効率重視の集中システムを見直し、サービス利用が進む。適切なBCPに悩みながら、新たなワークスタイルも視野に
―ポスト3.11時代のICT利用意識調査―

2011年06月21日

日経BPコンサルティング(東京都港区)は、東日本大震災後(ポスト3.11時代)に企業ICTシステムが向かう方向性を調べるため、全国の情報システムと経営系部門の勤務者を対象とした意識調査を5月に実施した(調査概要は下部参照)。

大震災を受けて、ICTシステムは「集中から分散」、「所有から利用」へという動きが見られた。当座は、災害対策関連のICT投資がやや増加し、その後ICTシステムのあり方に対する見直しが続く。

企業のBCP(事業継続計画)やシステムの継続稼働対策は十分とは言えず、特に中堅・中小企業の取り組みが遅れている。

東日本大震災は、企業のワークスタイルやコミュニケーションスタイルにも影響を与えた。非常時にも備えて、テレワークや在宅勤務、モバイル活用、インターネット技術を使ったWeb会議システムが進展する可能性が高い。経営層を中心に、ソーシャルメディアへの関心も伺えた。

調査結果をまとめた報告書についてはこちら

「集中から分散」、「所有から利用」へ

ICTの基本方針を尋ねたところ、「集中させて投資や運用の効率を高める」という考え方の支持者は震災後に20ポイント減少した。代わって「分散させてリスク回避を図る」への支持が13ポイント増加した(図1)。投資や運用面の効率から集中が是とされてきたICT。大震災はそうした“常識”に再考を促した。

「所有からサービス利用へ」という意識の変化も表れた。「所有」支持は17ポイント減り、「利用」支持が8ポイント増えた。クラウド化の流れの中で、サービス利用意識がさらに高まった。

44%がICT投資の考え方を変更、災害対策で増額傾向

大震災を受けて、情報システム部門回答者の44%が今後のICT投資に対する考え方を変えた。震災時にシステムや業務に問題が生じた企業がより多く意識を変えたが、問題はなかったとする回答者でも一定数が意識を変えた。

2011年度のICT投資額を震災前の計画から変化させるかどうかを尋ねた結果では、6割が「増減なし」と答えたが、「増加」が「減少」を8ポイント上回り(情報システム部門の場合)、全体としてやや増加傾向にある(図2)。一方、2011年度の売上高見通しは減収が増収を上回った。調査時点では、業績見合いではなく、ICT強化が必要という意識から投資増に振れた様子だ。こうした意識が今後どのようになるかが、2011年度のICT市場全体を左右すると見られる。

ICT投資を増加させると答えた企業の投資分野は、災害対策関連の銘柄をはじめ複数に及ぶ。一方、投資総額は減少させるとした回答者でも、ハード二重化・分散化、自家発電装置、省電力サーバー、クラウドコンピューティングなどは、投資総額を増やす回答者と同様に、投資増の対象となっている。

中小企業のBCP対策に遅れ

企業のBCP(事業継続計画)やシステムの継続稼働対策は十分とは言えず、特に中堅・中小企業の取り組みが遅れている。3月11日時点で、BCPを用意できていたのは45%だった。従業者1000人以上の大企業が中心(64%)で、中堅企業(300-999人)での用意率は39%、中小企業(10-299人)は28%にとどまった(情報システム部門調査の場合。経営系部門も同様)。

大震災は、多くの企業にBCPに対する強化や見直しを促した。ただ、ここでも、中小企業の出足は鈍い。5月の調査時点で、大企業は既に3割強が取り組んでいたが、中小企業は1割強に過ぎなかった(図3)。

BCPへの取り組み課題では、情報システム部門の3割が、「きちんとした計画や施策を作ると、コストがかかり過ぎる」を挙げた。投下コストの問題は、BCPにとって極めて重要なテーマだ。加えて、中堅・中小企業では、「作成するための人的、時間的余裕がない」、「どのような内容がよいのか分からない」が大企業に比べて多い点も特徴的だった。

