メニュー

コンテンツマーケティングに踊らされるな!
Nexal上島千鶴氏に聞く(1)

  • 情報提供の“水漏れ”が機会損失を招く
  • 2015.10.26

近年、マーケティングへの関心が一層高まっている。書店にはマーケティング関連書籍が山と積まれ、IT業界からは新しいソリューションが次々と発表されている。なぜ今、BtoB分野でもマーケティングが注目されているのか。最近よく聞かれるキーワード「コンテンツ」は、マーケティングにおいてどんな役割を果たすのか。ネットとリアル双方の観点からマーケティング戦略を手がけるNexal代表取締役・上島千鶴氏に聞いた。

「◯◯マーケティング」という言葉は重要ではない

——ここ数年、技術革新により新しいマーケティング手法が次々に誕生しています。

上島氏 IT企業やコンサルティング会社が提唱する「◯◯マーケティング」という言葉は、本当に増えていますね。最近は、新しい取り組みのことを「デジタル時代における新マーケティング」「ポストモダンマーケティング」などと言っていますが、根っこには「お客様の購買プロセスや市場が変化する中、生き残るにはマーケティング手法や考え方、売り方自体を変えていかないと」という企業の危機意識があります。「◯◯マーケティング」という言葉は、そうした動きを各視点で切り取った表現にすぎません。

 海外でのマーケティングはオンライン・オフライン含め、統一化された顧客体験をベースに再設計していく手法が注目されています。顧客はどんなシチュエーションのときにどのような情報を知りたいか。顧客が最適なタイミングで心地よい体験ができるようコンテンツを提供する——。見方を変えれば、店舗とネットを融合した「オムニチャネルマーケティング」になるでしょうし、「O2O(オンラインtoオフライン)マーケティング」にもなるでしょう。言葉が重要なのではなく、マーケティングの本質は「顧客視点に立った体験設計」にあり、その目的は「事業や受注に貢献すること」です。

BtoBでもマーケティングが注目されるわけ

——BtoB分野でも、マーケティングが注目されるようになったのはなぜでしょう?

上島氏 理由は2つあります。1つは従来のように「プレスリリース」「展示会」「広報誌」「セミナー」など単体で分かれていたマーケティング施策を、数値に基づいて最適投資する動きが出てきたこと。これを後押ししたのが、数値がはっきり出るデジタルマーケティングです。もう1つは、顧客が購買の意思決定プロセスでネットなどデジタルを使うのが当たり前になった今、従来型の営業手法では限界が来ていることです。

——「コンテンツをどうやって作ればいいか」といった悩みを抱えている企業も多いようです。改めて「コンテンツマーケティング」の定義をお聞かせください。

上島氏 まず認めるべき事実として、デジタル時代になり顧客自身がWebなど様々なチャネルで情報収集しているということ。BtoBの場合、A社から問い合わせがあってB社の営業担当者が初めてA社を訪問したときには、すでに数社に振るい分け(一次選定)または絞っていることが多いのです。つまりA社はすでにB社についてかなり調べており、具体的に何を聞きたいかが固まっている場合がある。下手をするとA社の方が、営業担当者よりB社の製品や企業について詳しいことさえあります。

 「自分達のお客様は雑多な情報が溢れるネットで、情報収集などしない」と言い張った精密機器メーカーの役員がいましたが、実際アンケートで裏付けデータを調査してみると、その企業にコンタクトする前に、顧客は複数企業のWebサイトから情報を収集していました。

 営業担当者は、顧客が事前にどこまで調べているのか知りません。訪問したときにすでに顧客が知っていることを一から説明すると、顧客の事前期待値とのミスマッチや時間的なロスが起きてしまう。「この営業は、自社製品を十分理解していないな」と思われたら、大きな機会損失です。対面で会う際には、自社を担当してくれる営業の対応姿勢を顧客は見ています。こうしたミスマッチや、事前に顧客が欲しい情報を提供できない“水漏れ”が、今あちこちで起きています。一昔前のように「商談テーブルについてからが勝負」ではすでに遅いということです。

 どのタイミングでどんな情報を顧客に提示すれば潜在ニーズをつかめるのか、成約につながるのかと考えると、「顧客の課題や解決したい内容にぴたりと合った情報」を提供することが、心地よい体験(心理)につながります。その体験をもたらすものが、今は「コンテンツ」なんです。顧客を知って最適な情報を提供するという意味では、コンテンツマーケティングは従来の営業手法を否定するものではなく、さらに、“新しい手法”でもないんです。

 今、コンテンツを再定義する動きが出ています。確かにデジタルを使えば効果が計りやすいですが、コンテンツマーケティングにおけるコンテンツとは、顧客の課題を解決する価値ある情報であって、決してWebサイトのデジタルコンテンツだけを指すものではありません。

コンテンツマーケティングの失敗パターン

——心地よい顧客体験をもたらすコンテンツとは、具体的にはどういうものでしょうか。

上島氏 基本は、「自社のターゲット層に対して“価値ある情報”を適切な手段で提供していく」ことです。顧客が欲しい・必要とする情報すら提供できていない“水漏れ”を作らないこと、顧客の状態に合わせてコンテンツ間のストーリーがつながっていることです。これを踏まえ、どんなコンテンツを提供すればよいかというと、ポイントは3つあります。

