ICT利活用の期待領域が「攻め」のビジネス・テーマに拡大。情報システム部門の役割は業務課題の解決へ
―ビジネスとICTの利活用に関する調査―

2011年10月12日

表1 本調査から明らかになった主要なポイント
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日経BPコンサルティング(東京都港区)は、ビジネスとICT(情報通信)システムの関係を把握するため、国内企業の勤務者に対する調査を2011年7~8月に実施した。調査対象者は、情報システム部門のほか、経営系部門、業務部門の勤務者である(調査概要は下部参照)。
今回の調査を通じて、ICTを今後活用したいビジネス上のテーマ(領域)に広がりが見られることが分かった。従来の「守り」のビジネス・テーマだけでなく、「攻め」のテーマに対する関心が高い。ICTの利活用においては、ICTとビジネスの両方が分かる人材の不足が最大の問題で、同時に情報システム部門には業務面の課題解決に対する役割が期待されていることも明らかになった。調査結果の主要なポイント(表1)について以下にまとめる。

効率化/コスト削減から、高速化/営業力強化へ

ICTの利活用分野は、「守り」のビジネス・テーマから、「攻め」のテーマにシフトしつつある。ICT利活用について、これまで実施してきたものと今後推進を期待したいテーマを尋ねた結果が図1である。これまで実施してきたのは、「業務プロセスの効率化」(40.7%)を筆頭に、「コスト削減」「社内コミュニケーションの活性化」がトップ3。いずれもビジネスにおける守り、あるいは社内活動の支援である。

これに対して、今後は「事業や経営判断の高速化」「営業力強化」をはじめ、ビジネスにおける攻めのテーマ、社外に対する活動を直接支援する部分への期待が大きい。「ソーシャルメディア等を使った顧客との新たな関係構築」といった新分野や、「ビジネス領域の拡大/業際市場への進出」といったICT利活用が進んでいなかった分野にも、今後はICTを使っていきたいとの意識がある。

ビジネス上のテーマに対するICT利活用の期待率は、そのテーマを重要だととらえている回答者、さらに企業競争力や事業強化の上で重要だと考える回答者に限るとアップする。図1にあるように、回答者全体では各テーマの今後の期待率は25~45%程度の間に分布するが、企業競争力等の上で重要と位置づける回答者に限ると、ICT利活用の期待率は40~70%程度に上昇する。例えばグローバル展開におけるICT利活用への期待率は、回答者全体では29.7%だが、企業競争力等における重要テーマ選択者に限ると58.8%へと大きく上昇する。

ビジネス・プロセス全体でICTに期待、システム構築に限らず業務面も

ICTに対する期待は、ビジネスの企画から評価に至るいずれの段階にも存在する。ICTやICTベンダーに対して「特に期待することはない」は、ビジネスの企画と運営いずれの段階でも1割台にとどまった(図2)。全体の8割前後が何らか期待している。

ビジネスの企画段階では、「企業活動全体の課題の見える化」(41.5%)など、見える化に対する期待が大きかった。一方、運営段階は「ICTの運用コストの低下」(52.8%)がトップで、「日常的な業務改善の提案」も42.0%と多い。全体としてみると、ICTへの期待はシステム構築や運用だけでなく、業務面の改善や課題解決に及んでいることが分かる。

最大の課題はビジネスとICTを結ぶ人材の不足

ICTを利活用するにあたっての最大の課題は人材不足である。「ICTとビジネス上のテーマを結びつけて考えられる人材が、社内に少ない/いない」を46.0%の回答者が挙げた(図3)。人材不足の問題は、回答者の企業規模によらず存在する。また経営、情報システム、業務いずれの所属部門の回答者も課題と認識しており、特に経営系部門では54.0%と高かった。

人材不足に対する一つの解決策は業務のアウトソーシングである。今回の調査において、「ビジネス上のテーマに対してICTをどのように活用するかの企画業務」に関するアウトソーシング意向を尋ねたところ、現状の実施率は13%あまりにとどまったのに対して、「検討中」あるいは「関心がある」を合わせると24%強に上った。ICTに関するアウトソーシングはこれまでシステム開発・保守・運用が中心だったが、企画業務に対しても外部リソースの活用に一定の関心がある。

情報システム部門の役割は業務を含めた課題解決

しかしながら、すべての企業において、アウトソーシングだけでICT利活用の課題を解決できるわけではない。情報システム部員をはじめ社員の活躍に対する期待感がある。

今回の調査では、ビジネスとICT利活用に関連する5種類の人材像を提示し、そうした人材が今後どのような部署、組織から出てくることを期待するかを尋ねた。情報システム部門からの登場が多く期待されたのは、「システムエンジニア的人材」(74.6%)に加えて、「サービスインテグレータ的人材」(46.7%)や「業務コンサルタント的人材」(40.5%)である(図4)。情報システム部門には、業務要件をICTとして実現するだけでなく、業務課題などの解決役が期待されている。

ビジネス・テーマの解決への更なる貢献を期

ビジネス上のテーマの解決や新たな事業推進において情報システム部門の貢献度は現状、非常に大きいとはいえない。今回の調査によると、「貢献(非常に+やや)」が49.0%に上ったものの、「非常に貢献」は11.3%にとどまった。

ただ、情報システ図1●ビジネス上のテーマに対するICTの利活用ム部門の貢献が今後どうなるかを尋ねると、「増加(非常に+やや)」が54.5%に上った(図5)。一方、貢献度が減少するという回答は皆無に近い。情報システム部員自らが貢献増と答えた傾向はあるが、経営系部門や業務部門の回答者でも4割台が今後情報システム部門の貢献が増加すると答えた。情報システム部門がこれまで以上にビジネス領域の役割を果たすことに対して、否定する意見は少ない。

ICTベンダー企業は、現時点では情報システム部門以上にユーザー企業のビジネス・テーマの解決に貢献できていない。貢献できているとの回答は25.3%にとどまった。しかしながら、今後への期待は一定数ある。今後は貢献増との回答が37.8%存在した。

(松井一郎=日経BPコンサルティング シニア・コンサルタント)

図1 ビジネス上のテーマに対するICTの利活用
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図2 ビジネスの企画段階/運営段階においてICTやICTベンダーに期待すること
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図3 ICT利活用における課題
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図4 ビジネスやICTの人材が情報システム部門から登場することへの期待率
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図5 ビジネス上のテーマの解決等に対する今後の貢献度の増減
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調査概要
調査概要

日経BPコンサルティング:
日経BP社全額出資の「調査・コンサルティング」「企画・編集」「制作」など、コンサルティング、コンテンツ関連のマーケティング・ソリューション提供企業。(平成12年4月4日設立。資本金9000万円)

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