2011年夏の電力規制は多くの企業のICTに影響を与える。調査時点で、まったく影響がないとしたのは、情報システム部門で1割にとどまった。「非常に影響がある」と「やや影響がある」の合計で55%に上った。調査では、省電力施策の具体的内容や効果に対する理解が不足気味との認識も見られたが、対応作業としては今まさにピークを迎えている。

Web会議、モバイル、在宅勤務は3~4割が進展

自宅待機や出社困難を生み出した大震災は、ワークスタイルやコミュニケーションスタイルに対する変化をもたらしそうだ。非常時対策として、「モバイル機器を利用した業務遂行」や「拠点間におけるWeb会議やSkype等の利用」が進展するかどうかを尋ねたところ、4割強が可能性は高いと答えた(図4)。「在宅勤務やテレワーク」も3割台に上った(情報システム部門、経営系部門調査いずれも)。

震災時に同じく注目を集めた「ツイッターやSNS(Facebook等)」のソーシャルメディアは、上記の項目に比べると、まだ支持者は少ない。情報システム部門の回答者で利用が進むと答えたのは1割にとどまった。しかし、経営系部門の回答者では倍の2割に上った。実務面を中心に考える情報システム担当者にとって、ソーシャルメディアの活用はまだ少し距離感があるようだが、経営系部門の意識には浸透し始めたようだ。

(松井一郎=日経BPコンサルティング シニア・コンサルタント)

図1 大震災前後のICTに対する考え方の変化
図1 大震災前後のICTに対する考え方の変化
図2 震災を受けての2011年度ICT投資額の増減見通し
図2 震災を受けての2011年度ICT投資額の増減見通し
図3 BCP に対する強化・見直し状況
図3 BCP に対する強化・見直し状況
図4 非常時対策のための新たな業務やコミュニケーションスタイルの進展可能性
図4 非常時対策のための新たな業務やコミュニケーションスタイルの進展可能性

→報告書についてはこちら
ポスト3.11時代のICT利用意識調査報告書

調査概要

  • 調査目的
    2011年3月11日の東日本大震災を受けて、企業のICTに対する意識の変化を把握する。
  • 調査手法
    インターネット調査
  • 調査対象
    国内企業等の情報システム部門と経営系部門(経営層を含む)の勤務者
    ※日経BPコンサルティングの調査モニターを利用
  • 主な調査項目
    ・東日本大震災がICTに与えた影響と今後の投資動向
    ・BCPやICTシステムの継続稼働への取り組み
    ・電力規制対応
    ・今後のICTプラットフォームに対する意識、ワークスタイルの変化
    ・震災時対応に伴うICTベンダーに対する信頼感の変化など
    ※調査項目の一覧はこちら
  • 調査時期
    2011年5月17日~5月23日
  • 有効回答数
    情報システム部門調査:705件
    経営系部門調査:310件
  • 回答者属性
    情報システム部門調査
    <業種> 製造:38.7%、流通:13.9%、金融:4.4%、建設・サービス・その他:43.0%
    <従業者数> 299人以下:28.4%、300-999人:36.0%、1000人以上:35.6%
    <役職> 部長クラス以上:11.8%、課長クラス:31.2%、係長・主任クラス:30.4%、一般社員・その他等:26.7%

    経営系部門調査
    <業種> 製造:34.8%、流通:9.0%、金融:4.5%、建設・サービス・その他:51.6%
    <従業者数> 299人以下:41.6%、300-999人:21.9%、1000人以上:36.5%
    <役職> 役員クラス:32.6%、本部長・部長クラス:25.8%、課長クラス:19.0%、左記以外:22.6%

本件に関するお問い合わせ

株式会社 日経BPコンサルティング ビジネスコンサルティング部

シニア・コンサルタント 松井 一郎

〒108-8646 東京都港区白金1丁目17番3号 NBFプラチナタワー

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