どこにもあるレガシー問題、8割が課題システムを保有。ユーザーは既存資産を活用してITリフォームへ
―情報システムの更新と保守に関する調査―

2011年10月11日

表1 本調査から明らかになった主要なポイント
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日経BPコンサルティング(東京都港区)は、企業情報システムにおけるレガシー問題やシステム保守・更新の状況を把握するため、情報システム部門の勤務者を対象とした調査を8月に実施した(調査概要は下部参照)。
調査からは、システム保守上の課題システムがどこにも存在する現状と、既存のアプリケーション資産を活用しながらITリフォームを図ろうとするユーザーの意識が浮かび上がった。以下では、調査結果の主要なポイント(表1)について紹介する。

サーバーによらず8割に保守上の課題システム

企業の情報システム担当者にとって、「レガシー資産の見直し」に対する課題意識は高い。45.7%の回答者がICT(情報通信)システムにおいて取り組むべきテーマと考えていた(図1)。「情報システム担当者の育成・教育」と小差の2番目で、「ビジネスや事業環境の変化へのICT対応」を上回るほど多数の回答者がレガシー問題を挙げた。

取組意向と言う意識面だけでなく、実際に多くの企業が保守上の課題システムを抱えている。サーバーのプラットフォーム別に見ると、各サーバー保有者の8割が保守上の課題システムを所有していた(図2)。特徴的なのは、メインフレームだけでなくUNIX/PCサーバー上にも課題システムが存在していること。いわゆるオープンレガシーの問題だ。課題システムが「多数ある」という深刻度はメインフレームが高いが、課題の有無だけを見れば、わずかとはいえUNIX/PCサーバーがむしろ高いほどだった。

2000年以降のシステムにも問題

保守上の課題システムは、古いシステムだけの話ではない。2000年以降に開発したシステムにさえ、課題システムが存在する。メインフレームでは課題システムの4割、UNIX/PCサーバーでは7割が、2000年以降に開発されたシステムだった。またサーバー環境を問わず、課題システムの多くが回答企業の事業推進や利益創出の上で重要な存在だった。

システム保守における最大の課題は、システム仕様に対するドキュメント化/最新化が不十分な点である。回答者の48.3%が挙げた(図3)。これに続いて、「ベンダーの都合(製品提供等)でシステム変更が必要になる」(41.7%)ことも、ユーザーは問題視している。

こうしたシステム保守の課題は、その企業が課題システムをどの程度抱えているのかによっても異なる。課題システムを多数抱えている企業では、各課題を挙げる割合が高まる。中でも「プラットフォームの標準化」や「モジュール化」の問題は、保守上の課題システムの多寡による差が大きい。つまり課題システムを多数持つ回答者で標準化などの課題が増幅される率が高かった。

システム保守上の課題に対しては、多くの回答者が取り組む意向を持っていた。ドキュメント化/最新化については、9割の回答者が取り組みに前向きである。ただし、「現在取り組んでいる」という着手済みや「今すぐ取り組みたい」という積極的な企業ばかりではない。多数派は「今後取り組みたい」である。しかも、その中には「解決策が見えていない」とする回答者が多い。

課題システムの7割は更新意向あり

保守上の課題システムに対して、ユーザー企業の多くは何らか新しくすること(更新)を考えている。サーバー環境によらず、更新計画や意向を持つ回答者が7割程度に上った(図4)。もっとも、更新意向はあっても具体的な計画になっていないケースも多い。「更新したいが、まだ具体的な計画にはなっていない」がメインフレームの場合で3割台、PC/UNIXサーバーでは4割台に上った。

具体的な更新計画に至らないのは、更新作業の難しさとも関係があると見られる。システム更新における課題として多かったのは、「仕様書などのドキュメント化が不十分」(40.7%)や「更新すべきシステム資産が膨大すぎる」(37.3%)こと(図5)。資産が膨大という問題は大企業ほど深刻であり、1000人以上の規模では、ドキュメント問題を上回って最も多かった。

