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なぜ法政は東日本で一番人気の大学となったのか?(前編) なぜ法政は東日本で一番人気の大学となったのか?(前編)

市ケ谷、小金井、多摩と都内に三つのキャンパスを持つ法政大学。近年、志願者を伸ばし続け、2016年度には大学始まって以来初めて10万人を突破し、2017年度はさらに増えて近畿大学に次いで全国第2位、東日本では第1位となりました。その秘訣を前後編にわたってお届けします。前編では、法政大学のトップである田中優子総長に聞きました。

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2017年度入試では、志願者数が12万人弱となり、私立大学の中では近畿大学に次いで全国第2位、東日本では第1位となりました。総長としてこの結果をどのようにご覧になっていますか。

田中: 志願者数が増えているのは急なことではなく、2016年度にはすでに10万人超えました。志願者増の一つの要因としては、長期ビジョンや憲章を決めたりしていく過程で、非常に活発な広報を展開していったということです。ただ、メディアによく関心を持たれるのは、キャンパスの都心回帰や新キャンパスの設置などです。そうした一見華やかで目を引きそうな話題は、ここ数年本学にはそんなにありませんでした。つまり地道に努力して広報をしてきたということです。

 そもそも、2014年に総長になったときのマニフェストの中で「新しいことに取り組む前に、これまで法政大学が積み上げてきたことをきちんと外に発信しましょう」と言いました。その手段として例えば、広告代理店に依頼して盛大に何かを打ち上げるというようなことではなく、もっと地道に「きちんと話せばいい」と思っていました。

総長になられてから、SGU(スーパーグローバル大学創成支援事業)採択のための申請、そして長期ビジョンの策定を進めてこられました。これらと「地道な広報」の関係について教えてください。

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田中: SGUへの採択をきっかけに、大学改革ができると思っていました。なぜならば、ものすごくたくさんの項目、数値目標を決めて申請しなければならず、それらを実現するためには組織変更もする必要があったからです。次に、そうした大学改革が何を目標にして、長期的にどのように進めていくのかを示す長期ビジョンの策定に入りました。
 なぜ長期ビジョンが必要かというと、まず少子化が進んでいくという社会情勢に直面していることが挙げられます。さらにグローバル化や、文部科学省が進めている教育改革にも取り組んでいかなければなりません。こうした複数の課題があるときに、場当たり的な対応をするわけにはいきません。
長期ビジョンの名称を「HOSEI2030」としたように、目標に据えたのは2030年の本学のあるべき姿です。その目標に向けて、例えばあるテーマにかける時間、予算といった諸条件を細かく計算しました。そうすることで、できることとできないことの区別がつくようになり、ひいては財政の安定化につながります。
 さらに「それぞれのキャンパスの特色をどう出していくか」「一つひとつの学部の魅力をどう伝えていくか」ということもビジョンの中に含めて考えていきました。ここでのポイントは、それぞれが結論を出すだけでなく、それらを決める作業を通して私たち教職員が「法政大学の今はどうなっているのか。これをどう変えられるのか」を一緒に考えられるようになったことです。これも、長期ビジョン策定の非常に大きな効果だと思っています。
 こうしたSGU採択や長期ビジョン策定と、それぞれの取り組みを地道に発信する広報によって、本学の魅力がよく伝わり、近年の志願者数の増加につながったのではないかと思います。

長期ビジョンに含まれているテーマは、一つひとつが単独で存在しているのでしょうか。それとも、何か共通する要素があるのでしょうか。

田中: 核になったのは、「社会から見た法政大学の特徴とは何か」「ブランドとして確立できることは何か」ということです。本学には、必ずしも目立つわけではないが、質の高い特徴がありました。しかし、それらがバラバラに存在したため、大学全体の強みとして打ち出しづらい面がありました。そこで本学の特徴・ブランドをきちんと明文化した上で、外に発信していくことにしたのです。つまりブランディング作業ですね。これを総長に就任してから2年ほどかけて取り組んできました。その結果としてできたのが、法政大学憲章「自由を生き抜く実践知」です。実は当初、この憲章を作ろうとは考えていませんでした。本学の特徴・ブランドが何なのかを考えて言葉にしていったときに、これは憲章という本学の柱として使えると気付いたのです。
 柱に据えると、さまざまな取り組みをしていく際に、この柱にきちんと沿っているかどうか、常に振り返ることができます。憲章は、あまり具体的すぎると縛られてしまうので、ある程度抽象的で柔軟性があるけれども、明確なイメージを持てるよう工夫しました。

