理系研究者が描く2030年の社会
AIやロボットの協働により「便利で安心な暮らし」を送る一方、現役世代の2割が仕事を失う
― 日経BPコンサルティング「2030年の技術、社会、暮らしに関する予測調査」より ―

2021年8月10日

株式会社日経BPコンサルティング(東京都港区)はこのほど、「2030年の技術、社会、暮らしに関する予測調査」を実施、大学教授を中心とする理系研究者112人に「今後のライフスタイルと、それを支える技術がどのように進展すると思うか」を予測してもらった。

調査結果のポイント

  • 2030年の社会は、ビッグデータやIoT(Internet of Things)、人工知能(AI)、ロボットの利活用が進展し、これらが社会の一員として受け入れられる。加えて、SDGs(持続可能な社会)を意識し、自然災害への対応や医療体制が整った、便利で安心な(リスクを最小限に抑え、有事の際も常に柔軟な対応ができる)暮らしが実現する
  • 2030年における「決済行動に占めるキャッシュレス」の達成率は69%と、現状より大幅に高まる。また、全消費額に占める「実店舗での購入」の割合は45%と半分以下に。流通業や店舗型小売業だけでなく、製造業なども新しい時代にあった対策を取る必要がある。更に、工場、店舗の単純作業や無人宅配などの出現により、AIやロボットに仕事を奪われる人の比率は19%に達すると予測され、新たに生まれる産業などで、その余剰労働力をどう生かすかが課題だ
  • 自由意見では、技術革新により便利で安心な暮らしが実現することを歓迎する一方、その恩恵を受けられない層との格差や、急激な社会の変化に伴う「社会的な合意形成の難しさ」、「人の心の問題の拡大、多様化」などによる社会の不安定化への懸念が綴られた。懸念点の解消として、多くの先生方が「対応人材の育成の重要性」を指摘

“サステイナブルかつ、デバイスを意識することなく、必要な時に必要な情報をシームレスに連携・取得できる暮らし”が実現

調査では、弊社が独自に選定した38の技術やサービス(※1)について、2030年時点でどれだけ実現し、国内に普及していると思うかを尋ねた(図1)。

2030年に市場導入済(「国内で広く普及」と「国内で一部普及または市場導入」の合計)と予測する割合が高い順に見ると、「新築住宅(マンションを含む)のスマートホーム化」(77.7%)、「バイオデグラダブル(生分解性)の製品、包装、緩衝材」(71.4%)、「無人の工場、店舗、物流倉庫、宅配搬送」(69.6%)が上位3位となった。AIやロボットが社会の一員として存在し、SDGsを意識した商品・サービスを活用した社会が実現しそうだ。

自然災害への対応では「リアルタイムの高空間・高時間解像度気象予測と災害リスク評価」(63.4%)が、医療・介護への対応では「共通IDによる医療連携ソリューション」(59.8%)が上位に挙がった。「ビッグデータの活用で、もしもの時に備えた社会」が実現し、「スマートホーム」などから利用デバイスを意識することなく、必要な情報をシームレスに連携、取得でき、より利便性が高く、新たな脅威が生じても、柔軟に対応ができる暮らしが送れそうだ。

図1 2030年までに実現される技術・サービス(上位10位)
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※市場導入計:「国内で広く普及」+「国内で一部普及/市場導入」
調査では、上記に加え「国内で試験的に市場導入」「研究開発段階」「2030年時点では実現していない」「わからない」の6段階で尋ねた。

※1:回答者に提示した選択肢一覧
回答者に提示した選択肢一覧 クリックで拡大

拡大表示時に、画像をクリックすると、16項目以降をご確認いただけます。

「開発コストに対して需要が見合うか」だけでなく「新技術利用とその影響への社会的な合意形成」が実現の鍵

「2030年時点では実現していない」との回答が集まった項目(図2)には「地球と同じように寛げ、天体観測や無重力スポーツを楽しむことができる“宇宙ホテル”」(37.5%)、「宇宙太陽発電システム」(23.2%)、「感覚情報だけでなく、その時の心理情報まで含んで“その人の人生そのものを生々しく追体験できるメディア”」(28.6%)、「機械と人間の関係について社会の合意に達し、機械が人間と協調的に共存する安定した社会・経済システム」(25.9%)がある。

この実現が難しい理由として、「技術的には可能でも、開発コストに対して需要が見合わない」、「合意形成に時間がかかる」が多く挙げられている。例えば、「宇宙ホテル」や「宇宙太陽発電システム」などの宇宙開発については「秩序ある宇宙開発の国際的同意に相当な時間を要する」や「実現できたとしてもコストが高く、少数の富裕層のみの利用にとどまる」との意見が寄せられた。「他人の人生そのものを生々しく追体験できるメディア」については、「個人情報、倫理面における社会環境の受入体制が追いつかない」や「”他人の心理状態の追体験“が体験者に及ぼす影響が不明であり、心理的・精神的に悪影響が出る可能性が否定できない」、「犯罪利用が可能であり、実現すべきではない」などの慎重な見方をしている。

