Webサイトの閲覧やインターネット上の手続きができなかった経験 全盲者では9割以上 2016年4月から施行される「障害者差別解消法」の認知・理解の普及はこれから
12月3日~9日の“障害者週間”に考える「障害者のインターネット利用実態調査」(視覚障害者)
2014年12月03日
日経BPコンサルティング(東京都港区)は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(注1)」(以下、「障害者差別解消法」とする)が、2016年4月1日に(一部の附則を除き)施行されることを踏まえ、障害者のインターネット利用実態を調査しました。また、社会・企業・個人と障害者との間の相互理解が進むよう、参考となる意見を障害者から収集しました。インターネットを利用している視覚障害者を対象とした本調査結果は、2015年1月下旬に調査結果の集計データを無償ダウンロードできるサイトを公開します。また、障害種類別に調査結果を、今後随時公表していく予定です。
調査結果のポイント
- パソコンからインターネットを利用した際にWeb上にバリア(障壁)があることで、閲覧・手続きなどの利用を諦めた経験がある全盲者は9割以上。具体的に困ることは、全盲者では「スクリーンリーダーで読み上げられないPDFやフォームなどがある」(94.4%)、弱視者では「背景と文字のコントラストが低く見づらい」(51.5%)が、それぞれトップ。
- 最も改善ニーズの高いインターネットコンテンツは、全盲者・弱視者ともに「地図・交通系」。
- インターネットを利用する視覚障害者のうち、スマートフォン利用者は4割。未利用者のスマートフォンを利用していない理由は、「月額利用料金が高いので」「スマートフォンの端末価格が高いので」と、コストに関する課題が上位に挙がる。
- 「障害者差別解消法」について、視覚障害者の6割以上が法律の内容がわからない状況。法律施行にあたり期待することは、「公共施設や交通機関等、外出時のバリアフリー化の推進・拡充」と「障害者の雇用の促進・拡大」がトップ。
2012年に総務省情報通信政策研究所が16歳~69歳の心身障害者を対象に調査した「障がいのある方々のインターネット等の利用に関する調査研究」の発表を見ると、障害者のインターネット利用実態は、知的障害者では46.9%と半数を下回るものの、肢体不自由者(82.7%)、視覚障害者(91.7%)、聴覚障害者(93.4%)と高い利用率であった。
視覚に障害があり、見ても情報を得ることができない・困難な人たちは、インターネットをどのように利用しているのだろうか。本調査では、インターネットを利用している視覚障害者に対しパソコン利用時に、Web上にバリアがあることで欲しかった情報を見ることができなかったり、利用したい手続きが最後までできなかった経験について尋ねたところ、「よくある」「たまにある」と回答した人の合計は、全盲者では91.7%、弱視者では58.8%であった。『スクリーンリーダーは画像を読まないので、手続の際の画像認証が一人でできない』『最終確認で画像認証を求められ、処理をあきらめることは多々ある』『文字や画像のサイズが固定されていて、見たい部分が拡大できなかった』などインターネットを利用はしているものの、目的を達成できないまま途中で利用を諦めざるをえない現状が浮き彫りとなった。
既に運用中のWebサイトをアクセシビリティ対応(注2)させることは決して容易なことではなく、アクセシビリティ標準に十分配慮したWebサイトに構築し直すことは、運用側にとって人的リソース、そして作業コスト的にも大変負担がかかるのも事実である。しかしながら、本調査結果によって、目に見える物理的なバリアだけではなく、「インターネット上のバリア」の実態について理解を進めていただくとともに、視点を変えた新たな「改善・発見」のきっかけの一歩となってほしい。
また、インターネットの利用実態把握だけではなく、2016年4月より施行される「障害者差別解消法」の認知状況や意見なども聴取したところ、『障害者を「かわいそうな特別な人」としてではなく、皆が隣人として接するような社会になってほしいと期待している』『法律が「絵に描いた餅」にならないことを切に願うし、自分もそうさせないように努力したい』『訴訟を起こさない限り違反はしても罰則がない法律には強い効果を期待できません。しかし、重要なことは、日本でこの趣旨の法律ができたことではないかと思っています』『障害のこと、そして様々な場面にバリアがあることをまず全ての人に知ってもらう取組みが必要』など、沢山の期待と不安の声が寄せられた。
なお、本調査の設計にあたっては、NTTグループの特例子会社であるNTTクラルティ株式会社(注3)アクセシビリティ推進室の視覚障害者の皆様にご協力いただき、実際の経験から質問項目についてご要望やアドバイスをいただきました。
調査実施概要
