企業研究100年企業の源流(3)
ドラマ『陸王』のセリフ“必ず強みがある、なければ100年も会社は続かない”
- 文=里見渉
- 2017年11月20日
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100年続く老舗の足袋(たび)メーカー「こはぜ屋」。従業員は20人。年々先細る足袋の需要から資金繰りに頭を悩ませていた同社は、自社の強みを生かしたランニングシューズの開発に着手する——。
もう、ご存じの方もたくさんいるだろう。こはぜ屋は、ドラマ『陸王』に出てくる架空の企業だ。原作者の池井戸潤氏は、特定の企業をモデルにはしていないことをツイッターで公表しているが、実際に池井戸氏が取材し、ドラマ『陸王』の足袋協力として社名が出ている企業がある。それは、こはぜ屋と同じ埼玉県行田市にある「きねや足袋」だ。
1929年創業の同社の従業員数は35。現在も年代物のミシンを使用し、手作業で足袋などを製造している。2013年9月に「きねや無敵」というランニング足袋を製造・販売するなど、ドラマ『陸王』のこはぜ屋と類似する部分がある。
ランニング足袋 杵屋無敵
役所広司が演じるこはぜ屋の4代目社長は、足袋づくりに衰退を感じ、一人息子に継がせることも諦めていた。しかし、同社の行く末を案じるある銀行員のひと言に目覚める。それは「こはぜ屋ならではの強みが必ずあるはずです。なければ、100年も会社は続きません」という言葉だ。その言葉に後押しされ、自社の強みを生かしたランニングシューズの開発を決断する。
抗うことのできない時代の流れ、成否を分けるポイントは
こはぜ屋と同じような企業は日本にはたくさんある。抗えない時代の変化の中で淘汰されてしまう企業もあれば、その変化の波を上手に乗り切って成長を続ける企業もある。そこでの違いはやはり「チャレンジ」ではないだろうか。
挑戦する、困難な物事や未経験な領域に挑む。企業の創業はまさにチャレンジだったはずだ。資金や人を集め、ビジネスができる体制を整え、顧客を開拓する。その一つひとつが経営者によってはチャレンジである。
しかし、長く存続するといつのまにかその精神が忘れられてしまう。今あるものを守ろうとするあまり、今日と同じ明日が来るのを願い、未経験のことを避けるようになる。業界全体が衰退しているとしたら、尻すぼみになるのは明らかだ。
ドラマ『陸王』のこはぜ屋では、先代の社長が試作したランニングシューズが倉庫の中から見つかる。先代も突破口を見いだそうと模索し、チャレンジしていたのだ。それを知った4代目社長は自らもそれを決意する。このドラマはその戦いを描いたものだ。
チャレンジは容易なことではない。経営は山あり谷あり。結果が出るまで時間もかかる。それを乗り越えるには、ドラマのサブタイトルのように“自分を変える、覚悟はあるか。”という、これまでの自らを否定することもいとわないような厳しさが求められる。
日曜劇場『陸王』のホームページ
経営者に求められる、失敗を恐れず前へ進む覚悟
中国の古い名言に「窮すれば変ず、変ずれば通ず」という言葉がある。自らを変えることで道は開けるという意味だが、そこまで追い込まれなければ変わろうとしないのも人間だ。
では、今の日本企業はどうだろうか。少子高齢化による労働人口の減少は深刻だ。インターネットやITによってビジネスモデルも劇的に変化している。厳しい環境に見えるかもしれないこの状況は、裏を返せば変わるための条件がそろっていると考えることもできる。
厳しい環境をチャンスと捉え、あらためて自社の強みを見つめ直すことも重要だろう。そこからこはぜ屋のように突破口が見つかることもある。企業によってそれは製品力だったり、技術力だったり、人(人財)であったりする。失敗を恐れず前へ進む覚悟が今、経営者には求められている。
- 2017年11月20日
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