システム更新を検討するきっかけは、「ハードウエアまたはソフトウエアの保守の打ち切り」が53.0%と最多である。ベンダー都合によってシステム更新を余儀なくされるユーザー企業の実態が浮き彫りになった。

既存アプリの活用派が8割程度に

システム更新にあたっては、既存のアプリケーション資産を何らか活用したいとの意識、つまり「ITリフォーム」志向が強い。既存アプリケーションを「全面的に活用したい」は3割程度だが、「一部を活用したい」を含めると、8割前後に上った(図6)。これに対して、「既存資産は活用しない(すべて新規)」は、いずれのサーバー環境でも1~2割にとどまる。アプリケーション資産の一部を活用したいというのは、既存システムに関して今後も使い続けるべき部分とそうではない部分を整理したい、そうすることが賢明だとの考え方を示すものだろう。

システム更新の目的については、「保守生産性向上」(63.1%)や「ランニングコストの軽減」(59.7%)に加えて、「システムの長期利用」(54.5%)も多かった(図7)。システムの長寿命化を示す長期利用は、ベンダー都合によるシステム変更に問題意識を持つ回答者の反応が強い。保守上の課題としてハード/ソフトベンダーの都合を挙げた回答者に限ると、システム長期利用を目的とする比率が全体平均を8ポイントあまり上回る62.8%に上った。同様に、ベンダー都合を課題とする人では「インフラの変更により業務アプリケーションが影響を受けない」のアップ率も大きかった。

システム部門は企画業務にシフト

レガシーシステムの見直しは、多くの情報システム部門にとって取り組むべきテーマである。ただし、システム保守や運用業務自体は情報システム部員の本業ではなく、企画業務へのシフトが見られた。情報システム部員に今後どのような人材像が期待されるかを尋ねたところ、強い期待感が最も多かったのはIT戦略の策定や企画を行う人材だった。システム保守の問題を抱えながら、今後目指すべきは企画型人材。こうしたギャップにも、システム保守問題の難しさが存在する。

保守作業はアウトソーシングへ

情報システム部員の在り方の変化を受けて、システム保守作業をベンダーに委託する意識も強まっている。システム保守・運用作業について、「自前」と「アウトソーシング」のいずれかを尋ねたところ、これまでの状況は自前と答えた回答者が57.8%に上った(図8)。一方、アウトソーシングは半分弱の26.0%である。 ところが、同じ対比形式で今後の在り方を尋ねたところ、自前は40.3%に減少。代わってアウトソーシングが38.7%へと増加した。

システム保守作業の委託が増える中、ユーザーはベンダー企業をどのような面で評価するのか。今回、システム更新作業におけるICTベンダーの選び方を尋ねたところ、ユーザーは幅広い側面からベンダーを見ていることが分かった。ベンダー選定時の重視点として多かったのは、「技術力」のほか、「システム構築の経験や実績」「サポート体制、対応力」「コストパフォーマンス」。いずれも6割前後に上った。加えて「提案力」「回答企業のシステムへの理解」「品質」なども4割台存在した。

こうした回答結果から伺えるように、ユーザー企業はベンダーに多くのことを期待している。裏を返せば、ユーザー企業の多様なニーズにこたえる幅広い力があるかどうか、それがICTベンダー企業の今後を左右することになる。

(松井一郎=日経BPコンサルティング シニア・コンサルタント)

図1 ICTにおいて現在取り組むべきテーマ
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図2 情報システム(主にアプリケーション)の保守における課題システムの有無
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図3 ICTシステムの保守作業における課題
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図4 保守上の課題システムに対する更新計画
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図5 システム更新における主要な課題
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図6 更新作業における既存アプリケーション資産の活用
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図7 システム 更新作業の目的
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図8 システム保守・運用作業に対する考え方
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調査概要
調査概要

日経BPコンサルティング:
日経BP社全額出資の「調査・コンサルティング」「企画・編集」「制作」など、コンサルティング、コンテンツ関連のマーケティング・ソリューション提供企業。(平成12年4月4日設立。資本金9000万円)

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