調査期間 | 2014年10月14日(火)~11月5日(水) |
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調査方法 | Web調査(日経BPコンサルティングのインターネット調査システム「AIDA」を利用) 調査設計・画面制作の際には、音声読み上げ対応ソフトに対応できるよう配慮した。また、複数名の視覚障害者による事前テストを実施し、回答にかかる平均所要時間などを把握。調査協力者の回答負荷を確認した上で、本調査を実施した。 |
調査対象者 | NTTクラルティ株式会社およびその関係者のネットワークを用いて、機縁法(注4)により、インターネットの利用経験のある視覚障害者を抽出し、140人から回答協力を得た。 見え方(全盲者 72人、弱視者 68人) 性別(男性 98人、女性 42人) 年代(10代 5人、20代 15人、30代 32人、40代 49人、50代 25人、60代以上 14人) |
調査項目 | 次の5つのテーマを設定し、調査設計を行った。(1人あたりの回答設問数は最大35問) 1. インターネット利用(パソコン編・スマートフォン編) 2. 障害者差別解消法 3. 2020年東京オリンピック・パラリンピック 4. 就業状況 5. 介助支援状況 |
注1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、2013年6月に制定された法律。(施行は一部の附則を除き2016年4月1日)
注2 Webアクセシビリティ
高齢者や障害者を含むWebを利用するすべての人が、年齢や身体的制約、利用環境等に関係なく、Webで提供されている情報に問題なくアクセスし、コンテンツや機能を利用できる状態にあることをいう。日本において、Webコンテンツのアクセシビリティは2004年6月20日にJIS(日本工業規格)化された。(「JIS X 8341-3 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス- 第3 部:ウェブコンテンツ」)
注3 NTTクラルティ株式会社
障害者の雇用を行なっているNTTグループの特例子会社。障害者自らが参画する障害者・高齢者に役立つポータルサイトの運営や日本工業規格(JIS)に沿ったWebアクセシビリティ診断などを行っている。
注4 機縁法
ある調査のテーマに合った特定の調査対象者を設定・招集するために、調査員の対人ルートや関係者の縁故関係などから標本を選ぶ方法。
調査結果データ
パソコン利用時にWeb上にバリア(障壁)があることで、利用を諦めた経験がある全盲者は9割以上
パソコン利用時にWeb上にバリアがあることで、欲しかった情報が見られなかったり、手続きが最後までできなかった経験は、「たまにある」が最も高く46.4%となり、「よくある」(29.3%)を足すと、75.7%となった。特に全盲者において顕著で「よくある」(36.1%)と「たまにある」(55.6%)の合計は9割を超えた。【図1】
パソコンからインターネットを利用する際に困ること―全盲者では「スクリーンリーダーで読み上げられないPDFやフォームなどがある」、弱視者では「背景と文字のコントラストが低く見づらい」がトップ
パソコンからインターネットを利用する際に困ることについては、全盲者では「スクリーンリーダーで読み上げられないPDFやフォームなどがある」(94.4%)が最も高く、次いで、「画像や写真などに説明文がないため、スクリーンリーダーで読み上げられない」(86.1%)、「画像認証の利用が困難もしくは利用できない」(84.7%)が続き、読み上げソフトに適切に対応していないコンテンツが、利用の障壁となっている実態が明らかとなった。
弱視者については、「背景と文字のコントラストが低く見づらい」(51.5%)が最も高く、次いで「文字サイズが不適切」(48.5%)、「情報量やリンクが多すぎる」(45.6%)となり、デザイン・レイアウトに関する項目が上位に挙がった。【表1】
パソコン利用時に、Web上にバリアがあることで利用が最後までできなかった経験の具体的なシーン
(自由記述を一部抜粋)
- 画像認証が必要な場合、アイコンと重なる場合は、スクリーンリーダーのみでは次へ進むことができず、諦めることがある。(全盲/30代女性)
- サイトのセキュリティ確保の結果、キーボード操作では使用しているクレジットカードの明細を確認できなかった。(全盲/40代男性)
- PDFによる、解説は解読不能。ボタンを読み上げないホームページが多い。(全盲/50代男性)
- 画像の情報等が埋め込まれていない時が多い。フラッシュが多用されている。動画などが使われているが、ボタンが探せない。(弱視/30代男性)
- 白黒反転をしたときに表示されない場合がある。(弱視/40代男性)
- 文字を拡大して見ていると、ページによって、文字が重なってしまい読みにくいことがある。(弱視/40代女性)