改めて、法政大学のブランドは、どのようなものだとお考えでしょうか。

田中: ブランドという言葉を、社会への「約束」と捉えています。それを「自由を生き抜く実践知」と表現し、法政大学憲章に「約束」として掲げました。
 「生き抜く」としたのは、自由というのは状態ではなくて活動だからです。自由な状態というものは「たった一人で何をしてもいい」と想像してしまいがちです。しかし実際は、自分を囲んでいる社会、具体的に言えば家族、友人、仕事場の中という関係性の中で人は生きているのです。その中で自分が自分自身であり続けるためには、大変高い能力が必要です。知識も必要になるでしょう。しかも最近では、それが日本だけではなく、海外の全く知らない世界に出て働かなければならない機会も増えています。そうしたときに、誰かに命令されて言われるがまま働くという方法では、仕事を全うすることはできません。
 自分にとっての自由を常に考え、一方で、社会や組織の役に立てる道は必ずあります。組織につぶされないけれども、盾突くわけでもないという微妙な関係の取り方は、実は私の専門の江戸時代から学びました。
 江戸時代というのは、誰かに命令されて、ただ黙々と生きている人はほとんどいませんでした。例えば、農村で農業を営むこと一つ取ってみても、自然と村の集団性を見極めて自分はどう行動するのか、常に判断しなければならない。誰かに命令され、ただ動けばいいという生き方ができる時間や空間は、歴史の中で滅多にありません。江戸時代は芸術も含めたさまざまな活動は、一人ひとりが判断と行動をすることによって営まれていたのです。

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長期ビジョンに則った取り組みについて、直近で進めていくことを教えてください。

田中: 市ケ谷、小金井、多摩の三つのキャンパスの中で、今まで策定してきたことをどうすれば実現できるかを検討するキャンパスごとのワーキンググループが、今年から動いています。例えば、現在のように15学部もあると、学部間で重複している科目があることがあります。市ケ谷キャンパスは特に教室などの空間の余裕が少なく、科目を整理することによって余裕をつくっていき、新しい取り組みができるようにします。そのためには、学部間の情報共有が必要です。
 もう一つは、アクティブ・ラーニング(教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法)の全学化です。有能な教員であればすでに取り入れていたものですが、それを全教員に取り入れてもらいます。この一つのきっかけが、次年度から始まる100分授業です。90分ですら教員が一方的に講義をするのが難しかったところを、100分になればなおさらです。そこで例えば、時間の3分の1や半分だけ講義をして、残りの時間は学生の発表やディスカッションするなど、アクティブ・ラーニングをうまく取り入れて100分授業を有効に活用していく必要があります。

どのように学生を育て、社会へ送り出したいと考えていますか。

田中: 法政大学憲章では「自由を生き抜く実践知」を掲げていますが、これからの時代、自由を生き抜くために個人が互いに多様性を認め合いながら、個人のつながりはグローバリゼーションに向かっていく必要があります。そのためには現実に根差した実践知も必要です。実践知とは、現実を観察し、良く知り、理解し、他者の自由を尊重しながら、自分の生き方を貫いていくこと。卒業後にそれぞれの現場で経験をつみながら、よりよい社会を構築するために、そのような生き方を実践していける人材を少しでも多く送り出すことができればと考えています。

後編に続く

熊谷 勇一

カスタムメディア本部第二編集部 兼 周年事業ラボ

中央大学文学部哲学科卒業。その後、現在これだけ盛り上がるとは思わずに、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程でAI(人工知能)の研究をして修了。2006年に入社して以来、大学や研究機関のメディア制作に携わっている。共著に『自校史ブックス 大正大学』(弊社刊)がある。

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