立てNISA登場の背景

それにふさわしい商品が2017年以降、登場する。1つ目が個人型の確定拠出年金(iDeCo)だ。iDeCoは公務員や専業主婦など約2600万人が新たに対象になる。日本証券業協会の試算では500万口座が新規に開設される見込みだ。iDeCoは毎月積み立てで資金を拠出し、60歳まで解約できないため、嫌でも長期投資になる。拠出金は全額、所得控除の対象となるので、節税メリットもあり、注目されている。

もう1つが、積み立て型の少額投資非課税制度(NISA)だ。積み立てNISAは非課税期間がこれまでの5年から20年に伸びる。その分、投資額の上限が120万円から40万円に下がるが、現状でもNISAの上限枠120万円をフルに使っている個人は、稼働口座の半数にも満たない。年間40万円の枠でも、毎月3万円程度の積み立て投資が可能になる。

貯蓄から投資へ、言われ続けてはや50数年。金融庁の指針のもと、銀行や証券会社の個人向けの営業姿勢が大きく変われば、なかなか動かなかった個人のお金が動き出すかもしれない。

顧客の利益を重視せよという、金融庁の理念が浸透し、金融機関の営業現場は変わるか。それが個人顧客の利益拡大につながるか。次回は金融庁の森長官に聞いてみたい。

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鈴木 亮(すずき・りょう)氏

日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター。
1960年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞入社。兜記者クラブキャップなどを経て、1997年ロンドン駐在特派員。大阪本社経済部次長、東京本社証券部次長、日経マネー編集長、日経電子版マネー編集長兼マーケット編集長などを経て現職。著書に『株はよみがえった』(日本経済新聞出版社)、『ど素人でも経済ニュースがすぐわかる本』(PHP研究所)など。

(初出BPnet)

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