全盲者(n=72) | |
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スクリーンリーダーで読み上げられないPDF やフォーム(お問い合わせなどの入力項目)がある | 94.4% |
画像や写真などに説明文がないため、スクリーンリーダーで読み上げられない | 86.1% |
画像認証の利用が困難もしくは利用できない(ログイン作業など、毎回違う画像上に表示された文字を入力すること) | 84.7% |
ページレイアウトや構造が複雑過ぎる、または構造化されていない | 73.6% |
情報量やリンクが多過ぎる | 59.7% |
弱視者(n=68) | |
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背景と文字のコントラストが低く見づらい | 51.5% |
文字サイズが不適切(小さい、拡大できない、拡大するとレイアウトが崩れるなど) | 48.5% |
情報量やリンクが多過ぎる | 45.6% |
ページレイアウトや構造が複雑過ぎる、または構造化されていない | 44.1% |
画像認証の利用が困難もしくは利用できない(ログイン作業など、毎回違う画像上に表示された文字を入力すること) | 44.1% |
パソコンからもっと利用したいインターネットコンテンツ―全盲者・弱視者ともに「地図・交通に関する情報の閲覧」がトップ
利用環境が整えられれば、パソコンからもっと利用したいと思うインターネットコンテンツについて優先度が高いものを3つまで選んでもらったところ、全盲者・弱視者ともに「地図・交通に関する情報の閲覧」が2位に大差をつけて、トップとなった。また、2位以下については「レストランや娯楽施設のお店の閲覧・予約」「趣味に関する情報の閲覧」などエンターテイメント性を含むコンテンツや、「オンラインバンキング」「オンラインショッピング-物販系」などのEC系コンテンツなどが選ばれた。【表2】
全盲者(n=72) | |
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地図・交通に関する情報の閲覧 | 44.4% |
レストランや娯楽施設などお店の閲覧・予約 | 26.4% |
オンラインバンキング | 25.0% |
趣味に関する情報の閲覧 | 23.6% |
ニュース閲覧 | 20.8% |
オンラインショッピング-物販系 | 20.8% |
弱視者(n=68) | |
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地図・交通に関する情報の閲覧 | 54.4% |
趣味に関する情報の閲覧 | 20.6% |
ニュース閲覧 | 19.1% |
レストランや娯楽施設などお店の閲覧・予約 | 17.6% |
オンラインショッピング-物販系 | 17.6% |
視覚障害者のスマートフォン利用率は40.7%。利用していない理由は、「月額利用料金が高いので」「スマートフォンの端末価格が高いので」が上位
モバイルの利用状況については、フィーチャーフォンユーザーが55.0%と最も多く、スマートフォンは、Androidユーザーが12.1%、iPhoneユーザーが28.6%となり、合わせたスマートフォンユーザーの利用率は40.7%であった。【図2】 スマートフォン未利用者のうち、利用意向のある人にスマートフォンを現在利用していない理由を尋ねたところ、「月額利用料金が高いので」(58.3%)、「スマートフォンの端末価格が高いので」(52.8%)とコスト面の課題が上位を占めた。次いで、「スマートフォンを利用するためのノウハウやマニュアルなどの情報が少ないので」「実際に試す(触る)機会がないので」(ともに33.3%)が続く。購入前後での情報・接触など様々なコミュニケーション機会の増加が望まれる。【表3】
スマートフォン未利用 かつ 利用意向者(n=36) | |
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月額利用料金が高いので | 58.3% |
スマートフォンの端末価格が高いので | 52.8% |
スマートフォンを利用するためのノウハウやマニュアルなどの情報が少ないので | 33.3% |
実際に試す(触る)機会がないので | 33.3% |
使いこなせない気がするので | 27.8% |
スマートフォンの利用にあたり、今後改善してほしい機能やソフト、また、知りたい情報(自由記述を一部抜粋)
- スクリーンリーダーの機能は少しずつよくなってきているが、アプリに関しては対応状況が悪いので、読み上げ機能にきちんと対応したアプリ開発をしてほしい。(全盲/30代男性)