図2 2030年時点で、未実現の技術・サービス(上位5位)
図2 2030年時点で、未実現の技術・サービス(上位5位) クリックで拡大

調査では、上記に加え、「国内で広く普及」「国内で一部普及/市場導入」「国内で試験的に市場導入」「研究開発段階」「わからない」の6段階で尋ねた。

2030年に「決済行動に占めるキャッシュレス比率」は69%、「(AIなどの代替で)現役世代に占める失業率」は19%

調査では8項目を提示(※2)し、2030年時点における達成率や出現率を尋ねた(図3)。

「国内の決済行動に占めるキャッシュレス」の割合は69%と、2019年のキャッシュレス決済比率(26.8%[※3])に比べて大幅に高まる。全消費額に占める「実店舗での購入」の割合は45%と半分を切る。流通業、店舗型小売業への影響は極めて大きく、生産者や製造業もまた、新しい時代に対応したものづくりや販売を模索する必要がある。

コロナ禍において、特別定額給付金の支給に時間を要したことで「行政サービスのデジタル化」の遅れが露呈したが、これは52%が2030年に実現されると考えている。2020年時点でのデジタル化比率は、全行政手続等の内、種類数ベースで14%(※4)に過ぎない。今年の9月にデジタル庁が新設されるが、現実には即効性のある対策が必要だろう。

無人の工場や店舗、無人宅配(工場、店舗、配送などでの単純作業をロボットが行う)の出現などにより、ロボットに業務を奪われ、失業する人は現役世代の19%と予測した。2020年平均の完全失業率は2.8%(※5)であることを考慮すれば、かなりインパクトのある数字だ。これについては、「ロボットやAIの発展による利便性の向上は評価に値するが、それによって生まれる余剰労働力を新たな産業で活用できなければ、貧富の差が拡大する。ベーシックインカムなどの対策が必要である」や「貧富の差、先端的な技術が享受できる状況・地域かどうか、思考が先進的か保守的か、などの分断による社会の不安定化が懸念される」などの意見が寄せられた。

図3 2030年における各種サービスの普及状況や、新たな失業者の発生率
図3 2030年における各種サービスの普及状況や、新たな失業者の発生率 クリックで拡大

※加重平均値の算出方法:
「わからない」を除き、8段階で尋ねたそれぞれの項目(「全て(ほぼ10割)」「8~9割程度」「6~7割程度」「5割程度」「3~4割程度」「1~2割程度」「それ以下」「ほとんど無い(0割)」)に「100、85、65、50、35,15,5,0」の重みづけを与え、加重平均値を算出

※2:回答者に提示した選択肢一覧
回答者に提示した選択肢一覧 クリックで拡大

※3:出典 経済産業省「キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会 第二回資料」
※4:出典 総務省「令和2年 行政手続等の棚卸結果等」
※5:出典 総務省統計局「労働力調査」

技術革新で生活は便利になるものの、変化の負の側面を懸念。その対策や人材育成の重要性を指摘

2030年の未来像について総合的な意見を尋ねたところ、「技術革新の恩恵にあずかる明るい未来」を評価する意見は少数であった。前項でも取り上げた「貧富や地域間の格差」「雇用問題」や、「規格、法整備及び倫理問題」「モニタリングにおけるプライバシーの問題」「ICT環境化における個人情報保護やセキュリティの問題」「技術革新に伴う心の問題の拡大、多様化」などに対する課題を指摘する声が多い。

また、本調査では国内に焦点を当てた設問設計としていたが、「世界規模で食料危機、エネルギー・環境問題を捉え、持続可能な社会を実現するために先端技術を生かすべき」「地球規模で考えられるリーダー人材を育成し、国民全体の意識をも変革していく必要がある」との意見もみられた。

2010年代はスマートフォンやモバイル通信が普及し、ソーシャルメディア、サブスクリプション型やIoT関連のサービスが生まれ、生活に溶け込むなど、人々の生活はオフライン主体から、リアルタイムの情報をやりとりするオンライン主体に切り替ってきた。これから先、ここで取り上げたものがどれだけ普及し、人々の価値観や生活様式を変えていくのか、今後も動向に注目していきたい。

ここでは掲載できなかった調査結果や未来像についても、2021年8月20日(金)に開催する弊社セミナーにてご紹介する予定である。

●セミナー概要:https://consult.nikkeibp.co.jp/premium/seminar/20210820/

(山本 爽子=日経BPコンサルティング)

■「2030年の技術、社会、暮らしに関する予測調査」調査概要
  • 調査対象:

    教授・准教授を中心とし、理工系の大学等で教鞭を取る方
    (主な研究拠点における立場:「教授」と「准教授」計77%)

  • 有効回答数:

    112名

  • 調査項目:

    ”2030年の未来像”において、「技術やサービスの普及度合い」「業種ごとの売上高」「AIやロボットとの協働状況」などについて尋ねた。

  • 調査手法:

    インターネット調査

  • 調査実施期間:

    2021年7月6日~7月21日

  • 回答者には「2030年のライフスタイルに関する調査」というタイトルで提示した

日経BPコンサルティング:日経BP全額出資の「調査・コンサルティング」「企画・編集」「制作」など、コンサルティング、コンテンツ関連のマーケティング・ソリューション提供企業。(2002年3月1日設立。資本金9000万円)

このリリースに関するお問い合わせ

株式会社 日経BPコンサルティング 調査部
担当:山本 爽子
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