 第1に、ターゲットとする見込み顧客を引き寄せるため、顧客の潜在的な課題に関連する「価値のある情報」。第2に、見込み顧客の課題を明確にしたい、解決策が知りたいという「もっと知りたい」という要求に応える情報。第3に、見てみたい、相談したいという「行動を誘発」する背中を押すコンテンツです。これらを、顧客の状態やタイミングに合わせて提供する。コンテンツを提供する目的を明確にし、その効果を得ることが大事なのです。

——コンテンツの設計で、失敗するのはどんなときでしょう?

上島氏 よくあるのが、手段や表現をコンテンツと勘違いしているケースです。印刷したパンフレットやWebサイトやソーシャルメディアは、相手(ターゲット)に合わせて情報を伝える「手段」です。また写真や動画、テキストなどの情報の見せ方は情報量を考慮した「表現」の違いです。コンテンツ制作で肝心なのは文字通り伝えたい・共感してほしいなどの意識を持った「内容」ですが、中には「ブログをやりましょう」「ソーシャルやりましょう」「動画やりましょう」と、手段や表現ばかりを強調するベンダーが後を絶ちません。極論をいえば、ターゲット(相手)を見極めることなく手段や表現を押しつけてくる会社は、すべて偽物だと思っています。あくまで最終目的は「事業や受注に貢献すること」であり、そのための手段や表現の選択プロセスが必要なのです。

 単に集客を目指して“おもしろコンテンツ”を作ろうとするケースも目立ちます。BtoCの一般消費財のように、モノが溢れる市場に刺激を与え、瞬間風速的に売り上げに貢献する事例も多々ありますが、BtoBの場合は採用や社会貢献という目的を除き、自社の顧客になり得ない相手をいくら集めても意味はありません。

日本と海外のマーケティングの違い

上島千鶴(かみじま・ちづる)氏
株式会社Nexal 代表取締役

大手情報サービス企業での新規事業立ち上げ、複数の外資ITベンダーでマーケティング&セールスを実践し2007年にコンサルティング会社Nexalを設立。ネットとリアルの接点を生かした「地に足のついた現実的なコンサルティング」をモットーに、デジタルマーケティングに関わる部門・レイヤー間を超えた課題解決型ファシリテーションを提供。大手企業や官公庁、グローバル企業を中心に多くの実績を持つ。代表的な著書に『Web来訪者を顧客に育てるリードナーチャリング』(日経BPコンサルティング)がある。

——そういう勘違いがあるのは、企業の体制にも原因があるのでしょうか。

上島氏 そういうケースもあります。例えば、コンテンツマーケティングに広報宣伝部だけで取り組もうというプロジェクトは、それ自体が失敗、または不完全燃焼で終わります。なぜなら「人をたくさん引き寄せたから、それでよし」としてしまう傾向があるから。マーケティングのゴールは事業や受注に貢献することです。引き寄せた人の中から、各事業へ誘導した数、もっと言えば案件や提案につながった商談数、店舗への送客・誘導数など、最終的な受注関与度が計れなければ、本当の効果は分かりません。最近は、計れない途中のプロセスをブラックボックス化し、いったん、デジタル上で計れる指標を、企業とのエンゲージメントという言葉で定義しようとする動きもありますが、数値目標・売り上げ責任を持つ事業部門はその方法に決して納得できないでしょう。

 日本企業は慣習的に、イベント出展ならイベント、セミナーならセミナー、広報誌の配布なら広報誌と、これまで繰り返してきた単体施策をなぞることに終始しがちです。一方海外企業のマーケティングはシビアで、予算に対しどれだけ成果を上げるかを明確にしてからプロジェクトに取り掛かるので、各施策に対する投資もシビアです。

 つまり海外企業は、マーケティングを施策ではなく「戦略」と捉えている。だから数字を取ることができるデジタルマーケティングを重視するし、マーケティングにデジタルを使うのが当然になっています。そもそもBtoB、BtoCを問わず、購買プロセスの中でスマートフォンやタブレット端末、PCを普通に使う時代に、オンラインとオフラインを分ける意味はありません。もはやデジタル接点は顧客体験の一部となっていて、「気持ち悪がられずに、どのような心地よい体験を提供できるか」がカギなんです。

 日本企業はマーケティング機能(組織)の社内評価が低く、潜在的な活用価値に気付いていない企業がほとんどで、いまだに「マーケティング部」を設置していない企業も多数あります。先進企業ではマーケティングは事業戦略そのものであるという事実に気が付き始め、デジタルを活用してマーケティング投資の最適化や意識改革を進めています。

——ありがとうございます。次回は、変化過程にある日本企業がコンテンツマーケティングをどのように実現するべきか、効果指標の置き方についてお聞きします。

第2回へ続く → コンテンツの成果をどう測るか

関連記事

^