- 読み上げ精度が十分ではないために、適切な項目を選択できず目的の情報にたどり着くのに大幅な時間を取られる場合がある。(全盲/40代男性)
- 画面拡大機能を随時操作しながら使用しているものの、ウェブ上の細かいリンクやボタンなどは見落としやすいことが多い。(弱視/20代男性)
- じっくり試せる、教えてもらえる機会が増えればとも思う。(弱視/40代男性)
障害者差別解消法について、法律の内容がわからない視覚障害者が6割以上
障害者差別解消法の認知については、「聞いたことはあるが、法律の内容はよくわからない」(44.3%)が最も高く、「初めて聞く言葉である」(20.7%)を足すと、法律の内容をわからない人は65.0%となった。「知っており、ある程度内容もわかる」は30.0%となり、「知っており、自ら積極的に情報収集をしている」(5.0%)を足すと、法律の内容がわかる人は35.0%であった。障害別に見ると、「初めて聞く言葉である」は全盲者では8.3%だったのに対し、弱視者では33.8%と高かった。【図3】
「障害者差別解消法」に期待すること―全盲者では「障害者の雇用の促進・拡大」が最多の83.3%
「障害者差別解消法」に期待することについては、「公共施設や交通機関等、外出時のバリアフリー化の推進・拡充」と「障害者の雇用の促進・拡大」(ともに72.1%)が最も高かった。特に全盲者において「障害者の雇用の促進・拡大」は高く、8割を超える。また、「障害者差別解消法」に関して意見を聴取したところ、障害者および当該法律のことを、「まずは知ってもらう取り組みが必要」という意見が多く見られた。【表4】
全体(n=140) | |
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公共施設や交通機関等、外出時のバリアフリー化の推進・拡充 | 72.1% |
障害者の雇用の促進・拡充 | 72.1% |
周囲の障害者に対する理解の促進 | 67.1% |
インターネット上における、サービス利用時の手続きが独力でできるようになること | 66.4% |
障害の有無に関わらず利用できる商品・サービスの開発促進 | 63.6% |
全盲者(n=72) | |
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障害者の雇用の促進・拡充 | 83.3% |
インターネット上における、サービス利用時の手続きが独力でできるようになること | 79.2% |
公共施設や交通機関等、外出時のバリアフリー化の推進・拡充 | 75.0% |
オフライン(紙や対面式など)でのサービス利用時の手続が容易になること | 75.0% |
障害の有無に関わらず利用できる商品・サービスの開発促進 | 72.2% |
弱視者(n=68) | |
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公共施設や交通機関等、外出時のバリアフリー化の推進・拡充 | 69.1% |
周囲の障害者に対する理解の促進 | 66.2% |
障害者の雇用の促進・拡充 | 60.3% |
障害の有無に関わらず利用できる商品・サービスの開発促進 | 54.4% |
インターネット上における、サービス利用時の手続きが独力でできるようになること | 52.9% |
「障害者差別解消法」に関する意見(自由記述を一部抜粋)
- 法律をつくるだけではそこまで変化はないと思う。義務教育で毎年勉強してふれあう時間を設ける必要がある。(全盲/30代男性)
- 成立時を含め、一般の報道でほとんど取り上げられていない現状が問題と思います。単に法律ができても、周知されなければ意味がないので、権利条約批准も含めて周知する中で、社会的な議論を踏まえながら改善していって欲しい。(全盲/40代男性)
- 我々障害者自身がこの法律を過大解釈して起こしたアクションにより、逆にこの法律の趣旨が社会に浸透しないような結果を引き起こさないよう十分注意していきたいです。(全盲/40代男性)
- 私は盲導犬ユーザーですが、「身体障害者補助犬法」が施行された後も周知徹底していないのが現状です。今回の法律も多くの方々に理解していただけると良いと思います。(全盲/40代女性)
- 社会の理解も大切かもしれませんが障害者自身も社会に近づく努力をすることも重要だと思います。(全盲/60代以上男性)
- 教育課程の中に「さまざまな障害の種類」を確固として織り交ぜられれば、将来的に障害者が過ごしやすい社会づくりの実現を期待できる。(弱視/20代男性)
- 本法の罰則や表彰など、何か推進を加速させる/障壁をなくす施策はあるのでしょうか。(弱視/40代男性)
- 法律が「絵に描いた餅」にならないことを切に願うし、自分もそうさせないように努力したい。(弱視/50代女性)
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